【2016年まとめ】今年EC業界でチェックしておくべきトレンド5選と2017年のEC業界展望

 

2016年もあと僅かとなったが、この一年、EC業界はどのような環境だっただろうか。経済産業省のデータではBtoCのEC市場規模は依然として伸び続けているが、EC市場は徐々に飽和状態になりつつあるようだ。消費者からするとオンラインで買えないものはないというくらいどのような商品もECで買える時代となってきているが、消費者の見る目も厳しくなってきている。一方運営サイドから見ると、競争は熾烈になり、他社が真似できないオリジナル商品を展開することは難しくなり、従来の販促手法の効果は目に見えて落ちてきている。さらに、EC関連のテクノロジーも進歩しているが決定的な変革をもたらすことが出来るには至っていない。このような環境の中でeコマースコンバージョンラボも多種多様な記事をお送りしてきた。ニュース記事を除くと、今年49本目のこの記事では、2016年のEC業界のトレンドや出来事を振り返り、来る2017年の展望を考えていきたい。

 

 

2016年EC業界でチェックしておくべきトレンド5選

 

改めて今年の出来事を色々振り返ってみた。その中から、今年の一年の5つのトレンドをまとめてみる。

【2016年まとめ】今年EC業界でチェックしておくべきトレンド5選と2017年のEC業界展望

 

Amazonの攻勢

一昨年の年末に米国で展開を開始した初のリアル店舗Amazon Booksを皮切りに、ここ1年程度の間に市場を騒然とさせる先進的な取り組みを次々に発表しているアマゾン。決済サービスAmazonログイン&ペイメントの導入数も国内で急拡大し、4月の送料無料サービスの撤廃でAmazonプライムへの誘導を強化するなど、EC事業者、消費者両面でEC市場での影響力を増加させている。さらにAmazonダッシュボタンでオンラインショッピングの習慣に一石を投ただけでなく、Amazon Goでリアル店舗のショッピングスタイルの変革にも挑戦。ドローン配達のAmazon Prime Airの試験も英国で実施し、倉庫ロボットのAmazon Roboticsも日本へ導入するなど物流の本格的な革命にも着実な布石を打ってきている。国内の流通総額では国内で長らくトップを守ってきている楽天にまだ及んでいないようだが、EC市場の主導権は完全にアマゾンが手中に収めたと言ってもいいだろう。

 

<参考>

加速するEC専業企業の実店舗展開が意味する「実店舗とECサイトの役割」

顧客囲い込みを着実に進めるAmazon - 各国でのサービス展開から日本のAmazonプライムのこれからを考える

進化を続けるオンライン決済サービス - ここ数ヶ月の動向まとめと今後のトレンド

ボタンを押すだけで注文完了「Amazon Dash Button」が日本で販売開始 ー 家電が自動発注するサービスも間も無く

【米国】次世代型リアル店舗Amazon Goをシアトルにコンセプトストア - 会計不要の食料品販売で小売業に衝撃

Amazon、国内初導入の倉庫ロボット「Amazon Robotics」が稼働開始

【米国】ドローン配送サービス「Amazon Prime Air」、イギリスで実試験スタート

 

 

越境ECの本格化

越境ECは昨年から急速に市場に浸透していったトレンド。爆買いをキーワードに昨年はその存在と可能性に注目が集まったが、今年はその取り組みが本格化。多くの企業が中国に進出し、海外の消費者と向き合った。そのようなEC事業者を支援するサービスラインナップも今年は格段に増え、Tmallなどの海外のモールへの進出をサポートするだけでなく、物流や決済、そしてマーケティングなどを支援するためのサービスが多く市場に投入された。日本は他の諸外国と比較し従来からあらゆる市場において未だに“鎖国的”だ。そのような中で多くの企業やサービスが中国をはじめとする海外を意識し展開された年になったのではないだろうか。

 

<参考>

eコマース業界カオスマップ2016 - 越境EC編

越境ECを支援するサービス徹底解剖 - 海外の消費者から見た場合に日本商品をどのように購入することができるのか

マレーシア越境EC市場への攻め込み方 - 世界有数の親日国を攻略せよ

凄まじい影響力を持つ中国ネットインフルエンサー「網紅(ワンホン)」の実態と活用方法

【中国】中国から日本への旅行者のトレンドは“爆買い”から、帰国後のオンラインショッピングへ移行している?

【中国ECニュース】2016年上半期中国での海外からのEC購入レポート - 日本のインテリア、デジタル製品、化粧品は人気

【中国】資生堂は来年中国でのオンラインとオフライン販売を同時強化

【中国】三越伊勢丹は11/25のBlack Fridayに日本の百貨店として初めてTmall国際に進出

@cosme、越境EC旗艦店の3店舗目として「VIP INTERNATIONAL」に出店

花王が中国向けECを強化、ネットイース運営の「Kaola.com」に旗艦店をオープン

東急ハンズが「ワンドウ」で商品販売を開始、中国向け越境ECを強化

【中国】日本のベビー用品ブランドFamiliarがTmall国際に進出

【中国】TSI Holdings、Tokyo Base、United Arrowsに見る、中国への進出方法 - オンラインショップからリアル店舗への展開

 

 

決済サービスの簡易化

ECと切っても切り離せない決済。昨年からID決済や後払い決済など徐々に変革の波が押し寄せてきていたが、今年はさらに“サービス導入の簡易化”というキーワードのもとに多くの新しいサービスが業界に流れ込んできた。長年EC事業者が背負ってきた十字架である決済手数料を無料化したサービスや、店頭で簡単に導入することが出来るサービス、エンジニア目線で導入が簡単なサービスなど新興サービスが次々とサービスイン。さらに海外では既に主流になりつつあるモバイル決済もサービスを開始し、決済サービスの在り方が大きく変わる布石となった一年だったのではないだろうか。

 

<参考>

eコマース業界カオスマップ2016 - EC決済サービス編

進化を続けるオンライン決済サービス - ここ数ヶ月の動向まとめと今後のトレンド

決済手数料無料という革命はEC業界で成功するのか - 各社が思い描く未来予想図はEC事業者をどこまで虜に出来るのか

生体認証決済サービスはどこまで浸透が進むのか - ECでの生体認証の活用本格化の足音

Android Payが日本でサービス開始 ー 楽天Edyと提携

「Amazonログイン&ペイメント」、日本での導入ECサイト数が1000サイトを突破

 

 

売り方の多様化・高度化

今や国内に70万とも100万とも言われる店舗が存在しており、EC市場は競争が激化の一途を辿っている。たった10数年前にはECサイトに商品を並べるだけである程度売れる時代があったことが考えられないくらいのスピードで市場環境は変わってきている。そんな中、モノを売るためのテクノロジーやサービスが集客、転換率向上、リピートの3つの領域で賑わってきている。集客面ではアドテクノロジーの進展だけでなく、コンテンツマーケティングや中国での動画インフルエンサー網紅(ワンホン)の台頭など今までとは異なる手法の施策が数多く登場している。転換率向上・リピート面では、人工知能を活用したWeb接客サービスや、マーケティングオートメーションサービス。さらにはリピート通販に特化したCRMサービスやカートサービスまで様々なサービスが市場を賑わせている。しかし多くのサービスはITリテラシーの高くないEC事業者にとっては高度過ぎて導入・活用が難しいケースも多く、また決定的に売上を上げることが出来る“鉄板”のサービスというものも存在しないため、EC事業者のテクノロジーやトレンドへの理解力が問われていくことになるだろう。

 

<参考>

eコマース業界カオスマップ2016 - CRMサービス編

eコマース業界カオスマップ2016 - EC集客サービス編

eコマース業界カオスマップ2016 - 転換率向上サービス編

単品通販・リピート通販のリスクを減らし、しっかり効果を上げるために考えるべきポイント - どのように単品・リピートに特化したECサイト運営に取り組んでいくべきか

凄まじい影響力を持つ中国ネットインフルエンサー「網紅(ワンホン)」の実態と活用方法

人工知能(AI)でECサイトのマーケティングオートメーションはどのように変わっていくのか

続々登場するECサイト向けWeb接客サービス - 主要13サービスまとめと今後

 

 

メルカリの台頭

オンラインでの個人間取引(CtoC・C2C)市場は長年ヤフオクの独壇場が続いていた。しかし、ここ数年スマートフォンの浸透に伴い、そのオークションだけでなく、ハンドメイドマーケット、フリマアプリという2つの新しいジャンルが登場。多くのサービスが勃興し熾烈な競争を行ってきた。そんな中、国内では4000万ダウンロードを達成し、米国にも進出しているメルカリが、この新興市場を完全に制圧。その影響で多くのサービスが終了に追い込まれたり、買収統合を行うなど市場淘汰が一気に進んだ一年となった。特に若年層に大きな支持を得ているメルカリは、今後は国内だけでなく米国を中心とした海外でどのように成功をしていき、流通総額でもヤフオクを超える日が来るのかが焦点になりそうだ。

 

<参考>

激動するフリマアプリ市場のこれまでとこれから - メルカリは世界を獲れるのか

ECモール・カート・アプリの2015年流通総額まとめ - 国内12・海外7の各主力プレイヤーの値から見る市場トレンド

2016年にサービス終了・終了予告されたEC関連10サービスまとめ - うねり続けるEC業界の光と陰

1日の出品数は100万品超に ー 「メルカリ」が国内4,000万ダウンロードを突破

フリルとラクマは計1,000万ダウンロード ー 3ヶ月でフリルの流通総額は3倍に

根強く浸透するハンドメイドマーケットEC - Etsy、Creema、minne、Pinkoiの見据える未来

 

 

2017年のEC業界展望

 

2016年のニュースとトレンドを振り返ってきたが、来年はどんな年になるのだろうか。1年という時間は長いようで業界が変わるには非常に短い時間ともいえる。そんな中で今年の動きからある程度来年の動きを予想してみよう。

 

CtoCサービス対象カテゴリの増加

フリマアプリはメルカリが覇者となったが、CtoCサービスはメルカリだけではない。民泊サービスAirbnb、タクシー配車のUberなど今年は様々なCtoCサービスが脚光を浴びた。それ以外にもスペース貸し、車のレンタルなどのCtoC系のシェアリングコミュニティサービスが勃興している。来年はこれら以外にも様々な商品やサービスに特化したCtoCサービスが市場を賑わせていくのではないだろうか。

 

モバイル個人間決済

今年は日本にも多くのモバイル決済がスタート。徐々に決済の敷居が低くなってきている。しかし日本で法規制の影響も一部あり、なかなか浸透していない決済がモバイルでの個人間決済だろう。LINE Pay、Anypayなどのサービスが出現しているもののそこまでの市民権を得るに至っていない。海外では多くのサービスが出現しており、特に中国ではAlipay、Tenpayなど凄まじい勢いで浸透してきている。来年は上述のCtoCサービスの拡大に伴い、その決済手段としての個人間決済サービス領域でも今までにないビジネスモデルや仕組みをもったサービスが出現してくるのではないだろうか。

 

物流正常化

日本でも1時間で配送するAmazon Prime Nowが徐々にサービス範囲を広げている。また昨年はサービス対象は限られるが1時間以内で配送を行うサービスも複数登場して注目を浴びていた。しかし一方で配達ドライバーの負担の増加や、物流会社全体での業務の逼迫化などによる遅配なども問題となってきた。そもそも一消費者として考えたいのは、1時間や3時間などで注文したものが届く必要はどこまであるのだろうか。業務用必要な消耗品など商品によってはすぐに欲しいものもあるだろう。しかし例えばAmazon Prime Nowの現在のサービス範囲を考えると、そのエリアでは数分車や自転車で走ればそれらの商品を売っている店舗はいくらでも見つかるケースが多い。このような状況を考えると、現状では消費者のちょっとした欲望に対する満足感や、ちょっとした怠慢をサポートするだけの即時配達をほぼ無料で行っているとも言える。来年は本当に必要なもの、本当に必要なところには、それなりのコストを消費者に負担してもらって即時配達を、倉庫の自動化やドローンなどを使って行う、など物流の“正常化”に向けた動きが始まるのではないだろうか。ECという仕組み・サービス全体を俯瞰したときに、どこか一箇所だけ業務負担が異常に高くなることは不健全だ。なかなか日の目を浴びにくい物流ではあるが、ECという業界においてはなくてはならない業務領域であることは間違いない。物流領域の正常化をどのようなテクノロジーや発想で行っていくサービスが現れるのか注目していきたい。

 

 

改めまして今年も1年間「eコマースコンバージョンラボ」にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。皆様の多くの支えがあったことで、この1年も続けることが出来ました。心から御礼申し上げます。

来年もEC業界の動向やトレンドについての情報を発信し、業界の進むべき方向性や未来を考えていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

それでは良いお年をお迎えください!