マレーシア越境EC市場への攻め込み方 - 世界有数の親日国を攻略せよ

 

世界有数の親日国として知られるマレーシアは、現在大規模な国家プロジェクトが進んでおり、ASEAN地域を代表する経済大国になる可能性を秘めている。現在急成長を遂げている東南アジアの中でも、友好関係からさらなる貿易の活発化が期待でき、親日国であるため日本製品へのハードルが低く信頼を勝ち取りやすいこともあり最も市場参入しやすい国の1つであるといわれている。今回はマレーシアのEC市場の現状についてみていき、その攻略方法を考えていく。

 

<参考>

急成長を遂げる東南アジアとインドのEC市場 - 6カ国の市場環境・決済と進出ハードルまとめ

インドネシア向け越境ECの可能性 - 東南アジア1のポテンシャルを持つ国をどのように攻略していくのか

 

 

本気で先進国への仲間入りを目指すマレーシア

 

マレーシアは親日家だったマハティール元首相が22年にもわたって政権を持っていたことや、日本や韓国の近代化を手本として経済発展を目指した「ルックイースト政策」の影響もあり、世界有数の親日国として知られている。2015年にアウンコンサルティング株式会社が行った親日度調査によると、日本に対して「好き」または「大好き」と答えた人は94%に上る。また、一般財団法人ロングステイ財団が2004年度より毎年実施している「ロングステイに関する意識調査」において、日本人がロングステイをしたい希望国として「マレーシア」が9年連続1位に選ばれているなど、マレーシアは日本人の移住先としても根強い人気を誇る。

マレーシアの人口は約3,100万人(東南アジア主要国ASEANの中では6位)とそれほど多いわけではないが、国民1人あたりのGDPはASEANの中ではシンガポール、ブルネイに次ぐ第3位となっている。近年ではインターネット環境も大きな飛躍を遂げており、今年2月に発表されたPewResearchCenter調査によるとマレーシアにおけるスマホ普及率は65%とかなり高い(同調査では日本の普及率は39%となっているが67.4%というデータの方が感覚的には近い)。2015年11月にBain&Companyが発表した調査結果(2014年度版)によると、マレーシアのEC市場規模は第4位の約525億円と、東南アジア全体(約4,200億円)の12%を占める割合となっている(2014年平均の1ドル=105円として計算)。

さらにマレーシアでは現在「イスカンダル計画」と呼ばれる大規模な都市開発プロジェクトが進んでいる。マレーシアとシンガポール国境にあるジョホール州を約10兆円かけて開発し、2005年時点で130万人だった人口を2025年までに300万人にまで増やそうとする壮大な計画だ。2006年に政府機関主導でスタートしたこの計画は、世界中から投資を呼び込み最高のビジネス環境を整えることに注力している。マレーシアの地理的な特性(ASEANの中心に位置し、インドや中国など巨大マーケットに隣接している)も相まってイスカンダル計画はマレーシア経済のみならずASEAN地域全体の牽引役として期待されており、実現すればシンガポールと並ぶ巨大な経済都市圏となるだろう。

 

 

マレーシアの大手ECプレイヤー4社

 

マレーシア国内のEC市場はどのような状況となっているのだろうか。まずはじめに、現地で大きなシェアを誇る現地のECモール3社とショッピングカート1社を見ていこう。

 

LAZADA

 

LAZADAはドイツのRocket Internetが運営する東南アジア最大級のモール型ECサイトだ。

2011年にサービスをスタートしてからマレーシア、シンガポール、タイ、インドネシア、ベトナム、シンガポールと幅広く展開し、Apple、サムソン、CONVERSEをはじめとした3,000店以上のショップが出店している。月間1,500万人のビジターがあり、出店料は無料となっている。

 

 

Lelong

 

LelongはマレーシアのINTERBASE RESOURCESが運営する、1998年創業と現地市場で最も古くから続いている老舗マーケットプレイス型ECサイトだ。

店舗向けにオンライン店舗構築・ショッピングカート・商品検索時リスティングサービス・バナー広告などのマーケティングサービス・決済サービスなどのプラットフォームサービスをワンストップで提供する。7,000社以上のメーカーやブランドが出店しており、日常品からファッション、電化製品など取り扱いは多岐に渡る。200万人以上の会員を擁し、毎月800万人のビジターと約5億円(RM2,000万)の月間流通総額を誇る。

 

 

11street

 

11streetは、マレーシアの大手通信会社セルコム・アクシアタと韓国の最大手携帯電話会社SKテレコムが2014年に設立した合弁会社セルコム・プラネットが運営する比較的新しいマーケットプレイスだ。

新興サイトながら急成長中で、およそ13,000のショップがすでに出店している。出店料は無料となっている。

 

 

EasyStore

 

EasyStoreExabytes Ecommerce Groupが運営するショッピングカートだ。

EasyStoreはマレーシア国内最大級となる1万5,000サイト以上が利用している。Exabytes Ecommerce Groupは中小規模の企業および個人約6万5,000の顧客に対し、ウェブサイト10万件のほか、世界121カ国以上を対象にEメールアカウント約1億個を提供している。

また2015年5月14日、GMOペイメントゲートウェイ株式会社がExabytes Ecommerce Groupと提携し、EasyStoreを通じて海外決済サービスZ.com Payment提供を開始している。これにより、マレーシアへ海外進出してEasyStoreでECサイトを運営する日本の事業者は、日本語での運用サポートを受けながらマレーシアでよく使われるクレジットカードやオンラインバンキング等の決済手段を現地の購入者へ提示することが可能となる。ただし利用するためにはマレーシアでの現地法人設立が必要となる。

 

 

マレーシア向け越境EC出店代行サービス

 

言語や商習慣、文化の違いを考慮する必要がある越境ECにおいて、いきなり上記の現地ECサイト・サービスに直接進出するのはハードルが高いと感じるかもしれない。そんな時はマレーシア向けの越境EC出店代行サービスを利用することを勧める。以下、日本企業のマレーシア進出をサポートする会社を紹介していく。

 

トランスコスモス株式会社

 

トランスコスモス株式会社は「ASEAN市場向けサービス」を展開している。

ASEANで事業を展開する顧客企業へ現地市場向けのコールセンターサービス、デジタルマーケティングサービス、ECワンストップサービスを提供。マレーシア最大のECモールLelongなどの運営企業であるINTERBASEと資本提携しており、Lelong への販売代行を直接依頼することができる。

トランスコスモスは2015年11月11日にASEAN各国・インドのECリテーラーに販路をもつシンガポールのECフルフィルメント企業Anchanto資本・業務提携し、以後アウトソーシングとして活用している。現在Anchantoはトランスコスモスのアウトソーシング企業として顧客企業の商品をASEAN大手のQoo10LAZADA、インド最大手のFlipkartSnapdealなどのECリテーラーを通じ各国の消費者に届けている。

 

 

EC-PORT

 

ソーシャルエージェント株式会社が運営するEC-PORTは、東南アジアへの日本製品の流通を支援する越境EC支援サービスだ。

製品情報の多言語翻訳・販売代行・出店支援・カスタマーサポートをワンストップで対応し、運用代行からEC物流、マーケティングまでを一貫してサポートする。特にLAZADA11streetLelongZaloraQoo10など、現地で最も影響力を持つショッピングサイトへの販売代行・出店支援に強い。出店後も希望する販売戦略に合わせて物流を細かくカスタマイズすることができる。

 

 

Digima-出島-

 

Digima-出島-は日本企業の海外ビジネス支援サービスを手掛ける株式会社Resorzが2011年から運営する、海外進出・海外ビジネス支援の情報提供ポータルだ。

海外へ進出したい企業へのサポート企業の紹介、海外ビジネス情報の提供、オリジナルの支援サービス、海外無料相談窓口などのサービスを行う。出店代行よりもコンサルタント的な役割が強く、当サイト内に越境ECを支援する各種サービスや企業が掲載されている。

 

 

日本企業のマレーシア展開と現状

 

日本企業のマレーシアへの進出も目立ってきている。この1年程度の間に起こった、EC業界に関係のある動きを時系列にピックアップしてみた。

 

NTTデータがマレーシア最大のEC決済代行会社を子会社化  2015年9月4日

株式会社NTTデータは、マレーシア最大のEC決済代行会社であるiPay88の株式を取得し、子会社化したことを発表した。iPay88はアジア地域のみならずアジア・太平洋地域の多彩な決済手段(クレジットカード、ダイレクトデビット、プリペイドなど)を包括的にカバーしている。NTTデータは今回iPay88を子会社化したことで、アジア・太平洋地域へ進出したい会社に対し幅広い決済サービスを提供できるようになった。

 

トランスコスモスがLelongの運営会社と資本・業務提携 2015年11月24日

こちらは上述したが、トランスコスモス株式会社は、マレーシア最大のECモールLelongなどの運営企業であるINTERBASE RESOURCES (以下INTERBASE)と資本・業務提携したことを発表した。トランスコスモスは顧客企業がもつ商品・サービスをLelongを通してマレーシアの消費者へ幅広く届けることができる。

 

越境EC支援「EC-PORT」がマレーシアに実店舗を開店 2016年2月9日

こちらも上述した越境EC支援サービスEC-PORTは、自社のアンテナショップをマレーシアの首都・クアラルンプール市内にオープンしたことを発表した。実店舗での販売を通して商品に対する現地の反応を直接見ることで、さらなるサイト内容の充実を図るねらいだ。今後はアンテナショップを中心に現地のバイヤーとの商談会を定期的に開催することで、現地企業との新規取引を進めていくようだ。

 

楽天マレーシアが東南アジア各国のマーケットプレイスを閉鎖 2016年3月

楽天株式会社は 2016年3月までにシンガポール、マレーシア、インドネシアのマーケットプレイスを閉鎖することを明らかにした。ただし東南アジアからの完全撤退ではなく、今後はシンガポールの本部で楽天ベンチャーや楽天トラベルの営業を続けていくようだ。

 

スタートトゥデイがマレーシアの大手ファッションEC「FashionValet」に出資 2016年3月30日

ZOZOTOWNを運営する株式会社スタートトゥディは、マレーシアの大手ファッションECサイトFashionValetを運営するFashion Valet Sdn. Bhd.に対して 出資したことを発表した。さらにスタートトゥディは同社が運営するファッションコーディネートアプリWEARを活かしたマーケティングを通じて支援し、Fashion Valetのさらなる機能の拡充やサービスの価値向上をめざす。

 

住友商事グループがマレーシアの自社ECサイトを事業売却 2016年5月

住友商事グループは、自社の100%出資によって創業したECサイト「SOUKAI.my」を今年の5月にHERMISO ECOMMERCEに売却、2014年9月の創業からわずか2年弱での撤退となった。現在はHERMISOというサイトになっているようだ。

 

 

ASEANのブースターであり世界有数の親日国マレーシアを攻略せよ

 

これまで加熱するマレーシアのEC市場の現状について紹介してきたが、実際に市場参入の戦略を立てる上で留意点がある。それは住友商事や楽天のマレーシア撤退にみられるように、日本での知名度はマレーシア市場での成功を必ずしも約束するものではないということだ。日本企業のマレーシア展開を見てみると、現地企業と協力しながら事業を進めていくスタイルが主流となっていることが分かる。堅実かつ効率的に市場参入を成功させるためには、現地のビジネストレンドを把握してしっかりと対策する必要がある。

急成長を遂げる東南アジアをリードし、先進国入りに本気の姿勢を示すマレーシア。イスカンダル計画が完成する2025年にはマレーシア・シンガポールを中心とする新たな一大経済圏があらわれるかもしれない。ASEAN地域全体のブースター、マレーシアで成功する日本企業が増えていくことを期待したい。