中国向け越境ECに踏み出す際に活用したい代行サービス - 素早く円滑に越境ECを開始するために
ここ1~2年で頻繁に耳にするようになってきた「越境EC」。その中でも中国は最も大きなポテンシャルを秘めた国で、2015年には中国人による日本サイトでの購入額は前年比132%の8,006億円となり2位の米国の1.4倍程度になると予測されている(経済産業省データ)。しかし一方で越境ECは簡単に始められるわけではない。言語や商習慣、規制、流通など乗り越えるべきハードルは高いのも事実だ。今回はポテンシャルの高い中国向けに、手間とリスクを軽減してくれる、中国のモール向け越境EC代行サービスを見ていきたい。
<参考>
そもそも越境ECってどんなモノがどんな理由で売れるのか - データから見るポテンシャルと傾向
急成長を遂げる東南アジアとインドのEC市場 - 6カ国の市場環境・決済と進出ハードルまとめ
中国のEC市場環境とモール事情
中国のEC市場は大前提として、独自店舗での参入は難しいといわれている。中国国内のBtoC市場はアリババが運営するTmall(天猫)と京東集団が運営するJD.com(京東商城)の2大モールがシェアの80%近くを占めているため、客はまず2大モール内で商品検索をする傾向がある。このことは、楽天やAmazonの大手モールはあるものの検索エンジン経由でのアクセスが一定以上見込める日本の独自店舗の状況とは大きく異なるだろう。住友商事系のピンストアや楽天などの大手さえもが撤退・再編を余儀なくされている(参考記事)ことからも自社ドメインを用いた独自店舗での参入難易度の高さが伺える。
さらに、ここも注意したいところだが、中国向け越境ECの代行サービスと一口に言っても現地中国モールでの販売か、越境ECプラットフォームでの販売かによってサービス内容は大きく異なる。また、Tmallに出店するには中国での法人や商標取得が必須だが、Tmall内の越境ECカテゴリであるTmallグローバル(天猫国際)であれば日本法人での出店が可能であり、商標も日本で取得していれば問題ない。このように、出店の要件やリスクなどが違えば支援のスタート地点が変わるため、それに応じて必然的に選ぶ代行サービスも変わってくる。
それでは実際に主な国内の支援企業が提供する代行サービスについて見ていこう。
<参考>
世界を席巻出来るか、中国・日本・韓国のBtoC向け巨大ECモール - 天猫tmall、楽天市場、Gmarket
NHNテコラス
NHNテコラス株式会社は中国向けの越境ECの盛り上がりを受けてTmall・Tmall国際の出品、出店をメインに支援するサービスをこの10月1日より開始した。
NHNテコラスは越境ECの代行企業としてはやや後発だが、出品や出店を考えている潜在顧客のかゆい所に手が届くサービスを展開しているのが特徴。自社グループのエイコンメイトが既にTmallで3店舗を運営しているノウハウを活かしたサービス内容となっている。
NHNテコラスの越境EC関連の主なサービスは4つ。まず1つ目は無料診断。中国ECモールにおけるニーズを調査し、既に流通している同種商品の動向も見ながら、その商品自体の供給力や権利関連も加味した総合的な判定をするサービスだ。2つ目はTmall国際出品代行。NHNテコラスのグループ会社であるエイコンメイトのストアで自社商品を販売できるサービスとなる。3つ目はTmall国際出店サポートだ。アリババの出店審査に対する通過可能性の無料診断を受けたのち、通過可能性が高いと判断される店舗に対して出店に向けた本格的準備のサポートを行う。4つ目はTmall国際での運営代行だ。これはすでにTmall国際にストアを持つ事業者の運営を代行するサービスとなる。
このように実際にTmall国際にストアを出店している経験やリソースを活かした支援が強みだと言えるだろう。既にTmall国際を運営するアリババからアパレル、越境、児童、コスメの4分野で受賞歴もある。特に2つ目の出品代行サービスは初期費用、月額費用無料で開始できる上に、EC事業者から商品を買い取るモデルで、在庫リスクを負わず販売を開始したい事業者におすすめだ。今後は、京東のJDWWの出品代行も現在準備中であり、モールを越えてサービスの幅を拡充していくだろう。
エフカフェ
株式会社エフカフェはECの運営代行やコンサルを主な事業としていたが、ここ数年、越境EC支援の色をかなり強く打ち出している。
エフカフェは国内でもモールや自社店舗支援の実績が多数あるが、2010年に上海に進出。それ以降越境ECの支援に積極的に乗り出している。EC運営のプロフェッショナルが日本と中国に存在しているため円滑な連携、運営支援を実現している。
エフカフェの越境EC関連の主なサービスは3つ。まず1つ目はTmall自社出店プラン。中国で本格的な進出をしたい企業向けに物流網、小売ライセンスの取得、翻訳など出店に必要な業務や、運営、受注業務など出店後までカバーしているサービスだ。2つ目はTmall国際・JDWW自社出店プランだ。出店に必要な業務、出店後の運営までをカバーするサービスとなる。3つ目はTmall国際・JDWWマーケティングプラン。エフカフェが所有するサイト上で顧客の商品をテスト販売できるサービスだ。
エフカフェはこれらのサービスを通じて蓄積されたノウハウの活用・共有だけでなく堅実にPDCAサイクルを回すことで店舗価値を高める微調整を行っている。こうした地道な取組みが信頼に繋がっており、沖縄県の出品支援も開始するなど顧客の幅も広げている。
トランスコスモス
トランスコスモス株式会社は従来はBPOを軸としたコールセンターや、分析業務をメインに取り扱ってきたが、ここ数年、グローバルECサービスの提供に力を入れ、その一環として越境EC支援サービスを展開している。
トランスコスモスは規模、国内外拠点数ともに今回紹介する企業の中で最大だ。その強みを活かして、越境EC支援は中国だけでなくアメリカ、ヨーロッパ、ASEAN、インドなどの現地有力ECアウトソーシング企業と連携することにより世界36ヶ国でサービスの提供を実現している。
トランスコスモスの越境EC関連の主なサービスは3つ。1つ目はECワンストップサービス。市場分析からサイト構築、販売までオペレーションをワンストップで提供しTmallでの販売や現地自社ECサイトでの販売を目指すサービスとなる。2つ目はTmall・Tmall国際内の店舗での販売代行だ。トランスコスモスが所有するサイトで商品の販売を代行するサービスだ。3つ目は中国ECリテーラーへの販売支援。自社で出店等をするのではなく、トランスコスモスのEC卸、流通を経由してJD.comなどのECリテーラーへの商品販売を支援するサービスだ。
特にTmallではアパレル、ベビー、カバン、靴の4部門で認定を受けるなどの実績を残している。また、市場調査から出荷までEC運用機能をワンストップセンターに集約することでスピーディーな運用・改善を行っていることも特徴的だ。
<参考>
激動する東南アジアのスタートアップECサービス - メガマネーでグローバルEC企業との争いを制することが出来るのか
いつも.
株式会社いつも.は7,000社を超えるECサイトの運営代行・支援を行っているEC運営代行の大手だが、越境EC進出支援サービスを展開している。
いつも.は圧倒的な実績と一貫した支援、サービス・体制でクライアントの問題解決を行うのが特徴だ。いつも.の越境EC関連の主なサービスはTmall・Tmall国際・JD.com・JDWW出店支援だ。このサービスの中では、2大ECモールへの出店支援を事前調査から店舗運営、プロモーションまで行うだけでなく、販売数量や金額、効果測定などの月報の作成も行うサービスとなっている。
いつも.の強みは「特別区を活用した保税スキーム」だ。越境ECで日本から商品を発送する場合は国際小包で送ることが多いのだが、送料やリードタイムなどの長さがネックとなっていた。そこで、いつも.は中国で総合物流サービスも展開しており、特別区に拠点を持つ国内大手物流企業と組むことによって特別区活用を実現した。この特別区の活用により、国際小包と比べて物流コスト負担を80%近く削減し、注文から消費者に届くリードタイムも1~2日に短縮するなど消費者の満足度に直結するサービスを可能にしている。また、出店者側は商品を日本国内の指定物流施設に発送するだけで良いことも魅力だ。
素早く円滑に越境ECを開始するために
中国向けの代行サービスの対象は2大モールの現地版とグローバル版のTmall(天猫)、Tmallグローバル(天猫国際)、JD.com(京東商城)、JDWW(京東全球購)の4モールがメインとなる。また、サービス内容は出店サポート、出品代行がメインとなるが、NHNテコラスの運営代行やトランスコスモスの卸への流通支援などのサービスも各社のノウハウや実績に応じて展開されている。
またここで紹介した以外にも、株式会社オプトホールディングもJDWWと公式パートナー契約を締結するなど、他の企業の動きも非常に活発となっている。
越境ECには言語の壁から始まり現地の商習慣、文化、各モールの特徴、規約、法規制など挙げればキリがないほどの壁が存在する。そのため最初から独力で開始しようとすると、思わぬ壁にぶつかり時間がかかってしまう可能性が高い。また、仮に出店できたとしても現地で成功することもハードルが高いだろう。そのため、小さく始めようという場合も、現地に本格進出を考えている場合もノウハウを持つこれらの企業などの代行サービスを利用することが得策となってくるのではないだろうか。まずはどのような商材をどのような地域のどのようなターゲットに売っていきたいのか、という方向性を検討した上で、自社の戦略や商材とマッチする代行サービスを選んでみてはいかがだろうか。今後も越境ECの盛り上がりと共にこれらのサービスを中心とした代行サービスは種類も内容も飛躍的に進歩していくだろう。