世界最大規模のオンライン・マーケットプレイス「eBay」の日本法人であるイーベイ・ジャパンでは、2016年より小売・製造業者向けの海外展開支援プロジェクトを行っている。同プロジェクトは、増加する訪日観光客を越境ECの利用客に転換し、eBayを通じて日本各地の伝統工芸品を海外展開しようという試みだ。その第一弾として、デジタルコンテンツ制作を行う株式会社フォネックス・コミュニケーションズと共同で、特設サイト「Born in Kyoto Collections」を立ち上げた。2016年8月の立ち上げから約2年が経過した今、どのような手応えを感じているのだろうか。サイトの現状や今後の展望について、イーベイ・ジャパンのビジネス開発部部長・岡田朋子氏とフォネックス・コミュニケーションズの代表取締役社長・井上智之氏に話を聞いた。

 

 

——立ち上げに至った経緯から聞かせてください。

 

岡田:需要低迷、後継者不足、ライフスタイルの変化などを背景に、日本国内における伝統工芸品の生産額は最盛期の5分の1程度(1,040億円*1)にまで減少しました。一方、訪日外国人観光客によるインバウンド消費の拡大によって、日本の伝統工芸品に対する関心は世界的に高まっています。また、eBayでも日本の伝統文化に対する関心は増加傾向にあり、日本の伝統工芸品に関するキーワードの検索数が上昇するなど、高い市場ポテンシャルがあると判断しました。そこで、インバウンドをきっかけとして、外国人顧客がオンラインで継続的に本物の伝統工芸品を購入できるよう、「Born in Kyoto Collections」を立ち上げたのです。京都には多くの伝統工芸品があり、伝統工芸品と言えば京都と言っても過言ではありません。いずれ日本各地の伝統工芸品や地産品を揃えることを念頭に、まずは京都専門のサイトから立ち上げました。

▲イーベイ・ジャパン株式会社 ビジネス開発部 部長 岡田 朋子 氏

井上:我々に託されたのは、京都のセラー(販売者)の獲得と商品データ作成や翻訳といった出品におけるサポートです。eBayさんからサイトの回遊率を上げるために最低でも300アイテムは集めて欲しいという話があり、立ち上げ前に40社ほどのセラーを集めました。1業種1社を基準に、着物、宇治茶、陶芸……とアイテム数を増やしていって、現在は京都だけで800アイテムを扱っています(※現在、京都と北海道の専用サイトがあり、北海道専用サイトでは乾物などの食品を扱う。取り扱い数は全部で1,300アイテム)。

*1(財)伝統工芸品産業振興会 / 「伝統的工芸品産業をめぐる現状と今後の振興施策について」経済産業省製造産業局 伝統的工芸品産業室から出典

 

 

——サイトを構築するにあたって工夫したこと、苦労したことは?

 

岡田:商品説明だけでなく、日本の歴史や伝統文化に触れられる内容にすることで、商品だけでなく訪日観光の関心も喚起することを狙いました。また、ECサイトでは通常購入する商品があらかじめ決まった状態でキーワードやカテゴリーから検索しますが、伝統工芸品はそのような方法では検索されません。そのため、「旅行者に人気の商品」「伝統工芸と現代美術が融合した商品」など、外国人の方により響くコンセプチュアルなカテゴリーを独自に4つほど作りました。また制作の工程や商品の歴史なども併載しましたが、そのような商品の背景をオンラインで伝えて購買を促進する難しさも体感しました。購買者側の興味がそこまで達していなかったということでしょう。

井上:基本的に海外の方は、写真とスペック情報で商品を判断します。ですから、最低でも8枚は写真を用意するようにしました。掲載画像は当然海外の方に響くようなカットです。例えば西陣織の柄が入った食器であればフランス料理店に行って洋食の盛り付け例を撮影したり、着物の写真であれば外国人モデルに着付けをお願いしたり……。ただしそれが正解なのかは今でも分かりません。着物はハンガーにかけてリビングに飾られるケースも多いので、広い空間に着物が飾ってあるような絵を作った方がいいのかもしれませんし、他の商品に関しても試行錯誤を繰り返している最中です。また、立ち上げ当初は写真に加えて商品の背景なども文章で説明していましたが、思った以上に作り手の想いは届きませんでした。奥ゆかしさといった日本的なものは通用せず、そもそもそこまで辿り着く前に飽きられてしまうようです。キーワード1つ取っても難しく、何をきっかけに検索されるか分かりません。例えば手ぬぐいのキーワードを考える時、そのまま「tenugui」と入れても引っかからず、「Japanese towel」と入れる必要がある。これは本当に毎回苦戦しています。

▲株式会社フォネックス・コミュニケーションズ 代表取締役 井上 智之 氏

 

 

 

——売り上げを上げるために、他にどのような施策を行っていますか?

 

井上:チラシやポスターを作って取引先の店頭に貼っていただいたり、京都市の観光案内所や海外で配布されている広報誌、京都市が運営する海外向けの観光案内所などに広告を載せてもらっています。また、サイトの言語を他言語展開するという試みも始めました。

岡田:ヨーロッパでは、イギリスの次にドイツが大きいEC市場を持っていることもあり、英語の次にドイツ語のサイトを用意しました。ところが、やっていくうちにドイツよりフランスの方が伝統工芸品に興味を持っているということが分かったのです。越境ECは国によって売れる商品がまったく違うので、やりながらマーケティングリサーチを進めているというのが現状です。日本では信じられないことですが、海外はモバイルから車が売れるような市場です。フェラーリのような高級車でさえ、月に3台もモバイルから購入されていますし、伝統工芸品に関わらず実際eBayを通して高級品が多く日本から販売されています。安価で一般的な商品は他のアジア諸国からもeBayにたくさん出品されているので、わざわざ日本のセラーから購入するのであれば、それなりの価値があるものでなければなりません。品質が良い商品だけを扱っています。

 

 

——サイトではどのような商品が売れているのでしょうか。

 

井上:着物やお茶はコンスタントに売れますが、何かが集中的に売れるというわけではなく、いろいろな商品が不定期に売れるため、未だに傾向が分かりません。袱紗やペンケース、木工品、写楽の絵が描かれた前掛け、お香立てなど、本当にランダムです。売れる地域に関しては、アメリカの西海岸やニューヨーク、日本人の移住人口が多いハワイなど、ある程度資産があって世界に視野が向いている方が住む地域や日本に親しみがある地域で売れているようです。

岡田:この結果は、購入されるユーザーのプロファイルを理解し特定するきっかけにもなりました。圧倒的にこのサイトが他のセラーと異なるのは回遊率です。ユーザーが一度ストアページに入ると滞在時間が長く、回遊する中でいろいろな商品を見つけるようです。そのため複数購入が多く、こちらが予想もしないような商品が売れるのではないでしょうか。だからこそ、扱う地域を全都道府県に広げれば、さらなる回遊率の向上が期待できるのではないかと考えています。

井上:日本の伝統工芸品をこれだけ揃えているサイトはないので、我々としても自治体と協力しながら全都道府県に入り口を作って、将来的には日本の地産品は「OTAKARA JAPAN(フォネックス・コミュニケーションズが運営するeBayアカウント)」に行けば何でも買えるという状態にしたいと思っています。日本で良いものを見つけたかったらOTAKARA JAPANに来る。そんな流れにするのが理想です。

 

 

——商品を提供する事業者側の負担はないのでしょうか。

 

井上:海外に向けてどのように商品を売れば良いのか分からないという方も多くいらっしゃるので、やり取りはすべて弊社内で完結するようにしています。契約は日本語で行い、翻訳から出品まですべて弊社が請け負います。商品が売れた際も弊社まで送っていただくだけで良いので、日本で商売をするのと何ら変わりません。SNSや店頭告知など、サイト外からの誘導もサポートいたしますし、そういった意味ではかなり敷居が低いのではないでしょうか。また、eBayでは一度の出品で世界190カ国に発信することができるので、少しずつ様子を見ながら扱う商品を変えていくことも可能です。自分たちで越境ECをやろうと思った時にまず目を付けないような国にもリーチできるので、これはかなりのメリットと言えるでしょう。実際アルゼンチンやロシア、メキシコなど、意外な国で意外な物が売れるので、より多くの方にこの体験をしていただきたいと思っています。

岡田:このプロジェクトを考えたきっかけは、日本の地方を活性化したいという思いでした。日本の130兆円の消費は、このまま行くと人口の減少により2050年には半減すると言われています。そのような環境において、事業を拡大・成長させていくには、中小企業が売場を世界に広げていくことは重要な施策の1つだと考えています。海外に販路を広げることで、日本全体を元気にしていく。それが我々の願いです。

 

今回、岡田氏、井上氏にお話を伺ったことで、訪日観光客に越境ECを利用してもらうための方法が見えてきた。それは、国や地域ごとに売れる商品は異なるため、まずは販売してみて試行錯誤していくことだ。オンライン、ましてや言語が違う人々に商品を販売することに高い壁を感じる人も多いと思うが、全て自社でやろうとせずにフォネックス・コミュニケーションズの様な代理店を利用すればぐっと越境ECの敷居は低くなる。eBayを始めとした簡単な方法で海外向けに出品を行うことが出来るプラットフォームを駆使すれば、海外に販路を広げることもそう難しくはない。

 

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