台湾を代表する銘菓「パイナップルケーキ」を販売するサニーヒルズ
今や台湾のお土産の定番ともいえる、「パイナップルケーキ」。そのパイナップルケーキの中でも3本の指に必ず入るほど有名なサニーヒルズ(微熱山丘)。実は2013年に日本に進出し、東京・南青山に店舗を構えている。ヒノキの角材に覆われた店舗は、南青山の界隈でも一際目立つ存在だ。
日本での店舗運営とECサイト運営を担っているSunnyHills Japan株式会社は、台湾の銘菓としてブランディングを行っていく中で、店舗に負けないくらい良い顧客体験を提供できるECサイト作りに力を入れている。株式会社フラクタの協力を得て、SunnyHills JapanのGeneral Managerである堂園有的氏に取材を実施。サニーヒルズの事業展開の経緯と商品へのこだわり、そして今後のオンライン戦略に関する展望について紹介していく。
「台湾の農家を助けたい」という心から生まれたサニーヒルズのパイナップルケーキ
サニーヒルズが販売しているパイナップルケーキは、1960~70年、農作物を使用したお菓子作りの一環として国策的に作られた。スタンダードなものは、パイナップルを使用した餡をクッキー生地で包んで焼き、月餅などといった中華菓子の特徴を持たせている。
サニーヒルズの創設者であり、現社長の許銘仁氏は、元々IT企業を営んでいる実業家だ。台湾の経済成長と共に、ITビジネスが拡大していく中、許氏も自身の事業で成功を収めた。一方、自身の地元で農業を営む人々は貧しいままであるのが現状だった。台湾では農業はなかなか生計が立てにくく、パイナップルやお茶などは輸入品に市場を奪われ売ることが難しく、安く買い叩かれていることも多かったようだ。この状況を憂いた許氏は、パイナップル農家で働く地元の友人たちを助けようと、2008年に南投県八卦山の丘陵にサニーヒルズをオープン。まさに「台湾の農業を助けたい」という信念で立ち上げたといえよう。
創業当初からパイナップルケーキに使われるパイナップルは台湾原種の「開英2号、3号」のみを使用。従来のパイナップルケーキは、中の餡のパイナップルの風味はそれほど強くなく、外側の生地は小麦粉をベースにラードが加えられており、独特の風味をもつものが多かったが、その結果、台湾の中でも3本の指に入るほど有名なパイナップルケーキブランドになるまで事業が成長したのだった。
さらに、許銘仁氏の視線は海外にも向いていく。台湾の美味しいものを世界の人々にも食べてもらいたいという想いから、海外でも積極的に事業を展開していく。2013年の日本進出だけでなく、中国、香港、シンガポールへの進出も果たしており、今後も海外進出を考えているとSunnyHills Japan GMの堂園有的氏は言う。
▲SunnyHills Japan株式会社 General Manager 堂園有的氏
日本限定版の開発で、競争力のある商品展開を
実は現在、日本で販売しているパイナップルケーキは本国のそれとは味が異なるという。日本で販売するパイナップルケーキは、より上品で繊細な味わいとなるように考慮し、素材にも更なるこだわりをもって作っている。特にケーキの中に入っているジャムは、甘みが増す夏に収穫されるパイナップルのみを使用して日本人好みの甘さとするこだわりようだ。また、ジャムを包むクッキー生地も、フランスのエシレ産バターを使用することで、深い味わいに仕上げた。
日本のお菓子市場といえば、世界的なメーカーが名を連ね、競争が激しいことで有名だ。そのため、日本市場でもしっかり受け入れられるように、日本への進出に際して、材料を従来のものと変更することで、より日本人の味覚に合ったものにしていく狙いがあったようだ。
店舗とオンラインの2チャネル運営を目指す
日本での進出段階で、店舗だけでなくEC事業にも大きな軸として置いていたサニーヒルズ。全て自社販売による店舗とECサイトによる2チャネル展開を構想している。
南青山にあるサニーヒルズの店舗は一際目立つ存在だ。
店舗の設計は、著名建築家である隈研吾氏によるものであるため、その独特の建築に興味を持った人々が多く店舗へ訪れている。外国人観光客にも人気があり、なんと店舗を訪れる人の20%は外国人だという。店舗を出す際に、隈研吾氏のような著名な建築家に依頼したのは日本での出店時が初めてだという。隈研吾氏といえば、素材を生かす建築で著名な建築家だ。素材にこだわって商品作りを行うサニーヒルズは、「素材を生かす」というテーマにあった設計を依頼できる人を探していた。それまでの店舗建築はミニマルモダン、アジアンといったものをイメージしていたが、南青山の店舗はサニーヒルズブランドの発信地として、ブランドアイコンになるようなブランドのアイコンになるようなデザインを特に意識したそうだ。
またサニーヒルズは、デパートでの期間限定出店も行っている。1回の出店につき1週間から1~2か月という短い期間での出店にも関わらず、期間限定ショップでもこだわり抜いたブース作りをする理由はサニーヒルズのブランドアイコンであるサニーヒルズのブランドアイコンである南青山店の空間を再現することで、サニーヒルズというブランドを人々に知ってもらい、南青山店やECサイトへの誘導を狙うためである。
▲期間限定出店していた東京ミッドタウン店
そもそもサニーヒルズが提供するパイナップルケーキは、視覚的に華美ではなく、端正な長方形を形どったシンプルな見た目をしている。無添加、無農薬で作られており、「子供から年配の方まで幅広い方が安心して食べられるもの」という、商品の製造過程のこだわりを売りにしている。そのため、実際に店舗に訪れて商品の説明をゆっくり聞いたうえで購入してもらうことが重要だと考えており、見た目で購買意欲を刺激するというよりは、口コミで商品を広げていくことが重要だと考えている。そのため、サニーヒルズを知ってもらい、好きになってもらいたい、という思いからお客様へパイナップルケーキと台湾茶を提供している。このサニーヒルズ流の「おもてなし」体験を通し、ファンを増やしていきたいと考えている。
堅調に売上を伸ばすEC事業
現在オンラインにおける販売チャネルは、自社サイトと婦人画報のお取り寄せサイトのみ。2013年に日本でECサイトを始めて以来、売上は堅調に伸びているという。だが、当初はECサイトと店舗における理想の売上比率を8:2で構想した一方で、店舗の独創的な建築によるものか、店舗に来店するお客様が多く現状はほぼ真逆の状態だという。店舗の売上はそのままで、ECサイトの売上比率を上げることが今後の課題だ。
だが、基本的に広告活動は行っておらず、今後もする予定はない。それでも、店舗やECサイトへの集客を見込むことができるのは、パイナップルケーキという商材の特異性と独特の店舗建築だ。台湾の銘菓であるパイナップルケーキを日本でも販売している店を調べれば、すぐにサニーヒルズを見つけることができる。さらに、隈研吾氏が設計した店舗ということで、パイナップルケーキを販売しているとは知らない建築ファンも多く店舗に訪れるのだという。
商品を多く売るよりも、より多くの人に知ってもらうことをねらう
日本へ事業展開したサニーヒルズの最大の目的は、日本でのブランディングを行うことだと堂園氏はいう。一般的なイメージとして、ヨーロッパのお菓子に比べて存在感が小さい傾向がある台湾菓子だが、このようなハンデを乗り乗り越え、日本の人々に愛されるブランドになることが日本におけるサニーヒルズの存在意義だ。ただ売上を上げるだけではなく、購入した人が買って良かったと思ってもらうことを目指し、細部にまでこだわりを注入しているそうだ。南青山店・デパートでの限定出店・ECサイトの3チャネル全てにおいて細部までこだわりきる。その背景にあるのは、「台湾の美味しいものを知ってもらいたい」という気持ちであり、サニーヒルズを通して台湾自体をブランディングすることも考えているという、非常に大きな視野での責任感を持っている。
自分たちが構想するものよりも良いものを創り上げることができるのではないかという期待
日本でECサイト始めたばかりの時は、台湾におけるECサイトの仕様をそのまま適用することを検討した。だが、すぐにその限界にぶち当たった。台湾と日本では購買習慣が異なるために日本人にとっては非常に使いにくいサイトとなってしまったのだ。
特に配送システムについて、台湾では地域によって配達日が違うという感覚がなく、中国ならば範囲が広域であるため配達日を設定することが難しい。配達日だけではなく、配送時間までをきっちり設定できることが当たり前の日本の配達システムとは決定的に構造が異なるのだ。さらに、決済に関しても台湾ではクレジットカード払いが一般的である一方、日本ではクレジットカード払いに対して抵抗があるユーザーも多い。既存のECサイトの仕様を日本で適応させるには限界があったという。
このようなことから、ECサイトの作り替えを余儀なくされた。台湾で仕様が考えられたグローバル展開用のプラットフォームからの脱却である。その際に念頭に置いたのは、ECサイトだけで他の企業とは違うことをしていることをアピールすることだ。店舗なら、お茶とパイナップルケーキを味わいながら、スタッフのきめ細やかな接客を受けサニーヒルズのブランドやこだわりを感じ取ることができる。一方、ECサイトの場合、無味乾燥なものになりやすい。店舗に訪れなくても、サニーヒルズが他とは違うことをしようとしていることが伝わるサイト作りを目標とした。
堂園氏は当初、サニーヒルズとしてのこだわりやデザインに対するビジョンを明確に持っていたため、ある程度のレベルまでは、誰でも表現できると考えていたという。そんな中、フラクタと出会うことで考えに変化が起きた。過去にフラクタが手掛けたサイトは、ブランドの伝えたいことがはっきりとわかりやすい形で表現されていたと堂園氏は言う。フラクタとであれば、お客様と直接対話することができないECでも商品の価値を伝えることができるのではないか、むしろ自分たちが構想しているもの以上に奥行きあるサイトを作ることができそうだという期待を持ち、契約に至った。
▲株式会社フラクタ WEBプロデューサー 木村 俊朗 氏とSunnyHills Japan株式会社 General Manager 堂園 有的 氏
現段階ではWebサイト全体ではなく、ECサイトのみの変更を構想しているが、フラクタとサイト構想について打ち合わせをする中で実感したことは、こだわりいっぱいの要望に、前向きに、一生懸命考えて提案してくれるということだ。デザインに対して強いこだわりを持つ分、フラクタから提案されたデザインをすぐに取り入れることはできない。だが、フラクタとは小さな不満点も遠慮なく指摘することができる関係性を作り出せているため、同じチームになって作っていこうという感覚を持つため、成果が上がらなかったとしても、納得して進めていける関係だという。
ブランドの価値を高めながら、事業拡大へ
サニーヒルズの日本への進出における一番の目的はブランディング。もちろん、売上を上げることは重要だが、それ以上に認知度を上げることが優先事項だと堂園氏は繰り返す。確かに、会社としては事業を育てていくミッションはあるが、ブランドの価値を高め、どのようにブランドが日本に浸透していくかが今後も重要であり続けるという。そして、その点において、ECサイトは最も伸びしろがあると考えているそうだ。サニーヒルズは、今後もフラクタと協力してサイト構築を行うことで、オンラインでも店舗と同じくらいの感動を生み出せるような顧客体験の提供を目指していくという。