アンファーに見る中国・韓国への越境EC展開の戦略とコンセプト

 

予防医学で有名なアンファー

その代表的な商品のスカルプDは、数年前にお笑い芸人をCMに使い大々的に宣伝したこともあり、今や多くの人が知る人気商品だ。そのアンファーは2012年から中国への越境EC展開を開始している越境EC先進企業。今回はそのアンファーの中国展開、そして昨年夏に開始された韓国展開についてインタビューを行い、その取り組みから越境ECに対する戦略やコンセプトを見ていく。

 

※今回のインタビューはアンファーの韓国展開をECサイト・リアル店舗などトータルでサポートする株式会社UZENの協力で実施した。UZENは、日本と韓国を中心に中大規模のECサイト運用、構築、新規ビジネスの立ち上げのコンサルティングを始め、アジアEC市場への展開、海外ブランドの日本市場へのEC展開を、市場調査や戦略提案、現地パートナーの紹介、英語や韓国語など現地言語での対応までトータルにサポートしている。

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アンファーの越境ECの経緯と現状

 

現在アンファーは主に中国・韓国の2カ国に越境EC展開をしている。中国市場に越境EC展開を開始したのは2012年9月、まだTmall国際という越境EC専用のサイトは登場していない越境EC黎明期にTmallに出店をすることでスタートした。Tmall出店から一年後、アンファーの中国法人を設立、自社サイトの展開を開始している。

韓国市場への越境EC展開は2016年7月に開始。自社サイトの他、百貨店モールでの販売、コスメティック専門モールでの販売を次々とスタートさせ、2017年の3月からはオンラインだけではなくオフラインでの販売も開始した。それ以外にも台湾やタイではECに先行してオフラインでの展開を行っている。

 

 

中国展開とその経験からの学び

 

アンファーは、まだTmall国際など越境EC向けモールがまだ存在していない2012年に、アリババジャパンと物流業務やオペレーティング業務を連携することでTmallに出店、その後現地法人を設立して本格的に自社ドメインのECサイトをスタートさせた、越境EC先進企業である。

そんな時代の先駆けとも言えるアンファーであったが、想定しているようなスピード感で展開をできたわけではない。その理由としては、中国進出する上では薬事申請について想定よりも随分と苦労したようだ。中国ではスキンケア用品に対する審査が、日本に比べて条件面で厳しく、申請から承認までにかかる期間も長い。日本では全く問題なく販売できた商品が中国での薬事法では販売できないというケースも発生した。

そして、中国進出当初は日本で成功した手法をベースとしたブランディングをアンファーの現地法人が主導となり行っていたが、日本と中国のカルチャーの違いなどから想定しているような手応えを得ることができなかった。例えば中国人消費者は、スカルプDを始めとする薬用ヘアケア商品が「本当に抜け毛対策になるのか」「いつ効果が出るのか」というような、商品の持つ効能の強さや即効性を日本人消費者に比べて強く求めていることや、日本人には効果的な広告表現が中国では通用しないことなどが理由として挙げられる。

このような理由から、中国への展開は当初の予想より苦戦している状況であるが、現地法人は主に仕入れなどの商品調達のみを行い、ブランディング等の販促は現地の代理店と連携していく方向性にシフトするなど、中国でのブランド確立を目指して再挑戦をしている段階である。

 

 

韓国への展開

 

韓国への越境EC進出は2016年1月から本格的にスタートし、7月には自社ドメインでのEC展開を開始している。

アンファーはなぜ中国に続く越境EC進出の舞台として韓国を選んだのか。それは韓国のEC市場の発達は日本を凌ぐ勢いだということで、日本のヘアケアEC市場での優位性を示したアンファーとしては見逃すことのできない市場であったからだ。市場調査から徹底的に行ってもらうパートナーとして選んだ企業は韓国EC市場に広く精通しているUZENである。UZENは過去15年に渡り韓国EC市場を牽引している企業であり、アンファーは韓国での市場調査やブランディング、プラットフォーム構築に至るまでトータルでバックアップを受けている。市場調査を行なった結果、韓国人消費者は日本人消費者と比較して自らを美しく保つことに対しての思いが強く、薄毛、脱毛に対する悩みも強いことがわかった。加えて「男性専用の薄毛対策」という領域ではまだ競合が少ないことが判明し、アンファーが日本で事業を始めた頃と共通している点でチャンスだと感じた。

一方で、韓国人消費者は自国のメーカーをかなり信用して使用しており、日本の大手メーカーも揃って苦戦を強いられているということも明らかとなった。このため、医療分野からスタートしたアンファーの強みでどの程度のポジショニングを取ることができるかを入念に分析した。そのため実際に韓国市場で販売を始めたのは2016年7月からである。

調査から韓国人消費者は自国のメーカー商品を中心に消費しているドメスティックな市場ということがわかっているため、そのような市場にアンファーが切り込んでいくためには徹底したブランディングを行う必要があった。アンファーが現在行っている施策としてもっとも力を入れているものは、韓国でも効果的と言われるインフルエンサーマーケティングである。

▲アンファー、韓国CM 第3話(この他にも第1話第2話を公開中)

現在のところは、動画広告を展開後に効果分析を正確に行えるまで配信から時間が経っていないが、作成した動画コンテンツでの効果は上々である。

加えてアンファーが行なった特徴的な施策としては、日本で制作、放送しているコンテンツをそのままに、ハングルのテロップだけを追加して使用する、ということである。日本のコンテンツそのままというのは一見コンテンツを使いまして、制作に手を抜いているとも思える手法だが、動画の中で日本語の表示や音声を流すことで韓国人消費者に「アンファー=日本製品、日本製品=高品質」というイメージを伝える事ができる。

2016年7月の販売開始から半年程度はオンラインのみで販売を行っていたが、2017年3月にはついに薬局などリアル店舗での販売も開始し、今後はオンライン・オフライン両軸で韓国のヘアケア市場を攻めていく。

 

 

越境ECで成功するために一番重要なこと

 

まだ越境ECという言葉自体に馴染みが薄かった2012年から中国進出するなど、越境EC先進企業のアンファーが現在まで約5年間越境ECを展開してきて見えてきた、越境ECで成功するために重要なことが2つある。それは、パートナー選びの重要さ、そして、展開する国ごとの国民性に合わせたブランディングを行う必要があるということである。

 

パートナー選びは市場選びより重要

もちろん、大前提として自社製品と展開先の市場の親和性は高くなければならないが、どれだけ市場全体が大きくても、どれだけ自社製品とマッチしていても自社だけでできることには限りがある。もし自社で市場調査、ブランディング、物流管理など越境EC展開に必要な機能全てを持っていたとしても、パートナー企業がいるのといないのではスピード感や戦略面で大きな違いが出てくる。どれだけスキのない戦略だったとしても、実現するスピードがどうしても遅くなり越境進出するタイミングを逃してしまう。そのため、越境ECをいずれの国で展開するかを決める鍵をにぎるのはどれだけ良いパートナーを見つけるかが非常に重要となる。

では、良いパートナーとはどのような企業のことを指しているのか。それは、意思疎通をスムーズに行うことができるか、現地の事情にどれだけ精通しているか、自社の要望にどれだけ真摯に取り組んでくれるのかである。このことは韓国市場進出から現在にいたるまで、UZENをパートナー企業として選び、一緒に取り組んでいくことで確信したことである。UZENは15年間韓国市場を牽引してきたという経験値はもちろん、アンファーを韓国市場で成功させる、という目標達成のためにアンファーと同じくらいの熱量を持って取り組んでいると実感している。意思疎通についても、アンファー側が欲している以上のレベルでアウトプットが返ってくるため非常にスムーズである。

アンファーはこれまでに韓国市場の調査はもちろん、広告出稿や物流、ブランディング・マーケティング戦略の検討や医薬部外品を輸入販売するために必要な許可申請等の手続きを含めて、ありとあらゆる面でサポートを受けている。UZENはまさにアンファーの韓国支社のような立ち位置で、文字通りの「パートナー」としての動きをしている。このような動きができるパートナー企業を探すことは、越境ECをどの国に展開するかを決定するよりも難しいということは理解しておくべきである。

 

効果的なブランディング手法は国ごとに異なる

越境先の市場と自社製品がマッチしていてもそれを現地の消費者たちに伝える手法は全く異なってくる。例えば中国では、消費者に対してその製品のもつ特徴・効能をいかに強く押し出すことができるかが重要となる。韓国では、ビジュアルの良い俳優を使用すること、などだ。また法律面でも国によって使用できる表現方法が異なってくるため注意が必要である。

また、近年では日本でもネット上の有名人に商品を宣伝してもらうインフルエンサーマーケティングが注目されているが、中国や韓国では日本以上に有効な手段である。アンファーも韓国ではインフルエンサーマーケティングを中心としたブランディングに力を入れていて、Web動画・TVサイトやYouTubeなどの動画サイト、さらにFacebookInstagramなどのSNSやNEVERBLOGで展開中である。

インフルエンサーとして選んだのは、まだブレイク前の新人俳優を使うということもブランディング上重要な判断だったようだ。既に知名度を獲得しているインフルエンサーを使用しないことで、単にコストがかからないということもあるが、まだ知名度が高すぎない俳優を使用することで俳優のイメージにアンファー製品を載せやすく、プロモーション以外の活動時にも、その俳優を見るだけでアンファー製品を連想してもらうことができるようになるためである。

 

 

 

 

今後の海外展開の展望

 

現在韓国市場において既にネットインフルエンサーや俳優を活用して動画やSNS、オフラインでの広告出稿を行い、商品のブランディングのために必要な施策を一通り実践しているアンファー。次に行うべきことは、どのくらい成果が出ているかを明確にする、ということである。特に韓国市場への進出においては本格的にスタートしてまだ1年程度と、行なってきた施策に関するデータが徐々に集まり始めているという状況のため、今年以降は顧客分析を行うことで広告の費用対効果アップを目指していく必要があると考えている。

アンファーは今後、韓国市場で商品の認知度を更にアップさせるだけではなく、毎回リピートしてくれるコアユーザーを獲得していくことに力を入れていく。日本では、商品発売から5年程度経過したタイミングで宮迫博之さんをCMに起用したことにより爆発的に認知度がアップしたが、韓国でも同様に有名芸能人を起用したブランディングを、日本の5年よりも早い期間で実現していくという目標がある。

また、中国・韓国市場以外の市場にも進出する意欲をのぞかせており、台湾やタイなどでは日本で取引を行っている小売企業を通じて、既に展開を開始している。

 

 

アンファーの越境ECの戦略とコンセプトは何か

 

今回アンファーにインタビューを行うことで強く感じた部分としては、越境EC進出のためにパートナーとの信頼感を非常に重要視していて、UZENとの信頼感は非常に高いように見えたということ。

それは単に韓国市場に強い知見をもっていることだけが重要なのではない。調査だけ、検討だけと案件ごとの正確さやスピード感は勿論のこと、アンファーから依頼するだけではなく目標に向けてUZEN側から積極的に働きかけていることで実現しているのである。韓国市場展開のパートナーとして活動しているUZENには韓国だけではなくアジア圏全体の窓口になってもらえるのではないかという期待感も覗かせている。今後もアンファーとUZENの越境EC展開がどのように進んでいくのか注目していきたい。