凄まじい影響力を持つ中国ネットインフルエンサー「網紅(ワンホン)」の実態と活用方法

 

今や中国は世界最大のインターネット人口7.21億人を誇るネット先進国だ。その中で中国最大のSNSサービスWeibo(微博)が先日Twitterの時価総額を超えたように、SNSの影響力や経済規模も爆発的に伸びてきている。そんな中、日本ではそこまで流行していないカルチャーである、ネットインフルエンサー「網紅(ワンホン)」が凄まじい影響力を持つようになってきている。今回はなかなかイメージしにくい網紅の実態と、企業が中国に進出する際に網紅を活用するための方法を紹介していきたい。

 

 

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そもそも網紅(ワンホン)とは

 

網紅とは、中国語で「インターネット上の有名人」という意味である。芸能人ほどの一般的な知名度は持たないが、ネット上で多くのフォロワーを集めて有名になり影響力を持った動画や生放送を中心に活動する、いわばインフルエンサーの一種だ。

最近の網紅は、アナウンサーやモデルなど、元々有名であった人がなるケースも見られる。しかしながら、昨日まで普通の大学生が一夜にして動画が注目を浴びて数ヶ月で数百万人のフォロワーを得るケースや、1時間の生放送で1,300万円の収入を得るケースもあり、驚かされる事例には事欠かない。

 

 

網紅、KOL、インフルエンサーの違い

 

先ほど「網紅はインフルエンサーの一種」と述べたが、これら3つの違いを知るためには、インフルエンサーから順に解説していく必要がある。

 

インフルエンサー

インフルエンサーとは、「世間に対し大きな影響を与える人物」のこと。SNSを用いて情報発信するケースが多く、これらを企業が活用することで、インフルエンサーマーケティングが行われる。日本でいうなら、ブロガーやインスタグラマーなどが分かりやすい例だろう。

 

KOL

KOLは「Key Opinion Leader」の頭文字をとった名称で、インフルエンサーのうち、専門知識を持っており特定分野に秀でた人物のことを指す。KOLはその専門性の高さから、商品の持つメリットをより的確にアピールすることができるのが特徴。

 

網紅

インフルエンサーのうち、主に動画や生放送を用いて情報発信する人物を指す。KOLほどではないが、ある程度の専門知識を持っている者も少なくないようだ。動画媒体をメインに活動することから、日本のカルチャーで例えるならYouTuberのイメージに近い存在である。

 

KOLの方が網紅よりもやや広義でとらえられることが多く、動画だけでなく、Weibo・Wechat上での投稿などを活用した幅広いインフルエンサーを指している。一方、網紅は特に動画を駆使して活躍するインフルエンサーを指すものだが、その使い方や定義は近年の中国国内でも曖昧になってきているようだ。

 

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中国で網紅が受け入れられる背景と網紅の特徴

 

では、なぜ中国ではこのような網紅が受け入れられ、多大なる影響力を持つに至っているのだろうか。そこには中国の企業への不信感が背景にある。中国では企業の誇大広告や食を中心とした商品の偽装などの影響もあり、消費者の多くは企業発信の広告を信用していない。日本の風潮でいくと網紅も「ステマ」と位置付けられるが、中国では「ステマ」と分かっていても、健康的に明るく前向きに生きている網紅を見て、消費者は非常に幸せな気分になる。そして応援するという流れが出来てきている。そのため網紅が実際に使ったり紹介したりする商品について興味を持ち、購入にいたるというケースが多くなってきている。

一方、多くのフォロワーを従えている網紅でも、ルックスはそれほど重要視されないケースが多いようだ。誰しもが羨む美貌や、筋肉質の肉体のような外見的な魅力を持っていなくても問題は無く、そのことが逆に親近感に繋がっている部分もあるといわれている。網紅には他の誰にもない特徴を持ち、そして見た瞬間、数秒以内にその特徴を全ての人が理解できることが求められる。また、動画を通したコミュニケーション力や、ユーザーの求めていることを即座に理解し対応する柔軟性や対応能力も重要な要素だろう。

網紅が最も活動しやすいSNSプラットフォームといわれているWeibo(微博)だが、2016年の第二四半期のMAU(月間アクティブユーザー数)は2.82億人と凄まじい勢いで成長を続けている。また、今後3年でKOL全体の市場規模は2,000億元(約3.1兆円)になると見込まれている。KOL、そして網紅はもはや一時的なブームとして片付けられる存在ではなくなっているといえよう。

 

 

近年における紅綱の動向

 

動画媒体をメインに活動する網紅は、今や中国経済にとって欠かせないものとなっており、網紅市場と呼ばれるまでに成長した。微博とiResearchが2018年に発表した「中国網紅経済発展洞察報告」によると、紅綱の市場規模は2018年の予測値が676.6億元、日本円に換算して約1兆円となっている。同資料では、2020年の予測値は1120.9億元、日本円に換算して約1.7兆円になるだろうとも記載されている。

このように中国で爆発的に普及した紅綱だが、市場の成熟に伴い、紅綱自身の属性にも特徴が現れてきた。1980年代生まれが54%と過半数を占めており、大学本科を卒業した者の割合が63%、一級都市に住んでいる者が35.3%と最も多く、これらの情報からは洗練された知識人のイメージを見て取ることができる。日本のYouTuberはどちらかというとエンターテイナーに近い存在だが、網紅は経済的な側面が非常に強く、専門性を高めた網紅はKOLとしても評価されうるため、中国のカルチャーを踏まえれば自然な流れであるといえる。

 

 

企業が網紅を活用する際に重要な4つのポイント

 

日本企業が中国に進出してオンラインマーケティングを行う際に、非常に重要な役割を持ってくる網紅だが、どのように日本企業として活用していくべきかを4つのポイントに分けて考えていく。

 

ターゲットをしっかり理解する

中国という広い市場に対して漠然とアプローチするだけでは成果は上がらない。まず誰をターゲットにしているのか、どのようなシチュエーションでの利用を訴求していきたいのか、しっかり決めていく必要がある。また、親のため、自分のため、友人のため、などによっても訴求方法は変わってくる。いわゆる「ペルソナ」をしっかり定義して、特に初期は絞り込んでアプローチしていくことが重要だ。

 

インフルエンサー(網紅)を知る

一言で網紅といっても、それぞれ強烈な個性を持っている人たちだ。そのためそれぞれがどのようなターゲットに対して強く、どのようなメッセージを発信することが得意かを理解することが重要だ。どれだけ多くのフォロワーを持つインフルエンサーであっても所詮は1つの点に過ぎない。中国全土13億人、地域によって言葉も文化も異なってくる。そのため網紅の特徴や今までの取り組みなどをしっかり理解することは重要だ。

 

どのような動画コンテンツにするか

動画を提供するとなると、自社のサービスの押し付けで、少し堅い内容になりがちなものだが、そのようなフォーマットの動画は中国のファンには受け入れられない。ファンが何を求めているのかを考え、網紅が楽しんでいる様子をしっかり伝えることが大事だ。また、商品の成分や効能を伝えるのではなく、分かりやすい見せ方が重要となってくる。化粧品であれば顔半分だけメイクをした実験、名所であればそこで楽しんでいる網紅の様子、などをコンテンツとして使っていく。日本の視点からすると、少しやり過ぎに思うくらい、直接的な表現の方がいいのかもしれない。

また、そこで商品の訴求を行うのであれば、URLを貼るだけでなく、遷移先のサイトに割引、キャンペーンなどがあったり、他の口コミが掲載されていたり、Alipayなどの簡単で多様な決済手段が提供されていることも重要になってくる。生放送を見ている消費者はその場で衝動的に動くことが多いため、とにかく手間をかけさせてはいけないのだ。

 

動画を流した後が大事

中国でのオンラインマーケティングは動画を起点にすることは出来るが、それだけで完結することはない。網紅の影響力を使って起爆剤的にマーケットに認知を拡大させても、そこで提供できない情報はやはりWebで掲載していくことが重要になってくる。また生放送後に、Weibo上などを中心にどのような反応・反響があるのか、他のどのような媒体にどのように露出しているのかを分析することで、次回以降のインプットとなっていくだろう。

 

 

日本企業が中国市場に進出するために必要なマインドセット

 

中国マーケットに進出するための1つの手段として網紅を活用することは非常に効果的ではあるが、施策を進める上で日本のカルチャーと合致しない部分も多く、日本でビジネスを進めていく場合と同じ感覚で進めることが出来ないケースも目立つ。例えば日本企業の多くは新しい市場開拓へ対して非常に慎重だ。投資に対してのリターンについて過剰なファクトを求め、公開されているデータの根拠を必要以上に確認するケースも多いだろう。しかし中国は良くも悪くも直感で物事が進んでいく。中国市場への進出に成功している日本企業の多くは、初期は相当なチャレンジを行い、リスクも覚悟し、それでも可能性を信じて市場を開拓していった。ある中国進出をしている日本企業の担当者は中国へのマーケティング投資は「宝くじのようなもの」と形容する。買わないと当たらないが、当てようと思っても当たらない。ただ、継続的に投資を続けてチャレンジすることが大切だというニュアンスのようだ。

日本もそうだが、中国のオンラインマーケティングの市場も変化が非常に早い。2年もすれば新しいサービスプラットフォームが大きな影響力を持っていることも珍しくはないだろう。そのような環境になっても企業として中国の消費者に変わらずにリーチし、コミュニケーションを取り続けることが出来る対応力も必要になってくるだろう。

日本企業の提供する商品は中国人からすると、とても人に優しい商品であり、デザインも考え抜かれた美しいものだと感じることが多いのは紛れもない事実だ。このような高品質、ハイテクノロジーというイメージをうまく活用して、どのようなチャネルを使って、どのように商品を売っていくのか。前例にとらわれず、網紅を活用して中国の消費者へリーチしていくことが出来れば、中国進出の大きな足がかりを得ることになるだろう。