KOLの影響力とビジネス構造を読み解く - 中国でのオンラインマーケティングに欠かせない役割

 

KOLとは“Key Opinion Leader”の頭文字をとった略称。中国でのオンラインマーケティングにおいて重要な役割を持っている、SNS上で影響力の高いアカウントのことを指す。近年、広告配信だけに頼らず、KOLを活用したプロモーションは中国で一般的になってきており、ネットユーザーもより新しくより専門的な情報を得るために、KOLアカウントをフォローすることが多くなっている。今回は、そのような影響力を持つ中国のKOLを取り巻くバリューチェーンとKOLのビジネス構造を、事例を元に紹介していく。

 

<参考>

中国越境ECで2大SNSのWeibo・WeChatでどのように消費者にアプローチし、初期認知を獲得してブランディングしていくのか

 

 

KOLとは

 

KOLを一言で説明するなら、中国市場におけるインフルエンサーである。しかし厳密にはインフルエンサーと異なる部分もあるため、中国市場の特性に合わせて一歩踏み込んだマーケティングと言った方がいいだろう。発信力や拡散力、影響力の高い人物を活用したプロモーションという点はほぼ同じだが、一番の違いはその人物が持つ専門知識にある。KOLはインフルエンサーよりも専門性が高いため、商品やサービスが持つメリットを、より具体的にターゲットにPRすることができるのだ。

2016中国eコマース・KOLビッグデータ報告」によると、今年のKOLの生産額は約580億元(約9,000億円)と予測されている。今やKOLは、中国市場において欠かせないビジネスモデルとなっているのである。

 

 

KOLの背景

 

KOLが大きく成長した背景は、中国独自の文化や習慣にある。日本でインフルエンサーマーケティングと言えばInstagramやTwitterなどが代表的だが、中国は規制が厳しく、こういったSNSの閲覧が禁止されている。その代わりにWeiboやWechatなど独自のSNSが普及しているため、それらの特性に合わせたプロモーション戦略が必要となってくるのだ。

KOLを活用する際は、商品に応じた専門知識を持っていることはもちろん、ユーザーとの円滑なコミュニケーションが期待できる人物を選ぶようにしたい。中国は日本よりも、口コミやネット上での評判を重視する傾向が強いからだ。また、フォロワー数やシェア数などを不正に水増ししているKOLも一部存在しているため、普段の投稿に不自然なものがないか、あらかじめチェックしておく必要があるだろう。

 

 

KOLを取り巻くバリューチェーン

 

KOLバリューチェーンは、小規模の専門性の高いSNSプラットフォーム、先述したWeibo・Wechatに代表される総合的なSNSプラットフォーム、KOLプロダクション会社、ECプラットフォーム、KOLに商品を提供するメーカー及びサプライチェーンから構成されている。

 

SNSプラットフォーム

小規模の専門的なSNSプラットフォームは、ある領域や物に趣味を持つユーザーが意見を交換し、交流する場だ。その中で多くのフォロワーや影響力を有するアカウントは、ブログやステータスを更新した際に、多くのフォロワーによるシェアやコメントによって、知名度が上がりアカウントの所有者が「有名人」になる。しかし、小規模の専門的なSNSプラットフォームは、テーマが限られているため、KOLたちはより知名度を求めて総合的なSNSプラットフォームに展開していくことが多い。現在、Weiboは各SNSプラットフォーム上のKOLが人気を拡大するために、最も利用されている総合的なプラットフォームだ。小規模の専門的なSNSプラットフォームで一定の人気やファンを集めてから、ユーザー数と注目度が最も高いWeiboで注目を浴びることを目指している。それによって、元のプラットフォーム上でのファンも維持され、より多くのファンをWeibo上で集めることも期待でき、その結果、広告やECプラットフォームを利用して実際のビジネスに繋げることができるのだ。

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KOLがTaobao上にECサイトを出店している事例

 

KOLプロダクション会社

プロダクション会社は、得意とする領域に影響力を持つKOLと専属契約を結ぶことからはじめる。次に、専門性の高いチームを立ち上げて、KOLのSNSアカウントを運営する。KOLプロダクション会社のサービスの一環として、定期的にフォロワーが興味を持ちそうな内容を更新し、またフォロワーとのインタラクションを維持するによって、関連したEC店舗と商品の人気を高めていくのだ。

SNSアカウントの運営だけに留まらず、KOLプロダクション会社はその商品のサプライチェーンとの連携を保つ役割も持つ。KOLがSNS上で宣伝をし、人気が高まるタイミングで商品のサプライチェーンとマッチングして、商品の生産を進めていくことまで関与していく。KOLプロダクション会社も大きく影響力を拡大しており、アイリサーチとWeiboが共同で発表した「2016年KOL生態白書」によると、約3万人のKOLを対象にした調査では、過去1年でフォロワーの規模が1億人から3億8500万人に増加し、KOLの24%が、KOLプロダクション会社と契約していたことが明らかになった。

 

KOLに商品を提供するメーカー及びサプライチェーン

KOLが常にユニークさや潮流を追い駆けて、消費者からの欲求も日々変化し続いているため、柔軟かつ迅速に消費者のニーズを対応できるサプライチェーンが非常に重要である。よって、KOLプロダクション会社とメーカーは、ビッグデータ分析を使って、高品質・高スピードで対応できるサプライチェーンを確保する必要がある。そのため、一部の成熟したサプライチェーンを持つ上場メーカーもKOLバリューチェーンに参入してきている。

 

 

SNSプラットフォームがKOLを育てる

 

KOLはジャンルごとに存在し、何をPRしたいかで活用するべきKOLは変わってくる。またSNSプラットフォームのテーマによって、KOLがどの程度育ち、どの程度の影響力を持つかは変わってくる。SNSプラットフォームのテーマ別に、KOLの環境を見ていこう。

 

趣味、運動及び旅行に関連するSNS

このようなSNSは普通、一つの領域に同じく興味関心を持つネットユーザーが集まりやすいため、KOLも現れやすい。しかし、特定の領域が決められているので、ファンの人数は限られているし、KOLの影響力も比較的少ない。

 

一般知識に関連するSNS

最新のトレンドや商品に関連するSNSにおいて、豊富な知識や見解を持つKOLはネットユーザーに有用な情報を提供できるために、ファンの人数が非常に多く、KOLの口コミに対する信頼性も高い。しかし、KOLの個人価値観が基本的に強いので、ビジネスに転換するときはハードルが比較的高い。

 

生放送に関連するSNS(ニコ生・ユースト)

近年オタク文化及びゲーム産業の新興は、多くの中国ネットユーザーに影響を与えている。生放送に関連するSNSのKOLは大体、特徴的な外見や才能を持っていた。しかし、このようなSNS上で人気を集まったKOLの消費期間は比較的短い。KOLがデビューする時のイメージに絞られて、今後のイメージ転換は難しくなる。ここで、中国において、最も話題になった生放送を用いたKOLの取り組み事例を紹介する。

KOLのハンドルネームPAPI醤(ちゃん)は7月11日に、初めて中国の8つのSNSプラットフォーム上で同時に、1時間半程度の生放送を行い、アクティブで2,000万人以上のネットユーザーを動員した。それによって90万元(約1,395万円)以上のプレゼントを手に入れたそうだ。

 

 

KOLの中国でのオンラインマーケティングに欠かせない役割

 

このように中国におけるKOLバリューチェーンは、根本的には大衆を巻き込んだ大掛かりなビジネスモデルだ。KOLバリューチェーンが成功しているのは、従来の「メディア」と「消費者」の関係を根底から変化させ、KOLが若いネットユーザーに対して、近付きがたい教師のような存在ではなく、知識や趣味を分かち合い生活のちょっとしたことを共有する存在になっていることも無関係ではないだろう。特に新興のKOLプロダクション会社が仕掛ける取り組みでは、バリューチェーン全体がビジネスモデルとなることで、KOLが「一発屋」となるのではなく、クオリティを高め人気を持続させることに注力している。KOLバリューチェーンは中国のインターネットビジネスにおいて、今後もますます重要度が高まり、メーカーにとっても確実に利益をもたらす存在となっていくだろう。

 

※当記事は中国メディア「電商報」の8/11公開の記事、及びifanr記事を翻訳・補足したものです。