加速するソーシャルメディアとECの直結化 - 満足度の高いフィードと「BUY」ボタンの融合は実現するのか

 

ICT総研による調査によると、2014年末時点での日本国内におけるSNS普及率は6割を超え、2016年末には日本のSNS利用者は6,870万人を超えるとされている。スマートフォンが日常生活の一部として浸透するようになった今、オンライン上で2つの大きな潮流となっているそのSNSとECが再び歩み寄りを見せている。今回は、米国におけるInstagram、Pinterest、TwitterやFacebookの取り組みから、SNSの体験を大きく左右するフィード上での「BUY」ボタンの在り方を考えていく。

 

<参考>

ソーシャルからコマースへの系譜 PinterestからSumally、FANCY、そしてOrigamiへ(前編)

ソーシャルからコマースへの系譜 PinterestからSumally、FANCY、そしてOrigamiへ(後編)

 

 

Instagram

 

著名人をはじめとして、ここ1年で一気に利用者層が拡大した「Instagram」。撮影した写真を加工し、コメントと共に投稿することができる無料画像共有アプリだ。Instagramは2010年10月にApp storeでリリースされ、去年末にはユーザー数が3億人を突破した。サービスリリース後1年半の2012年4月にはわずか13人(当時)のチームをFacebookが10億ドル(当時の為替で約810億円)で買収し話題を集めた。

2013年10月から米国版Instagramでの広告掲載が開始され、2014年11月からは同じく米国版で動画広告が導入された。日本では今年5月から広告の掲載を開始し、フォローしていない企業アカウントの投稿がユーザーのフィードに表示されるようになっている。

 

 

各企業の広告はファッション誌の紙面広告のようにファッショナブルで凝ったものが多い。広告は企業アカウントの投稿としてのみ表示され、外部へのリンクが表示されることもなく、またフィードにバナー広告などが表示されることもない。現在の日本版の広告の右上には[広告] ラベルが表示され、タップすると興味のない広告を非表示にすることができる。現在のこの機能は広告表示に対するフィードバックとして活用され、それぞれのユーザーの興味に合った広告が表示されるようになる。

 

 

現在の日本版では広告の表示事例も少なく、フィードにユーザー以外の投稿を流すことに慎重になっているように見える。しかし主に米国版において、Instagramは広告機能やそれを活用したEC機能導入に対して非常に積極的だ。今年3月には主に米国版において、一つの投稿で複数の画像を使用し、スライドでそれらを見ることができる「カルーセル広告」の提供が始まっている。以下その紹介動画をご覧頂きたい。

 

 

ここからも分かるように、画像を並べることで広告によりストーリー性を持たせることができる上、画像の右下に「Learn More(詳細表示)」のボタンが表示され、広告における外部リンクの掲載が可能になった。また先月には米国版の広告投稿に「BUY」「ダウンロードする」「サインアップする」のボタンが追加されることが発表された。これまでの広告で蓄積されたフィードバックのデータに応じて、ユーザーの興味に合わせた訴求力のある広告画像や動画を表示させ、「BUY」ボタンにタップしてもらおうというものだ。いよいよInstagramから直接商品を購入できるようになるが、今の所は計画段階のようで、これらの機能を日本版に導入する時期も未だ不明だ。画像・動画共有SNSとしての特徴を生かした形態であるだけに、これからのECにおける活用事例も期待される。

 

 

Pinterest

 

Pinterestは興味のある投稿を「ピン」してコレクションすることで、新たな興味を発見できるサービス。国内の情報は公開されていないが、eMarketer社の2015年2月公開のレポートによれば米国のユーザー数はFacebook、Twitter、Instagramよりも少ないものの前年比11.4%増となり人気は衰えていない。また、ユーザー属性も女性比率が多いことで知られている独自の世界観を持つSNSだ。

ブラウザに「ピンボタン」をインストールして外部のウェブサイトの画像をピン(ブックマーク)し、共通の趣味を持つ人にシェアすることがPinterestの主な機能となっている。ピンはそれぞれユーザーが自ら作成する「ボード」の一つに保存されることになっており、保存したピンを自分の好きなカテゴリに分けたボードで管理したり、ボードに他のユーザーを招待してシェアすることも可能だ。Pinterestのホーム画面にはフォローしているユーザーがピンした画像が並んでおり、これらをピンすることは「リピン」と呼ばれる。

ピンには画像の出典元となる「ピン元」の情報も保存されており、出典元のサイトを閲覧したり、同じ出典元のサイトから他のユーザーがピンした画像をまとめて見ることもできる。他のユーザーのピンを表示すると、そのピンが保存されているボードの一覧や、同じ出典元サイトからのピン一覧、関連するピンなどを見ることもできる。スクラップブックのように収集された情報から、自分の新たな興味を見つけ出すことができるのがPinterestの魅力だ。

Pinterestは先月末、購入機能である「Buyable Pin」を米国版で導入したことを発表した。以下、その紹介動画だ。

 

 

Buyable Pinには、通常の赤いピンボタンの隣に青い「BUY IT」ボタンがついており、商品をそのまま購入することができる。商品の名前などで検索するとBuyable Pinがまとめて上位に表示され、「See More」を押すとBuyable Pinのみの検索結果を見ることができる。

 

 

Buyable Pinの一覧では表示する商品の価格上限を設定できたり、商品の色違いをまとめて見る機能がついているなど、理想の商品を発見しやすくなっている。ピンボタンの隣の「BUY IT」ボタンを押せばPinterest上で簡単に購入することができ、支払い方法はApple Payとクレジットカードの2つから選ぶことができる。米国版Pinterestではまず3000万ほどのピンが購入機能に対応する予定だ。

 

 

日本におけるこの機能の導入時期は未定となっているが、ユーザーの興味を収集し再発見させるPinterestのECにおける取り組みに今後も注目していきたい。

 

 

Twitter

 

Twitterは「ツイート」と呼ばれる140字までの短文を投稿してフォロワーとコミュニケーションを取るSNSだ。国内ユーザー数は2014年6月時点で1,980万人で、グローバル全体では月間アクティブユーザー数は3億人を超え、1日に5億件のツイートが投稿されているという。

Twitterは昨年9月から「BUY」ボタンを導入しており、iOSおよびAndroid向けアプリのタイムライン上から商品を購入できるシステムを試験的に運営している。FancyGumroadMusictodayStripeと提携して開発された購入画面では、商品配送先と支払い情報を入力するだけで購入手続きが完了するようになっており、Twitter上だけで買い物ができる。「BUY」ボタンは米国のごく一部のユーザーを対象にテスト運営を開始し、全米へと規模を拡大している最中だ。

 

 

Twitterは先月、新たな「ページ」と「コレクション」の機能を発表。「ページ」を利用することで、ツイートとは別に商品や店舗紹介の専用ページを作成できるようになった。

 

 

価格や詳細説明、写真、住所(店舗紹介の場合)、商品や店舗に関連するツイートをページに表示することができる。商品や店舗に関連した最新ニュースのツイートや、自分がフォローしているアカウントが商品について呟いたツイートなどを商品ページで見ることができるのが特徴的だ。Twitterに「BUY」ボタンを持たない商品でも商品ページを作成することができ、その場合には外部の購入サイトへリンクすることができる。店舗紹介として使用した場合も同様に外部のサイトへ誘導することができる。

もうひとつ新たに追加された「コレクション」では、「ページ」をまとめて一覧にすることができる。作成されたコレクションは画像のようにツイートに添付してシェアすることも可能だ。

 

 

現在はNikeをはじめとしたアパレルブランド、TechCrunchなどのメディア、レストラン紹介サイトのThe Infatuationなどがコレクションを利用しており、これらのキュレーターとなる企業やメディアは今後も拡大していく予定だ。

 

 

満足度の高いフィードと「BUY」ボタンの融合は実現するのか

 

Facebookは昨年7月にフィード上での「BUY」ボタンの検証を開始し、つい昨日もFacebookページ内での「BUY」ボタンの導入のテストを開始すると発表するなど、フィード上へどのように「BUY」ボタンを実装するべきかの検証を重要テーマとしてとらえている。ここで紹介した各サービスも含め、いずれも現状では本国・アメリカでの試験的なEC導入を行うに留まっているが、その方針には共通点がある。

 

加速するソーシャルメディアとECの直結化 - 満足度の高いフィードと「BUY」ボタンの融合は実現するのか

 

Instagramはクオリティの高い画像・映像を使用した広告投稿に購入ボタンをつけ、さらにフィードバック機能を活用することによって、ユーザーが商品に対して積極的に興味を持てる内容を作り上げている。Pinterestはもともとユーザーが興味を持ったピンを収集するSNSだが、そのピンから直接商品を購入することができるようになった。Twitterは商品ページをコレクションとしてまとめて、それをツイートで共有することで、興味がある人に商品ページの情報が届きやすくなるようにしている。

つまりどのSNSもバナーやポップアップ広告などは使用せず、そのサービスの特徴を生かした上で、フィードやタイムラインの中にユーザーの興味にマッチした商品の「BUY」ボタン・購入ページを表示させているのだ。他のユーザーとのつながりの中で新たな情報を得ることができるSNSにおいては、フィードやタイムラインで共有される情報のうちの一つとしてECサービスを展開することによって、今までユーザーにとって邪魔な存在だった商品宣伝を「ユーザーの新たな興味・ニーズを作り出すコンテンツ」としても利用できるのではないだろうか。商品宣伝や広告が煙たがられがちなSNSでECを浸透させるためには、「わくわくするモノとの出会い」という体験をいかにユーザーに提供できるかが鍵となってきそうだ。SNSの生命線ともいえるフィード上にECへ直結する「BUY」ボタンという導線を組み込む方向に舵を切った各サービスの今後の動きに注目していきたい。