キュレーションコマースへの進化の道程
昨年から盛り上がりつつあるキュレーションコマースだが、コンテンツマーケティングの波にのって今年のトレンドとなるのだろうか。今回は、コマースからキュレーションコマースへの進化の過程を見ていくことで、今後のキュレーションコマースの未来像を考えていきたい。前編では藤巻百貨店に代表されるセレクトショップ、hatchに代表される専門家によるレコメンドについて紹介したが、後編ではWEARに代表される好みのキュレーターによるレコメンド、STYLESEEKの自動レコメンドについて見ていく。
<参考>
キュレーションコマースへの進化の道程(前編)~藤巻百貨店からhatch、SumallyそしてSTYLESEEKへ
好みのキュレーターによるレコメンド - キュレーションプラットフォーム化
後編の最初は、キュレーションコマースの認知が爆発的に広まったきっかけとなった、好みのキュレーターによるレコメンドを行うキュレーションプラットフォームを紹介していく。この方式はソーシャルコマースと呼ばれることも多い。ユーザーは自分の好みの複数のショップや他のユーザーを選択し、そのショップやユーザーがキュレーションする商品がタイムラインに流れ、そこから気に入った商品の購買を行う形態だ。多くのサービスは初期では購買を行うことを主眼にはしておらず、お気に入りの商品を眺めているだけのものも多かったが、相次いでコマース機能が付加されてきた。このような形態は実店舗では不可能なため、オンライン特有の方式といえよう。
<参考>
ソーシャルからコマースへの系譜 PinterestからSumally、FANCY、そしてOrigamiへ(前編)
ソーシャルからコマースへの系譜 PinterestからSumally、FANCY、そしてOrigamiへ(後編)
WEAR
2013 年10月に提供を開始したWEARは、ローンチ前に批判の的となっていたバーコードスキャン機能を昨年4月に廃止し、現在はコーディネートの参考やショッピングを楽しむアプリとして展開している。
著名人やショップスタッフ、一般人の投稿によるコーディネート案を検索・閲覧できる「コーディネートレシピ機能」を通じて投稿されたコーディネートの総数は100万件以上にのぼり、同サービス経由の商品購入は増える一方だ。昨年10月からは、他のユーザーが投稿したコーディネート例を「おすすめコーディネート」として自身のフォロワーと共有できるレコメンド機能が追加された。これにより、撮影や投稿が苦手なユーザーでも気軽に利用することが可能となった。また昨年11月には、これまで首都圏のみで 行っていた即日配送サービスを、大阪、京都、兵庫、奈良、和歌山、滋賀県を含む関西エリアにも拡大したと発表。現在は、WEAR全体の出荷件数のうち 50%以上を即日対応している状況だ。また、運営元のスタートトゥデイは海外展開も積極的に行っており、2014年5月からサービスを開始した台湾を皮切 りに欧米諸国や東南アジア諸国などを中心に世界21ヶ国でサービスを展開。つい先日、中国での展開も開始したと発表した。
<参考>
ZOZOTOWNの新アプリ“WEAR”で、狙い通りアパレルECにおける店舗のショールーミング化は進むのか
アパレルECでWEAR、Virtusize、VAULTが提案する次世代のオンライン商品選択の姿
FANCY
世界75ヶ国、1,000万人以上に利用されているニューヨーク生まれのFANCYは、自分のタイムラインに流れてくる商品画像の中から気に入ったものを探し、お気に入りに登録したり、直接商品を購入することができるソーシャルコマースサービスだ。
ユーザーはランキングシステムによってランクづけされており、誰もレコメンドしないような商品をアップするとランキングが下がる仕組みになっている。そのため、各ユーザーは必然的にセンスの良いアイテムをアップするようになるのだ。ユーザー同士がリコメンドし合いながらモノを売る、それがFANCYだ。2010年12月にPinterest型の画像共有SNSとしてサービスを開始したFANCYは、2012年に商品を購入できるソーシャルコマースへと業態を転換。国内では、伊勢丹の出店を第一弾として2013年10月に本格的に展開を開始したが、日本のユーザー向けに公式サイト「Fancyナビ」を開設した以外はこの1年半で特に目立った動きはない。
Origami
2013年4月にローンチされたOrigamiは、お気に入りのブランドやショップをフォローすることで、そのショップがレコメンドするアイテムの商品情報が自分のタイムライン上に流れてくる仕組みだ。
商品にはレコメンドポイントが添えられており、商品画像をクリックすればすぐに購入画面に飛ぶことができる。取り扱いアイテムはファッション系、インテリア雑貨、コスメ、ガジェット、食品など多岐に渡り、現在は700以上のショップが商品や新作情報を発信している。さらに特筆すべきは、実店舗との連携機能も充実しているという点。ユーザーは周辺のショップ検索を行ったり、チェックイン機能を使って限定情報や特典をゲットすることが可能となっている。
自動レコメンド - ロボットによる究極のキュレーション
最後はシステムからの自動レコメンドによる究極のキュレーションコマースを紹介していく。ニュースアプリGunosyは、自分の好みの記事を読めば読むほど好みの記事がおすすめに表示されるようになるが、そのコマース版と考えれば分かりやすい。サービス内での商品の閲覧やアクションに応じて、そのユーザーの好みをシステム側が識別し、好みを推測してレコメンドしてくれる。現時点ではもっとも進化したキュレーションコマースといえよう。
Sumally
ユーザーが欲しいモノや持っているモノを公開し、そのアイテムに対して他のユーザーが“want(欲しい)”と“have(持っている)”を付けることで、モノの売買をしたりコミュニケーションが図れるSumally。
FANCYなどのソーシャルコマースプラットフォームと同様のサービスだが、全く狙いは異なる。現在Sumallyには約170万点のアイテムが登録されており、そこに8,000万件弱のWantとHaveが紐づいている。サイト上にはタイムラインのほか、おすすめという項目が用意されており、このメニュー内にて、「欲しい」と「持っている」を有機的に連携させようという取り組みがつい先日から開始された。これによりこれまで自分がWant・Haveしてきたモノの趣向に基づき、オススメのアイテムが次々と紹介されるようになったのだ。さらにWantとHaveを押せば押すほどその精度が上がる仕組みになっている。「持っている」人が「欲しい」人に売る、「欲しい」人が「持っている」人に買いたいと要望を出す、などよりC2Cの潜在ニーズを刺激する可能性が高まっているこの機能の進化に注目だ。
STYLESEEK
会員登録する際に、いくつかのイメージ画像の中から好きな画像を選んでいくと、自分の好みがデータ化され、嗜好に合ったファッションアイテムが自分のトップページに並べられるという仕組みを持つ米国のECサイト、STYLESEEK(スタイル・シーク)。
当初はメンズウェアを中心に展開されていたが、最近ではレディスウェアを始め幅広いアパレル商品が並ぶ。今となってはキュレーションコマースの最先端をいくレコメンド形式を実装するこのサイトは2012年にスタートした。ただ漠然と商品を並べるのではなく、自分らしいスタイルの商品を並べることで、より自分の好みのスタイルを深く追求することが出来るというコンセプトだ。商品の詳細ページに飛ぶと、価格帯の異なる似たようなアイテムが紹介されていたり、該当商品に関する記事が掲載されるなど、凝った作りになっている。
その他のキュレーションコマース
ここまで紹介してきた切り口では説明できないキュレーションコマースもある。350以上のメディアから、毎日1,000記事以上が更新されているキュレーションマガジンAntenna。
2012年5月の提供開始からじわじわとユーザー数を伸ばし、今や400万人以上に愛される一大メディアとなった。SmartNewsやGunosyなど、ビジネスマンを中心に利用されているニュースキュレーションアプリは他にもあるが、写真中心のスタイリッシュなレイアウトはライフスタイル系雑誌のような感覚でストレスなく読めると女性を中心に人気を呼んでいる。
<参考>
オンラインでの「衝動買い」のムーブメントはそこまできている - Sumally、WEAR、Antennaが提案するワクワク感
キュレーションコマースはどこまで進化していくのか
こうして整理してみると、キュレーションコマースへの進化は既にだいぶ前に始まっていたといえる。キュレーションコマースが今年のトレンドとなる、というより、時代がようやくキュレーションコマースの進化に追いついてきたと言ってもいいだろう。オンラインでモノを買うことに慣れてきたユーザーは、年々貪欲さを増している。オンラインでどのようなモノも買えるようになってきた今、そのようなユーザーの目線がキュレーションコマースに向くのは必然かもしれない。
セレクトショップや専門家によるレコメンドを行うサービスでは、目利き力のある生身の人間が介在し、PUSH型でキュレーションを行う。この形態は実店舗でも行うことが出来るだろう。しかし、システムプラットフォームを絡めることで、好みのキュレーターによるレコメンドや自動レコメンドを行うサービスは実店舗では実現することが出来ないPULL型のキュレーションを実現している。このことはオンラインで従来の買い物体験を超える体験を提供しようとしている、と言ってもいいだろう。
しかし一方でシステムや自動化が何もかもを解決するわけではないし優れているとも限らない。生身の人間が介在するキュレーションの良さを継承しつつ、システムのインテリジェンスを活用したキュレーションをバランスよくユーザーに提供していくこと。このことがキュレーションコマースの定着の鍵になるかもしれない。今後もキュレーションコマースの進化から目が離せない。