ECサイトのメディア化によって得られる3のメリットと3つの注意点

 

Googleによる検索ロジックの改変により従来型の被リンクによるSEO対策が意味をなさなくなり、ユーザーに送り続けた大量のPUSHメールによりメルマガの効果が目に見えて落ちてきていることは紛れもない事実となってきている。そんな中、ここ1~2年脚光を浴びてきているのが、コンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングの中でも用いられるECサイト事業者によるオウンドメディアの運営だ。今回は、ECサイトとオウンドメディアの連携と、ECサイト自体をメディア化することについて考えていく。

 

<参考>

ECサイトのインバウンドマーケティング元年がやってきた - 前編:ECサイトでもインバウンドマーケティングが重要な4つの理由

ECサイトのインバウンドマーケティング元年がやってきた - 後編:ECサイトでインバウンドマーケティングで成果を上げる5つのポイント

ECサイトのメディア化は集客の最終兵器となるか - 最近のトレンドから見えてきた3つの方向性

 

 

メディアEC(メディアコマース)とは?

 

メディアECは「Media Electronic Commerce」の略で、ECサイトと情報発信メディアを複合的に扱うマーケティング手法のことである。メディアコマースとも呼ばれ、ECサイトとメディアを包括することでより効果的な販促・情報発信が行えるほか、顧客ののロイヤリティアップを図れるのが特徴だ。メディアECは、ECサイトにおけるオウンドメディア活用から始まり、ECサイトそのもののメディア化に移行しつつある。近年においてメディアECが注目されるようになり、成功事例も多く目にするようになったが、具体的にはどのような特徴があるのだろうか。

 

 

ECサイトのオウンドメディア活用

 

オウンドメディアの活用方法は大きく分けて2つの潮流がある。1つはオリジナリティの有無を問わずコンテンツを提供し、それをソーシャルメディアでシェアすることを目的としたもので、単純な集客力のアップが主な成果となる。2つ目は良質のコンテンツを継続的に提供することで、ロイヤリティアップを主な成果とするものだ。すなわち、商品を売るだけでなく、しっかりを情報提供を行い顧客とのコミュニケーションを取ることを目的としている。いずれの場合も、SEO効果は被リンクを中心とした施策よりも高くなるため、最近ではいくつもの企業で取り入れられてきている。

ECの出店数は国内だけでも10万とも20万とも言われている現在において、そのショップにしかない強烈な商品力を持つ商品や、どこよりも安い価格を提示できる店舗以外、集客をしっかり行い売上を上げることは従来よりも難しくなってきている。そしてその魅力を感じて購買体験した消費者ですら、類似の商品が出てきたり、他にもっと安いお店が見付かればリピートせずにすぐにそっぽを向いてしまう。

そのため、ECサイトにおけるオウンドメディアの活用の最大のメリットは商品力や価格によるメリットをはるかに上回る消費者からの愛着を手に入れることであると考えることが出来る。従って、最近ではソーシャルメディアでのシェアを目的としたものではなく、良質なコンテンツを継続的に提供する方法に軸足を移すべきであると考えられるケースが増えてきた。

 

<参考>

ECサイトでのコンテンツマーケティング成功事例厳選4選から学べること

 

 

ECサイトのメディア化への流れ

 

しかし、オウンドメディアの活用は、その成果がなかなか見えにくく、ECサイト事業者からすると間接的過ぎて敬遠されることが多い。他のサイトで商品の直接的ではない宣伝をすることでどうして売上アップに繋がるのか、という疑問を持たれるケースが多いのだ。確かにオウンドメディアはECサイトとは別にサイトを構築するため、オウンドメディアで集客した潜在顧客をどのようにECサイトへ流入させるかがハードルとして立ちはだかった。そのため最近ではオウンドメディア活用の延長線上の考え方として、ECサイト自体をメディア化するという動きが出てきている。「北欧、暮らしの道具店」が最も有名な成功事例だ。

 

北欧、暮らしの道具店ページ内に「お買いもの」と「読みもの」が混在している北欧、暮らしの道具店

 

ECサイトのメディア化は、逆の見方をすれば、読み物コンテンツの中にカートボタンがある、という考え方にもなると北欧、暮らしの道具店の青木氏は言う(セミナー資料)。この考え方は、キュレーションメディアのAntennaがコンテンツ内でECサービスを始めた発想と重なり合う。人はものを買うためにECサイトを訪れるのではなく、興味を持っているものを見ている中で自然とモノを購入するという考え方だ。オンラインでのショッピングに多くのユーザーが慣れてきた今、人はECサイトにはモノを買いに行くだけで何の親しみも持たず機械的に購入という処理を行う傾向が強くなってきている。しかし、興味のある良質の読み物コンテンツが溢れるサイトでは多くの時間を消費し、モノを買うというアクションをとりやすく、リピートするようになるものだ。

 

キュレーションマガジンAntenna読み物コンテンツの中に購入可能な商品が値段と共に表示されるAntenna

 

<参考>

オンラインでの「衝動買い」のムーブメントはそこまできている - Sumally、WEAR、Antennaが提案するワクワク感

 

 

メディアEC(メディアコマース)のバリエーション

 

メディアECに取り組む場合、売りたい商品の特性や予算に合わせて検討する必要がある。メディアECのタイプには明確なカテゴライズや名称が存在しないが、次の3つが代表的なものとして挙げられるだろう。

 

コンテンツ型

ECサイトを丸ごとメディア化したもので、読者にとって有用なコンテンツや話題の記事を制作し、その流れで自然な購入が行えるもの。コンテンツの質がや継続性が問われるためコストはかかるが、顧客のファン化を促進しやすい。前述した「北欧、暮らしの道具店」が、このコンテンツ型にあたる。

 

メーカー直営型

ECサイトをメディア化するという点ではコンテンツ型と似ているが、こちらはブランディングを主体にしたもの。雑貨やファッション・アパレルなど見栄えのする商品で採用されることが多く、商品へのこだわりや商品開発ストーリーなどのコンテンツで構成され、総じてデザイン性に優れているのが特徴。

 

ソーシャルメディア連携型

FacebookやTwitterなど、SNSのシェアによる拡散を狙ったもの。自社ブログなどのオウンドメディアを運用している場合に併せて活用されることが多い。メディアECとしてはやや力不足感が否めないが、比較的手軽に取り入れられることがメリットである。

 

 

ECサイトのメディア化によって得られる3つのメリットと3つの注意点

 

ECサイトのメディア化には大きな効果がありそうなのは漠然と理解は出来たが、現状のECサイト運営とは180度スタイルを変えなければならないため、なかなかメディア化に踏み出せない場合が多いだろう。また全てのECサイトにおいてメディア化が絶対解ではないことも事実だ。それでは、ECサイトのメディア化は実際のところどのようなメリットがあり、運営する上でどのような注意点があるのだろうか。ここでは3つのメリットと3つの注意点を紹介していく。

 

メリット1:SEO効果が高まる

まずは冒頭から触れているように、被リンク型のSEO対策やPUSH型のメルマガの効果が劇的に落ちてきている現状において、ECサイトのメディア化によるSEO効果は抜群に高まる。良質なコンテンツは読者を満足させると共に、Googleも満足させることが出来る非常に強力なSEOツールとなる。

 

メリット2:商品への理解が深まる

メディア化したサイトで提供する良質のコンテンツは取り扱っている商品の作られた歴史や背景、その商品の賢い利用シーンや、その商品の利用後の明るいイメージなどが主となる。そのようなコンテンツを読み物として提供することで読み手は自然と頭の中にその商品の良さや品質の高さ、こだわりなどが入ってくる。従来のように商品詳細ページに箇条書きで記載するものと理解度において雲泥の差が付くことになり、購買に繋がりやすくなる。

 

メリット3:ロイヤリティを得られリピートに繋がる

良質なコンテンツを提供しているサイトに消費者は自然と好感を持つようになる。あのサイトは興味のあることを色々教えてくれる、あそこに行けば必要な情報は手に入ると思ってもらえれば、そのサイトは消費者の信頼を得ることに成功したと言えるだろう。そのようなサイトは消費者も特に用が無くても訪問したいと考え、リピートに繋がりやすくなる。

 

 

注意点1:シェアされることを意識しすぎない

ECサイトのメディア化の重要なポイントは、良質のコンテンツを提供することにある。取り扱い商品とあまり関係ないがソーシャルメディア上でシェアされやすそうなコンテンツを作成したり、そもそも品質の低いコンテンツを提供したり、いわゆる釣りタイトルと言われるタイトルとコンテンツの中身が乖離した内容となっているようなコンテンツの提供は行うべきではない。身の丈に応じた最良のコンテンツの提供を行っていき、コンテンツ作成のノウハウを蓄えていく必要がある。

 

注意点2:メディア化と利益のバランスを上手にとる

ただ、その一方でECサイトで取り扱っている商品を売るためにコンテンツを提供しているということも忘れてはいけない。そのため良質のコンテンツを提供するメディアとしてのポジションと、ECサイトとしての利益のバランスを取ることは非常に難易度が高い。例えば、在庫を抱えてしまっていて売りたい商品の記事を書く、逆に反響の大きかった記事に関連する商品の在庫を手厚くするなど、いくつかの成功パターンを作っていく必要がある。

 

注意点3:新規の人材を採用し編集していく

従来のECサイトの運営と、メディア化されたECサイトを運営するために必要なスキルは全く異なる。マーケティング視点だけで言えば、リスティング・アフィリエイトを理解し、CRMなどを駆使するなど、いわゆるマーケティングテクニックで集客をすることが出来る人材が重宝された。しかし、メディア化されたECサイトにおいてはそのようなノウハウはそれほど重要ではない。良質なコンテンツを書くことが出来るだけでなく、商品を売るために良質のコンテンツの企画を行える編集能力の高い人材が重要になる。

 

 

ECサイトのメディア化の未来

 

このように集客も出来て、コンバージョンも促しやすくなり、リピートもしてくれるようになるという、まさにECサイトの運営事業者からしたら喉から手が出るほど欲している成果を全て勝ち得ることが出来る可能性を持ったECサイトのメディア化だが、一方で難易度も高く踏み出しにくい側面も持っている。

ECサイトを完全にメディア化した「北欧、暮らしの道具店」だけが絶対解ではなく、ソーシャルメディアにも重点を置いている藤巻百貨店土屋鞄製造所などの手法も解としては存在する。このことからも、取り扱い商材や店舗の強み、業界内でのポジショニングなどに応じてコマース(ECサイト)とメディア(情報発信サイト)のバランスを選択していく必要があるだろう。

ECサイトのメディア化は既存のECサイトの多くが過去のしがらみなどから実現することが難しいテーマとも考えることができる。キュレーションメディアのAntennaがEC機能を導入したように、他の事業者や、歴史の浅いECサイトの方が大きく舵を取りやすく、大きくECサイトの概念を変える可能性を秘めているのかもしれない。