ECサイトのメディア化は集客の最終兵器となるか - 最近のトレンドから見えてきた3つの方向性

 

ECサイトの集客の王道であったメルマガやリスティング広告の効果が目に見えて落ちている中、昨年頃からECサイトのメディア化に注目が集まっている。そして今年に入り、DeNAがキュレーションメディアプラットフォームの提供をリリースするなど、メディア化にもいくつかの方向性が見えてきている。今回は自社ECサイトのメディア化だけでなく、インターネットカタログ、キュレーションメディアプラットフォームを使ったメディア化の3つの方向性について考えてみる。

 

<参考>

ECサイトのメディア化によって得られる3つのメリットと3つの注意点

 

 

北欧、暮らしの道具店

 

ECサイトのメディア化で最も成功した事例として頻繁に取り上げられるサイトが「北欧、暮らしの道具店」だ。

 

 

2009年にサイトを立ち上げ、2012年に自社サイトのメディア化を始めた。それ以来、売り上げを4倍に伸ばして成長を続けている。サイト上には、「お買いもの」の他に「読みもの」コンテンツがある。「読みもの」では特集が数多く組まれていて、北欧雑貨を使った社員のライフスタイルを紹介したり、子育てで役立ったグッズやお弁当の作り方など商品とリンクされていない内容の記事もある。ブログのような読みやすい書き方で、北欧家具の柔らかい優しい雰囲気が表現されている。「お買いもの」の商品ページにいくと、一般的なECサイトでは商品のサイズや色などの情報がただ書かれているだけであるのに、北欧、暮らしの道具店では、商品の利用方法が写真をたくさん盛り込んで丁寧に紹介されている。スタッフが実生活で使っている様子など利用シーンが具体的にわかるようになっている。文章からは売り手の商品に対する想いが伝わってきて、ショップや商品に対する信頼感も増していく。

また、「北欧、暮らしの道具店」の心地いいすっきり暮らしという書籍を2014年5月に発売し、好評を得ている。店長、バイヤー、編集、お客様係ら計7人の運営スタッフたちの北欧雑貨を取り入れた実際の部屋を使って、暮らし・収納・家事のアイデアを紹介されている。運営スタッフたちは、ほとんどが賃貸マンション住まいで、読者が取り入れやすいアイデアが数多く掲載されている。サイトのメディア化から出版をするに至るほど、北欧、暮らしの道具店で紹介されている商品の使い方のアイデアは真似したくなるような、素敵で取り入れやすいものが多いのである。

 

<参考>

ECサイトでのコンテンツマーケティング成功事例厳選4選から学べること

 

 

People & Store

 

株式会社ネットコンシェルジェが運営する「People & Store」は参加しているECサイトが投稿する商品情報の中から、ユーザーにおすすめの商品を厳選してお届けする「ショッピング情報まとめ読みツール」だ。

 

 

いわゆるインターネットカタログに近いイメージかもしれない。この形態は自社サイトのメディア化とは異なり、People & Storeのプラットフォーム上に自社のコンテンツを提供する場所を間借りする。ファッション雑貨や家具、食べ物など様々なジャンルのブランドアカウントをフォローすると雑誌風に編集されたマイマガジンが表示される。ショップのアカウントの他にも、著名人や個人のアカウントをフォローすることができる。毎日更新されるマイマガジンには、フォローしているアカウントのアイテムが表示され、タップすると外部のECサイトにリンクされている。ユーザーはいいと思ったアイテムをクリップすることで、フォロワーのマイマガジンにそれを表示させて拡散させることができる。

また、『1日1分、コピペで集客。しかも「無料」』とうたって、手軽にできる集客サービスとしてEC事業者向けにPRしている。無料ネットショップ開設サービスのBASEと提携し、BASEのショップオーナー専用の自動投稿機能があり、自動投稿設定をオンにすれば、BASEでの商品登録と同時にPeople&Storeでも同じ商品情報が発信されるようになっている。興味を持ちそうなユーザーを自動で判別して配信してくれるので、検索エンジンでは出会えなかったECサイトとの新たな出会いをユーザーに提供してくれる。これはEC事業者にとって大きな利点である。

雑誌をぱらぱらとめくる感覚でスワイプするようなサービスなので、○○を買おうという購買意欲を持ったユーザーよりも、ふらっと暇つぶしに来たユーザーが欲しいアイテムを見つけられるようなサービスといえるだろう。

 

 

MERY

 

MERY」は女性向けファッションまとめサイト。昨年10月にDeNAに住まいに特化したまとめサイトの「iemo」とMERYを合わせて50億円で買収されて注目を集めた。

 

 

記事の内容はファッションや美容、グルメなどの流行を押さえたものがほとんど。定番のこの服にはこのアイテムを合わせるのがトレンドなどのように、雑誌のようにアイテムが紹介されている。記事の中で紹介されているアイテムには、「欲しい!」ボタンと「販売サイトへ」ボタンがある。会員登録をすれば、「欲しい!」ボタンを押すとリストとしてまとめたり、記事をお気に入り登録することもできる。EC事業者から見ると、人気のあるこのようなキュレーションメディアへ情報を掲載(広告出稿)することで、今までリーチすることが出来なかった潜在顧客にリーチすることが可能になる。

株式会社ヴァリューズデータによると、2015年2月の月間訪問者数は180万人を突破している。まとめサイト同士の比較ではNAVERまとめが圧倒的ユーザー数を誇っているが、前年同月比ではNAVERまとめが112%に対して、MERYは312%と大きく成長しているのだ。集客は自然検索による流入が84%と非常に高く、日々投稿される記事によってSEO効果が高まっているようだ。ユーザーは7割が女性で年齢層は18〜25歳が中心。夜10時以降がアクセスのピークタイムで、「雑誌を読むようなテンションで暇な時間や寝る前に見られている」という。

最近、MERYの記事投稿者が良質な情報や画像コンテンツを自由に使えるように、ファッションブランドや芸能事務所と提携して提供するとの発表があった。これによってMERYとECサイトとの繋がりがより強くなっていくだろう。また、「DeNAパレット」というキュレーションメディアのプラットフォームの拡大をしていくこともリリースされた。これを利用して2015年12月までに10のサービスを展開するという。今後このような形でのECの利用が盛り上がってくるだろう。

 

 

最近のトレンドから見えてきた3つの方向性

 

今回取り上げたそれぞれのサイトやサービスはECサイトのメディア化について現時点では3つの方向性が存在していることを示している。すなわち、

  1. ECサイト自体のメディア化
  2. インターネットカタログへの掲載
  3. キュレーションメディアへの広告出稿

の3つだ。

 

ECサイトのメディア化は集客の最終兵器となるか - 最近のトレンドから見えてきた3つの方向性

 

1は、自社で扱っている商品についてコンテンツをしっかり書いており、その商品に対する知識が深まり、愛着もある読者の心はしっかりとらえることが出来るだろう。そのため最も売上やブランディングに直接的に影響すると考えられる。しかし一方でコンテンツをしっかり作り込む必要があり、とても労力がかかる側面もある。2と3はいわば広告出稿のため、EC事業者はそれほど手間がかからない。自社ではメディアを作らない場合やテストマーケティングなどに適しているかもしれない。しかし1のケースとは逆で、本当に愛着を持ったファンを作り出すのは難しいかもしれない。

また、それぞれのサイトやサービスにアクセスする消費者は、商品に対する購買意欲が異なるのも特徴だ。 1にはそのサイトやそのカテゴリに関心があるユーザーが多く訪れるため、購買意欲が高いユーザーが自然と多くなるだろう。2には具体的に買いたいものは決まっていなくても、何かいいものはないかなと思って訪れるユーザーが多いだろう。また、3にはメディア自体に興味があり、その情報を目当てに訪れるため、購買意欲は低い傾向が高いだろう。

一方、従来からEC事業者が集客手法として活用しているメルマガは、サイトでの購入経験や来訪経験のあるユーザーが母数となり、圧倒的にこれらのメディアと比べてリーチ可能な潜在顧客数は減ってくる。また、購買意欲についても高度なCRMツールを活用することで上図の赤い逆台形を逆三角形型に狭めることは可能となるが、下方向へのばらつきは出てきてしまうのも事実だ。そして何よりも忘れてはならないのは、メディア化されたサイト・サービスへ来訪する潜在顧客は自分の意思でそのサイトに来訪してきているため非常に良質な潜在顧客と言える。メルマガやリスティング広告のようにアクションの起点が押し付けられたものではないということは消費者にとってはとても大きな違いだ。このようなことから考えてみても、メディア化によってECサイト事業者は従来ではなかなかリーチ出来なかった購買意欲を持った多くの良質な潜在顧客へリーチすることが可能となるのは間違いないだろう。

メディア化に様々な方向性が出てきて、商品の新たな価値が消費者には従来よりも多くのバリエーションをもって伝わるようになってきた。このことは商品を購入する際に悩みを持っている消費者には良い傾向だ。ECサイトのメディア化の重要性が高まっている今、それぞれのECサイトの現状にあったメディア化の方法論を採用していく必要がありそうだ。