全国17ヶ所に大型ショッピングモールを展開するPARCO。創業以来、新しい才能を発掘し、その成長を支援する「インキュベーション」を理念として掲げており、新進のファッションデザイナーやクリエイター、テナントの成長を目指して、ショッピングセンター事業を中心に様々な事業展開を行っている。

PARCOが9月26日から新たに開始するサービスはアパレル系テナントのECサイト運営支援や越境ECのためのプラットフォーム運営。実店舗運営や販促支援のイメージが強いPARCOのイメージを大きく覆す革新的なものとなる。今回はサービス開始に至った背景や概要などから、国内EC・越境ECプラットフォーム運営サービスの狙いと可能性を考えていく。

 

<参考>

パルコがファッションブランド直営ECサイトの運営代行サービスをスタート

 

※今回のインタビューはPARCOの国内EC・越境ECプラットフォーム運営サービスをECサイト・リアル店舗などトータルでサポートする株式会社UZENの協力で実施した。UZENは、日本と韓国を中心に中大規模のECサイト運用、構築、新規ビジネスの立ち上げのコンサルティングを始め、アジアEC市場への展開、海外ブランドの日本市場へのEC展開を、市場調査や戦略提案、現地パートナーの紹介、現地言語での対応まで幅広くサポートしている。

資料をダウンロードする

 

 

PARCOのこれまでの事業と国内EC・越境ECプラットフォーム運営サービス

 

PARCOは1953年に「池袋ステーションビル株式会社」として設立。翌年には事業目的をステーションビル運営から百貨店業に変更。以来、数回の商号変更を経て、1969年にはPARCOとして初めて「池袋PARCO」を開店した。その後PARCOは、首都圏を中心に全国に店舗数を増やし、現在は計17店舗を運営している。近年では自社ECサイトにおいても革新的な取り組みを続け、カエルパルコPOCKET PARCOVR PARCO(期間限定)などのオンラインサービスを展開しており、ショッピングセンター・百貨店業界では異彩を放っている。またPARCOはこのような実店舗運営だけではなく、宣伝、プロモーション、販売ノウハウの提供などを通じて、アパレルブランドの成長を促す支援も行っており、その一環としてECサイトの運営支援も一部で行ってきていた。

そのPARCOが9月から新たに始めるサービスは、EC進出のためのオンラインサポートを更に1歩も2歩も前に進めたものとなっている。PARCOが事業の中心に据えていた「実店舗」の存在は無関係に、各アパレルブランドのECサイトの運営を、国内向けだけではなく海外向けも併せて支援・代行していくというもの。そのため、このサービスの対象は、PARCOにテナントとして出店している事業者だけではなく、テナントを出していない事業者も一定の条件を満たせばサービスを受けられる。成長段階のアパレルブランドにとって、ECというプラットフォームを提供し商品を売る環境を整えていき、国内だけでなく海外へのEC展開も実現していくことが可能なサービスとなっている。また、各ブランドのECサイトはPARCOの表記をどこにもサイト内に出さず、独自ドメインの自社サイトとして運営することが可能だ。

このような国内EC・越境ECプラットフォーム運営サービスをPARCOが開始した背景には、どのような信念があるのだろうか。

 

 

直接販売、海外進出の需要に応えるEC進出支援サービス

 

この新しいサービスは、PARCOが実店舗運営にとらわれず、アパレル事業者が成長していくためのトータルでの支援を行いたいという信念の現れだ。特にオンラインの浸透により、アパレル事業者にとっての販路は従来のように卸業者や百貨店などに限定されなくなっている。そのようなトレンドに沿い、オンラインで直接販売したいというニーズや、海外へのEC展開を加速したいというニーズに応えるためのものといえる。

PARCOなどの大型ショッピングモールにテナントを出店することは今も昔もそれなりのハードルがある。出店するには家賃や内装料がかかり、成長途中のブランドにとっては、費用的な負担は大きい。ある程度認知を得ているブランドでも、卸業者や百貨店を通じた販売では原価率が高くなるため、直接販売もチャレンジしていきたいという需要を持っているケースは多い。また、越境ECも近年のアパレル事業者にとっては鍵となる要素である。国内マーケットの縮小に伴って、海外市場への進出はブランドの成長戦略を練る上では必要不可欠な要素となりつつある。

このような直接販売・海外展開という2つの需要を満たすためには、国内外向けを問わず、オンラインも含めてトータルにアパレルブランドをサポートしていくようなサービスが必要だという結論に至った。

また、アパレル事業者の視点に立ち、各社のブランドや世界観を消費者にしっかり伝えていくことが最も大事なことであると判断。従来だとサイト内に掲載されるPARCOの表記・デザインやドメインは消し、ブランドの世界観を消費者に伝えることを徹底した。

 

 

越境ECの充実度にこだわったプラットフォームの構築

 

一方で、実店舗運営のイメージが強いPARCOがどこまでこのようなECサイトに特化したサービスの展開を行うことができるのか、という心配もあるのも事実だ。業界の中では異彩を放っていたものの、サービス主体としてアパレルブランドを支援していくとなると話は別だ。しかし、PARCOは5年前に自社運営の実店舗ミツカルストアを開店。3年前にECサイトもオープンしており、商品のセレクトから販売を一貫してPARCOが行なっている。

ミツカルストアでは、システムの構築から物流、運用に関してもPARCOが行なっており、テナントとしては出店していないブランドの商品を中心に扱っている。PARCOはこの自社運営ECサイトで十分にノウハウが蓄積されているのだ。

しかしやはりサービスの構築・展開にはオンラインでの実績のあるシステムとパートナーの存在が不可欠な側面もある。特にPARCOがパートナーに求めていたことは2つあったという。1つ目に、越境ECに対応したプラットフォーム構築のシステムについてだけではなく、マーケティング面にも知見があることが重要視された。国ごとにどのようにサービス展開していくかを、プラットフォーム構築、マーケティング、物流など横断的に相談ができるパートナーである必要があった。2つ目に、中規模ブランドの海外におけるブランド立ち上げをサポートする戦略に共感してもらえることも今後の運営に際して重要だった。海外へEC展開を模索する中規模ブランドに対して、越境ECというプラットフォームを提供し、成長を促したいというPARCOのビジョンを共に実現できることはサービスの成否を左右するほどのポイントだと感じていたそうだ。

 

越境EC展開のシステム・ノウハウを持つパートナー企業選定

ピックアップした約20社の候補企業の中からPARCOが最終的にパートナーとして選んだのはUZEN。決め手は、各ブランドの越境EC展開を柔軟にサポートするプラットフォームを構築したいというPARCOの理想が、越境ECサイト構築・運用に関するノウハウを豊富に持ち、柔軟性も併せ持つUZENのサービスとマッチしたからだという。

ECシステム構築からマーケティング・運用までのサービス展開を行うUZENは、国ごとに異なるビジネスや文化的背景、法的な規制などに関する項目に柔軟な対応ができる。企業による強化対象国の違いやブランド戦略に個別に対応し、希望を十分に反映させたマーケティング戦略を練ることが可能。また、決済や海外配送サービスの利用可能地域についても各ブランドごとに指定できるなど、越境ECに不可欠なサービスの柔軟性が魅力となっている。

越境EC関連の柔軟性と充実度をパートナー選びの根幹としていたPARCOは、サポート対象となる各ブランドが自由に越境EC展開をできる柔軟性を兼ね備えたUZENのシステム・サービスは、非常に魅力的に映った。

 

「越境EC立ち上げ」のための戦略への共感

PARCOがEC進出支援サービスの対象として考えるブランドにとって、「越境ECの立ち上げ」を重点的にサポートするUZENの戦略もPARCOの今回のサービスにフィットすると考えたこともパートナーとしてUZENが選ばれた理由の1つだ。

UZENのECプラットフォーム構築サービスは、国内だけでなく海外におけるブランドの立ち上げ支援することが強みとなっている。ある程度ブランドが成長したら、現地のパートナー企業を紹介し、さらなる成長を促すものだ。

越境ECサービス立ち上げの際にUZENがまず重視することは、国ごとに異なる検索エンジンに合わせて、独自のショップごとに最適化された対策を施し、全面的なSEO対策を行うこと。各ブランドのECサイトの検索順位を上げ、認知度を高めることが重要だと位置付けている。また、海外SEO対策と並んで、InstagramやFacebookなどのSNSによるブランド拡散を進めることも越境EC立ち上げの際の核としている。費用対効果がはっきりしない現地の有料広告を用いるのではなく、日本国内で実行可能なSNS広告を充実させることで、着実にブランド拡散を進める狙いがある。

PARCOはこうした越境EC立ち上げのための着実な戦略も、サービスの対象として考えているブランドのニーズと合致すると考えたのだ。充実した越境ECプラットフォームを作るという理想と、ブランドの成長支援のための戦略への共感。

このようなポイントからPARCOは理想と戦略を共に実現できるUZENをパートナーとして選び、新しいサービスの展開を進めていくことに決めた。

 

 

 

 

アパレルブランド等を対象とした国内EC・越境ECプラットフォーム運営サービス

 

PARCOが新たに始める国内EC・越境ECプラットフォーム運営サービスは9月にまずは「アンリアレイジ」1ブランドからスタートする。初期は主にSNSを使って企画型商品を拡散することにより、露出を広げていくことを検討している。

最初期段階としては、PARCOが持つ数百社に及ぶ社外ネットワークを通じた、EC限定の企画型商品の製作を予定。また、9月末に開催されるパリコレクションのリアルタイム配信を行い、配信中に商品を即予約することができるシステムの開発も検討中だという。こうした企画型商品の充実、新たな情報配信システムの開発は、越境EC支援サービスをさらに強化することになるだろう。

また、各テナントへ越境ECという新たな売り方の提案をし、サービスの対象企業を増やすことも重要な戦略の1つとしている。すでにPARCOにテナントとして入っているブランドへのアプローチも行うが、テナント出店していないブランドもアプローチの対象としている。PARCOが考えている主なターゲットは、成長意欲は高いがECサイトや関連システムの整備が進んでいないブランドや、越境ECを行うための物流インフラが整っていないケースが多い年商3〜6億円のブランド。既にシステム的にも整備された自社ドメインサイトを持つような年商10億円以上のブランドではなく、あえて成長意欲の高い中規模のブランドを対象として、物流サービス、システムの提供を行なっていきたいと考えている。

 

 

PARCOが求める「インキュベーション」とEC支援事業

 

EC支援事業を本格化するPARCOだが、あくまで大切にしているのは「インキュベーション」という創業理念。すでに確立した地位を持っているブランドだけではなく、革新的なテナント、クリエイター、ファッションデザイナーなどの新たな才能を発掘し、成長させていくという理念の実現を追い求める。

実店舗も2019年に建て替え予定の渋谷PARCOにおいて、出店テナントごとの新たな取り組みを行い成長を促していく。

オンラインサポートとしては、今回スタートする国内EC・越境ECプラットフォーム運営サービスを中心に、ブランドの成長戦略として避けては通れない越境EC展開の支援を重点的に行っていく。現在はブランドやデザイナーが海外のECサイトに出品しようとしても、システム構築、倉庫、配送などの問題から自社ドメインサイトの運営は難しく、Amazon.comTmallなどの大型ECモールに頼る場合が多い。PARCOはこれら大手ECモールに代わる、海外展開のための新たな選択肢の1つになることを目標としているという。

今回スタートする国内EC・越境ECプラットフォーム運営サービスでは、各ブランドは限りなく自社ドメインサイトに近い形で、ブランドの持つ雰囲気を崩さずに越境ECに進出できることが期待されている。また費用面でもPARCOに実店舗を持つことができていない事業者も対象となるため、海外EC展開によって新たな可能性を見出し、急成長するケースも出てくるかもしれない。システム構築、倉庫・配送システムの管理などの面でまだまだ課題も多いが、「インキュベーション」を追求するPARCOのこれからの取り組みが注目される。