大規模ECサイトをスピーディーに構築・展開・運用していくために行っていること

 

今や大企業においてもデジタルマーケティング、さらにはオンラインでのコマース施策は欠かせないものとなってきている。しかし、重厚長大な基幹系システムとは異なり、テクノロジーの進歩が早く最新のトレンドが目まぐるしく変化するオンラインの領域においては、大企業とはいえどもスピーディーな対応が求められてくる。そこで今回は、アパレル大手TSIホールディングスの今泉氏にお話を伺い、大規模ECサイトをスピーディーに構築・展開・運用していくために行っていることを整理していく。

 

※この記事は、Salesforce Commerce Cloudなどのデジタルマーケティング・コマース基盤構築を行っているTISインテックグループ社の協力のもと、TSIホールディングス今泉氏にインタビューを実施し、大規模ECサイト運営のポイントの一部を紹介した記事である。

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大規模ECサイトの置かれている状況とスピーディーな対応の必要性

 

大企業のシステム開発は従来から予算と時間が膨大にかかるのが常識とされてきている。今でも基幹系システムなどでは3年以上かかるシステム開発が進行中、というケースもあるだろう。しかし、直接お客様との接点となるWebサイト・ECサイトなどのフロントサイドのシステムにそのような時間をかけることは難しい。オンラインのトレンドは日々進化し、消費者も次から次へ新しいオンラインのトレンドに飛びつき、それに対応できていない企業はオンライン上では置いて行かれるようになってきているからだ。

しかしフロント側のそのようなニーズに対して、フロント側のリニューアルや機能追加を行おうとすると大企業ではいくつもの問題にぶつかることになる。基幹系システムとの連携や、複数事業部門間や海外などの国・地域との横展開に向けた調整、さらには一時代前のセキュリティ基準への順守の必要性など、フロント側の改善をスピーディーに行おうとした場合にはいくつもの「内部的」な足枷が存在しているからだ。

 

 

成功企業に見る、大規模ECサイトをスピーディーに構築・展開・運用していくためのポイント

 

そのような中で、nano・universe、NATURAL BEAUTY BASICなど30以上のブランドを展開するアパレル大手TSIホールディングスでは、ECサイトをスピーディに構築・展開・運用していくためにどのようなことを意識しているのだろうか。TSIホールディングスで長年ECサイト周りの開発に携わってきている今泉氏によると、バック、フロント、インフラ、組織、KPI管理の5つの切り口でそれぞれ重要なポイントが存在するという。

▲TSIホールディングス システム概要図

 

バック側

ECサイトを構築するパッケージシステムは近年非常に高機能化してきているが、依然として最大の欠点も変わらず存在している。それは、基幹系システムとの連携だ。ECパッケージは基本的には基幹系システムとの連携を考慮して作られておらず、そのまま使うと、在庫・受発注・売上などのデータが店舗システムと連携していない。スピーディーに展開・運用していき、売上や収益という成果を上げるためには、基幹系システムと連携することが不可欠だと今泉氏は語る。そのため、TSIホールディングスでは、ECパッケージと基幹系システムの間にHUBとなる独自システムを構築し、EC・モール・店舗間の在庫・売上げをコントロール。アパレルは特にZOZOTOWNやマガシーク、マルイなどのモール系も存在感が大きいためそれらと店舗と自社ECサイトを含めた全体での在庫の自動配分が鍵を握っている。この独自の在庫自動配分の仕組みは非常に高機能だ。工場から商品が到着すると在庫に自動加算されることからはじまり、店舗在庫とEC在庫は論理管理していることはもちろんのこと、店舗間自動補充だけでなくECサイトも含めて自動補充される。さらに物流センターのオペレーションの改善も行うことでその完成度を上流から下流まで一気通貫で作り上げたと今泉氏は熱く語る。この仕組みがないと100枚しかないワンピースをどうやって分けるのか今となっては困ってしまうという。この仕組みによって、売上も前年比150%アップとなるなど業績にも貢献しているそうだ。

一方で、システム投資が嵩むため二の足を踏む企業も多いこの在庫の自動配分の仕組み。しかしソフトウェアの固定資産残高は増えるが、その分店舗家賃が減ることで企業トータルとしては変わらないと考えることが出来、むしろ収益効率が良いと捉えることもできる。今泉氏によると、店舗の家賃に比較するとECシステムは安く、横展開しやすいという結論に至っているそうだ。

 

フロント側

複数の事業部やブランドを抱えていることが多い大企業において、フロント側のサイトは事業部やブランドの細かい要望を聞いてしまいがちだ。しかし、グローバルの視点で見ると日本のそのような傾向は非常に特殊だと今泉氏はいう。例えばSalesforce Commerce Cloudではグローバルでの成功事例を詰め込んだテンプレートを提供しており、アパレルの利用率も海外では高く、日本のパッケージよりも売上を上げた成功事例も多いものがある。そのためそれらの先行者事例をベースにテンプレートを作って、TSIホールディングスでは、3カ月単位での展開が可能になっているそうだ。ここでも今泉氏が強調するのは、細かいフロント側のデザインにこだわるより、サイトを立ち上げるスピードが大事ということ。日本のパッケージの良いところはEC事業者の言いなりに作ってくれるところでもあるが、それが正しい道かどうかはまた別だと今泉氏は語る。テンプレートを作り、ある程度のデザインの自由度を盛り込み、あとはフロント側のコンテンツ運用をしっかりすることでスピーディーな横展開は可能となる。

 

インフラ面

大企業のECサイトはピークトラフィックが高いケースが多くなる。特にアパレルは年始のセールなど非常に大きなピークがやってくる。そのため、スケーラビリティは重要な要素となってくる。またセキュリティ要件もクリアするべきハードルが高くなるのが大企業だと一般的だ。この2つのポイントをしっかりと抑えていないと、スピーディーに展開することは難しくなると今泉氏はいう。インストール型のECパッケージでAkamaiなどのCDNサービスを使ってもいいが、費用が非常に嵩むケースが多い。一方でクラウドサービスではこのスケーラビリティとセキュリティが全て担保されているためこの部分の費用は非常に抑えることができる。特にTSIホールディングスで導入されているSalesforce Commerce Cloudでは一度もシステムダウンをしたことがなく、信頼感が非常に高いと今泉氏はいう。過去に日本製のECパッケージを利用していた頃は正月に毎年ダウンすることが定例化したほどだそうだ。

 

組織

大企業では社内調整に時間がかかるのが一般的だ。スピーディーな構築・展開を最も阻害するのがこの組織の問題と言ってもいいだろう。事業部門・EC部門・情報システム部門の連携が悪いとスピーディーな展開は望めない。TSIホールディングスでは様々な組織改革を推進。店舗側をEC側に引き寄せる教育を強化。さらに事業部側にもECがわかる人材を配置するなど積極的にECの色を社内の各部門に根付かせていった。さらにトップもECで売上を伸ばしていくと宣言し、全社でECへの理解が深まっていったそうだ。また、逆にEC部門や情報システム側も事業部門を理解するなど、お互いが歩み寄る事が重要だと今泉氏はいう。

 

KPI管理

ECサイトの指標は多くのケースで売上高が最重要項目として掲げられることが多い。アパレル業界も基幹系システムの思想なども含めて売上高至上主義が根付いていた。しかし、近年成果を出しているアダストリアやユニクロなどの企業は「売上高でなく利益」を追うことを最重要と捉え、システムもそこに重点を置いているという。TSIホールディングスでもグループ内の経営管理システムで、日次でデータを見える化し、予実管理を徹底。アパレル業界に他に類を見ない精緻なシミュレーションを行うことが出来るツールを導入して、社内全体の目的意識を「収益」に一本化している。

 

 

 

 

今後よりスピーディーに運営するために意識していくべきこと

 

このようにスピーディーにECサイトを構築・展開・運用することが出来ても、さらにスピード感の早い消費者の細かいトレンドにしっかりと追随していくためには更なる改善が必要だと今泉氏は語る。今後より重要になってくるものとしては、ITドリブンでの組織改革、Webサービスの連携、AIなどの最新テクノロジーへの対応だという。

 

ITドリブンでの組織改革

ECサイトというのは突き詰めて考えると、今までの販売手法の中で最もシステムが身近にあるモノと捉えることができる。そのため今まで以上に事業部門とシステム部門が一体化しなければ市場の変化にスピーディーに追随し売上を伸ばすことは難しい。そのため、事業部門へシステムが分かる人間を積極的に配置し、評価制度の見直しも実施していく必要がありそうだ。また、全て外部への発注ではなく、内部でエンジニアやプロジェクトマネージャーを採用・育成していくことも行っていく必要があるという。

 

Webサービスの連携

あらゆるサービス・仕組みがWeb化されて現場へ導入されてきている。それらをひとつずつ基幹系システムと繋いでいくことは限界を感じてきており、ここについてもHUBシステム的なリアルタイムでn:nで繋ぐゲートウェイサービスが必須だという。近い将来基幹系システムですらWeb化・クラウド化される波が押し寄せた時にも、そのような思想でのHUBシステムは必要になりそうだ。

 

AIなどの最新テクノロジーへの対応

ECサイトのフロント側にも凄い勢いでビッグデータやAIの波が押し寄せてきている。例えばAIを活用したプレディレクティブソートなど、新しい概念が今後も絶えることなく繰り返しやってくるだろう。そのような時に、柔軟にフロント側に機能を実装することが出来るかどうか、という点は非常に重要になってくるのではないだろうか。

 

 

変化に対応するスピードを身に着ける必要性

 

テクノロジーの進化も進み、市場には今日も新しいサービスやソリューションが投入されている。そのような中で、消費者のニーズや企業のECサイトに求めるクオリティも日々変化してきている。そして、消費者は店舗での接点と同じかそれ以上にオンラインでの企業との接点を重要視してきている。このような環境の中で、従来までの大企業に見られた事業部門とシステム部門の溝や、冗長な設計構築プロセスは前時代のものとなっているのは明白だろう。ECサイトを自社で運営していき成果を上げていくためには、企業全体でスピードを身に着けていき、顧客との良好な関係性をオンライン上で維持していく必要があるのではないだろうか。

 

 

大規模ECサイトをトータルで支援するTISのコマースソリューションとは

 

TISインテックグループが提供するコマースソリューションは、Salesforce Commerce Cloudを中心に、フロントエンド、バックエンド、基幹システム、POSなどの店舗系システムそれぞれのデータを繋ぎ合わせることで、継続的に収益を増加させていくための仕組み作りを実現することができる総合プラットフォームの導入をワンストップで提供する。

▲Salesforce Commerce Cloudを中心としたECシステム連携イメージ(例)

TISインテックグループがこれまで15年以上に渡り培ってきた、国内有数規模の大規模ECサイトの構築・運用ノウハウを取り込むことで、スムーズにシステムを構築する事ができるだけではなく、数多あるデータをどのように収集し、分析し、施策を実行するかというマーケティングのサポートも可能。素早くPDCAを回すことで業務全体を効率化しすることができる。

※TISインテックグループは、今回のTSIホールディングスのECサイトの基幹システム・POSシステムの導入について支援を行っている。

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