顧客囲い込みを着実に進めるAmazon - 各国でのサービス展開から日本のAmazonプライムのこれからを考える

 

Amazonでは、今年4月に全品送料無料が終了し、2,000円未満の買い物には350円の送料が必要となった。送料はAmazonプライム会員に加入していると引き続き無料となる。さらには、Amazonプライム会員向けのサービスとして2015年9月からはプライム・ビデオ、11月からはプライム・ミュージックにも力を入れており、Amazonは「プライム会員」として有料顧客の囲い込みを狙っている状況だ。日本はAmazonにとって最も大きな市場のひとつではあるが、こういった状況の中で、世界に目を向けると各国・地域によって、Amazonプライムと言ってもさまざまな内容のサービスが展開されている。今回は、海外の各地域でのAmazonプライムを踏まえ、日本のAmazonプライムのこれからについて考えていく。

 

 

そもそもAmazonプライムとはどういったサービスなのか、各国のAmazonプライムについて

 

日本は今やAmazonで最も大きい市場の一つだ。2015年夏にAmazonプライム・ビデオ、秋にはプライム・ミュージックを開始。その結果現状ではアメリカのAmazonプライムサービスに遜色ないサービス内容となっている。にもかかわらず、年会費は3,900円と圧倒的に安い。

その他にも対象商品の「お急ぎ便」が無料で何度も使えたり、月に一度電子書籍が一冊無料になるサービスも含まれている。お急ぎ便とは、注文した商品の配送を早くすることができ、さらには日時指定も可能となるサービス。他にもAmazonが定期的に開催しているセールに優先参加する権利(タイムセールへの先行参加)などのサービスもある。具体的には以下が日本での代表的なサービス内容だ。

 

  • プライム・ビデオ:映画やテレビ番組が見放題
  • プライム・ミュージック:100万曲以上の楽曲が聞き放題
  • プライム・フォト:デジカメやスマホで撮影した写真を、クラウド上に容量無制限でバックアップできる
  • プライム・ナウ:首都圏近郊など一部のエリアで、対象商品を1時間以内に届けてくれる
  • 会員限定タイムセール:通常のユーザーより30分早くタイムセールに参加できる
  • Kindleオーナーズライブラリー:対象のKindle本から好きなタイトルを毎月1冊無料で読める
  • Amazonパントリー:食品や日用品を一箱あたり290円の手数料で届けてくれる
  • Amazon定期おトク便 おまとめ割引:日用品やサプリ、食品など、対象商品を3個以上まとめて発送すると最大15%オフになる
  • お急ぎ便が無料
  • お届け日時指定便が無料
  • 特別取り扱い商品の取り扱い手数料が無料:大型・高重量の家具など特別な手数料が無料となる
  • 家族と一緒に使い放題:プライム会員の同居の家族が2人まで登録でき、配送に関する特典を受けられる

 

さらに現在は、30日間無料でAmazonプライムを体験できるサービスも展開されており、まさに至れり尽くせり。Amazonプライム(フランス、スペインではAmazon Premium)は日本に限らず様々な国、地域で展開されている。海外の各地域でのAmazonプライムについてそれぞれ見ていこう。

 

アメリカ

映画・TV番組・音楽の無料ストリーミング、Amazonパントリー、タイムセールへの優先アクセス等々。文字通り”最高(prime)のAmazon体験”を提供するサービスになっている。

年会費を比べると日本国内のプライムが3,900円であるのに対して、米国のPrimeは99ドル(約10,000円)。フリーミアムモデルとしては高額な部類だが、それを高いと思わせないほどサービスが充実している。Prime NowのようにPrime会員しか利用できないサービスも多く、順調に会員を増やし続けている。

 

カナダ

アメリカのサービス内容と似ているが、Amazonプライム・ビデオのサービス利用ができない点が一つ大きな違いとしてある。

それに加えて、音楽ストリーミングサービスや無料電子書籍サービスKindleも利用できない。サービス内容としては、容量無制限のフォトストレージと送料無料。プライム会員の年会費は79ドル(約6,300円)。

 

ドイツ

ドイツもAmazonの主要な市場である。

サービス内容としてはアメリカと並びかなり充実しており、容量無制限フォトストレージ、ビデオストリーミング、無料Kindle本レンタルサービスが提供されており、追加料金を払うと食品・日用品を中心とした低価格の商品を1つから購入できるサービス、Amazonパントリーも利用できる。年会費は49ユーロ(約5,600円)。

 

フランス

2014年にフランスは実店舗での販売を保護するために、電子書籍の無料輸送を禁止した。

サービス内容としては翌日配達、Kindle本レンタルを提供しており、年会費はドイツと同じく49ユーロ(約5,600円)である。

 

イタリア・スペイン

無料配達、容量無制限フォトストレージ、タイムサービス優先アクセスといった基本的なサービスのみである。

イタリアの年会費は19.99ユーロ、スペインは19.95ユーロ(約2,300円)。

 

イギリス

年会費は高めで79ポンド(約10,700円)。サービス内容は充実しており、Amazonパントリーがない点を除いては、アメリカ・日本と並ぶ。

Kindle本レンタル、ビデオ・音楽ストリーミング、家族4人まで家族会員として登録可能、追加料金6.99ポンドでAmazon Prime Now(オーダーから1時間以内に配達されるサービス)などのサービスを展開している。

 

中国、インドといったアジア圏はまだAmazonプライムサービスは展開されていない。

 

 

海外のAmazonプライムのサービス展開からみる日本における今後の展望

 

各国のAmazonプライムのサービス内容を並べてみよう。

世界的に見ても日本におけるAmazonプライムサービスは、サービスの質と価格の両面においてトップレベルのものが提供されている。年会費を見てみるとアメリカでは99ドル(約10,000円)、イギリスでは79ポンド(約10,700円)などとなっており、現在の日本のAmazonプライム年会費3,900円はずば抜けて安いことがわかる。一年で3900円だと、月額325円であり、Amazonでの通常配送料350円を考えると、月に一回でも買い物をすれば元が取れる計算になる。

このように他地域のAmazonプライムサービスと比べて破格の安さを誇る日本だが、2015年9月からAmazonプライム・ビデオ、そして、同年11月からAmazonプライム・ミュージックの特典が開始といったように、サービス内容においても他地域に劣らないほど充実しつつある。しかし一方で2016年4月に「全品送料無料」が終了された。これは穿った見方をすれば、送料無料はあくまで日本市場におけるAmazonのシェア獲得のための施策であり、目標シェアが獲得できたため、これを休止して利益確保のため優良顧客を増やしていく方針に舵をきったともいえる。さらには、プライム会員になることによる圧倒的に得な状況や会員になるメリット・ならないデメリットをつくり出し、プライム会員数を増加させ、その後年会費を値上げする可能性もありそうだ。アメリカでは年会費50ドルからスタートしたが、今では100ドルとなっており倍増している事例もある。 そのように考えると、日本でのAmazonプライム会員年会費も上がる日もそう遠くないのかもしれない。

Amazonがプライム会員の囲い込みを進めると、これまで他社ECサイトをAmazonと併用して利用していたユーザーはプライム会員年会費のもとを取ろうとして、Amazonを中心に利用していく流れになる可能性が考えられる。また、プライム会員でないユーザーは送料を無料にしたいという考えから、一回当たりの購入金額を増やそうとする可能性もある。上記の二つが起これば、Amazonにとって優良なユーザーが増えることになる。

もちろん、ECサイトはAmazonだけではないわけであり、それが気に入らなければ他社に乗り換えればよいだけだとも言える。実際にヨドバシ.comは、通常会員でも配送がAmazonプライム会員並みに速い。しかし、一方で品ぞろえなどの面では、食料品から自動車までを幅広くそろえているAmazonが最強、という面も否定はできない。今後、競合他社が送料無料を継続するのか、それともAmazonに合わせて有料化に切り替えていくのかも含めて、Amazonプライム、また、全品送料無料終了の影響によるEC業界における動向を注視していく必要があるだろう。