USで話題のデバイスAmazon Dashが日本のEC市場に与え得る影響と可能性

 

米国AmazonがAmazon Dashというデバイスをリリースした。

 

 

巨人Amazonが専用の買い物デバイスをリリースしたとして現地では話題となっている。この新しいデバイスが今までのオンラインでの商習慣、特にネットスーパーの買い物スタイルにどのような影響を与えるのか。今回はAmazon Dashのコンセプトと、日本のEC市場に与え得る影響と可能性を考えてみる。

 

 

Amazon Dashとは何か

 

Amazon Dashはシアトルとカリフォルニアで展開しているAmazon Freshという生鮮食品配達サービスで使える買い物メモ専用デバイスだ。Amazon FreshはAmazonが地域限定で展開している、フレッシュグリーンの配達車にて当日配達を行ういわゆるネットスーパーだ。その買い物専用端末としてAmazon Dashはリリースされた。まずは、動画を見て頂きたい。

 

 

Amazon Dashは見た目も非常にシンプルで、ボタンも2つしか存在しない。とても最新デバイスとは見えないが、そこにAmazonの意図が隠されている。Amazon Dashでできることは、シンプルに“バーコードのスキャン”と“音声入力”による商品のカートへの追加だけだ。Amazon Dashで読み込まれた商品は、wi-fiでリンクしているAmazon Freshのアカウントのカートに追加され、そこでスマホやタブレットで注文の確定をすると、商品が届く仕組みとなっている。

Amazon Dashが提供する最大の価値は、キャッチコピー“Shopping made simple”に現れるように、日々の買いものの手間を減らしている点だ。例えば、牛乳が切れたら、これまではスマホでアプリを立ち上げて、Amazon Freshで商品を検索して、カートに入れる、というプロセスだったろう。Amazon Dashなら欲しいと思ったら、その商品のバーコードをスキャンするだけで商品がカートに入るのだ。

また、Amazon Dashのバーコードスキャンと音声入力であればスマートフォンでも代替可能だろう。しかし、敢えて専用のデバイスを開発した点が大きなポイントだ。機能を絞った専用のデバイスにすることで、非常に手軽に扱えて、日常的に使うためのハードルが下がっているのだ。つまりは、Amazon Dashは買い物メモの次世代の形ともいえるかもしれない。Amazon Dashはネットスーパーの利用が当たり前となっている人には非常に便利なデバイスであることは間違いないだろう。

 

 

日本版Amazon Dashの可能性は?

 

ここまではAmazon Dashの機能をみてきたが、ここからは日本での展開の可能性について検討してみたい。

まず、同じ形態で日本で使えるようになるためにはAmazon Freshが日本に進出する必要がある。現在は、シアトルとカリフォルニアでしかサービスが展開していない。最初シアトルのみだったサービスだが、現在はカリフォルニアにも進出していることを考えると、今後より多くの地域に進出していくのだろう。だが、日本でAmazonがAmazon Freshを展開するにはまだまだ越えるべきハードルがある。ネットスーパーに求められる柔軟なロジスティックスや、これまで扱ってないかった生鮮食品の仕入れ等だ。そのため、すぐに日本に進出して、Amazon Dashを使える日がやってくることは現実的ではなさそうだ。

しかし、Amzaon Dashの発想自体は日本人の馴染みやすいものだろう。それは、日本の主婦にも買い物メモの習慣があり、その代わりとなるデバイスであるためだ。イオンイトーヨーカドー等の大手スーパーや、楽天マートなどが似たサービスを展開することは可能だろう。しかし日本のネットスーパーのプレイヤーがこのような取り組みをする際には専用デバイスではなく、スマートフォンで代替することが考えられる。機能的な面で考えれば新たにデバイスを開発する必要はないためだ。また、スマートフォンからのECの利用が伸びてており、主婦層や高齢者層にも徐々にスマートフォンが浸透しつつある現状を考えれば、その方が合理的だ。

実際に米国のAmazonでは“Flow”というスマホアプリがこの2月にリリースされている。これはiPhoneアプリで商品を撮影すると、その形状やサイズなどから商品を認識しAmazonのカートに追加するものだ。驚くべきことにバーコードスキャンなどの機能ではなく形状認識技術を使っている。技術はかなり革新的だが、位置付けはまさにAmazon Dashのスマホアプリ版だ。一方国内でもイオンがNTT西日本とシャープと共同で始めた“A touch Ru*Run”というサービスの例もある。こちらはタブレットでの利用を前提としたアプリだが、イオンのネットスーパーと連携し、買い物メモなどの機能が実装されている。

このように買い物を手軽に行うために、デバイスを開発するのではなく、スマートフォンやタブレット上でのアプリで実現しようとするのは自然の流れなのかもしれない。アプリではAmazon Dashの最大の利点の手軽さが失われてしまっているが、その手軽さを消費者に提供するためだけに、デバイスを開発する巨人が国内に現れる可能性はそれほど高くなさそうだ。

 

 

 

ネットスーパーはデバイス・アプリで商習慣を打破できるのか

 

ネットスーパーの市場規模は拡大傾向にはあるが、まだまだネットスーパーで買い物する習慣は一般的とは言えない。お米や水、調味料などの持ち帰るには重たい商材を買う場合は、PCやスマホを操作してネットスーパーで購入するケースもあったが、日用品や生鮮品をざわざわネットスーパーで購入する消費者は、非常に忙しく買い物をする暇もない社会人などに限られた。

ネットスーパーのメリットは、家まで届けてくれること、また、時間を選ばずに買い物できることの二つによる利便性にある。そのため今後の成長には、柔軟なロジスティックスを整備しいかに当日に生鮮食品を配送可能なエリアを増やし、また、リテラシーの低い高齢者層の取り込みが重要となってくる。特にリテラシーが低いお年寄りにネットスーパーとスキャンの仕組みを定着させるのは難しくはあるが、この点をクリアできると急成長が見込める可能性はある。

この商習慣を打破するのはデバイスなのかスマホやタブレットのアプリなのか。 ここ数年大きな変化のないEC業界に風穴を開けるのは案外こういう新たなデバイスだったりするのかもしれない。

 

 

<参考>

ネットスーパーは店舗の商圏を拡大できるか - 独自配送網の諸刃の剣

ZOZOTOWNの新アプリ“WEAR”で、狙い通りアパレルECにおける店舗のショールーミング化は進むのか