食品宅配ECは定期購入と独自配送網で食卓のニーズに150年以上応え続ける

 

食品宅配ECサービスは今や30代・40代女性の約1/3が利用しているデータがあるなど、現代の忙しい主婦の食卓のニーズをがっちりと掴んでいる。食品宅配サービスの起源は古く、江戸時代の仕出しや明治時代に始まった牛乳配達にまで遡る。最近では大手小売りが相次いでネットスーパー事業に参入し、外食大手も宅配事業を強化するなど、ここ数年で食品の通販・宅配市場は大きな変化を遂げてきた。今回は、元祖食品宅配サービスである生協、有機野菜や無添加食品を扱う自然派食品の宅配サービス、そして夕食食材宅配サービスの取り組みから、100年以上の時代変化の中で主婦の食卓のニーズをどのように掴み続けているのかを見ていく。

 

パルシステム(生協系)

 

まず最初に見ておきたいのが、組合員からの出資金で運営し、毎週1回決められた曜日に宅配を行っている生協だ。全国に450以上の組織があり、2,700万人もの組合員が参加する生協だが、中でも多くの組合員を抱えているのが首都圏1都9県の地域生協とパルシステム共済生活協同組合連合会の11会員から成るパルシステムである(組合員数は138万人)。生協はもともと共同購入というスタイルで商品を届けていたが、全国の生協に先駆けて1990年に個人宅配の選択肢を加えたのがパルシステムだった。

 

 

2009年3月時点で売上高は388億円を誇り、これはジャパネットたかたやディノスオンラインショップ、セシールオンラインショップなどを上回る数字である。

もともと紙のカタログと注文用紙で受注を行っていたパルシステムだが、2000年にNTT東日本と株式会社NTTデータと共同でインターネットショッピング企画会社、コープネクストを設立。利用者のニーズに応え、ネットでも注文可能なECサイト“オンラインパル”を立ち上げた。その後、オンラインでの発注を定着させると同時に、ECならではのオリジナリティを打ち出してきた。

2010年には、オンラインパル内のコンセプトショップ“絵本といっしょ!”を全面リニューアルし、“子育て応援ショップ”をオープン。同社が選んだ絵本140冊とおもちゃ80品以上を常時販売するとともに、乳幼児を持つ親への情報提供、ママ同士の交流を目的としたSNS“yumyu baby club”の立ち上げ、東京おもちゃ美術館の多田千尋館長によるコラム連載、子供向けのアート通信講座などをスタートさせた。

また、EC強化の一環として、手づくり料理と体験談を紹介する“手づくり料理”をリニューアルし、“おいしい手づくりコミュニティ”をオープン。これまでのレシピを紹介するほか、保存食や行事食の提案を行い、写真付き体験談を投稿するとポイントが付与されるサービスを開始した。さらに最近では、商品に対する口コミや商品を使用したレシピを投稿・閲覧できるソーシャルサービス“だいどこログ”や、iPhone/Android対応のアプリ“きほんの離乳食”を公開。

アプリでは、管理栄養士が監修した離乳食に関する基本情報を紹介するなどしている。パルシステムは、ECにおいて利用者が驚くような画期的なサービスは展開していないが、組合員に寄り添ったコンテンツを多数用意していると言えるだろう。

 

 

オイシックス(自然食系)

 

一方、震災後に一気に注目を集めるようになったのが、オイシックスらでぃっしゅぼーや大地を守る会などが手掛ける有機野菜や無添加食品を届ける宅配サービスだ。生協に比べて料金は少々高いものの、柔軟性が高いのが特徴で、定期宅配の他に不定期注文も受け付けている(らでぃっしゅぼーや以外)。ここでは、食品EC界に新風を巻き起こしたオイシックスの例を見ていこう。

 

 

食品宅配において、専用用紙を使った注文方法が当たり前だった時代、オイシックスは商品選びから注文まですべてインターネット上で完結させるという、従来のやり方を覆す仕組みを2000年に発表。しかし立ち上げ当初は、農家を始め消費者にもそのサービスが理解し難いとされ、ようやく黒字化したのは4年目のことだった。

その新勢力とも言えるオイシックスが、ここ数年で目を見張る伸びを見せている。オイシックス以前、自然派食品の宅配サービスと言えばらでぃっしゅぼーやと大地を守る会が主流だったが、この2つのサービスは料金が少々割高になる上、購入できるのはセット商品のみという形が長い間取られてきた。しかしそれでは消費者に優しくないと、オイシックスは独自の注文方法を生み出した。その方法というのは、まずオイシックス側がその時旬の食材を詰めた5,500円程度のお薦めセットを作り、消費者はそこから自由に商品を入れ替えて自分好みのセットを作り上げるというもの。

このように、早くからインターネットならではの発注システムで勝負してきた同社だが、ここ数年力を注いでいるのがリアル店舗の強化だ。2012年には、“Oisix春のトマトまつり”と銘打ち、通販サイトと都内の実店舗を連動したトマトの販促キャンペーンを開催。自社のECサイトで特集ページを開設し、実店舗で食べ比べてもらい、さらに外食店で同社のトマトを使用したメニューを提供することによって、主婦以外の新規客層へ認知度を高めることに成功した。

また、店舗は客との接点を増やせる場であり、ネットでリーチできていなかった客にファンになってもらえる場と捉え、今年1月には3店舗目となる実店舗“Oisix CRAZY for VEGGY”を東京・吉祥寺にオープン。同店には、野菜が主役の総菜や献立キットを用意したり、野菜の鮮度を保つための特別室を設けるなど、店名通り“野菜に夢中になれる店”を作り上げた。近年はスマホの普及でリアル店舗のイベントを通じたマーケティングの効果が高まっているため、今後は全国の小売業者と連携して客との接点をさらに増やしていく方向だと言う。

有機野菜というだけでなく、“ここでしか買えない差別化できる商品”を取り揃え、早くから定期購入型(サブスクリプション)のコマースビジネスに取り組んできたオイシックスは、結果として売上高の9割を定期購入経由が占め、安定的に売り上げが計上できる仕組みを作り上げた。その定期宅配会員“おいしっくすくらぶ”の会員数は、2013年3月末時点で7万3865人、2014年3月期の売上高は163億5,000万円にまで成長した。野菜のECから始まったオイシックスだが、実は売上のうち野菜関連が占める割合は3〜4割程度で、残りは加工食品などだと言う。

ECサイトを見ても分かるように、オイチカグルメと名付けられたコーナーには、Soup Stock Tokyo、ENOTECA、LUPICIA、カルディコーヒーファーム、青山フラワーマーケットなど、さまざまなジャンルの専門店が並ぶ。さらにこれだけに留まらず、オイシックスは2013年8月にDean&Delucaと業務資本提携をすると発表した。以前からオイチカで同社の商品は扱っていたが、今後はオイシックス専用商品や提案型商品を投入したり、Dean&Delucaの実店舗内にオイシックスの青果を扱うコーナーの設置を予定。インターネットチャネルで高付加価値商品の取り扱いを強化し、市場のポジショニングの強化を目指す考えだ。さらに2013年11月からは、食品ECに特化した物流拠点を活用し、三温度帯(冷凍・冷蔵・常温)の通販物流などを他社に提供する事業“オイシックスフルフィルメントサービス(オイフル)”を開始した。物流機能のほか、在庫管理機能、放射線検査を含む賞味期限管理機能、クライアント企業のECサイトとのシステム連携などを提供する予定で、今後もオイシックスの取り組みからは目が離せそうにない。

 

 

ヨシケイ(夕食宅配系)

 

これまで紹介してきたサービスが基本的に週1回ペースの配達だったのに対し、毎日自宅に夕食の食材を届けてくれるのが、ヨシケイタイヘイスマートキッチンらが行っている夕食食材宅配サービスだ(スマートキッチンのみ週1回の宅配)。中でもその中心的存在となっているのが、全国66箇所に営業所を持つヨシケイだ。

 

 

同社は売上高800億(2013年3月期)を誇る最大手で、会社勤めで買い物へ行く時間がない主婦や毎日の献立を考えるのが苦手な人に向けて、夕食食材宅配サービスを展開。利用者は4種類のメニューブックの中から次週分の注文を選び、申込書を訪問スタッフに渡すと毎日その日の分の献立を配送してくれる。また、朝5時までに注文すれば当日好きなものだけを配送してくれるインターネットのみの食材配達サービス、“夕食.net”も展開中だ。さらに2013年5月からは、高齢者施設向けに総菜宅配サービスを提供する新事業“ヨシケイキッチン”を開始。厚生労働省食事摂取基準を目標値とした、栄養バランスが取れたオリジナルメニューを提供している。献立作成や仕入れの手間がかからなくなった施設側は、調理スタッフの負担の軽減と同時に入居者へのサービス向上を図ることができるため、今後この手のサービスは拡大していくだろう。

 

 

食品宅配ECの強みは歴史の強み

 

食品宅配ECは通常のECとは異なる特徴をいくつか併せ持つが、それらは食品宅配の歴史でもある。優位性を確固たるものとしている2つの大きな特徴は江戸時代から始まった仕出し、明治時代から続く牛乳配達の要素と何ら変わらない。

 

1つ目の特徴は独自の配送網。通常のECサイト(ネットスーパー以外)では、配送をヤマトや佐川などの宅配業者に任せる形を取る。(オイシックス、らでぃっしゅぼーやはヤマト運輸での配送となるが、それ以外の)食品宅配ECサービスではそもそもの出自が宅配事業であり、生鮮品をメインに取り扱うため、独自の配送網をしっかり持って配送を行う。独自配送網を持たない通常のECサイトにおいて顧客との関係性を運送会社に委ねてしまっており、多くの消費者はどのショップから商品を購入したかの記憶は残りにくい。しかし独自の配送網では信頼感も作りやすい。そのため顧客との関係性は通常のECサービスよりも近くなり、ECには失われがちな暖かみがあるサービスとなっている。

2つ目の特徴は牛乳配達と同じ定期購入システム(サブスクリプションコマース)を取っているところである。通常のECでも二年ほど前から脚光を浴びてきている形態であるが、その先駆けの仕組みを当初から継続している。購入品の内容変更の柔軟性の高さ、選びやすいパッケージ化、豊富なラインナップと、定期購入の利点を知り尽くしている対応は、後発の定期購入事業者ではなかなか真似出来ないレベルといえる。

この2つの特徴によって通常のECサイトとは違った優位性を維持することが出来ており、歴史の上に現在の食品宅配ECサービスは成り立っているのではないだろうか。

しかし一方で、生鮮品のため2~3日中に消費する食材を届けてもらうことが基本。急な予定の変更で食材が不要になった場合などの変更がどの程度柔軟に効くかなども重要なファクターとなってくるだろう。多忙な現代の生活ニーズにどのように応えていくのかが今後の鍵になっていくのではないだろうか。

 

<参考>

サブスクリプションコマース(定期購入)はどこまで定着するのか

 

 

 

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