カスタムオーダーECとは?
従来の汎用品ではなく、自分だけのオリジナル商品が欲しいという“わがまま”な消費者のニーズを、ECでも叶えよう、というカスタムオーダーECがじわじわと広がってきています。靴、シャツなどのアパレルだけでなく、iPhoneケースやお菓子まで幅広い商材で取り入れられてきているカスタムオーダーEC。
カスタムメイドの商品を作ることは、誰にとってもちょっぴり特別感を得られる嬉しいことです。今回はECというデジタルの世界で、カスタムメイド商品をどのように消費者に作ってもらい販売しているのか、そしてどこまで柔軟に消費者の想像力と購買意欲を刺激し続けることができるのかを見ていきます。
Zazzle(ザズル)
カスタムオーダーECの分野で世界最大と言われているのが、2005年に米国でローンチされたZazzle(ザズル)です。
2010年5月に日本語版のサービスを開始したZazzleは、メイン市場が欧米諸国ということもあり、日本ではなかなかお目にかかれない洗練されたデザインが人気の秘密。売られているのは、Tシャツ、iPhoneケース、グリーティングカード、名刺、マグカップ、ポスターなどのアイテムで、それらを自由にカスタマイズすることが可能です。
デザインは数千万種類、オプションは数十億種類とバリエーションは天文学的数字となり、限りなく世界で唯一つの商品を作ることが出来るサービスです。
カスタマイズ方法はいたって簡単。画像やテキストをドラッグ&ドロップするだけで、大幅なデザイン変更や自分の名前入れなど、こうしたい!と思うことが一瞬のうちにできてしまいます。
また、Zazzleではデザインする過程を3Dで確認できるため、ユーザーは完成型をよりリアルにイメージしながらカスタマイズすることが可能。煩わしさを一切感じず、楽しみながらオリジナリティを加えられるという点が多くの人に支持されています。
もちろんオリジナルの絵柄のまま商品を購入することもできるので、通常のECサイトとしての魅力も十分に備えていると言えるでしょう。
そんなZazzleの最大の特徴は、売られている商品が一般ユーザーによってデザインされているという点。つまり、デザイン力に自信のある人なら誰でも簡単に、世界を相手にオリジナル商品を売ることができるのです。
委託方法もユニークで、専用のツールを用いてデザインした商品に対し、10〜90%の間で自由にマージンを設定して販売するという仕組みが取られています。しかもZazzleは商品が売れた時点で生産を開始するため、在庫を抱えるというリスクを負う必要もありません。
Shoes of Prey(シューズ・オブ・プレイ)
オーダーメイド=高級という概念を覆すECサイトが数多く登場しているのも、昨今のカスタムオーダーECの特徴のひとつです。中でも、こだわりを持った靴好きの女性たちにウケているのが、世界でたったひとつのオリジナルシューズをリーズナブルに作れるShoes of Prey(シューズ・オブ・プレイ)です。
2009年の冬にシドニーでスタートしたShoes of Preyは、2010年5月に日本に上陸(日本での運営はStores.jpで知られる株式会社ブラケット)。ヒールの高さ、素材、色、形、デコレーションをカスタマイズすることにより、3兆通り以上の異なる靴のデザインが可能で、この画期的なサービスは瞬く間に日本でも広まりました。
Shoes of Preyはカスタマイズの自由度に加え、納得いくまでリメイクに応じてくれたり、カスタムオーダーにも関わらず最悪返品OKとまで謳っており、その点も若い女性たちに支持される理由のようです。最近では、マルイシティ渋谷に試着コーナーを設けたり、渋谷ヒカリエ、LUMINE新宿店、伊勢丹立川店で期間限定の展示会を開催するなど、オンライン販売で最もネックとされる試着に対する不安感もクリアしました。
さらに、実際に靴を試し履きできる予約制サロンや、東京23区限定で出張受注会を行うサービスも開始。常に消費者の立場に立ったサービス提供によって利用者を広げ、2013年春には制作された靴デザインの総数が200万点に達しました。
Chocomize(チョコマイズ)
あらゆるアイテムをカスタマイズすることが可能になってきている今、食品においてもカスタマイズ化は進んできています。
米国で2009年11月にスタートしたChocomize(チョコマイズ)は、ベルギーチョコレート専門のカスタマイズサービスで、自由にデコレーションが可能。
ベースになる板チョコや中に入れる材料、トッピングを選んでいると、まるでお菓子作りをしているような感覚に陥る新感覚のカスタムオーダーECです。
板チョコはホワイト、ダーク、ミルクなど。材料・トッピングはナッツ、ドライフルーツ、中にはカレーパウダーや塩なども含まれていてどのような味となるのか、想像力をかきたてられるのは必至。
当然ギフトとしてのニーズも高く、ホリデーシーズンなどには引っ張りだこのアイテム。残念ながら現時点では日本への発送は行われていませんが、今後このように気軽に楽しめるカスタムオーダーECが国内でも生まれるかもしれません。
その他のカスタムオーダーECの取り組み
カスタムオーダーは、昔からスポーツ用品の分野では頻繁に利用されてきましたが、現在のようにデジタルの世界と結びついたことで、新たな機能が続々と登場してきています。
例えば、チームメイトとお揃いのユニフォームをオーダーする際、メンバー同士が仕様について話し合いながら作れるように、ソーシャルやコミュニティ機能の充実は欠かせません。また、カスタムオーダーECサイトが増えるにつれ、店舗側が簡単にカスタマイズに対応できるサービスも登場してきています。
2011年にローンチされた“次世代カスタムオーダー”はその代表的存在で、多くのECサイト運営者に利用されています。これらの仕組みを柔軟に取り入れ、より幅広い層の心を動かす商品作りこそが、今後のeコマース業界の課題になっていくのかもしれません。
どこまで消費者の想像力と購買意欲を刺激し続けることができるか
実店舗でカスタムオーダー可能な商品についても、今やデジタルを駆使したシミュレーションで出来上がりを確認するものが増えてきています。車のカラーリング、家具の配置、マンションの室内リフォームなど様々な分野でデジタル技術は活用されています。
カスタムオーダーECでも、実店舗でカスタムオーダーするのと変わらないシミュレーションをWebサイト経由で行うことができ、サンプルを手に取ることができないこと以外は、実店舗でのカスタムオーダーと変わらない購買経験を得ることができます。
もはや論点はカスタムメイドがオンライン上でできるかではなく、どのように消費者の想像力と購買意欲を刺激し、楽しませがら購買を行ってもらうかに移ってきているといっていいでしょう。
Zazzleでは出来上がりのイメージをリアリティの高い3Dで表現することで競争力を生み出しています。また作っていくうちに出来栄えに満足した誰しもが考えそうな、「これ売れるんじゃない?」をそのまま実現していることも魅力的です。
そして驚くべきは、ほとんどのサービスにおいて、カスタムオーダーにも関わらず返品無料としているところ。消費者に失敗したらどうしよう、というネガティブな考えを取り除いています。
このような取り組みによりカスタムオーダーECの流れはしっかりとしたものになりつつあります。ユーザーが自分で画面上でカスタマイズをして、自分だけの特別な一品を作っていくという体験は、消費者の購買意欲を刺激することに成功しているといえるでしょう。
出店すれば売れる時代から、品揃えの時代へ。そして、これからはバリエーションを提供していく時代に移ってきているのかもしれません。