eBay(米国のオンラインマーケットプレイス)は先日ユーザーへ送ったメールで、2月20日よりサードパーティのチャットボットとAIエージェントによるプラットフォーム上での自動注文を禁止すると発表した。
この変更は自動ツールによるプラットフォーム上での購入を制限するもので、eBayのユーザー規約の更新に沿ったものだ。
TechSpot(テックニュースサイト)とArs Technica(テクノロジー総合メディア)の報道によると、新たな利用規約の一部となるこの禁止措置では、購入代行エージェントやLLM(大規模言語モデル)駆動型ボット、あるいは人間による確認なしに注文を出そうとするエンドツーエンドのフローが禁止されるという。
しかし、新しい規則では、AI 企業がeBayから事前に承認を得れば、同社のプラットフォームにアクセスできるようになる。
「当社は、自動化システムがeBayとどのようにやり取りするかについての公開済みポリシーを反映させるため、ユーザー規約を定期的に更新している」と声明で述べている。
「不正な自動化ツールや、ボットによる当社プラットフォームへのアクセスや操作は認められない。これらのルールは、やり取りを予測可能かつ安全に保つことで、買い手と売り手を保護し、適切な安全対策と利用制限を適用し、信頼性の高い体験を維持するために役立つ」と続けた。
eBayは、自社プラットフォーム上かその外部かを問わず、顧客に最適なサービスを提供するため、エージェント型コマースの最適な活用事例を引き続き模索していると付け加えた。
「eBayは原則としてAIを禁止しているわけではない」と、カリフォルニア州マウンテンビューに拠点を置く、AIを活用した小売eコマース最適化プラットフォーム『CommerceIQ』の製品マーケティング担当副社長のBill Schneider氏は断言する。
「eBayが禁止しているのは、人間と不当に競争し、マーケットプレイスの収益を脅かす可能性のある、制御されていない、無許可の自律型ショッピングボットだ」。
「手数料ベースのプラットフォームであるeBayは、ボットが効率的に価格を下落させれば収益を失うことになる。同社は承認済みまたは社内のAIシステムを運用する権利を留保しており、これはエージェント型コマースを全面的に拒否するのではなく、慎重かつ統制されたアプローチを示唆している」と同氏は語った。
エージェント型コマースの運用リスク
エージェントはeBayにとって運用上の悩みの種となることもある。
「オークションの場合、エージェントは不公平な競争というイメージを醸成し、入札者を追い払う可能性がある」と、オレゴン州ベンドのコンサルティングサービス会社、Enderle Groupの社長兼主席アナリスト Rob Enderle氏は説明する。「固定価格商品の場合、AIが誤って適切に説明されていない商品を購入したり、ユーザーがAIに適切な指示を出さなかったりすることで、購入をめぐるトラブルが増える可能性がある」。
「これはeBayがこの新技術の利用に伴うリスクとリターンを把握する間の一時停止のようなものだ」と同氏。
「これは、世界がAI、ましてや大規模なAIの導入に全く準備ができていなかったという事実に結びついた、数多くのそして増加しつつある決断の一つに過ぎない。そのため、企業や個人は、この技術の良い面から利益を得て、悪い面を軽減する方法を理解して追いつこうと奮闘しているのだ」と、同氏は付け加えた。
直近の影響は小さい
この措置はeBayユーザーの体験に直ちに影響を与えることはないが、将来的に影響を及ぼす可能性がある。
「当面の影響は主に防御面と運用面にある」と、チューリッヒに拠点を置く、企業向けカスタマーサービスのためのAIエージェントとテキスト予測技術を開発するTypewiseの共同創業者兼CEO、David Eberl氏は述べる。「eBayは、自動チェックアウトの不正利用(詐欺、転売行為、アカウントの不正利用)のリスクを軽減し、マーケットプレイスの健全性を守ろうとしている」。
「しかし戦略的には、より大きな影響は、eBayがAIを『発見・紹介層』と『取引・実行層』の間に境界線を引いている点だ」と同氏。
「エージェントによるチェックアウト、つまり真の意味での『購入代行』はまだ初期段階だ」と同氏は説明する。「現在、既に大規模に展開しているのは、AI主導のディスカバリートラフィック、つまりChatGPTのようなツールを使って人間が商品リサーチを行い、その後クリックして購入するといったものだ」。
「そのため、今回の禁止措置によって大量の自動購入が直ちに消滅することはないと思われる。その量はまだ主要な割合ではないからだ」と同氏は続ける。「しかし、これは未来を形作るものだ。eBayは、無制限のブラウザ自動化ではなく、AIエージェントが許可制で、認証され、測定可能なものとなることを望んでいることを示している」。
「eコマースは『人間のためのWebサイト」から『エージェントレールを備えたプラットフォーム」へと移行しつつあり、eBayのこの動きはその移行における初期のガバナンス上の措置だ」と同氏は付け加えた。
エージェントのブロックは長期的なリスクがある
エージェントによるショッピングはまだ初期段階にあるが、フィラデルフィアの戦略およびAIに特化したコンサルティング会社Elegant Disruptionの共同設立者兼主席コンサルタント、Dustin Engel氏は、アナリストは2030年までにAIエージェントが米国のeコマース売上高の1,900億ドルから3,850億ドルを処理できるようになると予測していると指摘する。
「eBayがエージェントを締め出す一方で、AmazonやWalmartなど他社がこぞって歓迎の姿勢を示すなら、彼らは本質的には市場の変化よりも速く優れた仕組みを自分たちで構築できると賭けているようなものだ。それは危険な賭けだ」と同氏は語った。
テキサス州サンアントニオに拠点を置く、eコマースブランド向けアカウント管理・広告・コンプライアンス・カタログ最適化サービスを提供するAvenue7Mediaの創業者兼CEO、Jason Boyce氏は、AIエージェントの禁止はeBayをeコマース分野でさらに後れを取らせる可能性が高いと主張する。
「今、時代の流れに逆らわずにエージェント型AIを採用するマーケットプレイスとブランドが、次の10年で勝利するだろう」と同氏。
「プラットフォームが顧客情報を含む独自のデータを保護したい理由は理解できるが、この状況は既に終わりを迎えている」と同氏は述べる。「エージェント型ショッピングは既に起こっており、今後も止まることはないだろう。技術の進歩により、『サイト側のブロック』を回避できるレベルに達している。エージェント型ショッパーがeBayでしか商品を見つけられない場合、eBayがどんなにブロックしようと、エージェントは何らかの方法を見つけるだろう。これは避けられないことだ」と続けた。
ブロッキングの課題
AIエージェントをブロックするのは、従来のボットをブロックするよりもはるかに難しい。なぜなら、AIエージェントは人間に代わって行動するように訓練されているため、人間に非常によく似た行動を取るからだ、とプラハに本社を置くインテリジェントデータセキュリティソリューションプロバイダーであるSafeticaのCTO、Zbyněk Sopuch氏は付け加える。
「AIエージェントもブラウザを使用し、人間と同様に行動パターンを変えるため、その行動パターンを追跡するのはより困難だ」と同氏。
「AIエージェントのブロックは繊細なバランス感覚が求められる。ブロックを過度に強く行えば、実際の顧客までブロックしてしまう可能性が高くなるからだ」と同氏は述べる。「しかし、ブロックが不十分だと、不正利用のリスクが著しく高まる。残念ながら、従来のセキュリティ対策では対応できない。今回のケースでは『どんな行動か』を監視する必要があるにもかかわらず、従来のセキュリティ対策は単に『誰なのか』のみに着目しているからだ」。
「おそらく、この問題における最大の課題は、eBayが他のすべてのユーザーのプラットフォーム全体のエクスペリエンスを損なうことなく、『素早い人間』と『攻撃的な機械』の違いを見極めることだ」と同氏は続けた。
ラスベガスに拠点を置く技術コンサルティング会社SmartTech Researchの社長兼主席アナリスト、Mark N. Vena氏は、ボットがヘッドレスブラウザ、盗まれたセッション、人間のようなインタラクションパターンを用いてトラフィックに溶け込むため、純粋なボット検出はいたちごっこ状態にあると説明する。
「プラットフォームは正当なアクセシビリティツールやパワーユーザーをブロックするリスクもあるため、リスクスコアリング、レート制限、段階的認証といった多層的な制御が必要だ」と同氏は語った。
他社も追随するだろうか?
エージェントによるプラットフォーム利用を規制しようとしているのはeBayだけではない。「ほとんどの小売業者は、コントロール、測定、そして収益化を求めているため、提携や承認プログラムを通じてのみエージェントの利用を許可するだろう。エージェントによるショッピングが拡大すれば、オープンアクセスは例外となり、原則ではなくなる」とVena氏は述べる。
「多くのマーケットプレイスや小売業者にとって、これは難しい領域だ」とサンフランシスコの市場調査会社、Near Mediaの共同創業者Greg Sterling氏は付け加える。
「顧客を自社で管理したいし、コンテンツが単なる『データ』になることでブランドを弱体化させたくない。しかし、エージェント型ショッピングはサードパーティブランドのブランド価値を低下させる可能性が高い。一方で、参加せずにそれが主流になってしまったら、売上を失うことになる」と同氏は語る。
小売業者がエージェント型ショッピングに関するeBayのポリシーを模倣するかどうかは、小売業者のサイトでショッピングがどのように行われるかによって決まると、企業向けにWebサイト、SEOプログラム、有料メディアキャンペーンを構築するテキサス州タイラーのデジタル代理店、Bailes ZindlerのRyan W. Bailes氏は指摘する。
「eBayでは、積極的に商品を探していない人のためにAIが勝手に取引を成立させないようにするのは理にかなっている。Shopify、BigCommerce(クラウド型のeコマースプラットフォーム)、WooCommerce(WordPressのプラグインとして動くeコマースシステム)などのプラットフォームを利用している中小企業にとって、これは人々が実際に店舗に行かなくても商品を見つけて購入できる素晴らしい方法だ」と同氏は語る。
「問題は、AIが正しく買い物をするためには、自社商品に関する必要な情報をすべて提供しなければならないということだ」と同氏は付け加えた。
断片化されたエージェントの世界
アイルランドのダブリンに拠点を置くベンチャーキャピタル、NexaTech Venturesの創業者Scott Dylan氏は、市場は分断された環境へと向かっており、主要プラットフォームがそれぞれ独自のエージェントで”壁に囲まれた庭園(ウォールドガーデン)”を構築していると主張する。「Amazon、eBay、Etsyなど、いずれも自前のエージェントを構築しながら、外部エージェントをブロックしている」と同氏は語る。
「迅速に動くプラットフォームは、自社のエコシステムに有利な基準を設定しようとするだろう」と同氏続ける。「初期のストリーミング戦争を思い浮かべてみてほしい。誰もがNetflixになりたがり、誰もBlockbuster(かつて米国を中心に世界展開していた巨大レンタルビデオチェーン)になりたがらないのだ」。
「プラットフォーム間で互換性のないエージェントプロトコルが生まれ、消費者がマーケットプレイスごとに異なるエージェントを使わざるを得なくなるというリスクがある。これはユーザーエクスペリエンスとしては最悪だが、プラットフォームの利益には完全に合致するのだ」と同氏は述べた。
また、「多くの小売業者がAIエージェントの導入で苦境に立たされており、eBayも例外ではない」と、グローバル戦略・経営コンサルティング会社Kearneyのパートナーで、食品・医薬品・マスマーケット担当のKatherine Black氏は付け加える。
「一方では、エージェント型プラットフォームによって顧客との接点を失いたくない。他方では、トラフィックの流れも逃したくないのは確かだ」と同氏は語る。
「短期的には、eBayはこの禁止措置から利益を得るかもしれない。なぜなら、エージェント向けのプロトコルを調整し、長期的には自社サイトとビジネスモデルに必要な調整を行う時間が与えられるからだ。また、トラフィックはまだ比較的小さい」と同氏。
「これによりeBayは手数料率や広告料金の交渉において一定の優位性を得られる可能性もある」と同氏は説明し、「この分野は急速に変化しており、小売業者のビジネスに劇的な影響を与える可能性がある」と続けた。
※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の1/27公開の記事を翻訳・補足したものです。