AIは、マーケットプレイスの売り手やベンダーにとって大きな可能性を秘めている。AIを使用して顧客について理解し、料金を調整し、価格を最適化し、在庫を管理することで、ブランドは競争上の優位性を向上させ、売上を促進し、オンライン・プラットフォームにおける全体的な収益性を高めることができる。

 

マーケットプレイスは過去3年間で、eコマースにおいて極めて大きな影響力を持つようになった。AmazonAlibabaJDといった大手マーケットプレイスは、何百万人ものユーザーを惹きつけ、幅広い商品カテゴリーにおける大規模な取引を促進している。

 

また、マーケットプレイスは、消費者の行動、嗜好、トレンドに関する豊富なデータも生み出している。この強力な市場ポジションは、不当に高い手数料を請求する、つまり、ブランドから略奪する優位性と力を与えている。

 

マーケットプレイスの台頭

マーケットプレイスの歴史は、eBayやAmazonといったプラットフォームがオンラインコマースの先駆者となったインターネットの初期にさかのぼる。1994年にオンライン書店として設立されたAmazonは、さまざまな商品を提供する総合マーケットプレイスへと発展した。その1年後に立ち上げられたeBayは、消費者間のオンライン・オークションというコンセプトを普及させた。中国のJD.comとAlibabaも20世紀後半に市場に登場した。

 

eコマースの成長とともに、ニッチで垂直的なプラットフォームが繁栄し始めた。それは、特定の業界や商品カテゴリーに特化したものだった。その代表的な例が、2005年に設立されたハンドメイド品やヴィンテージ品のマーケットプレイスであるEtsyだ。テクノロジーの進化とともに、マーケットプレイスの機能も進化してきた。安全な決済システム、改良された検索アルゴリズム、ユーザーフレンドリーなインターフェースの導入は、オンラインショッピングに新たなレベルの利便性、信頼性、効率性をもたらした。

 

しかし、マーケットプレイスが軌道に乗ったのは、パンデミックの後だった。2020年は、マーケットプレイスとeコマース全般にとって輝かしい時期だった。オンライン・プラットフォームは、ブランドがより幅広い顧客層にリーチするために不可欠なものとなった。2021年には、オンライン購入全体の実に42%がマーケットプレイスを通じて行われた。自宅にいながら買い物ができる利便性、価格を比較したりカスタマーレビューを読んだりできる機能、顧客にとってのシームレスな取引プロセスが、オンライン・プラットフォームの急成長に貢献している。そして2022年には、消費者のおよそ3分の2が、必要なものすべてを1つの加盟店で注文できることに満足していると回答している。

 

2027年までに、サードパーティ・マーケットプレイスは、世界最大かつ急成長する小売チャネルとなり、オンライン売上の3分の2近くを占めるようになるだろう。Amazon、Alibaba、PinduoduoJD.comの世界売上高は、現在の2.5兆ドルから4.3兆ドルになると予想されている。専門家によると、現在も将来も、最も成功している小売企業は、サードパーティーのマーケットプレイスを運営しており、消費者ブランドは、この新しい小売環境で成功するために、サードパーティーのマーケットプレイスと連携する必要がある。

 

マーケットプレイスというコンセプト自体は、ブランドにとっても有益なものだが、オンライン・プラットフォームが強い立場にあるため、売り手やベンダーに条件を指示し、実質的に彼らから強奪することができるようになっている。

 

オンライン・プラットフォームがブランドで稼ぐ仕組み

マーケットプレイスの初期の頃は、基本的に無名のプラットフォームに新しいサプライヤーを引きつける必要があったため、ベンダーに対する契約条件やセラーに対する手数料は、通常、取引額のわずかなパーセンテージに基づくものであった。マーケットプレイスが拡大し、多様化するにつれ、販売量の多いセラーにインセンティブを与えるため、段階的な手数料体系が導入された。大量販売を達成したり、特定の業績基準を満たしたりした企業は、より低い手数料が適用されることになり、潜在的なコスト削減のメリットを提供することができたのだ。

 

時が経つにつれ、マーケットプレイスは追加サービスを導入することで収益源を拡大した。これには、検索結果へのプレミアム掲載、特集掲載、広告オプションのほか、フルフィルメント、配送、マーケティング・サポートなどのサービスが含まれる。これらにより、マーケットプレイスは、販売者の認知度を高めると同時に、さらなる収益を生み出している。問題は、オンライン・プラットフォームが売り手に提供するサービスやツールの有効性を高めることを目的としているとはいえ、その主な目的は商品の普及率を高めることでより多くの収入を得ることであり、特定のブランドの売上を最適化することではないということだ。

 

その結果、たとえばAmazonは、5年前には販売者の収益の40%を得ていたが、現在では平均50%以上を手にするようになった。Amazonがフルフィルメント手数料を値上げしたため、販売者の負担が増え、広告宣伝費が避けられなくなった。一般的なAmazonの販売者は、取引ごとに15%、注文処理に20~35%、広告とプロモーションに最大15%を支払っている。Amazonが注文を保管し、ピッキングし、梱包し、発送するFulfillment by Amazon(フルフィルメントby Amazon)のコストは着実に上昇しており、このモデル以外での運営の成功例はほとんどない。広告はオプションだが、コンバージョン率が最も高い画面の大部分を占めるため、販売者は注目を集めるために必然的にAmazonの広告サービスを購入する必要がある。

 

同社は最近、訴訟を起こされている。その主張によると、Amazonは検索結果で商品を降格させたり、Amazonの商品詳細ページの右側にある「Buy Box」機能(顧客が購入する商品をカートに追加できる白いボックス)から商品を除外したりすることで、商品に最適な価格を設定できなかった販売者にペナルティを与えているという。

 

AIの力

人工知能の影響力が高まる中、企業はAIを活用してプレゼンスを拡大し、オペレーションを最適化し、最終的にはより多くの収益を上げることができるようになった。当社は、ニューラルネットワーク(人間の脳の神経回路の構造を数学的に表現する手法)の利点に気づき、活用する企業が増えることで、世界の小売AI市場は2032年までに約3,500億ドル規模になると予測している。

 

マーケットプレイスはすでにAIベースのツールを使用しており、消費者行動、キャンペーンパフォーマンス、キーワード検索に関する貴重なインサイトを提供している。彼らの主な目標は売上を増やすことであり、アルゴリズムは全体の収益を最大化するために、どの売り手の商品が宣伝する価値があるかを計算するのに役立っている。オンライン・プラットフォームは、顧客の購買行動、ショッピング・カート内の商品、最も閲覧された商品を分析し、各顧客が購入する可能性の高い商品を予測してレコメンデーションを行う。

 

ブランド側もAIを活用することで、マーケットプレイス内のトラフィックを犠牲にしてでも、マーケットプレイス検索の上位に食い込み、カテゴリーの売上シェアを拡大することができる。しかし、売り手はマーケットプレイスのAIモデルにアクセスすることはできない。プラットフォームは開発に関する情報を秘密にし、アップデートが発生した場合にのみ加盟店に通知しているからだ。Amazonの場合、Amazon Vendor Service(アマゾンベンダーサービス)を利用することでAI機能の一部にアクセスすることができるが、その分ビジネスのコストは増加する。同時に、サービス自体はブラックボックスのままだ。つまり、ブランドは自社製品の販売促進のためにプラットフォームのAIを利用することができないことを意味する。また、そのためにはサードパーティのソリューションが必要だ。そのようなAIソリューションは、具体的に何を提供するのだろうか?

 

1.インテリジェントでダイナミックな価格設定

AIソリューションにより、ブランドはインテリジェントな価格設定戦略を実施できる。市場データ、競合他社の価格設定、顧客の需要パターンを分析することで、AIは商品の最適な価格帯を決定することができる。また、ダイナミックなプライシングにより、売り手は需要と供給の変動、競合他社の活動、顧客の行動などの要因に基づいてリアルタイムで価格を調整することができる。これにより、販売者は競争力を維持し、マーケットプレイスでの収益の可能性を最大化することができる。当社の経験によると、AIを使用して価格設定を決定することで、販売者はこれまで失われていたマージンの最大6%を回復することが可能になる。

 

2.パフォーマンス入札のインテリジェントな調整

大手マーケットプレイスでは通常、リアルタイム入札(RTB)システムが採用されており、広告主は購入者に広告を表示するために入札を行うことができる。例えば、Amazonでは、売り手がキーワードに入札し、最も入札額が高く、最もターゲットが絞られているキーワードで入札したものが通常落札される。言い換えれば、買い手の検索クエリが売り手のターゲットキーワードと一致したときが、入札戦略の勝者となる。

 

リアルタイムのデータと高度な最適化技術により、企業は広告費を効率的に使用することができる。AIアルゴリズムは、入札と予算額、キャンペーンとセグメントの可能な組み合わせを何十億通りも継続的に再計算することができ、当社の経験によると、これまで失われていたROIC(投下資本利益率)の20%を取り戻すのに役立つ。Amazon、Alibaba、JDはすでに、このようなアルゴリズムを社内のパフォーマンス・マーケティングに活用している。

 

3.効率的な在庫管理

AIは、オンラインマーケットプレイスで活動する販売者やベンダーの在庫管理プロセスを最適化することができる。過去の販売データを分析することで、アルゴリズムは、オーガニックセールスやプロモーションセールスにきめ細かく、高い精度で、倉庫別、SKU別の出荷と売上を予測し、販売のピーク時期を特定し、在庫レベルを最適化することができる。これにより、ブランドは在庫切れやデッドストック(売れ残りの在庫品)の状況を回避し、保管コストを削減し、シームレスなサプライチェーンを確保することができる。さらに、AIは在庫補充と注文処理プロセスを自動化し、オペレーションを合理化して人的ミスを最小限に抑えることができる。

 

AI対人間

AIは、マーケットプレイスの売り手やベンダーにとって大きな可能性を秘めている。AIを使用して顧客について理解し、料金を調整し、価格を最適化し、在庫を管理することで、ブランドは競争上の優位性を向上させ、売上を促進し、オンライン・プラットフォームにおける全体的な収益性を高めることができる。

 

また、AIモデルによって、ブランドは社内チームや代理店の時間やリソースを節約することができる。私たちの経験では、企業は通常、自社製品をマーケットプレイスの店頭で上位に表示させるために雇用を行っている。食品業界の中堅企業を考えてみよう。通常、マーケットプレイスチーム(オンライン・プラットフォームを通じて最も効率的に商品を流通させるためのチーム)には、eコマースリーダー、マネージャー、デザイナー、マーケターなどがいる。さらに、社内のチームを助けるために外部の業者を雇うこともある。

 

それにもかかわらず、これらの人々は、戦略的な問題を解決するために時間を使う代わりに、日常業務に従事することを余儀なくされている。AIがあれば、チームはイタチごっこではなく、戦略の立案やイノベーションの立ち上げに集中することができ、また、アルゴリズムは24時間体制で最も効率的な方法でその実行を支援できるだろう。

 

※当記事は米国メディア「Entrepreneur」の7/7公開の記事を翻訳・補足したものです。