ビジネスを成功に導くためには、「顧客」の存在が不可欠である。一度しか購入しない顧客もいれば、継続的に購入する顧客もいるが、双方の顧客を獲得することがビジネスには理想的だ。マーケティング戦略を駆使しても、どちらの顧客タイプも惹きつけることができなければ、それは問題である。そのため、競争の激化する昨今のeコマース環境では、顧客エンゲージメントが非常に重要なのである。

 

顧客が、「自分を価値ある個人として扱う企業」を好むのは当然である。そして、エンゲージメントが高い顧客ほど、よく発言し、買い物し、高額を使うものだ。では、eコマースブランドは、どのように他社よりも注目を浴びることができるだろうか?そしてどうすれば顧客に対し、(彼らのお財布だけでなく)彼ら自身がブランドにとってどれほど重要であるかを伝えることができるだろうか?

 

答えは以下の通りだ。

 

  • パーソナライズされたユーザーエクスペリエンス(UX)により顧客の注目を集め、利便性の高いショッピングを提供する。
  • 複数のチャネル間での、コンテンツ、データ、および機能のシームレスな流れを実現する。
  • 顧客の購買につながる高品質なサービスを提供する。
  • 顧客リレーションシップを深め、リテンション率を向上させ、収益を増加させる新テクノロジーを導入する。

 

実際に、実店舗内体験がどのように顧客の行動に影響を与えるか考えてみよう。買い物客は、商品に触れ、試す。彼らはおそらく、友人や他の買い物客と製品について話をするだろう。また、店舗内を見て回り、親切な店員に質問をして、商品を返品したり交換したりもする。

 

eコマースブランドは、デジタルショッピングの利便性と同時に、こうした実店舗の直接体験を融合させることを目指すべきである。今こそ、単なる取引を超えたショッピング体験を提供するためのテクノロジーを導入し、カスタマーエンゲージメントを向上させる時なのだ。次に挙げる5つのeコマーステクノロジーは、オンライン顧客の関心、ロイヤルティを獲得し、購買につなげるため販売戦略の構築に有効である。

 

1.AR(拡張現実)とVR(仮想現実)テクノロジー

Augmented reality(AR)とVirtual Reality(VR)は、eコマースにおいて、急速に注目されている最新テクノロジーである。この2つの技術によって、店内において対面で行われるショッピングを、収益性の高いデジタル体験に変えることが可能となり、より高いカスタマーエンゲージメントへとつなげることができる。

 

たとえば、バーチャル試着ツールを導入すれば、オンライン顧客は、サイト上の写真のみに頼るのではなく、実際に商品を試着した姿を確認することができる。買い物客は、セルフィーを撮影し、試着したい商品を選択し、アプリ上でセルフィーの顔や体に、画像を重ね合わせればいいのだ。

 

多くのバーチャル試着ツールには、ソーシャルメディアでのシェア機能がついているので、ユーザーは、友人や家族からのフィードバックを得ることも可能だ。ファッションと美容ブランドが、UX(ユーザーエクスペリエンス)向上のためにバーチャル試着ツールの導入を急速に進めているが、ARとVRは他業界でも十分に活用することができる。

 

家具ブランドIKEAは、ユーザーがスマートフォンカメラで自宅に家具をバーチャルに配置できる「home view」と呼ばれるAR技術を先駆けて開発した。バーチャルツアーも、同様の価値を提供することができる。バーチャル試着機能と販売機能と統合することにより、ユーザーは、実店舗と同じようにバーチャル店舗内で商品を見て回りながら買い物をすることが可能だ。

 

ARおよびVR技術によって、デジタルプラットフォームの障壁が取り除かれ、商品を間近に感じることができるようになる。また、商品を実際に試すことなく購入することに対する不安感を、ある程度は軽減できるだろう。ARとVRによって、顧客は時間、場所、デバイスに関係なく、利便性が高くパーソナライズされた方法で、商品やサービスへアクセスすることができるのだ。

 

2.会話型コマース

「会話型コマーステクノロジー」によって、自然で的確な言葉での顧客対応が実現する。つまり、1対1で接客する優秀なセールス担当者に対応されているような感覚を再現し、顧客は、パーソナライズされた商品紹介やサポートを受けることができるのだ。

 

ブランドは、チャットボット、メッセージングアプリ、音声アシスタンス、その他の自然言語で対応する会話型コマースアプリケーションを通じて、優れたサービスを顧客に提供すべきである。ソーシャルメディアも会話型コマースと言える。

 

例えば、チャットボットは、イベントトリガーや直接尋ねられた質問に基づいてサイト訪問者に対応するAI(人工知能については、詳しく後述する)の一種である。この技術は、Facebook Messengerのようなメッセージングアプリケーション上で機能するため、ユーザーの好む方法でコミュニケーションをとることができる。

 

サイト訪問者が、ウェブサイトにアクセスすると、チャットボットにつながり、ヘルプを提供する。ユーザーは、Webサイトをブラウズせず、おすすめ商品、疑問に対する回答を得ることができ、トラブルシューティング問題を解決することができる。商品購入後も、チャットボットは出荷に関する最新情報を提供し、返品対応をし、顧客調査を実施する。チャットボックスが対応できる人数には制限がなく、質の高いサービスを大多数の顧客に対して提供可能である。

 

会話型コマースを導入するもう1つの理由は、ユーザーの「アプリに対する疲弊」を解消するためである。消費者は、タップして、スクロールして、タイピングすることに飽き飽きしている。延々と続く製品説明を読んだり、疑問を解決するために解答ページを閲覧したりするのは、もはや面倒なのである。ユーザーは、質問して、その答えを得たいだけなのだ。Amazon EchoやGoogle Homeなどの音声アシスタントテクノロジーと他の会話型コマースツールを用いれば、そのようなユーザーニーズに対応し、消極的な顧客を購入に結びつけることができるかもしれない。

 

会話型対応を適切に行えば、消費者のエンゲージメントが自然に深まり、コンバージョンファネルの次の段階に進ませることができるだろう。ブランドが、会話型対応をUXに導入する方法を見つけることが重要である。そうすれば、自然にコンバージョンにつながるはずである。

 

3.AI(人工知能)

セールス重視の AIは、顧客のショッピング体験をリアルタイムでパーソナライズする。AI導入により、顧客を、一般的なセグメントや人口統計の一部としてではなく、個人として扱い、より魅力的なUXを提供することが可能となる。Amazonがインテリジェントな商品おすすめ機能を提供して以降、AI機能はeコマース業界にとって不可欠な要素となっている。

 

ブランドはAIを活用し、行動データ(例えば、何に関心を示し検索しているかといったウェブサイトやアプリでのユーザー行動)を収集、分類、分析し、顧客と市場をより効果的に理解することができる。インテリジェントなアルゴリズムにより、ウェブサイトやアプリ上で、ターゲティングされたコンテンツをユーザーインターフェイスに動的に設定し、インタラクションをさらに促進することが可能だ。

 

簡単に言えば、ブランドは、顧客をよりよく理解し、その期待に応えるためにAI を活用すべきである。AIは、在庫管理、即時対応できるカスタマーサービス、CRM(顧客関係管理)システムの自動化といったバックエンド機能の合理化に活用でき、より質の高いUXの提供に有効である。

 

ビジネス面での業務効率を向上させれば、ブランドは、顧客関係構築により多くの時間を費やすことができる。ブランドが、自然でパーソナルなインタラクションを提供すれば、顧客のCTA(コール・トゥー・アクション)に反応する確率が上がる。

 

4.IoT(モノのインターネット)

IoT(モノのインターネット)の分野では、カスタマーエンゲージメントは、もはや画面や店舗に限定されていない。それは、アップセル(より高いものを買ってもらうこと)のチャンスが無限にあることを意味している。IoTを通じて、ブランドは積極的なエンゲージメントを維持し、利便性を高め、いつでも、ほぼどこででも、新しいセールスチャンスを活用することが可能となった。

 

IoTは、データを送信したり受信したりできるように日常品(車、台所用品、スーツケースなど)に埋め込まれたテクノロジーである。

 

また、使い捨て製品のIoTアイテムも、その製品要素に関連した便利なサブスクリプションベースの販売を可能にする。例えば、最新のコーヒーメーカーはIoT機能を備えている。つまり、コーヒーを作るだけでなく、消耗品の残りが少なくなったことをユーザーに知らせ、さらに、自動的に再注文することもできるということだ。

 

Amazon Echo 製品やGoogle Homeなどのデバイスは、他のオンライン接続デバイスのハブとして機能し、今までにないレベルで家庭環境をコントロールすることを可能にしている。また、これらのデバイスは、会話型コマーステクノロジーも採用している。

 

カスタマーエンゲージメントの向上を目指す企業は、IoTについても検討する必要があるだろう。スマートeコマース機能を製品に組み込むことは、大きな変化であり多額のコストもかかるが、一方でIoTに取り組まないことによる損失はより深刻なものになるだろう。

 

5.APIベースのeコマース

API(アプリケーションプログラミングインタフェース)は、前述のテクノロジー上もしくは背後で動作する。APIは、ソフトウェア、ハードウェア、ビジネスプラットフォーム、サードパーティ、および顧客を結びつけ、データのシームレスな共有を可能にする。APIベースのeコマースにより、顧客はいつでもどこでも、好きなようにショッピングを続けることができるのだ。

 

例えば、APIがすべてのチャネルで顧客情報を共有しているため、顧客はオンラインで購入し、ソーシャルメディア経由でカスタマーサービスに相談し、実店舗で商品を交換することが可能だ。

 

API導入により、企業は、店舗、オンラインウェブサイト、ソーシャルメディア、デジタルアプリ、スマートデバイス、ウェアラブル、車内など、あらゆる場所の顧客にインテリジェントな対応をすることができる。そして、顧客は、手間が省け、より魅力的なショッピングを体験する。

 

相互接続性は、エンゲージメントの向上に役立つ。ブランドとのインタラクションは、いつでもどこでも発生する。そして、APIによって、それらのやりとりが実際のショッピング体験のシームレスな延長となり得る。

 

カスタマーエンゲージメント戦略を開始せよ

新しいテクノロジーは、インタラクションやショッピングの障壁を排除し、カスタマーエンゲージメントを向上させる。顧客体験は、新しい次元に向かっているのだ。現在、ウェブサイトやアプリでは、ユーザーが望むものを正確に示し(または、見つけやすくし)、様々なテクノロジーがブランドとユーザー間のコネクションを維持し、深めている。そして、即時のインタラクションを超え、いつでも利用可能な体験が提供されている。

 

ここで紹介したテクノロジーには、もちろん単体でも高い価値がある。しかし、組み合わせて導入すれば、顧客との長期的な関係を育て、収益の大幅な増加をもたらす「オムニチャネルeコマース体験」の実現を助けるだろう。

 

競争と変化が激しいeコマースの世界では、時間、デバイス、場所を超えて、テクノロジーを統合することにより、カスタマーエンゲージメントを促進(および活用)することができるようになるだろう。企業が、消費者にとって簡単な取引サービスを提供すれば、コンバージョンは自ずと後からついてくるものなのだ。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の10/11公開の記事を翻訳・補足したものです。