苦戦の続く百貨店ECサイトはオムニチャネル化の波に乗り切れるのか

 

インターネットの台頭などの影響により、百貨店の売上は平成13年の8.6兆円から平成22年の10年間で6.3兆円まで減少してきてます。これまで圧倒的に流通の主役だった百貨店は、そのポジションも危うくなりつつあり、楽天・Amazonなどのネット専業事業者や、商材に特化してネットを上手に活用しているユニクロなどにシェアを奪われつつあります。

百貨店もECや通販の取り組みを行っているものの、百貨店業界のEC市場は約283億6,600万円(2012年度の日本百貨店協会「eビジネス白書」)で、ネット通販比率は1%(米国は4.7%)に満たない状況となっており、苦戦も鮮明となってきています。283億円といえば、単体でもその売上を達成する事業者は国内に50以上はある規模で、百貨店業界全体での数値としては非常に寂しいものといえます。

 

そのような状況の中、ようやく百貨店も現状を打破できる突破口として“オムニチャネル(店頭、ネット、カタログなどチャネルを問わない売り場づくりを目指す)”というホットなキーワードに目を付け、取り組みを進めてきています。低迷する百貨店のECサイトは、この波に乗って復調するきっかけをつかむことが出来るのか。今回は三越伊勢丹、高島屋、大丸松坂屋のECサイトからその取り組みと浮沈の鍵を見ていきます。

 

 

三越伊勢丹

 

ネット販売を成長領域と位置付け、ここ1年でWeb事業に対して積極的に取り組んできたのが三越伊勢丹です。

 

 

会社は統合されたものの、10年以上前に立ち上げたECサイト“伊勢丹オンラインショッピング”と“三越オンラインショッピング”は、まだ別々のサイトとなっています。(2014年春までに統合する計画も進んでおり、1つのIDで両サイトを行き来し、両方で買い物した商品が共通のカートに保持されるようになるようです。)

この本体サイトの統合とは別に、メディアでの情報発信も積極的に行っています。2012年12月にファッション総合ニュースサイト“FASHION HEADLINE”を開設。ECの売上を伸ばすためには集客につながる情報発信メディアを作ることが重要だと考え、また自社メディアを運営することで、広告収入などを収益源とする新たな事業モデルの構築を模索したのです。Webサービスを手がけるイードと共同で立ち上げた同サイトは、ファッション業界の最新情報を中立的な立場から伝えるニュースサイトで、高島屋や阪急百貨店といった競合の情報も分け隔てなく取り上げています。

また、店頭では伝えきれない商品情報などを盛り込んだソーシャル要素の強いメディア、“ISETAN PARK net”も同時にオープン。伊勢丹のスタイリストが選ぶプレゼント特集やイベント情報など、伊勢丹に関するあらゆる情報を網羅しています。サイト内は動画コンテンツも充実しており、プロのメイクアップアーティストによるメイクアップ方法などを動画で確認することも可能となっています(これらの動画は“IPn-TV”と呼ばれるサイトでまとめて閲覧することも可能)。

このようにECサイト以外にも充実を図ってきた三越伊勢丹ですが、今年4月にはWebの専門知識を持った外部の人材をトップに起用したWeb事業部を新設。2013年3月期に約80億円だった三越と伊勢丹の通販サイトの合計売上高を2016年3月期には200億円にし、取り扱いアイテムを5万品目から15万品目に拡大すると発表しました。

さらに9月にはEC専用物流倉庫を開設し、商品撮影のためのスタジオを併設して、ささげ(採寸/撮影/商品説明原稿)業務まで完結する環境を整えました。これにより、商品登録から発送までのリードタイムが大幅に短縮されたのです。

三越伊勢丹は最近ではベンチャー企業との提携も積極的に行っており、相次いで新規事業への参入を発表。今年10月には海外セレブ御用達のソーシャルコマース“FANCY”で、伝統工芸品や雑貨など約70点の販売を開始しました。同サイトへの日本企業の出店は同社が初となりますが、FANCYが富裕層に強く百貨店との親和性が高いことから出店に至ったのだそう。自社ECでは難しかったオンラインショッピングにおけるグローバル化を視野に入れ、今後も展開を広げていくという三越伊勢丹は、ここで海外の富裕層の反応を探っていくことになります。

また同時期には、スマートフォン向けECアプリOrigamiと共同で、O2Oキャンペーン“伊勢丹大創業祭 THE IVY STYLE EXHIBITION BY F.I.T.”を実施。期間内に伊勢丹新宿店に来店してチェックインすると、抽選で賞品が当たるキャンペーンを行いました。

他にも、約190社のパートナー企業を持つ頓智ドット株式会社と提携し、次世代型O2Oサービス“tab”を活用。伊勢丹新宿店のtab帳から商品やイベント情報を配信し、ユーザーがその情報を目にすることによって来店を促すことを狙いとしています。

また、会員制食品宅配サービス“三越伊勢丹エムアイデリ”も事業拡大を目指し、10月よりオイシックスと提携。オイシックスの宅配システムや物流センターを活用することで、互いの商品を一緒に配達することが可能となりました。また、オイシックス商品を供給することで、今までの約1,200アイテムから約2,400アイテムまでラインナップを拡大。人気のベビー&キッズ商品も導入し、顧客層の拡大を目指します。

このように、業界では最も積極的にWeb活用を進めている同社ですが、統合後のサイトが待たれます。

 

 

高島屋

 

オンラインストア、通販、ファッションモールの3つのECサイトを1つに統合して作られた“高島屋オンラインモール”は、今回取り上げる3社の中で最もギフトに特化したECサイトと言えるでしょう。

 

 

ギフト用と自宅用に分けられたサイト内はそれぞれに最適化した構成になっており、特にギフトに関してはシーン・贈り先・予算などの絞り込み機能が充実していて、非常に使い勝手の良いサイトになっています。さらに、のしや複数のラッピングにも対応しており、“ギフトを買うなら高島屋”と思わせるきめ細やかさが多くの人に支持される理由と言えます。

また高島屋では、購買ニーズの変化が速いEC市場により対応できるよう、2011年に初めてネット専任のバイヤーを起用しました。それまでECサイトでは店頭商材を販売するのが主流でしたが、ネット専任バイヤーを置くことによって食品やリビング用品などにおけるネット商材の開発を行い、百貨店を利用したことのないネットユーザーの取り込みを狙ったのです。

それが功を奏し、翌年の母の日商戦は売り上げが前年比60%増を記録。ネット専任バイヤーが考案した花とスイーツのパッケージギフトが、自社ECサイトのランキング上位を独占しました。

このように、ギフトに特化した戦略を武器に高島屋はECの売上を伸ばしてきましたが、その一方で衣料品などファッション分野の売上は1割未満に留まっていました。そのため、2012年5月にセレクトショップ通販サイトを運営するセレクトスクエア社を子会社化。業務提携により、今後はファッションにも基軸を置いて通販サイトの売上高を早期に100億円にすると発表したのです。

また、高島屋オンラインストアの会員70万人とセレクトスクエアのネット通販サイト会員30万人を相互に集客する仕組みを構築し、集客ルートを多元化することで、店舗とECサイト双方への集客増加を図りました。現在、高島屋グループのECサイトには、ギフトの取り扱いも行う“高島屋オンラインストア”と、50以上の人気セレクトショップと800以上のブランドが一堂に揃う“セレクトスクエア”の2つが用意されています。

セレクトスクエアでは、スタッフがコーディネートを提案する“オトナセレクト”などの特集に加え、先行受注会、返品受付、送料無料キャンペーンなどのサービスも幅広く提供しています。

 

 

大丸松坂屋

 

2012年に大丸と松坂屋のECサイトを統合し、“大丸松坂屋オンラインショッピング”の名称でECサイトを運営する大丸松坂屋は、売上高は低いものの、今回取り上げる3社の中ではオムニチャネルへの取り組みが最も進んでいます。

 

 

例えば、ECサイトにおける新たな試みとして、大丸東京店と大丸神戸店の洋菓子売場をバーチャルで再現。自由に視点を移動させながら店内の雰囲気を楽しんだり実際に商品を購入できるこのサービスは、リアルな店舗空間とオンラインショップを融合させたショッピングサイトとして話題を呼び、売り上げの拡大や店頭への来店につなげました。

また、2012年12月にはmixiと提携してソーシャルクリスマスキャンペーン“mixi Xmas 2012”を開催。期間中に全国の大丸・松坂屋の店舗に足を運んだ利用者は、mixi Xmasで利用できるオリジナル靴下パーツを店頭で入手でき、さらに1,000円以上の買い物をするとオリジナル靴下パーツがもらえる特典などを用意。結果として期間中に約2万人が来店し、本来の顧客層ではない20〜30代の女性客の来店促進に成功しました。

また2013年2月からは、FacebookのIDを利用して簡単にギフトが贈れるソーシャルギフトサービス“okurune”をスタート。従来の顧客層よりも若い20〜30代を主要ターゲットとしたこのサービスは、百貨店の色を極力出さない見せ方にし、従来のECサイトでは取り扱わないアイテムを中心に展開しています。

百貨店らしからぬサービスとして注目したいのが、若い女性の顧客獲得のために始められたさくらパンダというキャラクターを中心としたプロジェクトです。さくらパンダがサンタクロースになるための修行としてフィンランドに行く企画や、震災後に他企業のパンダキャラクターとコラボして東北の子どもたちを元気づける企画など、さまざまなプロジェクトを実施。これらはさくらパンダのオフィシャルサイトやキャンペーンサイト、SNSを通じて行われ、キャラクターが前面に出て顧客とコミュニケーションを図ってきました。結果的に幅広い層にさくらパンダが認知されることとなり、今ではECサイト内にオフィシャルグッズを扱うコーナーも用意されています。

また、今年3月に同社がLINE公式アカウントを開設した際には、さくらパンダのスタンプ企画を実施し、1日で100万人の友だちを獲得。最終的に310万人がさくらパンダのスタンプをダウンロードし、約3ヶ月後の6月末時点でおよそ5,000万回のスタンプが利用されました。その後行われた二度の来店キャンペーンでも、さくらパンダのグッズは目玉のひとつとなっています。

このようにさまざまな視点からWeb事業を展開してきた同社は、最近ではアパレル大手のワールドと共同で、ECサイトで注文した商品を実店舗で受け取れる新サービス“クリック&コレクト”を提供。UNTITLEDやINDIVIなど全23ブランドが対象で、大丸・松坂屋の各店舗で取り扱いのないブランドも利用可能となっています。

また同時に、ワールドの7ブランドを対象に、店頭で品切れした商品をECサイトで在庫確認し購入できる“エンドレスアイル”もスタート。オムニチャネル推進の検討を進めてきた同社は、今回の取り組みをその第1弾としています。

さらに第2弾として、ニューリッチ層を対象とした美術品のオムニチャネル販売“入札のウェブとの連動”を実施。店舗からもインターネットからも同じ作品に入札が可能で、松坂屋上野店の売りつくしセールにかけて行われました。

 

 

百貨店ECサイトの未来は店頭依存型の商習慣からの脱却

 

よく企業のスタンスや組織がWebサイトに現れるといいますが、百貨店のECサイトはその縮図。今までの歴史の重さやしがらみがそこかしこに現れており、とてもユーザー目線に立った分かりやすいサイトとはいえません。例えば統合前のサイトがいまだに両方存続している三越伊勢丹や、オンラインモール・オンラインストアという酷似した名称の階層構造を持つ高島屋。更には各社のトップページは部署単位でのバナーの貼り合いが目に付きます。

オンラインの活用を真剣に取り組んでいる他社では早々にこのような社内政治を片付け次の一歩を踏み出している企業が増えてきていますが、百貨店は社内の意識の統一化が遅れている印象を受けます。

ただ、個別の取り組み自体は非常に魅力的なものも多くあります。伊勢丹はWeb事業部の新設に伴い積極的に外部サービスとの連携をはかり、ECサイトにおけるメディアの重要性も理解し取り組みが非常に充実。高島屋も専業企業を子会社化して取り組みを加速させるなど今後が非常に楽しみです。

そんな中でも大丸松坂屋の取り組みは特に目を引きます。サイト自体の統合化も行い、しっかりとWebサイトを活用するための準備も整え、従来の店頭依存型の商習慣からの脱却を意図した取り組みを行っています。ネットを単なる販売チャネルとして捉えるのではなく、店頭とネットのチャネルの役割を分け、店頭→ネット→店頭、のサイクルを回すという戦略を持ったクリック&コレクト、エンドレスアイルは非常に魅力的な取り組みです。

他業種と比較しても圧倒的に低いEC化率は、逆を言えば大いなる可能性を秘めた業種ともいえます。単純にネット関連の取り組みを行うだけでなく、店頭→ネット→店頭のサイクルを回すための目的意識をネット上で前面に出し、店頭への誘導力をより強化することで、ECだけではない、百貨店全体の売上を押し上げることも可能なのではないでしょうか。

EC単独で売ろうとするのではなく、ECサイトを百貨店トータルのオムニチャネルの重要なタッチポイントに位置付けて活用していくことができて、はじめて圧倒的な存在感を示していた百貨店の復権がかなう日がくるのかもしれません。

 

 

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