根強く浸透するハンドメイドマーケットEC - Etsy、Creema、minne、Pinkoiの見据える未来

 

ハンドメイドマーケットECはC2Cコマースの走りとして2013年頃から国内のEC市場を賑わせている。米国ではEtsyが2005年にサービスをリリースしているので、既に10年以上も経過していることになる。今やC2Cコマースはメルカリなどのフリマアプリが全盛を迎えているが、ハンドメイドマーケットECは今どのような動きを見せているのだろうか。ここ最近の目だった動きを取り上げて、今後の展開を考えていく。

 

<参考>

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Etsy(エッツィ)

 

2005年のサービス開始から16年。アメリカ発のハンドメイドマーケットプレイス「Etsy」は、今や2,500万人もの人々が利用する巨大サイトとなった。

2015年4月にNASDAQに上場し、同年度の商品総売上は23.9億ドル(約2,100億円)を記録。商品を提供するクリエイターは160万人、買い手は1,980万人と、日本国内のハンドメイドECと比べると桁違いの規模だ。150万店のショップには、ファッション雑貨やアクセサリー、クラフト資材、ウエディング用アイテムなど、3,500万点以上の商品が並ぶ。DIYを得意とする欧米発のサービスらしく、手作りでは不可能な電化製品以外、ハンドメイドで作れるものはほぼすべて置いてあると言っても過言ではない。これまで世界規模で事業を展開してきたEtsyは、アメリカの他、ドイツ、アイルランド、イギリス、オーストラリア、フランス、カナダに拠点を持ち、日本にも2014年に進出。同時に日本語版のWebサイトも開設されたが、改善点も多く、長らくその始動が待たれていた。そして今年に入ってようやく運営側が本格的に動き出し、1月より国内利用者向けの4週間の無料オンライン教育プログラム「Etsyスタート2016」を展開。日本人トップセラーによるアドバイスや、売り手同士のコミュニケーションの場が提供された。Etsyが推し進めるのは、売り手同士のコミュニティの構築だ。本来であれば孤独な売り手同士が繋がり、情報共有したり互いにアドバイスを行うことで、サイト全体を活性化させる。現在日本には700人以上が参加する「Etsy Japan」というコミュニティがあり、頻繁にディスカッションが交わされている。まだまだ国内発のサービスに比べて使い勝手が悪いとの指摘も多いEtsy。サイトの完全日本語化やクレジットカード決済の導入など、細かな改善点をクリアできれば、ここ日本でも浸透していくのではないだろうか。

 

 

Creema(クリーマ)

 

2010年5月にローンチされた「Creema」は、7万人のクリエイターが登録する国内最大級のハンドメイドマーケットプレイスだ。

出品作品数は280万点以上で、アクセサリー、バッグ、財布、iPhoneケース、洋服、家具、インテリア雑貨など、完成度の高いアイテムが並ぶ。商品はカテゴリーや素材から検索でき、さらにユーザーがお気に入りの作品を集めたキュレーションページから探すことも可能。サイトの作りは非常に分かりやすく、ハンドメイド作家たちが好みそうなテイストに仕上げられている。またCreemaでは、Webだけでなくリアルの場で接点を持つことにも積極的だ。5,000名以上のハンドメイド作家が集まるイベント「HandMade In Japan Fes」の開催や、ルミネ新宿での常設ショップ出店など、より購入へと繋がる場を提供している。今年4月からは食品の取り扱いも開始し、ホームメイドの焼き菓子やパン、紅茶、調味料などを販売。リリース時には約100店舗、1,000点以上の食品が出品され、現在は4,000点近い商品が用意されている。ここ1、2年は資金調達も積極的に行っており、2014年6月にはKDDI Open Innovation Fundから1億円を、今年5月にはグロービス・キャピタル・パートナーズなどから約11億円を調達した。また、グルーバル展開も視野に入れ、7月には中文繁体字版をローンチして台湾・香港向けのサービスを開始。国内のクリエイターが台湾・香港へ簡単に出品できるようになり、同時に台湾・香港の作り手もCreema日本版への出品が可能となった。2016年の流通総額は100億円を見込んでいるというCreema。今後はクリエイターを支援する新規事業や海外展開の強化も計画中とのことで、さらなる飛躍が期待できそうだ。

 

 

minne(ミンネ)

 

GMOペパボが運営する「minne」は、社内公募から生まれたハンドメイドマーケットだ。

2012年1月にサービスを開始して以来、国内ハンドメイドマーケットの中でいち早くスマホアプリを提供したり、ヤマト運輸と共同で作品を安全に発送できるオリジナルデザインBOXを開発・発売するなど、さまざまな施策を行ってきた。2015年には女優の水川あさみを起用したテレビCMを放映したことで一気に認知度が上がり、CM開始から1年経った2016年2月にはアプリのダウンロード数が500万件を突破。月間流通総額は6億7,000万円を超える規模に成長した。現在は27.1万人もの作家が登録し、登録アイテム数は369万点を超える。さらにminneは今年に入り、次々と新たなサービスを開始した。4月には、約3,000ブースが出展する「minneのハンドメイドマーケット」を東京ビッグサイトにて開催。同じく4月にパン、焼き菓子、ジャム、シロップ、チョコレートといった加工食品の取扱いを開始。さらに6月末には、minneを利用しているユーザーをターゲットにしたWEBメディア「minne mag」を立ち上げた。サイト内には、作家へのインタビューのほか、minneで販売している商品の使用感を伝える記事などを掲載し、より多くの人に商品をPRしている。またminneでは、世田谷区にあるIID世田谷ものづくり学校内に「minneのアトリエ」というスペースを開設。作家支援チームのスタッフが常駐し、作家からの相談に対応している。現在サイト上にアップされる作品は1日に1万点を超えるというminne。作家数、作品数ともに国内1位を誇る同サービスは、巨大化してもなお、ユーザーに対する細やかなケアを継続していけるかが今後の鍵となってくる。

 

 

Pinkoi(ピンコイ)

 

2011年8月にサービスを開始した台湾発の「Pinkoi」は、アジアを中心に世界中のデザイナーの作品を購入できるマーケットプレイスだ。

日本には2014年末に上陸。現在は5言語・12通貨でサービスを行っており、台湾、香港、中国、タイ、アメリカなど、世界77カ国のユーザーに商品を販売することが可能となっている。Pinkoiの最大の特徴は、他のサービスのようにハンドメイド作品だけでなく、工場で製造した商品や外注者による制作物など、出品者自身がデザインした商品なら何でも販売OKという点だ。サイト上には、靴やカバン、アクセサリー、インテリア雑貨など、50万点以上のアイテムが出品されており、そのデザインはどことなくアジアチック。色彩豊かなアイテムや独特のデザインが目を引く。Pinkoiでは、商品を販売する際には運営会社の審査を通る必要があるので、サービス開始以来高クオリティが保たれているのも特徴の1つだ。今年3月には、ハンドメイドマーケット「iichi」との資本業務提携が発表され、香港、米国、中国、日本、タイを中心に、2016年の海外取引を倍にする計画が伝えられたPinkoi。100万人の会員と25,000人を超える登録デザイナーをどこまで伸ばせるのか期待したい。

 

 

Etsy、Creema、minne、Pinkoiの見据える未来

 

メルカリを中心としたフリマアプリの勢いに目が奪われがちなC2Cサービスだが、ハンドメイドマーケットECも依然として動きが活発だ。ここ最近の動きを見ると今までの市場開拓・認知獲得のフェーズを過ぎ、収益化を真剣に考えてきているフェーズにしっかりと入っている。特にその中でも目をひくのは国境を跨いだ展開が活発になってきていることだ。ハンドメイド品はいわばローカルカルチャーの原点だ。そのようなカルチャーが他国のカルチャーに触れることで更なる魅力が生まれる可能性もあり、クロスボーダー的な展開はユーザーからも望まれる。またオンラインサービスではあるが、リアルでの取り組みに非常に積極的なところも特徴的だ。ブランド力や商品力という武器がないハンドメイド商品だけに実物に触れる機会を増やすことで、新たなユーザーの獲得の弾みとしていきたい思惑があるのだろう。

国内の雄Creema、minneは流通総額だけで見ると巨人Etsyの1/20以下と遠く及ばない。国境を跨いだ展開を行い、ハンドメイドマーケットでもメルカリのように世界進出を成功させるサービスとなるのか。今後の展開に注目していきたい。