越境ECを支援するサービス徹底解剖 - 海外の消費者から見た場合に日本商品をどのように購入することができるのか

 

中国人に代表される外国人観光客の大幅増に伴い、EC業界においては“越境EC”がここ数年の間にバズキーワードとなっている。そのような状況の中で、越境ECを展開したいEC事業者向けの支援サービスも活況を呈してきている。しかし、海外のEC事情がイマイチ分かりにくいことも相まって、それぞれのサービスの特徴や強み弱みなどについてはなかなか分からない部分が多いのも事実である。今回は、そのような越境ECを支援するサービスを海外の消費者からどのように日本商品を購入することが出来るのか、という視点にたって、徹底解剖し、それらをどのように活用していくべきかを考えていく。

※この記事は越境ECに造詣の深いGMOメイクショップ株式会社代表取締役社長の向畑氏から情報提供を受けて企画・作成した。

 

<参考>

eコマース業界カオスマップ2016 - 越境EC編

そもそも越境ECってどんなモノがどんな理由で売れるのか - データから見るポテンシャルと傾向

 

 

そもそも越境ECはどの程度盛り上がってきているのか

 

越境ECとは、広義の意味では、国境を跨いだ全てのオンライン取引を指す。しかしここ数年でEC業界で盛り上がってきている“越境EC”とは、日本のEC事業者が中国をはじめとする消費が旺盛の国に対してオンラインで商品を売ることを指している。

 

越境ECの盛り上がりと関係が深いと言われている訪日外国人のデータを見ていこう。観光庁発表の統計によると、訪日外国人旅行者の数は2003年から徐々に伸びつつある。2011年は東日本大震災の影響もありグラフの下降はみられるものの、翌年2012年からは再び伸びはじめ、VJ事業(訪日外国人の増加を目的とした訪日プロモーション)が開始した2003年と比較すると、約3.8倍と、急激に増加していることがわかる。このままでいくと政府が2020年の目標としていた2,000万人を今年にはクリアしそうな勢いとなっている。

このことは越境EC市場にもかなりの追い風となっており、外国人が日本文化に触れ、日本の商品を知る機会が増えることで、より一層日本発の商品の購買意欲は高まっていくことが期待される。

次に検索エンジン上での検索回数の推移を見ていこう。

 

Google Trendによると、2015年に入ってから急激に“越境EC”の検索回数が伸びており、最大となっている2016年4月と1年前の2015年4月を比較すると6.2倍、2年前の2014年4月と比較すると50倍に急増している。越境ECというキーワード自体、EC業界関係者が検索することが多いことから、EC業界において、越境ECへの関心は非常に大きなものとなっているようだ。

EC事業者にとって、越境ECは乗り越えるべき課題も多いが、進めていくメリットも非常に多い。消費がそこまで活発ではない国内市場とは裏腹に、海外では新興国を中心にまだまだ消費は活発だ。市場の拡大を海外に求めていくことは更なる可能性を秘めている。一方で、海外に在住する人、特に外国人観光客にとってのメリットも大きい。観光客は日本に訪れた際に日本製品について知り、帰国後も気に入った製品が欲しい場合にオンラインを通して購入ができる。実際に手に取ったからこそ日本製品の良さが分かり、本当に欲しいものを手に入れることができるのだ。外国人観光客が年々増加していることから、日本製品の需要はさらに高まっている状態だといえよう。

 

 

越境ECを始めるにあたっての乗り越えるべき3つの課題

 

越境ECは、需要と供給の両輪で盛り上がってきているが、EC事業者側からするとなかなか簡単に着手することができないのも事実だろう。それは、EC事業者が越境ECを始めるにあたり、いくつかの障壁が存在することが影響している。主に挙げられるのは言語・決済・配送の3つの課題だ。

 

言語・顧客対応

言語というとサイト上での言語表現を思い起こすが、越境ECの場合それと同じくらい重要になってくるのが顧客対応だ。英語での対応が出来ればある程度はカバーできるが、英語を使うことができない国も存在する。そのため、商品の紹介やクレームなどの顧客対応をするためには、それぞれの国の言語での対応が必要となるのは間違いない。

 

決済・為替

越境ECの場合はほとんどがクレジットカードなどでのオンライン決済での支払いとなるだろう。各国で流通している主要のクレジットカード会社のカードを利用することが出来るのか、またチャージバックなどの対応のサポート(言語含め)はどのようになっているのかという問題もある。そしてオンラインで決済した後の為替変動のリスクは顧客が負うのか、店舗側が負うのかという問題も発生してくるだろう。

 

配送・関税

各国の消費者の元にしっかり商品を届けるためには、各国で配送方法や手続きが異なってくる。地域によっては商品が届くまでに1ヶ月以上かかるケースなども有り得るだろう。また、商品購入の際に消費者が支払う金額は「商品代金+消費税+送料+関税額」となる。消費税はサービスによっては免税されるものの、関税額がかかることなども含めて、しっかりとサイト内に明記する必要があるだろう。

 

 

海外の消費者から見た場合に日本商品をどのように購入することができるのか

 

越境ECを行うにあたって、海外に正規店舗を出店するのは非常にハードルが高い。そのため、EC事業者が手軽に商品を売るための中間的な立ち位置のサービスも活況を呈している。一般的には、海外転送サービス、購入代行サービス、メディア出品代行サービス、現地出品代行サービスと呼ばれる4サービスジャンルが存在する。これらのサービスは表現も似ている部分も多く、なかなか理解することが難しい部分も多い。そこで今回は、海外の消費者から見た場合に、それぞれのサービス(及び日本国内の正規店舗を加えた5ジャンル)の特徴はどのようになっているのか、という点からアプローチしていき、それぞれのサービスを紐解いていく。

 

規店舗

日本語をある程度理解できる海外の消費者であれば、直接日本国内の正規店舗で商品を探すケースも多いだろう。しかし、自国で流通しているカードが決済で使えないケースや、配送先で自国を選択できないケースが大部分だろう。ただ一方で、配送先で自国を選択することができ購入できるケースでは免税となるメリットがあるが関税はかかることになる。

 

海外転送

海外転送サービスは、海外に住む消費者が海外配送を行っていない日本のサイトで商品を購入したい、という際に利用するものだ。海外の消費者が日本国内のECサイト上での商品購入の手続きの際に、海外転送サービスで指定された配送先住所で登録する。そうすることで、購入した商品を海外転送サービスの倉庫で受け取り、そこから海外の消費者に再配送することで届くことになる。この場合でも消費者は国内のECサイトでの購入プロセスを行うため日本語がある程度読めることが必要になる。また、国内に配送した後海外に配送するため見方によっては配送料が二重にかかっている形にもなる。

海外転送サービスの転送コムは、商品が転送コムの倉庫に届けられると、中身の確認・重量を測定。その後、配送料の連絡を消費者に行う。料金の支払いが確認されると、海外に配送されるという仕組みだ。日本郵政からの配送となり、台湾宛ての荷物のみ現地のFamilymartで受け取ることができる。このほかに、BENLY Express転送JAPANなどが類似のサービスを展開している。

 

 

購入代行

購入代行サービスは、海外に居住する消費者に代わってサービス提供者が商品を代理で購入するサービスだ。商品情報の一部に日本語は残るが、日本語が読めず、配送などに不安を覚える消費者には非常に便利なサービスとなっている。

Buyeeでは、amazon.co.jp・楽天・Yahoo!ショッピング・ZOZOTOWN・ヤフオクに掲載されている商品の購入代行が可能となっている。PayPal・クレジットカード(海外発行含む)・Alipayでの決済が可能。料金や配送時間などを考えて、自分の好きな配送方法を選べることも魅力の一つだ。このほかに、BuysmartWorldShoppingが類似のサービスを展開している。

 

 

メディア出品代行

メディア出品代行サービスは、日本企業の代わりに各国向けのメディアやアプリを活用した独自のECサイトに出品を代行するサービスだ。日本のEC事業者は独自に販路や好みの消費者を探してくる手間が省けるため、非常に簡単に自社商品の反応を知ることができるなど、好評だ。海外に住んでいる消費者から見ると、自国語のアプリが提供されており、そこで海外の商品を購入出来るだけでなく、その商品に関わるコンテンツが提供されているので、新しい商品との出会いもあるのが魅力的だ。

Inagoraが提供している豌豆公主(ワンドゥ)は、中国向けの越境ECアプリである。配送は日本から行っており、中国での主要決済手段である支付宝・Union Payでの決済が可能だ。ファッション、美容品、日用品、食品など、様々な商品を取り扱っている。このほかにも、bolome小紅書(RED)などが類似のサービスを提供している。

 

 

現地出品代行

現地出品代行は海外のモールに出品を代行するサービスだ。サービス提供各社はTmallなどの現地モールに販売用のサイトを持っており、そこに商品を掲載して販売していく形が一般的だ。海外に住んでいる消費者から見ると、使い慣れた自国のモールで、いつもの決済手段を用いて購入することができるので、海外からモノを買っているという感覚はほとんどないだろう。

trans cosmosは、Tmall・Tmall国際内の店舗での販売代行サービスを提供している。trans cosmosが所有するサイトで商品の販売を代行するサービスだ。

 

 

海外の消費者から見た場合のメリット・デメリット

 

ここで紹介した5つのサービスジャンルについて、言語・決済・配送のメリット・デメリットと、消費者が負担する費用についてまとめてみる。

消費者は言語・決済・配送が自分のニーズにFITした中で一番安いサイトで購入したいと思うのが必然だ。正規店舗が海外配送を対応している場合は、日本語が読めて日本でも使えるクレジットカードを持っている消費者であれば非常に便利だ。しかし未だに海外配送をしっかり対応している店舗は多くない。そこに海外転送サービスや購入代行サービスの価値が出てくる。しかし、多くの消費者は自国の言語で、自国で普段使っている決済を利用できるサイトからの購入を好むだろう。このように消費者のスキルや経験、ネットリテラシーなどによって各サービスを使い分けている状態といえる。

一方、消費者が支払う費用を見ると、正規店舗が一番お買い得であることが分かる。そのため、多くのEC事業者の日本サイトが海外決済に対応し、海外配送に対応したら海外転送サービスや購入代行サービスの必要性は下がる可能性もあるだろう。また、EC事業者からすると手間がかかるが、現地のモールに出店・出品することも消費者視点に立つと避けられない流れとなるだろう。特に中国では依然としてモールの勢いが強く、モール以外の店舗から商品を購入する機会はかなり限られている。

 

 

越境ECへ踏み出すために活用するべきサービスとその未来

 

インバウンドの影響で、需要が高まっている日本発の商品。ボーダレス化された自由な商品の取引は、時代の流れに沿って、これからもますます進んでゆき、今後はヤマト運輸・佐川急便などの運送業者が転送サービスに乗り出していく可能性も考えられる。

海外に居ながらも、日本の商品を手に入れられるようになった消費者が、次に求めるようになるもの。それは、購入に関わる全てのコストの安さと、受け取りの早さだ。そのためにも、購入に関わる間接費用をどのように減らしていき、発送地を含めた物流網をどうするかが今後の課題となってくる。現地で在庫を保管する倉庫などの物流拠点の整備など安く・早く商品を届けるためにどのように取り組んでゆくかが、越境ECに参入し、生き残っていくための鍵となるのではないだろうか。