ネットショップ開業・開店完全マニュアル虎の巻

 

今やスマートフォンやパソコンなしでは生活できないという人もいるほど、インターネットは日々の生活に浸透している。野村総合研究所調査によると、「一度でもネットショッピングを利用したことがある」と回答した人は全体の約6割、20~30代では約8割にも上っており、ネットショッピングは既に大きな認知を得ていることが分かる。ネットショッピング事業を提供する企業も年々増え続けており、国内だけでも270万を超えるネットショップが稼働している。

そこで今回は、インターネット上の店舗である「ネットショップ」を開業・開店したい初心者に向け、必要なノウハウを網羅的にまとめた「完全マニュアル」を作成したので共有していきたい。

 

<参考>

【2019年最新版】国内のECサイト・ネットショップの総稼働店舗数

 

目次
▼1.ネットショップとは
  • ネットショップと実店舗との違い
  • ネットショップの市場規模
▼2.ネットショップを開業するための超基本用語10選
  • eコマース
  • BtoC、BtoB、CtoC
  • ショッピングカート(カートASP)
  • サーバー
  • ドメイン
  • SEO
  • アクセス解析
  • 越境EC
  • アフィリエイト
  • コンバージョン(CV)
▼3.ネットショップの2大形態
  • ショッピングモール型と自社サイト型
  • ショッピングモール型のメリットとデメリット
  • 自社サイト型のメリットとデメリット
▼4.代表的なネットショップ開業サービスの特徴
  • 楽天市場
  • Amazon
  • Yahoo!ショッピング
  • ショッピングASP
  • インスタントEC
▼5.サービス内容ごとの比較
  • 費用や機能、サービス内容
  • 集客のしやすさ
▼6.必要な機材・設備
  • パソコン
  • レンタルサーバー
  • 撮影機器(カメラ)
  • 各種ソフト(画像編集ソフト、セキュリティソフト)
  • 梱包材
  • 電話・FAX
  • プリンター
▼7.必要な知識・スキル
  • IT用語の知識
  • ホームページ作成スキル
  • 接客スキル
  • Webマーケティングスキル
  • 事務スキル
▼8.ネットショップ開業で意識すべきこと
  • Webデザイン
  • 商品写真と紹介文
  • 必要なページを揃える
  • 使いやすいサイト構成
  • 独自ドメインの取得
  • 決済方法の決定
  • 配送方法の決定
▼9.ネットショップ開業までの手順
  • 扱う商品を決める
  • ターゲットを決める
  • ネットショップの形態を決める
  • 必要な許可や届出を確認する
  • 初めて個人事業主になる場合
  • ネットショップの見た目を実装する
  • 商品情報や決済・配送情報などを登録する
  • 購入テストをする
▼10.開業した後にすべきこと
  • 売上目標を定める
  • Web広告(バナー)の掲載
  • メールマガジンの配信
  • SNSでの宣伝
  • キャンペーンや割引の実施
  • データ分析
  • トラブル対応
  • スマートフォン表示の最適化
  • 競合との差別化を図る
▼11.継続的に売上を伸ばし続けるために

 

 

1.ネットショップとは

 

ネットショップとは、インターネット上に構える商品を販売する店舗のことで、すべての売買がインターネット上で行われるものを指す。ユーザーの間では「ネット通販サイト」「オンラインストア」など様々な呼称があり、基本的には全て同義であるが、ビジネスにおいては「ECサイト」と呼ばれることが多い。販売する商品はモノだけでなく、チケットや音楽などのサービス、さらには業務用の商品なども含むため、広義での「ネットショップ」は非常に多くのサイトが該当することになる。

 

ネットショップと実店舗との違い

ネットショップと実店舗との間にはどのような違いが見られるだろうか。

ネットショップと実店舗にはいくつかの違いがみられる。ネットショップは、開店・運用コストが低く誰でも簡単に始められる点や、年中無休24時間営業で全国各地(世界中)からいつでも注文を受け付けられる点において有利であり、ビジネスチャンスの可能性は大いにあるといえるだろう。その一方で、実店舗のように顧客が直接商品を見たり触ったりすることができないため、商品の魅力を伝える写真の撮影や紹介文の作成が重要になってくる。また、ネットショップの存在を知ってもらうための施策や検索順位を上げるSEO対策、メルマガ配信のようなユーザーとの地道なコミュニケーションが必要であったりなど、ネットショップならではの課題があることも覚えておきたい。

 

ネットショップの市場規模

個人・法人共になければならないものとして定着している印象があるが、実際の数値はどうだろうか。経済産業省のデータによると、2019年の一般消費者向け(BtoC向け)のネットショップの市場規模は18.0兆円、業務用(BtoB向け)のネットショップの市場規模は344.2兆円となっており、さらに一般消費者向けは前年比8.96%増、業務用は前年比8.1%増で、ここ8年ほど右肩上がりに拡大を続けている成長市場である。

 

 

2.ネットショップを開業するための超基本用語10選

 

ユーザーとしてネットショップを利用するのと自ら開業し運営するのとでは、非常に大きな違いがある。ここでは、ネットショップを開業・開店するにあたり、初心者がつまずきやすい超基本用語を紹介していく。既に知っている人も多いかもしれないが、抜けがないか今一度確認してみることをおすすめする。

 

eコマース

eコマースはネットショッピングとほぼ同義である。eコマースは電子商取引(Electric Commerce、EC)を省略したもので、インターネット上でのモノの売買全般を指す言葉だ。ビジネスシーンで主に使用される、ネットショッピングよりも少しアカデミックな表現と捉えればいいだろう。

 

BtoC、BtoB、CtoC

いわゆるビジネス用語のひとつで、BはBusiness(法人・企業)、CはConsumer(個人・消費者)を表す。BtoCはBusiness to Consumer、つまり企業が個人消費者をターゲットにしたものであり、BtoBであればBusiness to Business、つまり企業同士の取引を指し、eコマースと組み合わせて「BtoB EC」のように表現される。また、近年では、フリマアプリやネットオークションなどの個人間取引を指すCtoCもメジャーになりつつある。BtoCが大半と思われるが、自分が開業したいネットショップはどれに当たるのか、適切に把握しておきたい。また、「to」の部分を「2」で置き換えB2C、B2B、C2Cと表現されるケースもあるが、意味は全く同じだ。

 

ショッピングカート(カートASP)

ショッピングカートはネットショップの店舗機能を提供するサービスで、「カートASP」などと呼ばれることもある。商品情報をショッピングカートのシステム上に登録し、価格や送料などを設定することで、実店舗における陳列棚からレジの役割までを広く担うものである。インターネットのノウハウや知識が無い状態でも、簡単に実店舗の内装にあたるデザインの設定や商品情報の登録をすることでネットショップを開店できる、非常に便利なサービスだ。

 

サーバー

ネットショップに関する部分に限って簡単に説明するならば、ネットショップで使用するデータが入った「箱」のことである。店舗側があらかじめ商品データなどを箱の中に置いておくことで、ユーザーがクリックしたURLに該当するページを自動でユーザーに表示することができる。しかし、ショッピングカートを利用する場合はサーバーもセットで提供されることが多いため、よく見かける用語の割にあまり意識しないケースもある。サーバーの概念については、予備知識として頭に入れておくといいだろう。

 

ドメイン

ドメインとはインターネット上の住所のようなもので、例えば「https://www.sample.com/」というURLであれば、その中の「sample.com」の部分を指す。この「sample」にあたる部分に店舗の屋号などを自由に当てはめることができ、末尾の「com」にあたる部分にも「co.jp」「ne. jp」などのバリエーションが存在する。また、屋号を当てはめる箇所やその他変更可能な箇所は、ネットショップの形態によって違いがある。店舗独自の文字列を含むドメインを「独自ドメイン」と呼び、他者に利用されていなければ、非常に安価にかつ簡単に取得することができる。「独ドメ」と略されるケースもある。

 

SEO

SEOとは検索エンジン最適化(Search Engine Optimization)を省略したもので、Googleなどの検索結果の上位に表示されやすくするための対策を意味する。検索結果の1ページ目に表示されればそれだけユーザーの目につきやすくなるので、集客効果も期待できる。かつては検索エンジンを騙すようなテクニックが氾濫していたが、最近では検索エンジン側の技術の向上により改善されたため、正攻法が主流だ。検索エンジンは、人間が読んだときに一番ためになるウェブサイトを上位に表示することを目的に設計されているので、「ためになるコンテンツだということを、検索エンジンが理解できる文法でしっかりと伝える」ことが今どきのSEOの本質となっている。

 

アクセス解析

アクセス解析とは、ネットショップにアクセスしたユーザーのデータを解析することをいう。ユーザーがどのサイトから来てどのページからどのページに移動したのか、ページをどの程度スクロールして何秒後にいなくなったのかなどを簡単な設定で取得でき、これらの情報はネットショップの改善やユーザビリティの向上に役立てられる。また、アクセス解析がらみで頻出するUUはユニークユーザー(Unique User)の略で、サイトの訪問者数を示す。同様にPVはページビュー(Page View)の略で、閲覧されたページの総数を示す。例えばUUが1でPVが3の場合は、一人のユーザーが3ページ閲覧したことを表している。

 

越境EC

ここ数年ネットショップ業界を賑わせているキーワードで、海外向けの通信販売、つまり国境を越えたネットショップの総称である。ネットショップで海外向けに商品を販売する場合は、サイトの言語、決済方法、配送手段の3点を準備する必要があるが、それらを提供する越境ECの専門サービスも増えている。このようにサイトを通じて海外で商品を販売することは以前よりも格段に容易になったものの、トラブルへの細やかな対応などの問題もあるためか依然として海外向けの集客・ブランディングは難しく、多くの企業が苦戦している領域だ。

 

アフィリエイト

ネットショップの集客手段の一つとしてかなり前から存在するもので、第三者のブログなどで商品を紹介してもらい、そのサイト経由でアクセスしたユーザーが商品を購入した場合に、その第三者に対して成果報酬を支払う制度のことである。かつてアフィリエイトはネットショップとは切っても切り離せないものであり、アフィリエイトで多額の収入を得るアフィリエイターが脚光を浴びる時期もあったが、ブームが去り効果も上がりにくくなったため、下火になりつつある。アフィリエイトに代わる集客手段として、最近ではコンテンツマーケティングやインフルエンサーマーケティングなどが脚光を浴びている。このようにネットショップの集客手段は、時代と共に大きく移り変わっていくものだということを押さえておきたい。

 

コンバージョン(CV)

ネットショップを開店してしばらくした頃にぶつかりやすい用語が、この「コンバージョン(CV)」である。直訳すると「変換」「換算」となり、EC業界全体において非常に多岐にわたり使用されるため多くの意味合いを持つが、ネットショップに限定して簡単に説明するなら、ユーザーによる商品の購入が成立(≒コンバージョン)したことを指す。また、商品ページを閲覧した100人のユーザーのうち2人が購入した(コンバージョンした)場合は「コンバージョン率(CVR)が2%」のように表現され、他の要素と組み合わせて何らかの目的を達成するための目標値として扱われることが多い。

 

 

3.ネットショップの2大形態

 

ネットショップを開業・開店するためのサービスは、今や星の数ほど存在している。BtoBやBtoCなどのターゲットや、化粧品や食品、衣類など売りたい商品によっても適切なサービスが異なってくるため、自分は何をどのように売って何を達成したいのか、今あるどのような課題を解決したいのかを明確にした上で、目的に合った最適な形態を選択するようにしたい。

 

<参考>

EC業界カオスマップ2020 - ECモール&プラットフォーム編

EC業界カオスマップ2019 - ECサイト構築サービス編

 

ショッピングモール型と自社サイト型

ネットショップの形態には大きく分けて2種類ある。

 

●ショッピングモール型

1つはショッピングモール型だ。これはインターネット上のバーチャルな商店街に複数のネットショップ(テナント)が軒を連ねるような形態のものを指す。分かりやすく例えるならば、百貨店の一角に自分の店を出店するようなものだ。楽天市場AmazonYahoo!ショッピングなどがモール型の代表格である。

 

●自社サイト型

もう1つは自社サイト型である。自社サイトや独自ドメインサイトなどと呼ばれるもので、百貨店内にテナントとして出店するのではなく、独立した自社のショップをインターネット上に構える形態である。分かりやすく例えるならば、路面店のイメージになるだろう。モール型と大きく異なるのは、集客とサイト構築の2点である。モールに出店すれば、モール自体の集客力と集客企画によりネットショップにも一定数のユーザーアクセスが見込める。サイトのデザインはある程度限定されてしまうが、その分簡単にネットショップを開店できるともいえる。これは、実際の百貨店とも極めてよく似ている。

自社サイトは、モールの限定されたデザインに束縛された自由なデザインが可能だ。しかし、サイトの立ち上げから店舗のデザインや設計、構築を全て自身で行う必要がある。と言っても、ネットショップのシステムやデザインなどを1から自作することは容易でないため、大手ショップであってもショッピングカートASP、専用システム構築、パッケージソフトなどのサービスを利用するのが一般的だ。また、集客力が全くないため、集客施策を一切行わないと、本当に1人もユーザーが来てくれないサイトになってしまうこともある。路面店のイメージであれば、誰かしら目の前の道を歩いているものだが、インターネット上の自社サイトではそのようなことは一切ないことを肝に銘じておきたい。分かりやすく例えるならば、広大な砂漠の真ん中に路面店を構えたのと同じ状況になると考えた方が良いだろう。

自社サイトを構築する際によく用いられるショッピングカートASPは企業が提供しているショッピングカート機能をレンタルするサービスである。レンタルのため毎月利用料が発生するが、初期費用を抑えることが可能で、比較的手軽に始められる。MakeShopカラーミーショップフューチャーショップショップサーブなどがそれにあたる。

自社サイトとして開店できるさらに手軽な方法として、BASEStore.jpなどのインスタントECと呼ばれるサービスもある。インスタントECは手数料などが一切かからず手軽に開店できるため、テストマーケティングを望む事業者や、オンリーワン商品を販売する個人事業主など、小規模からネットショップを始めたい人に向いている。

機能・デザイン共にカスタマイズ性が非常に高い、法人向けの専用システム構築サービスというものも存在する。1から自分の望む通りのネットショップ構築ができるが、その代わり数百万~数千万円の莫大な資金が必要となる。コマース21ecbeing(イーシービーング)ECキューブ、などがこれにあたる。

パッケージソフトは、ネットショップに必要な機能が一通りパッケージされた買い切りソフトである。自分でレンタルサーバーを借りる必要はあるが、オールインワンのためこれ1本でほぼ完結でき、ホームページ制作ソフトを扱うような感覚で容易に作成できる。しかし、買い切りのためバージョンアップは手動で行う必要があり、そのためには多くの時間と資金が必要となる。ホームページ・ビルダー21などがこれにあたる。

 

ショッピングモール型のメリットとデメリット

ショッピングモール型のメリットは、なんといっても集客力の高さである。国内では楽天とAmazonがアクセス数・流通総額共に上位を占めており、ネットショップ業界の二大巨頭といえるだろう。買いたいものをインターネットで検索する場合も、モールが検索結果の上位に表示され、自社サイトがどんなにSEO対策をしてもモールには敵わないケースが非常に多い。また、多くのユーザーはモノを買うときに検索エンジンを使用せず、使い慣れたモール内の検索窓にキーワードを打ち込む。モールにショップを構えれば必ず儲けられるという訳ではないが、買い手がショップを訪れる可能性が自社サイトよりも遥かに高いことは間違いない。

一方のデメリットは、費用(特にランニングコスト)が高くなってしまう点である。しかし、モールにショップを構えることによってある程度の集客力や手厚いサービスが手に入るため、仕方のない部分も多い。また、モール内で広告を出さなければ思うように集客できないことも多く、さらに費用が嵩むケースがほとんどだ。

また、モール自体のアクセス数は多いものの、個々のショップ自体は目立ちにくくなる。なぜなら、ショップのデザインがある程度テンプレートで決められているため、店舗の個性を出しにくいからだ。せっかく自分のショップで商品が購入されても、ユーザーには「そのショップで買った」よりも「Amazon(楽天)で買った」という認識の方が強く残ってしまう。これでは、リピーターを獲得することは難しい。

また、購入履歴のあるユーザーのものであっても、顧客情報をマーケティングで活用する場合はさらに費用がかかるケースが多く、自由に活用することも禁止されている。

 

<参考>

【2018年EC流通総額ランキング】国内15・海外18のECモール・カート・アプリの流通総額から見る市場トレンド

 

自社サイト型のメリットとデメリット

自社サイト型と言っても形態毎に実は細かい違いがあるが、ここでは共通するメリットとデメリットを紹介していく。

自社サイト型のメリットは、サイト内での競争が起こりにくく、一度ショップを目に留めてもらえさえすれば、自社の商品だけに注目してもらえるという点である。また、買い手との距離が近く、「ショップで購入した」という認識がモールよりも強く残るため、リピーターを(モール型よりは)獲得しやすいといえる。また、自身の開店準備負担が大きい分、運用時の費用面は比較的安く済む。ネットショップを開店しただけでは集客力はほとんどないが、浮いたお金を広告費に回したり、ショップのデザインに凝ってみたりなど、工夫をすることはできる。

デメリットとしては、やはり集客力に乏しいということである。例えば、自社サイト上でパソコンを販売しようと考えたとする。しかし、買い手が「パソコン」と検索した際にヒットするのはAmazonや楽天といったモールや大手家電量販店ばかりで、それ以外の自社サイトはなかなか見当たらない。自社サイトは、楽天などのモールとは異なり、商品名などから探してもらうことはできないのだ。つまり、ショップ名で直接検索されない限り、来店すらしてもらえないのである。これがよく「自社サイトは集客が非常に難しい」と言われる所以だ。しかし、ショッピングカートASPでは、自社サイトでも集客力を向上させるためのサービスが利用できるものもある。例えばMakeShopでは、追加料金を支払えばMakeShopを仲介してYahoo!ショッピングに出品できる機能を提供している。他にも、カートにより様々なサポートが用意されている。

集客力の乏しさが悪目立ちしてしまう自社サイトではあるが、自社サイトでの開業が最適解となるケースもある。それは、実店舗で成功しており、ある程度の知名度を得ている場合だ。知名度さえあれば、モールの集客力を借りなくてもショップの名前を直接検索して来店してもらうことができる。その上、ネットショップに陳列された商品はユーザーにとって見慣れたものであるため、消費者の購買力が下がることもない。これらの条件が揃っているのであれば、自社サイトは低価格で運営できるため、利率が上がる可能性も高くなる。

 

<参考>

ECをはじめたい!ときの選択肢 - 7つのプラットホームの存在を理解しよう

 

 

4.代表的なネットショップ開業サービスの特徴

 

ネットショップ開業サービスを選ぶポイントは、「資金に余裕があるか」「実店舗を所有しているか」「売る商材がオリジナルのものであるか」の3点だ。自社の状況と各サービスの特徴を照らし合わせてサービスを選択するべきだろう。

簡単なチャートを用意したので、いくつかの質問にYesかNoで答えて適切な開業サービスを見つける手がかりにしてほしい。

 

楽天市場

30万円以上の資金があり集客に力を入れたい場合や、モール型でも自分でカスタマイズしたりプロに任せてオリジナリティを出したい場合、ターゲットを高めの年齢層に設定している場合におすすめなショッピングモールだ。開店までは比較的時間もかかり、ショップの申請や審査に4週間~2か月程、デザインをプロに依頼するのであればさらに制作期間がプラスされる。費用面については、デザインを自分で行うなら無料~月額3,980円ほど、トップページや商品ページの制作をまとめてプロに依頼する場合は外注プランが70,000円から利用できる。また、出店者向けの楽天RMSサービススクエアには250以上の支援サービスが揃っているので、必要に応じて活用したい。

 

Amazon

モール型の中でもシンプルな機能を持つAmazonは、小口か大口かによって料金や特性が変わってくる。

小口の場合は購入があって初めてAmazonへの支払いが発生するため、ほとんど資金がなくても利用できる。自社のオリジナル商品を販売するのではなくすでに出回っている商品を販売したい、集客力が欲しい、ターゲットが若年層の場合などにおすすめなショッピングモールだ。

大口の場合、小口サービスとは異なり月額4,980円がかかってしまうものの、出品の手順が簡易化される。さらにデータ分析レポートが利用できるため、マーケティングを行いやすいという利点がある。小口サービス同様、集客力が欲しい場合や若年層がターゲットの場合に適しているが、こちらは自社のオリジナル商品を販売したいショップにおすすめ。

出品用アカウントは約15分で作成できる。Amazonですでに販売されている商品なら個数と価格を入力するだけで出品でき、新たな商品もシンプルな手順で出品可能である。デザインで個性を出すことはほとんど出来ないが、そのシンプルさが売りともいえる。

 

Yahoo!ショッピング

2013年10月に「eコマース革命」という新ビジネスモデルを導入したYahoo!ショッピングは、個人・法人関係なく初期費用・毎月の固定費・売上ロイヤリティが無料のため、資金が少なくても利用できるのが特徴のショッピングモールだ。集客力が欲しい、デザインである程度の個性を出したい、ターゲットの年齢層が高めの場合におすすめ。また、法人・個人事業主の場合のみ、顧客メールアドレスを自社のマーケティングで活用することができる。申し込み自体は15~20分で完了でき、契約審査に約2~10営業日、開店準備に約3週間、開店審査に約2営業日ほどかかるため、申し込みから概ね1か月前後で開店可能。注意点としては、キャンペーン原資負担量やアフィリエイト利用料、決済サービス利用料は無料でないのでこれらの手数料がかかる点と、出店ストア数が多いため競争率も高いという点である。

 

ショッピングカートASP

自社サイト型の中では比較的手軽で、5万円以上の資金があれば導入できる。すでに実店舗があり、一定数のリピーターを確保できている場合におすすめだ。豊富なテンプレートの中から自分でカスタマイズして個性を出すことができ、個人差はあるものの、1日でショップを開業できたという体験者の声もある。また、サポート体制が充実しているところが多く、事前にサポートをしっかり受けてから開店するということも可能なようだ。ショッピングカートASPには多種多様なサービスが存在しているので、こちらで一覧化している。サービス選びで迷った際は活用してほしい。

 

インスタントEC

自社サイト型の中では最も手軽なもので、資金がほとんどなくても導入できる。実店舗においてある程度の知名度を得ており、自社オリジナルの商品を販売したい場合におすすめだ。また、知り合いだけに販売したい、インスタなどでフォロワーが沢山いる、などのケースでも手軽に販売が開始できるため活用されるケースが多い。デザインは豊富なテンプレートの中から選び、必要に応じてカスタマイズできるので、多少ショップの個性を出すことも可能である。ネットショップ初心者向けのコンテンツや集客・販促機能も提供されており、必要であれば追加で有料サービスを利用することもできる。

 

インスタントECやAmazonの小口サービスは、商品が売れて初めて費用の支払いが発生するため、開業資金に余裕がなくてもネットショップを開店することができる。しかし、ただ出店するだけで商品は売れないため、利益獲得のために広告費などにある程度の資金を費やすことが必要になってくる。

 

 

5.サービス内容ごとの比較

 

それでは、いくつかの項目に分けて代表的なサービスを比較してみよう。表にないサービスについて詳しく知りたい方は、以下の記事も合わせて参照してほしい。

 

<参考>

EC業界カオスマップ2019 - ECサイト構築サービス編

EC業界カオスマップ2020 - ECモール&プラットフォーム編

 

費用や機能、サービス内容

自社サイト型、ショッピングモール型の中から主要なサービスをピックアップし、それぞれの初期費用、月額費用、最大出品数、独自ドメイン、ショップのカスタマイズ等を比較してみる。

 

まずは費用を見てみよう。楽天は一律6万円、MakeShopはプランに応じて1万円からの初期費用がかかるが、Amazon、Yahoo!ショッピング、BASEでは初期費用はかからない。楽天とMakeShop、そしてAmazonの大口サービスに関しては月額費用が発生するが、Amazonの小口サービス、Yahoo!ショッピング、BASEにおいては月額費用の概念はなく、売れた商品数に応じて手数料などを形態だ。

サイト上に展開できる出品数については、5,000個~無制限となっており、基本的には問題になるケースはそれほど多くないだろう。MakeShopの小規模ショップ向けプランであるビジネスショッププランが上限100個となっているが、プレミアムショッププランであれば特に気にする必要はない。また、Amazonの小口サービスは大口サービスと異なり一括出品ツールが使えないという別の制限があるため、少ない商品数を前提に作られていることは覚えておきたい。

独自ドメインは自社サイト型であれば利用できるが、モール型では設定することができない。モール自体のドメインの後ろに、屋号としてショップ名の文字列を使用するケースがほとんどである。この点は集客のしやすさとトレードオフになっていると考えた方がいいだろう。

カスタマイズは、楽天は追加料金を支払うことで制作支援ツールやデザインテンプレートが使えたり、プロにページ制作を依頼することもできる。しかし、Amazonはショップのページではなく商品ごとに各ショップをまとめて表示する形式のため、デザイン面でのアレンジは一切できないと考えた方が良いだろう。言い換えると、ある1種類の商品のみを販売できる1つのスペースがあり、それぞれのショップ(出品者)がそのスペースに集まり、独自に設定した値段で販売しているようなイメージである。

現在、スマートフォン・モバイル表示についてはどのサービスでも対応しているので、そこまで大差はない。決済方法もデフォルトでクレジットカードや銀行決済など一通り対応しているため特に不便はないが、サービスやプランごとに対応状況に違いがあるため、特定の決済方法を利用する場合はあらかじめ確認するようにしておきたい。

 

集客のしやすさ

続いて、同じく、自社サイト型、ショッピングモール型の中から主要なサービスをピックアップし、それぞれの利用者数、店舗数、流通総額等のデータをもとに、集客のしやすさを考えてみる。

 

利用者数については条件が統一されていないため単純に比較できるものではないが、楽天、Amazon、Yahoo!ショッピングといったモール型がやはり強い。店舗数は87万店舗を超えるYahoo!ショッピングが頭一つ抜けているが、これは初期費用や月額などが無料で出店可能になった「eコマース革命」の影響が強いだろう。また、BASEの70万店舗が目を引くが、無料で開店できるインスタントECという特性上、開店休業状態の店舗も多数あることが推測される。流通総額は楽天が3兆4,310億円、Amazonが2兆7,513億円となっており、Yahoo!ショッピングの7,314億円を大きく引き離している。これらを総合すると、楽天は店舗数に対して会員数・流通総額共に大きいため、AmazonやYahoo!ショッピングよりもユーザーに注目されるチャンスが多いといえるだろう。

 

<参考>

【2019年最新版】国内のECサイト・ネットショップの総稼働店舗数

【2018年EC流通総額ランキング】国内15・海外18のECモール・カート・アプリの流通総額から見る市場トレンド

 

 

6.必要な機材・設備

 

ネットショップは実店舗がなくても開業できることが大きなメリットだが、それでも最低限の機材や設備は必要になってくる。ここでは、自身で用意するべき機材や契約が必要なサービスについて見ていこう。

 

パソコン

大前提として、パソコンやスマートフォン、タブレットなどのインターネットに接続するための端末機器が必要である。スマホでもできないことはないが、様々なケースに対応するためにも、大きな画面で操作しやすく機能が豊富なパソコンを用意したい。時には、制作したネットショップを自分のパソコンやスマホで回遊しチェックしてみることも大切だ。

 

レンタルサーバー

自社サイト型で運用する際に契約が必要となる。レンタルサーバーには大きく分けて「専用サーバー」と「共用サーバー」の2種類があり、ショップの規模や予算に応じて適切な方を選択する。専用サーバーは1台のサーバーを丸ごと使えるため大容量で通信も安定するが、その代わり費用が高い。共用サーバーは1台のサーバーを複数のユーザーが分割して使うもので、費用が安く済む分容量は少なめで、場合によっては通信が安定しないこともある。

 

撮影機器(カメラ)

商品を手に取って見ることのできないネットショップにおいて、商品の写真は購入に際して最も大きな判断材料となる。細部まで確認できるよう写真にこだわったり、商品の活用シーンが想像しやすいよう凝った写真を撮ったり、サイズ感が伝わりづらい場合は商品情報欄で寸法などを補足することも有効。写真のクオリティが重要になるため、プロのカメラマンに依頼をしない場合は、最低でもコンパクトデジタルカメラか、可能であれば一眼レフカメラを用意しておきたい。

 

各種ソフト(画像編集ソフト、セキュリティソフト)

カメラで撮影した写真は、そのままサイトに掲載するだけでは無機質になる。そのため、写真に訴求文や、個数・サイズなどの情報を付加する必要がでてくるが、その際に画像編集ソフトを利用する。また、ネットショップでは、商品をネット上で決済したりユーザーの住所に配送するなどのプロセスがあるため、顧客の個人情報を保護するためのセキュリティソフトは必須である。トラブルを未然に防ぐためにも、インストールを徹底するようにしたい。

 

梱包材

配送による商品の受け取りで取引が完了するネットショップにおいて、梱包材は顧客満足度を高めるための重要な要素である。割れ物であれば緩衝材を使用して万全の注意を払ったり、箱の中で内容物が移動しないようにテープで固定するなどの対応はもちろん、常に丁寧な梱包を心がけておきたい。また、ショップのデザインと梱包材のデザインを統一することで、ブランディング効果も期待できる。梱包配送業務は慣れない場合はアウトソースすることもおススメする。

 

<参考>

ECサイトの梱包発送業務をアウトソースする際の分かりやすい4つの判断基準

 

電話・FAX

インターネット上で一通り完結できるネットショップであっても、仕入れ先や各業者とのやりとり、ユーザーからの問い合わせ・クレーム対応には電話やFAXが必要となることが多い。特にユーザーの問い合わせ窓口はメールが基準になりつつあるが、状況によっては電話の方が適している場合もあるので、メールと電話の両方を用意しておくのがベストだろう。

 

プリンター

かつては領収書や請求書、納品書などを印刷するためにプリンターが必要だったが、現在ではPDFでやり取りするケースも増えている。例えば、モールによってはユーザーに対する紙の領収書の発行は必ずしも必須ではなく、ショップの方針に任せられているところもある。迅速な対応が可能になると同時に経費削減にもつながるため必須の設備とは言い切れないが、必要になった際の対策は考えておく必要があるだろう。

 

 

7.必要な知識・スキル

 

実はネットショップを開業し運営する際に最も重要な要素は、商品でも、選択するプラットフォームでもなく、知識やスキルである。ネットショップの運営には、実に多くのスキルが必要になる。ついつい商品を売る環境をインターネット上に設置するだけ、と思い込みがちであるが、多くの消費者を集客するため、そして取引の中で買い手の信頼を得るためにも、欠かせないスキルが多くある。

 

IT用語・業界の知識

ネットショップを開業・運営するための基礎となるものだ。記事冒頭で必要最低限の用語をリストアップしているが、トレンドの流れは非常に速く、情報の更新も頻繁にある業界のため、可能な限り日頃からアンテナを張り巡らせておくのがベストである。

 

ページ作成スキル

店舗のデザインや使い勝手の良さは、売り上げを伸ばす上で非常に重要である。モール型全般と自社サイト型の一部はテンプレートによってデザインやレイアウトがある程度決められてしまうが、ページのどの部分にどのコンテンツを配置すれば興味を持たれやすいかなど、細かい部分に配慮することで違いが出てくる。HTMLのプログラムのコーディングを完璧にこなす必要はないが、商品の魅力をユーザーに伝えるためにはどのようなことを配慮するべきか、どのようなことが使用しているプラットフォームだと可能か、などの知識は持っておいた方が良いだろう。

 

接客スキル

インターネット上での商売であっても、実店舗と同じく、買い手に対する接客はしっかり行うものだ。顔が直接見えないからこそ、この接客と言う考え方は非常に重要になってくる。商品に関する問い合わせや、不良品に関するクレームを受けることもあるだろう。こういった際の迅速かつ適切な対応がショップの信用度につながり、レビューなどのユーザー評価やリピーターの獲得に影響するケースもある。少なくとも、不良品が届いた場合など、想定される事態に対してあらかじめ対処方法を決めておき、スムーズに対応できるよう準備しておきたい。

 

Webマーケティングスキル

自社の商品はどのような人(≒ターゲット)が買いたいと考えているのか。そしてそのようなターゲットがいるところにどのようにリーチしていけばいいのか。そして、そのどのような見せ方をすることが効果的なのか。このようなことを考えて実行することはネットショップ運営では非常に重要となってくる。商品に興味を持ってくれるであろうターゲットにネットショップのこと、そして商品のことを知ってもらうために、インターネットを活用したこのようなWebマーケティングスキルが必要となる。

 

事務スキル

ネットショップの運営は思った以上に、様々な事務作業が発生するものだ。主な業務は、売り上げ管理、在庫や取引量を把握したうえで商品の受注対応を行う受発注管理、商品の梱包・配送業務、ネットショップやブログなどの更新・運営を行うサイト管理、ユーザーの問い合わせやクレームに対応するサポート業務などが挙げられる。これらの業務をネットショップ運営を行っているメンバーでしっかり役割分担を行っていく必要があるだろう。ただ、注文数が少ない時は自身でこれらの事務作業を行うことも可能だが、注文数が増えるにしたがって負担も大きくなる。そのため、効率よくネットショップを運営するためには、外部業者によるアウトソースサービスの活用は積極的に検討していくべきだ。

 

<参考>

ECサイトの梱包発送業務をアウトソースする際の分かりやすい4つの判断基準 - やるべき業務に集中するための指針

ECサイト運営業務を5つに大別して整理してみた - 事業者が注力すべき業務と、効率化・アウトソースすべき業務

 

 

8.ネットショップ開業で意識すべきこと

 

ネットショップの開業とその運営には、実店舗の経営とは異なるノウハウが必要になってくる。例えば、ネットショップは実店舗のように立地場所が固定されているわけではないため、ユーザーに覚えてもらうためにも読みやすく、検索エンジンで検索しても簡単に特定できるような特徴のあるショップ名を付けた方が利益に結び付きやすいなどだ。このような要点を以下にまとめておく。

 

Webデザイン

ショップのデザインは、パッと見たときの印象だけでなく取り扱う商品のイメージやショップの信頼度にも関わるため、実店舗の内装以上に重要な要素である。これらは商品の売り上げにも大きく関係するので、ホームデザインや使いやすさを工夫し、バナー上でユーザーに伝えたいイメージを適切に訴求することが求められる。ある程度の売上獲得を視野に入れるのであれば、クオリティを高めるために、WebデザインのプロであるWeb制作会社に依頼する必要もあるだろう。

 

商品写真と紹介文

商品を手に取って見ることのできないネットショップでは、商品の魅力が実物と相違なくユーザーに伝わるよう、写真と紹介文を工夫することが重要となる。商品写真をカメラで撮影するのに加え、画像編集ソフトを活用して色合いなどを実物に近付けたり、魅力的に見えるよう加工(レタッチ)するのも有効だ。資金に余裕があるならば、商品をよりイメージしやすくするためにプロのカメラマンに撮影を依頼したり、モデルを起用するのも効果的である。

 

必要なページを揃える

ネットショップの顔となるのがトップページである。検索からやってきた場合など、中にはトップページを経由せずに買い物をするユーザーもいるが、ショップの印象を大きく左右する大切な要素であることに変わりはない。トップページが整っていても商品ページが丁寧に作られていないとユーザーは違和感を覚えてしまうので、トップページと商品ページのどちらもバランスよく作り込むことを心がけよう。また、特定商取引法に基づく表記のページが法律上必須となっており、プライバシーポリシー、会社概要などもユーザーに安心して買い物をしてもらうために必要である。次に、ユーザーが疑問を解決する手助けとなるFAQやお問い合わせフォームも、オンライン上で買い物を完結するネットショップには欠かせない。この中では優先度が低くなってしまうが、ただ買い物ができるサイトというだけでは埋もれてしまうため、ユーザーの興味を引ける特集ページやお役立ち情報などもできるだけ用意すべきだろう。

 

使いやすいサイト構成

サイト構成は、ユーザーが目的ページに到達するまでのアクションをできるだけ減らせるよう、トップページをいくつかのカラムに分けて各ページへのリンクを設置するやり方が主流である。サイト上部もしくは左カラムは目に付きやすいので、すぐに買い物ができるようシーズナル商品や商品カテゴリ、特集ページやお役立ち情報などへのリンクを設置し、特定商取引法に基づく表記やプライバシーポリシーといった使用頻度の低いページはサイト下部のフッター付近もしくは左カラムの下部に設置するケースが多い。ショッピングモール型であれば、必要なページや使いやすいサイト構成がまとめてテンプレートで用意されているので、中身となる情報を組み込んでデザインなどの見た目を整えれば誰でもスタートラインに立てるようになっている。そういった意味でも、ネットショップ初心者にはモール型が扱いやすく、おすすめといえる。

 

独自ドメインの取得

ドメインとは先述の通りインターネット上の住所にあたるものだが、ネットショップを自社サイト型で運用する場合は「独自ドメイン」の取得がほぼ必須となる。なぜなら独自ドメインには、有効なSEO対策になるという大きなメリットがあるからだ。Google検索結果で表示される同一ドメインのページは数に制限があるほか、取得したドメインを長く使い続けることで検索エンジンからの評価も高まることから、独自ドメインの方が有利に働くケースが多いのである。

 

決済方法の決定

決済方法は多数あるが、クレジットカード決済、コンビニ決済、キャリア決済、代引き決済(代金引換)などが主流である。ここ1~2年では、後払い決済やID決済、さらにはスマホ決済などの利用も盛んになってきており、その選択肢は増える一方だ。調査によると、買い手の希望する決済方法が選択できない場合、6割以上の人々が他店舗で同じ商品を探して購入するという。10代ではコンビニ決済の割合が他の年代と比べて高かったり、サービスによっては後払いなど一部の決済が制限されるケースもあるため、決済方法の決定は商品特性とターゲットを踏まえた上で慎重に行うようにしたい。

 

<参考>

EC業界カオスマップ2019 - EC決済サービス編

ECサイトで利用したい決済手段がなければ62.5%のユーザーが購入せず

 

配送方法の決定

配送方法には、大きく分けて「メール便」と「宅配便」の2種類がある。メール便は到着するまで3~5日ほどかかるが低価格で、ポストに投函されるため時間を問わず配送が可能だ。しかし、日時・時間指定や代引き決済には対応できず、ポストに投函された品物がなくなってしまった場合の補償がないため、信用に欠けるデメリットがある。一方、宅配便は到着が早く、日時・時間指定や代引き決済が可能だが、配送業者が買い手に直接手渡しするという特性上、場合によっては受け取りロスが発生するのがデメリットといえる。

また、宅配便サービスもヤマト、佐川、日本郵政など複数のサービスが存在している。それぞれのサービスによって価格もサービス内容も異なってくる。ネットショップにとって配送というのは、唯一のお客様接点とも言えるためこれらの選択肢は慎重に検討していきたい。

 

<参考>

【徹底解剖】EC物流を根底から覆す!全11のクラウド型物流サービスとその選び方

EC業界カオスマップ2019 - 物流サービス編

 

 

9.ネットショップ開業までの手順

 

ネットショップに必要な環境や機材、スキルについて把握したところで、実際に開業するまでに必要な手順を解説していく。ネットショップ開業という大まかな目的を具体的な方法に落とし込み、そこから広げていくことで、開業だけでなく立ち上げたあとの運用イメージも掴みやすくなるだろう。

 

扱う商品を決める

まず最初に、開店時に並べる商品やメインで取り扱いたいものを明確にする。ショップとしてある程度の品揃えは求められるため、複数リストアップしておき、後から必要に応じて適宜調整するのがよいだろう。既製品を扱うのか、自社製品を扱うのかなど、取り扱う商品によって適切な出店先やネットショップ形態が変わってくる場合もあるので、可能な限り具体的に決めておくことを推奨する。

 

ターゲットを決める

商品だけでなく、ターゲットを明らかにすることで、そのショップにおける接客や集客などの方針を固める手助けになる。例えば、「手頃で上質な皮革製品を好む20~40代くらいの社会人男性」などだ。そうすれば、これをもとに今後取り扱うべき商品も想定しやすく、ショップの見た目やメールマガジンの雰囲気なども自然と定まってくる。どのようなターゲットに対し、どのような商品をどのように売っていきたいのかに加え、ユーザーにPRするショップのコンセプトも合わせて決めるとよい。

 

ネットショップの形態を決める

一定以上の規模を持つ企業は別として、多くの場合、楽天市場やAmazonなどのショッピングモールか、手頃なショッピングカートASPを利用することになる。前述の通り、ネットショップ開業サービスごとにそれぞれメリット・デメリットがあるため、商品やターゲットを踏まえて適切なサービスを選定する。モールは月額費用がかかるが集客面において利があり、無料のカートASPは手軽に始められる分、別途集客を行うケースがほとんどだ。どこに予算をかけるかの違いになってくるので、予算配分という要素も考慮しよう。また、自社サイト型のネットショップを構築する場合は、それに伴う独自ドメインの取得やレンタルサーバーの契約も必要となる。

 

必要な申告や届出を確認する

ネットショップにおいても、実店舗と同様に手続きが必要になってくる。すでに実績のある企業がECに展開するケースがほとんどのため忘れられがちだが、ネットショップで初めて起業する人や個人ベースでの開業を考えている人にとっては必須の項目だ。個人であっても、条件によっては1か月以内に個人事業主の届出が必要になる場合があるので、税理士や司法書士などに相談しておきたい。

 

初めて個人事業主になる場合

前項と関連するが、初めて個人事業主になる場合は開業届を提出する必要がある。開業届は正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、原則として開業から1か月以内に税務署に提出することが定められている。また、開業届を提出することで個人事業主としての証明になるほか、ネットショップ名義で口座を開設できる、確定申告の際に節税面で有利な青色申告を選択できるようになるなど、手間はかかるがメリットも大きい。この青色申告を利用する場合、開業から2か月以内に「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があるが、提出忘れや二度手間を避けるなら開業届と同時に提出しておくのがよいだろう。売上が大きいほど青色申告の節税効果は高まるものの、副業の場合は青色申告の審査が通らないケースもあるため、青色申告についてはネットショップをしばらく運営してから決定するというのもひとつの手だ。開業届・青色申告ともに申請用のPDFファイルは国税庁のWebサイトでダウンロード可能となっており、記入し終わった書類の提出は税務署への持参または送付で受け付けている。

 

ネットショップの見た目を実装する

ショップの顔となるデザインを実装し、システムを通して形にするステップである。ショッピングモールやカートASPの仕様にはそれぞれ固有のクセがあるため、HTMLやCSSの知識があっても慣れるまでに時間がかかることが多い。デザインや見た目などのクオリティはショップのイメージに直結するので、必要であれば制作をアウトソースすることも検討すべきだろう。

 

商品情報や決済・配送情報などを登録する

デザインなどの見た目とあわせて、ネットショップの中身となる商品情報や決済・配送情報を登録する。特にモールでは商品ページの見た目が画一的になりやすいため、商品の魅力を伝えるために可能な範囲で工夫する必要がある。また、特定商取引法に基づく表示や利用規約、店舗情報、自動返信メールの内容など、商品登録以外で設定が必要な項目も意外と多い。もれのないよう確認しておこう。

 

購入テストをする

ネットショップの準備が完了したら必ず購入テストを行い、登録した情報や自動返信メールなどが正しく動作しているかを確認する。ユーザーにとって必要な情報が記載されているか、注文に関する問い合わせが届いた場合の対応フローなど、ネットショップで想定される様々な状況を想定してチェックを行う。また、PC上では問題ないように見えても、スマホで確認したところ表示崩れや不具合があったというケースも珍しくないので、PCとスマホの両方で確認することが望ましい。

 

 

10.開業した後にすべきこと

 

ネットショップは、インターネット上に店舗を開店しただけで終わりではない。利益を得るためには、無数にあるショップの中から買い手に見つけてもらうための集客対策が必要となる。ここでは、ネットショップにおける一般的な宣伝や呼び込み方法について紹介していく。

 

売上目標を定める

ネットショップで継続的に利益を得るには、まず適切な売上目標を設定する必要がある。目標を数値化することで具体的な施策に落とし込みやすく、PDCAを回しながら改善するのが容易になるからだ。売上は「来訪者数x購入割合(コンバージョン率)x客単価」の式で求められ、単純に考えればネットショップ来訪者数やそれに対する商品の購入率、購入者の平均単価を増やせば向上させることができる。しかしながら、売上目標の設定はこれまでの利益や売上をベースにして考えるため、これからネットショップを立ち上げる段階、特に小規模スタートの場合は必ずしも最初から厳密に決めておく必要はない。始めのうちは最小目標額と最大目標額の2点を大まかに設定しておき、結果が出た段階で「売上=来訪者数x購入割合x客単価」の式に当てはめ、どの部分に絞ってどのような施策を行い改善していくかを検討するとよいだろう。改善するための具体的な方法は、以下の各項目を参考にしてほしい。

 

Web広告(バナー)の掲載

広告の表示方法は、モール型と自社サイト型で大きな違いがある。モールの場合は、追加料金を支払うことで「モール内広告」が利用できるが、自社サイトにはそのような機能が存在しないため、YahooやGoogle、さらにはFacebook等と契約して広告を掲載してもらう必要がある。リスティング広告、リターゲティング広告、SNS広告、アフィリエイトなどが代表的だ。

 

メールマガジンの配信

メルマガは最も古くから行われているオンラインのマーケティング手段の一つではあるが、現状でも依然として効果がある手法だ。とは言え、みなさんも毎日何通もメルマガを受け取っているように、多くのメールの中に埋もれてしまい、過度な期待も出来ない点も理解しておきたい。楽天やAmazonなどのモールでは、メルマガの送信はそのモールのルールに沿って行う必要があり、例えばAmazonの場合は出品者がメールを作成する必要がなく、ユーザーの閲覧履歴をもとに興味があると推測されるショップの宣伝が自動で送信されるようになっているが、メルマガの開封率自体あまり高くないのが実情だ。モール型以外のネットショップでは自由にメルマガの送信が可能だが、開業当初は送信する宛先は1つも無い状態からのスタートとなる。このように制約が多い点もあるが、可能な限りメルマガ配信は行っていくべきだろう。

 

<参考>

eメールマーケティング誕生から40年。その未来とは

 

SNSでの宣伝

多くの人々がTwitterやFacebook、InstagramなどのSNSを利用している。公式アカウントを活用した宣伝や情報提供を行っているところも多く、リツイートやシェアによりさらなる集客も期待できる、時代に適した宣伝方法の1つである。しかし、つぶやきによる宣伝だけではなかなか効果が出にくいので、有料の広告を利用することも視野に入れておきたい。

Facebookでは広告費を自分で設定することができる。広告は画面右上のサイドメニューまたはタイムライン上に表示され、広告を表示するターゲットを細かく指定できるのが特徴である。Twitter広告では1日あたりの予算を設定することが可能である。Twitter広告では1日を通して均等に配信するための目安は日予算にして3,000円程度とされている。広告はタイムライン上に表示される。Instagramでは、写真広告以外にもストーリーズ広告という15秒程度の動画を利用できるのが特徴。Instagram自体が写真・動画を主軸にしたものであるため、商品の魅力を美しい写真で伝えられる商材には特に適しているだろう。20~30代の女性の利用率が高いことで知られている。

 

キャンペーンや割引の実施

ユーザーの興味を引くためには、期間限定のキャンペーンや割引セール、クーポンなどを企画することも大切である。同じ商品をずっと同じ内容・同じ価格で並べるだけではなかなか注目されないが、期間限定キャンペーンを実施することで「お買い得ならちょっと見てみよう」というユーザーを引き込み、商品について知ってもらうきっかけが作れるからだ。

例えば楽天には、モール内の自店舗でのみ利用できるRaCoupon(ラ・クーポン)という販促サービスがある。定額値引き、定率値引き、送料無料の3種類から選択可能で、割引額や割引額も店舗側が設定できる。発行するための費用は発生しないが、クーポンを利用して購入された場合には、クーポン使用後の価格の2%が追加徴収される。

 

データ分析

売り上げを伸ばすためには、各種データから情報を読み取ることが必要不可欠である。どのような年代のどのような人がどのくらいショップに来店しているのか、どのようなキーワード検索で来店しているのかといったデータを分析し、問題点をその原因から改善していくことが重要だ。サービスによってはデフォルトである程度の分析機能がついていたり、追加料金を支払うことで利用できるものもある。

 

<参考>

【保存版】 ECサイトのアクセス解析・データ分析レポートに盛り込むべき10の視点 (前編)

 

トラブル対応

インターネット上で売買をする以上、買い手とのトラブルはつきものである。発送の遅れや商品の不備など理由は様々だが、対応ひとつでショップの評価が大きく変わってしまうため、開業後も必要に応じて随時改善していく必要がある。可能であればマニュアル化するなどして、常に迅速かつ適切な対応が取れるよう万全にしておきたい。

 

スマートフォン表示の最適化

ネットショップを利用する際のデバイスは、スマホが74%以上を占めるというデータがある。スマホでもストレスなく快適にサイトを閲覧できる「モバイルファースト」という概念が定着しつつあるので、今後は特に意識する必要があるだろう。今ではほぼ全てのサービスがスマホでの表示に対応しているが、スマホ用のページはPC用のページよりも優先度が低く、何かと後回しになりがちである。スマホの小さな画面でも快適な買い物ができるよう、開業後も改善を心がけていきたい。

 

<参考>

EC利用時のデバイスはスマホが74%、EC系アプリは50%以上のユーザーにインストール

 

競合との差別化を図る

現在のネットショップは競合の多い市場であるため、競争率の高さは踏まえておくべきだろう。そんな中で競合と差別化し事業を成功させていくためには、ショップ内の商品ページの内容を充実させ商品の魅力を伝えるのはもちろんのこと、その上でWebマーケティングに力を入れる必要がある。どんなにいい商品だったとしても、肝心のターゲットに届いていなければ意味がないからだ。また、ネットショップは少ない初期費用で手軽に開業できる反面、開業後の集客にコストがかかる傾向にある。競合の多さは必ずしもマイナスに働くわけではないので、活気のある市場として捉え、数多く提供されている支援サービスの導入やWebマーケティングの専門家に相談することも念頭に置き、運営を続けていくようにしたい。

 

ネットショップは比較的開業しやすいものであるが、安定した運用を続けるにはそれなりの作業が伴ってくる。人手不足を解消するための運営代行サービスや、さらに上を目指すためには更に行うべきことが増えていく。それらをしっかり考えながら、長期的な視点での運営を行うことができる体制を築いていきたいものだ。

 

<参考>

EC業界カオスマップ2019 - コンサル・運営代行編

サイトで成果をしっかり上げていくために必要なPDCAサイクルの回し方

【鉄則】モールで月商100万円を目指すために行うべきこと(前編) - 楽天・Yahoo!ショッピングの基本運用ステップと顧客認知獲得

【鉄則】モールで月商100万円を目指すために行うべきこと(後編) - 楽天・Yahoo!ショッピングのページ作成と日々の業務

【まとめ】主要3ショッピングモールのSEOの現状と対策 - 楽天・Amazon・Yahoo!ショッピング内での上位表示はどのように実現できるのか

 

 

11.継続的に売上を伸ばし続けるために

 

ネットショップ業界は今もなお拡大を続ける成長市場であり、企業ベースのネットショップはもちろん、フリマアプリなどによる個人間取引も活発になっている。誰でも気軽にネットショップを持てる時代になりつつある今、自宅にいながらスマホでできるネットショッピングはさらに身近な市場になっていくだろう。無数に存在するサービスの中から、自分の状況や目的と一致したサービスを選び出すことは非常に難しい。そして、開業後も継続的に売上を伸ばし続ける優良店舗になることは更に難しいものだ。本記事が、最適なネットショップ形態の選択、そしてその順調な運営に貢献できれば幸いである。