初のeメールマーケティングメッセージは、スパムのようであったにも拘わらず、驚異的な成果を挙げたものだった。デジタルマーケティング会社Yes Lifecycle Marketingのクライアントサービス部門ディレクターであるKyle Henderick 氏は、eメールメーケティングが今までいかに発展してきたか、さらにその未来について語る。
eメールマスマーケティングは、今年の初めで登場から40周年を迎えた。1978年5月3日、かつて存在したアメリカを代表するコンピューター企業Digital Equipment Corporationのマーケティング担当者であったGary Thuerk氏は、送信先の承諾を得ずに、400人の企業見込客宛に営業メールを送付。そのeメールの一斉送信に対し、プライバシー侵害だとして苦情が殺到したが、今日ではこの出来事が、現在のeメールマーケティングの始まりであると認識されている。
初期の段階のマーケティングeメールは、実質的にはスパムであったことを忘れてはならない。マーケティング担当者は、膨大な潜在顧客リスト宛に定期的にeメールを送信していたが、メール受信者の誰もが「喜んでメールを購読したい」と考えてはいなかった。初期のマーケティングeメールには、現在の質の高いeメールが備えるHTML形式やシンプルなデザインコンセプト、付加価値の高いコンテンツといった要素も欠けていたものだった。
しかし、Gary Thuerk氏が送ったこのeメールは、スパム同様であったにも拘わらずDigital Equipment Corporation に1300万ドルもの売上をもたらした。これは、今日のマーケティング担当者の誰もが満足できる成果である。このように、マーケティングチャネルとしてのeメールの有効性は、誕生当初から明らかであった。
eメールマーケティングの歴史における決定的な瞬間
現在eメールマーケティングは、すべての業界の企業にとって最も効果的なデジタルマーケティングチャネルとなっている。マーケティングリサーチ会社Relevancy Groupが、コンテンツマーケティングプラットフォーム会社OneSpotと共同で実施した調査によると、eメールメーケティングチャネルは実際のところ、2017年の企業の平均収益の20%を生み出しているというのだ。一方、Yes Lifecycle Marketingの調査によると、消費者の3分の1以上は、企業からのメールを受信するためだけの専用アカウントを開設しているということも分かっている。
eメールが生み出す収益を考えると、eメールマーケティングは、非常に洗練されたマーケティング手法に発展してきたことは明らかである。今日のeメールマーケティング担当者は、戦略的セグメンテーション、パーソナライゼーション、コンテンツ開発戦略を駆使し、大量のメールが届く受信ボックスの中で自社のeメールを目立たせ、コンバージョンを最大化させようとしているだろう。
長年にわたって成熟し、進化し続けてきたeメール。ここでは、その誕生から、現代のeメールマーケティングが形作られるまでの、重要な出来事を振り返ってみよう。
1978年:
前述の通り、Digital Equipment Corporationのマーケティング担当者Gary Thuerk氏は最初のマーケティングeメールを一斉送信し、1300万ドルの売上を記録した。初期の電子メールは、テキストベースで作成された基礎的なものであり、パーソナライズもされていなかった。
1989年:
オックスフォード英語辞典が、「electronic mail」の一般的な省略形として「e-mail」を掲載。「e-mail」の最初の使用事例は、Washington Postでの記事とされている。
1993-1996年:
AOL、Hotmail、Yahooがeメールサービス分野に進出。一般的なインターネットユーザーが簡単にサインアップしてコミュニーケーションできる、使いやすいeメールサービスを提供した。Hotmailが最初に無料のWebベースのeメールサービスを開始し、マーケティング担当者はより多くの消費者にリーチ可能に。さらに、これらのプラットフォームがeメールをニュースやチャットなどの他のサービスと統合することにより、eメールは、消費者の日常生活の一部となっていった。
1998年:
初めて消費者が、「スパム」という言葉を使って迷惑メールを表現。「スパム」とは、1970年代の英国の代表的なコメディーグループであるMonty Pythonの風刺作品で、肉の缶詰ブランド名である「スパム」を、迷惑行為を表す語句として使用したのが語源である。当時消費者は、大量の宣伝目的の迷惑メールを受信することに対し不満を抱いていた。その結果、大手プロバイダは、メール購読者が自身のeメールエクスペリエンスをコントロールできるように、「迷惑メール」フォルダ機能を追加している。
2003年:
米国政府は、eメールマーケティングを規制する最初の法律である「CAN-SPAM法」を可決した。このCAN-SPAM法では、商用メールに対する規制を設け、商用メッセージについての要件を設定。受信者にeメールマーケティングの送信先リストからオプトアウトする権利を与え、違反者に対して厳しい罰則を規定した。
2004年:
GoogleがGmailのサービスをスタート。これは事実上、eメールに大改革をもたらした。優れたユーザーエクスペリエンスを提供したGmailは、次第にYahooとAOLの人気を上回ることになる。数年後同社は、タブや画像キャッシングなどの新しいeメール機能を導入。また、Gchatといったサービスに投資し、eメールサービスを新しいレベルに引き上げた。Yes Lifecycle Marketingが実施した調査によると、現在マーケティング担当者が保有する平均的な購読者リストの30%を、Gmailユーザーが占めているという。
2007年:
AppleがiPhoneを発売。iPhoneは、消費者のスマートフォン端末でのeメール使用方法(読み方や送信方法)を根本的に変化させた。より大きな画面を有し、より速いデバイスとなったiPhoneでは、画像を読み込むことが可能となったため、マーケティング担当者はさらなる創造性を活かし、より幅広いデザインをテストできるようになった。iPhoneでeメールを読む消費者が増えると、eメールは移動中のユーザーを対象としたレスポンシブなデザインになり、新しいパーソナライゼーション手法が生み出された。
2010年代:
メール購読者の受信トレイが飽和状態になるにつれ、マーケティング担当者は、トリガーやダイナミックコンテンツ、戦略的セグメンテーション、ニュースレターなどの手法を用いて、メール到達率とエンゲージメントの向上にフォーカスし始める。新しいコーディングサポートと機能向上により、eメールの設計手法も大幅に改善。それは、リアルタイムでインタラクティブな電子メールの基礎となった。
2018年:
度重なるデータ侵害により、消費者は、企業が個人データを使用することに慎重になっている。EUによるGDPR(一般データ保護規則)に伴い、世界各地の企業はデータ保護のための新しい安全対策を講じている。
eメールマーケティングの未来
eメールマーケティングが、過去40年間にわたって大きな発展を遂げてきたことは否定できない。eメールマーケティングは非常に効果的で、ほぼすべてのブランドマーケティングキャンペーンにおいてコアとなる戦略になっている。しかし、マーケティング担当者が消費者とのeメールコミュニケーションをより改善するためにできることは、依然として多い。
マーケティング担当者は、セグメンテーションやパーソナライゼーションといった戦略を用いて、オファー提供だけでなく付加価値のあるコンテンツを組み込んでいる。しかし、依然としてエンゲージメント向上は課題だ。非常に多くのマーケティングeメールを受信している購読者は、明確な理由がなければ特定のeメールを読むのに長時間を費やすことはない。つまり、マーケティング担当者は自社のメッセージを購読者の受信ボックスにある他のコンテンツから目立たせるために、より一層努力する必要があるのだ。
高い成果をあげるeメールマーケティング担当者は、競合他社と差別化を図るため、機敏なアプローチを行なっている。というのも、すべてのキャンペーンをテストし、即座に失敗を見つけ、そこから多くを学び、随時やり方を変えているのである。CTA(コール・トゥ・アクション)のカラーの微調整から送信時間の変更まで、あらゆるキャンペーンにおいて何かをテストすることは可能だ。eメールマーケティングの世界は、将来のマーケティングプログラムの成長を促進するだろう革新的なアイデアで溢れている。やらなければいけないのは、テストすることである。
コンテンツとコーディングについて言えば、次の大きな変化はインタラクティブなeメールエクスペリエンスの成長であろう。近年、AMP for Gmailの導入により、インタラクティブなeメールは、実際に具体化している。ユーザーがウェブサイトと同じように、eメール上のコンテンツとインタラクティブに接することが可能になった。
マーケティング担当者は、このようなインタラクティブなメールを活用し、受信トレイに溢れる他社のメッセージの中から自社メールをユーザーに購読させることができる。しかし、eメールのインタラクティブ性を真に発揮させるためには、その人材とリソースを確保する必要があるだろう。
最初のeメールの一斉送信以来、業界がどのように進化し、改善してきたかを知ることは非常に刺激的である。そして、次の40年間に起ころうとしているeメールマーケティングの革新は、それがどのようなものであるにせよ楽しみで仕方ない。
※当記事は米国メディア「Marketing Land」の8/27公開の記事を翻訳・補足したものです。