オンライン専業企業が進める実店舗展開の破壊力 - 実店舗も巨大オンライン企業に淘汰されていくのか

 

オンラインを介したサービスが活況を呈し、今や生活の隅々まで存在感を増やしてきている。しかしそんなオンライン一辺倒のトレンドの中、オンライン専業でサービスを提供してきていた企業がここにきて実店舗展開を積極的に進める動きを見せている。今回はそのようなオンライン専業企業の中でも巨大企業が進める実店舗展開の動きと狙いについて考えていく。

 

<参考>

加速するEC専業企業の実店舗展開が意味する「実店舗とECサイトの役割」

 

 

 

ポップアップショップの展開

 

そもそも、実店舗展開が注目され始めたのは2010年頃まで遡る。当時新業態として脚光を浴びていたハンドメイドマーケットECサービスを展開している「Etsy」やアパレルの「Boohoo」といった企業がニューヨークでポップアップショップを展開し始め話題になった。ポップアップショップは一般的に数日から数週間などの期間限定で展開される店舗で、駅や商業施設の空きスペース、空きテナントに出店される店舗だ。ポップアップショップの出店は商品の販売が目的ではなく、製品の製造過程の実演や商品の試着、イベントなど露出が目的で、話題性を重視したものであった。こうした販売を行わない、商品の宣伝を重視したポップアップショップの展開が海外だけではなく日本でも見られるようになってきていた。

しかし、最近世界的に見ても期間限定のポップアップショップの展開だけではなく、常設店の実店舗展開が多く見られるようになってきている。ポップアップショップ以上にコストがかかり店舗維持が困難である常設店に、オンライン専業企業が回帰するという不思議な流れを見せ始めているのだ。

 

<参考>

ひしめき合うハンドメイドマーケットEC - 気軽にネットで開店する時代はやってきたのか。Etsy、Creemaに見る未来

 

 

Amazon

 

Amzon Go

言わずと知れたオンライン企業の代名詞とも言えるAmazonだが、ここ数年実店舗展開のニュースが絶えない。特に2018年1月シアトルにオープンした「Amazon Go」は大きな衝撃を呼んだ。

 

Amazon Goは食料品を主に取り扱うコンビニであり、Amazonがコンビニを出店し始めたことにも驚きであるが、このAmazon Goに採用されている新しい技術に注目が集まっている。それは「Just walk out technology」と呼ばれるもので専用のアプリで取得したバーコードを入り口でかざすだけで決済までを自動で行ってくれる。これにより、商品を手に取ったあとレジを通さずに店舗を後にすることができる。既にシカゴとサンフランシスコで開店計画が進んでいるようで、今後Amazon Goをチェーン展開していくようだ。

 

<参考>

【米国】次世代型リアル店舗Amazon Goをシアトルにコンセプトストア - 会計不要の食料品販売で小売衝撃

シアトルに正式オープンした「Amazon Go」の理想と実際

 

Amzon Books

AmazonはAmazon Goが初の実店舗展開ではなく、Amazon Booksと呼ばれる書店チェーンも展開中。

Amazon BooksはAmazon.comに価格を合わせており、オンラインで買うときと同じようにお手軽な価格で購入することができる。また、背表紙を見せて多くの書籍を並べるのではなく、表紙を見せて展開することで見やすさを重視した従来の書店とは異なった展開をしている。2015年にシアトルに1号店を出し、2017年時点ではニューヨークなど13店舗まで増やしており、今後も増やしていくようだ。

 

<参考>

【米国】Amazon、書店の実店舗をニューヨークにオープン - Amazonの実店舗開業が続く

 

日本でのポップアップショップ

ここまで、米国での実店舗の取り組みについて紹介してきたが、日本においてはポップアップショップの展開が主となっている。2017年7月に六本木で展開されたAmazonプライム10周年を記念としたポップアップショップが日本初となる。このポップアップショップではプライム限定の特典やサービスを体験することができ、プライム会員の宣伝が主とした展開であった。2017年10月には世界中のお酒や未発売品の試飲などAmazonのお酒の品揃えの多さを体験できる「Amazon Bar」が1週間ほど展開された。Amazonが提供しているサービス「Amazonソムリエ」のソムリエも常駐し、要望に応じたワインを楽しむことができた。そして、2017年12月にはサイバーマンデーセールに合わせ渋谷モディと渋谷マルイの2か所でポップアップショップが展開され、サイバーマンデーセールの目玉商品や「Playstation VR」の試遊体験や、「Amazon Alexa」「Amazon Echo」などのAmazon商品の体験も行うことができた。今のところ日本ではイベントに重ねての展開が主であるが、実店舗展開が増えていきAmazon Barのようなポップアップショップや常設店が今後登場してくるのではないだろうか。

 

<参考>

Amazon、期間限定で実店舗のポップストアを六本木にオープン

Amazon、サイバーマンデーセールに合わせたポップアップストアを渋谷にオープン

 

 

Google

 

Google Shop

Googleはオンライン上でのサービス提供に留まらず、ハードウェア事業へも積極的に進出してきている。そして、そのハードウェアの広告・ブランディング戦略の一環として実店舗を展開している。2015年3月にGoogle Shopと呼ばれる初のGoogleブランドの実店舗が電子機器販売会社Currys PC Worldの店舗内にオープンした。

この店舗では携帯やタブレット、Chrome book、Chrome Castなどの販売やデバイスの使い方のレクチャー、主要アプリのデモンストレーションを行っており、Apple Storeのようなデバイスの体験やサポートをするオフラインの場となっている。

また、店舗には大きなスクリーンがあり、大画面でGoogle Earthを映し出し地球を回遊できたり、「バーチャル落書き」を使ってオリジナルのGoogleロゴを作成することができる。他にも宇宙版Google Earthの「100,100Stars」という星を巡りながら星の解説を見ることができるソフトや、Google Homeの使用感を理解するためのゲームソフトなど、Googleが開発する最新デバイスやソフトウェアの体験を行うことができる。商品毎にスペースを設け巨大スクリーンを用意することで商品の体験をより印象強く顧客に対し残すことができる。

 

過去にはGoogleはWinter Wonderlabsというポップアップショップをニューヨークなどで開いており、クリスマスイベントの一環としてデバイスの体験を行ったこともある。

そして、Googleは現在中国に次ぐ世界第2位のスマートフォン市場になっているインドでデバイスの開発や店舗の進出を狙っているようだ。インド特有のアクセントを理解する「Google Home」の販売が2018年4月から開始となり、音楽ストリーミングサービスのサブスクリプションもインドのみで付いたりと力を入れていることがわかる。公式発表は出ていないが2018年後半ごろにも店舗が登場するのではないかといわれている。オンラインだけでは伝わらない体験を提供できる実店舗の進出はハードウェア事業を進める上でとても重要になり、インドはもちろん他国へのGoogleの実店舗展開の動きから目が離せない。

 

 

アリババ(Alibaba・阿里巴巴)

 

盒馬鮮生

中国を拠点にしオンラインで絶大な勢いを誇るアリババも実店舗展開を積極的に進めている。2016年に「新小売(ニューリテール戦略)」という構想を打ち出し、オンラインとオフラインを融合させた新しいビジネスモデルを模索。その流れから2016年1月にアリババが出資している生鮮食品スーパー盒馬鮮生(ハーマーシェンシャン)が、オフラインとオンラインの垣根を崩すオムニチャネルを目指しオープンされた。

この盒馬鮮生は無人レジの店舗となっており、セルフレジで袋詰めもセルフで行う形式だ。スーパーの店内のあらゆるところにはアプリが告知されており、このアプリは店頭だけでなくオンラインでも利用できるよう設計。店頭にならんでいる商品の値札をアプリにてスキャンすると商品のページへ移動することができ、決済もAlipayにて行うことができる。また、店頭に行かなくてもアプリで注文し、Alipayで決済、アプリで配達時間を予約し、店舗から5キロ圏内なら最速30分で自宅まで送料無料で配達している。そのため、店内にはオンラインで購入した顧客のために商品をピックする店員が複数人駆け回っているという、なんとも不思議な光景となっている。

 

<参考>

【中国】新興生鮮スーパー「盒馬鮮生」は新小売ビジネスの見本となるか

 

F2

ニューリテール戦略を更に加速するため、2017年12月にはコンビニエンスストア形式の「F2」がオープン。(画像出典

F2とはファスト&フレッシュの意味。この業態は日本のコンビニエンスストはとは少し異なり、ストア機能だけでなく、レストランやカフェ的な要素も併せ持っており、その場で調理し商品を提供するという「速さ(ファスト)」と「新鮮さ(フレッシュ)」を兼ね備えた店舗になっているのが特徴だ。そのため店内にイートインスペースを設置し、朝食から夕食までオーダーすることができる。また、特に日本のコンビニエンスストアを意識し、電子レンジで調理するのではなく、その場でしっかり調理して食料を提供することで、より良い体験を消費者に与えることを意識しているという。もちろんレジの行列を解消するため支払いはアプリを経由するキャッシュレスを採用している。

 

2017年の独身の日でアリババはIoTやAI、ARなどの次世代技術を用いた実店舗経営こそがニューリテール戦略であると力強く宣言しており、小売の在り方を一新させるいろいろな試みに注目が集まっている。

 

 

JD.com(京東)

 

京東之家

アリババのTmallに次ぐ第二位の売上を誇るECモールJD.comでも実店舗展開を積極的に行っている。オンラインのJD.comの認知度を高めるために、中国国内に相当数の京東之家を展開。その多くは百貨店やショッピングモールなど集客力のある施設内に展開されている。(画像出典

京東之家で取り扱う商品は本や家電、化粧品などどJD.comで取り扱っている商品。実店舗ではJD.comから商品を仕入れて店舗に展開する形になっており、その商品供給にはビッグデータを活用。地域に応じた商品を各店舗に送っているようだ。

 

京東コンビニ

JD.comは2017年の4月に今後5年間で100万店舗のコンビニエンスストアを展開する目標を掲げ、毎月1,000店舗を開店するという驚異のペースでの実店舗展開の開始を宣言。実際にはそのペースでの開店が行われているのかは定かではないが、実店舗展開への思い入れは非常に強い。(画像出典

 

また、2017年の10月からは無人コンビニの展開も行っている。最初は本社1階にてテスト運営されていたが、現在では中国国内で30店舗以上展開されている。(画像出典

この無人スーパーはAmazon Goと同じく、店内に入るときにQRコードをかざすだけであとは自由に商品を手に取り持ち去ることができる。入店時にアカウントと顔を照合し紐づけているため、商品売上データだけでなく、顧客の消費行動も把握することができる。

 

7Fresh

そして、2018年1月にはスーパー「7Fresh」をオープンした。この7Freshのオープンはアリババが発表したニューリテール戦略を強烈に意識したものであり、ニューリテール戦略を巡り競争が激化することが予想されている。(画像出典

7Freshにはいくつもの新しい取り組みが実装されている。例えば自動的にユーザーをフォローする自動運転の買い物かごがある。買いものが終わるとショッピングカートのみが支払いの列に並びユーザーは後で商品を受け取るか、自宅までデリバリーしてもらうことができる。また、店内の鏡には果物の甘味量、収穫地などの追跡情報などが表示される仕組みも存在している。また、在庫切れを早い段階で予測し商品の調達を行うビックデータなど様々なテクノロジーが駆使されている。

 

 

楽天

 

楽天西友ネットスーパー

楽天の実店舗と言うと2016年にオープンした「楽天カフェ」のイメージが強いが、2018年1月にウォルマートと提携。その流れでウォルマート傘下のスーパーマーケット西友と共同で会社を設立し、「楽天西友ネットスーパー」が展開されることが決まっている。西友は2013年からDeNAと提携しSEIYUドットコムの運営を行っていたがその提携も解消。また、楽天も運営している楽天マートを楽天西友ネットスーパーに統合していくとのこと。統合後のネットスーパーは今夏に稼働が始まる予定で、西友の実店舗から生鮮食品や加工食品などを配送するなど、既存の実店舗を用いたオンラインサービスの提供に主軸を置いていくようだ。

 

楽天ビック

さらに楽天は、家電量販店を運営するビックカメラと共同で新サービス「楽天ビック」を2018年4月から開始。こちらはビックカメラの実店舗と相互送客、物流、商品開発で連携を図っていきオフラインとオンラインの垣根を超えたサービスを提供していくようだ。ビックカメラ実店舗計の商品在庫の確認や、ビックカメラの実店舗での「楽天ポイントカード」の導入などを進めていっている。

 

<参考>

楽天市場内に「楽天ビック」がスタート

楽天とウォルマートが提携、楽天西友ネットスーパーの運営を今夏にスタート、Koboを米国展開へ

楽天とビックカメラが新会社設立、「楽天ビック」提供へ

 

 

 

実店舗も巨大オンライン企業に淘汰されていくのか

 

Amazon Goばかりに注目が集まりがちな実店舗の技術革新だが、こうしてみて見るとアリババ・JD.comといった中国企業の取り組みも非常に先進的だ。ここで紹介した巨大オンライン専業企業の実店舗展開を3つのステップに分けて考えてみる。

オンライン専業企業が進める実店舗展開の破壊力 - 実店舗も巨大オンライン企業に淘汰されていくのか

 

Step1:

当初行われていたポップアップショップに代表される展開は、オンライン専業企業が販売を始めたデバイスや新商品の展示スペースの意味合いが強かった。そこでの販売もされていないケースなどもあり、あくまでショーケースとしての取り組みだ。

 

Step2:

次第にオンラインで販売しているものを実店舗でも販売する目的での実店舗展開が増えてきた。このケースでは単なる商品販売だけではなく、企業ブランド自体への認知度を高めるために、タッチポイントを増やし、露出を増やす目的のケースも多くなっている。店舗数を増やしたり、オンラインで活用されているポイント制度の導入などを推進していく取り組みだ。

 

Step3:

そして、ここ最近大きく注目を集めているのが、実店舗展開の最終章とも言える、実店舗の購買プロセスや流通をテクノロジーで革命していく仕組みやアイディアを実装した店舗展開だ。無人店舗、ビックデータによる在庫管理、ロボットによる購買支援などその可能性は幅広い。

 

 

Step2までは実店舗に主軸を置く企業からみてもそれほど脅威には映らなかったものが、Step3に突入してくると、本格的な脅威として捉える必要が出てくる。そもそもここに挙げられているような巨大オンライン専業企業はテクノロジーに非常に強く、データ管理や活用に長けている。そのメリットを最大限に活用したこのStep3の流れは、実店舗に主軸を置く企業が到底超えることが出来ない大きな流れとなって、店舗運営の世界に流れ込んできているのではないだろうか。今後もオンライン専業企業の実店舗展開をどのように進めていくのか注目していきたい。