海外展開向けECパッケージ - 海外進出のための言語・決済・物流・オムニチャネルのシステム対応
ここ数年、EC業界においてバズワードとなりつつある「越境EC」。日本企業が中国などの海外の消費者に対して商品を販売するには、Tmallなどの現地モールに直接出店する以外にも代理購入や転送サービス、出品代行などいくつかのサービスが存在している。しかし本格的に現地の消費者と接点を持ち、商品を展開していくには物足りないと感じるケースも多いだろう。その際に、国内で展開しているような形で自社サイトを持ちたいというニーズが最近は増えてきた。そこで今回は自社でECパッケージを導入し、海外進出することを考えた時にどのようなパッケージが選択肢として挙がるのか、それぞれの特徴とともに紹介していきたい。
<参考>
越境ECを支援するサービス徹底解剖 - 海外の消費者から見た場合に日本商品をどのように購入することができるのか
そもそも越境ECってどんなモノがどんな理由で売れるのか - データから見るポテンシャルと傾向
急成長を遂げる東南アジアとインドのEC市場 - 6カ国の市場環境・決済と進出ハードルまとめ
中国向け越境ECに踏み出す際に活用したい代行サービス - 素早く円滑に越境ECを開始するために
インドネシア向け越境ECの可能性 - 東南アジア1のポテンシャルを持つ国をどのように攻略していくのか
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越境ECを行う上での海外ECパッケージの役割
そもそもEC事業者が、越境ECを展開する際には、「言語対応・決済・物流」という乗り越えるべき3つの壁があるといわれている。いずれの壁もEC事業者のみでクリアしていくことは非常に難しい。海外向けECパッケージを導入する際は、上記のような様々な壁を取り除きEC事業者が売上を上げるという施策に時間を有効活用できるかが鍵となる。そこで今回は、EC事業者が乗り越えるべき3つの壁をどの程度解消できるかという点に注目して4つの海外向けECパッケージを紹介していく。
<参考>
ECをはじめたい!ときの選択肢 - 7つのプラットホームの存在を理解しよう
ECサイト構築パッケージ - 大手向けワークスアプリケーションズ、NEC Neosarf、エルテックスが提案する3つの解
SAP Hybris(エスエーピー・ハイブリス)
SAP Hybrisは元々独立したコマース・プラットフォーム・プロバイダであったが、2013年に独SAP社によって買収された。現在も独SAP社の独立部門として稼働しており、買収前の経営陣がそのまま引き継ぐ形で事業を展開している。
現在までに40カ国以上での導入実績がある同サービスは、ドイツ語、フランス語、イタリア語、英語等の多くの言語で展開することが可能で、全世界の消費者向けにEコマース事業を取り組むことができる。また、通貨に関しても米ドル、ユーロ、ウォンなどの主要通貨を始めとして、スイスフランなどのそれほど需要が多くなさそうな通貨にも対応している。物流面では、既存の在庫管理システムや物流システムなどと機能連携ができるためすでに導入・連携している物流システムがあれば最低限の投資で越境ECの環境を整えることが可能なECパッケージとなっており、海外進出を図る日本企業のニーズと合致している。また、オンライン・オフライン問わず全てのデバイスをワンプラットフォームに統合化できるため各国でのオムニチャネル化を強力に推進していくことが可能だ。ただ、一般的なECパッケージに比較すると投資額はかなり必要になってくるケースが多い。グローバル展開を行っている企業で、基幹業務システムにSAPをグローバルで導入しているエンタープライズ企業が導入先の有力候補となってくるだろう。
demandware(デマンドウェア)
demandwareは、米デマンドウェア社が提供するクラウド型のECサイト構築サービスだ。
デマンドウェアはオムニチャネルへの対応が進んでいる米国発のサービスということもあり、オムニチャネル機能は非常に豊富だ。Webサイト、店舗における在庫や顧客の一元管理にも対応している。またすべてのサービスをクラウド環境で提供しているため、サービス利用者は常に最新の機能を取得できる。そしてデマンドウェアの最大の特徴が、多言語や数多くの通貨に対応するなどグローバル化を前提に設計している点であり、全世界で既に250社での提供がされており、日本企業においても10社以上がデマンドウェアを導入して越境ECを展開している。そしてデマンドウェアは費用に関しても特徴があり、他社では月額課金制やトラフィック量に応じた課金形態となっているが、デマンドウェアでは売上の1~3%を徴収するレベニューシェア形式での課金形態となっている。
Magento(マジェント)
MagentoはMagento, Inc.(旧Varien・本社米国)が開発したオープンソースEコマースプラットフォームである。
Magentoは2008年のリリース以来、既に25万以上のサイトで利用されている。他のパッケージ・プラットフォーム同様、Magentoは多数の言語に対応しており、日本語で管理画面を操作しながら、顧客サイドでは中国語・英語などで閲覧することができるようになっている柔軟性を持っている。対応言語数は実に60言語以上に上り、また通貨に関しても日本語(円)・英語(ドル)・中国語(HKドル)のサイトを1つのサーバに構築可能である。Web、アプリ、実店舗のPOSまで統合可能な拡張機能を使いこなせばオムニチャネル化も問題なく対応可能だ。オープンソースECパッケージであるMagentoの各種拡張機能の数は40以上にのぼり、多くの外部サービスや拡張機能を簡単に組み合わせて使うことが出来ることが最大の特徴である。
<参考>
オープンソースECパッケージは自由度の高さで導入の手間を乗り越えられるのか - EC-CUBE、MAGENTO、DRUPALの躍進と未来
G1 Commerce
日本と韓国を拠点として中大規模のECサイト構築と運用の経験を多く積み重ねてきた株式会社UZENが、2015年春に展開したECパッケージがG1 Commerceである。
越 境ECを展開する上では国ごとに異なるビジネス環境や文化的背景、法律の規制がシステム構築のネックであるが、同サービスでは通貨・言語・時間・決済方法 などが国単位で設定/管理できるのが最大の特徴である。G1 Commerceは株式会社UZENが15年以上アジア圏のEC業界で活躍しているというバックグラウンドから、現在注目を浴びている中国、韓国、東南ア ジアをはじめとするアジア圏へのEC展開に強みを持つパッケージに仕上がっている。またオムニチャネル対応も基本的な部分は網羅されており、Webサイト、店舗における店舗業務管理や顧客管理の一元化にも対応している。また同サービス単体で515もの機能を提供することが可能なためG1 Commerceを導入するだけで越境ECの展開が可能なオールインワンパッケージとなっている。
海外進出のための言語・決済・物流・オムニチャネルのシステム対応
紹介した4つのサービスについて、「言語対応・決済・物流」などの視点からまとめてみよう。
パッケージという特性に加え、大手向きの豊富な機能を取り揃えている各サービスは、基本的には言語・決済・物流システム連携というEC事業者が越境ECを展開する上での対応要件をほぼ満たしている状況だ。オムニチャネル化もほぼ対応しており、あとは各社のニーズに対してどれほどのカスタマイズ費用が発生するかが鍵となってくる。そのためサービスの優劣よりも、各サービスの特徴と各社がどのような展開を視野に入れているかという視点がどれだけFITするのかでサービスを選んでいくべきだろう。
海外でモノを売るという行為は日本の常識が通用しないことが多い。配送時間が長い、違う商品が配送された、配送中に商品が無くなったなどの配送に関わるトラブルや、返品・交換に関する商習慣も国によって異なってくる。これらのパッケージを活用し、しっかりとしたインフラを構築し、海外進出を成功させる礎を築いていきたい。