ECサイトのオムニチャネルの取り組みまとめ

 

ECサイトでのオムニチャネルの取り組みが叫ばれてから数年が経とうとしているが、ここにきて再び各社とも積極的な取り組みを進めており、マーケティング戦略の中心に据えて本格的に大きな成果を手に入れるための準備を行っている。そもそもオムニチャネルとは、顧客とのあらゆるタッチポイントで企業として連携し共通的な体験を提供しながらアプローチを行うことだ。マルチチャネル、O2Oもオムニチャネルの一部とみなすことが出来る。オムニチャネルの概念やゴールは語り手によって多彩な色付けをされることが多く、なかなか分かりにくい考え方ともいえよう。今回は、そのオムニチャネルの取り組みの事例をピックアップし、ECサイトにおけるオムニチャネルの取り組みの「今」を見ていく。

 

 

大丸

 

EC業界が急成長を遂げる中、百貨店の売上は10年間で平成15年の8.1兆円から平成25年の6.2兆円と減少の一途を辿っている。これまで流通の主役と言われてきた百貨店は、それぞれの分野において強力な強みを持つ企業に顧客を奪われ、それが低迷の一因となってしまっていた。しかし百貨店は、衣食住の全ジャンルを網羅し、リアル、カタログ、ウェブにおいてもそれぞれの販売チャネルを持っている。百貨店が今、複数のチャネルをシームレスにつなぎ、情報や商品・サービスを提供するオムニチャネルに取り組むことは、自分たちの強みを活かすためには当然の流れと言えるだろう。

こうした状況の中、百貨店の中でオムニチャネルへの取り組みが最も進んでいると言っても過言ではないのが大丸松坂屋だ。大丸松坂屋は2012年に大丸と松坂屋のECサイトを統合し、“大丸松坂屋オンラインショッピング”の名称でリニューアル。

 

 

ECサイトだけでなく、SNSの積極的な活用や、ソーシャルギフトサービス“okurune”の立ち上げ、大丸東京店と大丸神戸店の洋菓子売場をバーチャルで再現するなど、これまであらゆる取り組みを行ってきた。昨年11月からはアパレル大手のワールドと共同で、ECサイトで注文した商品を実店舗で受け取れる“クリック&コレクト”を開始。現在はワールド以外にも取引先を広げ、UNTITLEDやINDIVI、INED、ef-deなど全29ブランドを利用できるまでになった。

今年3月にはサイトを刷新し、サービス利用時に大丸松坂屋百貨店とワールドの会員登録が必要だった仕組みを改善。注文から決済までを大丸松坂屋の会員登録のみで行えるようにした。こうした利便性の改善もあって利用者は増加。これまで百貨店と接点が少なかった30~40代の顧客の利用が増えるなどの成果も出た。大丸松坂屋はさらなる品揃えの拡充に取り組んでおり、来年2月末までに取引先を10社に、ブランド数も大幅に広げるとしている。また、ワールドの7ブランドを対象に、店頭で品切れした商品をECサイトで在庫確認して購入できる“エンドレスアイル”も同時期からスタートしているが、こちらも同様に対象ブランドの拡充に取り組むとしている。

今年3月からは、社長直下のグループ横断型組織「グループIT新規事業開発室」を設置。2014~16年度の中期経営計画において、「リアル店舗の強みを活かしたオムニチャネル・リテイリングの推進」を重点的に取り組む施策の1つに掲げ、オムニチャネル化を強力に推進していく方針だ。

 

<参考>

百貨店ECサイトのオムニチャネル化への挑戦 - 店頭依存型の商習慣からの脱却で未来を勝ち取れるか

ソーシャルギフトはO2Oマーケティングに革命を起こせるのか (後編・国内) - giftee、okurune

ソーシャルギフトはO2Oマーケティングに革命を起こせるのか (前編・海外) - Facebook Gifts、Wrapp

 

 

パルコ

 

パルコは経営戦略のキーワードのひとつに「24時間パルコ(=オムニチャネル)」を掲げており、昨年3月に設置したウェブコミュニケーション部を核に顧客接点の拡充を図ってきた。同社は昨年、パルコ全19店のウェブサイトをリニューアル。約3,000のショップのブログアカウントを開設し、「パルコショップブログ」とした。

その内容は、スタッフが実際に商品を着用しているコーディネート例の紹介などで、それぞれSNSでの拡散が可能なボタンを装備。現在はファッション関連を中心に、1,000以上のショップがブログを日常的に更新している。投稿数は月に1万記事、閲覧PV数は250万PVとなっており、ブログ1投稿で250回ものWeb接客が実現できていることになる。それだけでなく、今年5月からは静岡パルコや名古屋パルコ内の5ショップで、ブログ記事で紹介した商品をWebで取置き予約して通販注文ができる「カエルパルコ」を追加した。カエルパルコでは販売員がスマホで自分のオススメ商品を撮影し、価格や在庫状況、説明文を登録してECサイトに表示させるのだが、これはいわば販売員それぞれが自分の店舗の商品を用いた個人ECを運営しているようなモデルだ。

ここでは、ブログに掲載された商品をボタン1つでECサイト上で購入できたり、取り置きを希望すれば実際に店で確認してから購入することも可能。ここで注目したいのが、カエルパルコは消費者だけでなく従業員側にもメリットがあるという点だ。同サービスは簡単にECサイトが作れるSTORES.jpを利用しているため、直感的に操作できるとあって気軽に導入する販売員が多い。しかも、どの記事によって商品が売れたか、取り置きされたかが一目で分かるシステムを起用しているため、従業員の士気が高まるなど、嬉しい相乗効果が生まれている。

またパルコでは、ECサイト「パルコ・シティ」と、テナントが運営する自社ECサイトの商品情報を連携したWebサイト「パルコ・ショーウインドー」を開設。商品をクリックするとそれぞれのECサイトに飛ぶ仕組みを採用した。

 

 

パルコのWebサイトから各ECサイトに送客し、購入が成立した段階でフィーが発生するという仕組みを確立したのだ。また昨年12月には、店舗関係なく常時1,000種類に及ぶ商品が表示される「P-WALL」を渋谷PARCOに導入。気になった商品を触ると商品写真が拡大され、ショップの場所などを閲覧できたり、ショップに関係なく同じようなアイテムの情報も閲覧できるという優れものだ。P-WALLは1日平均7,000回、多いときで1万回も来店客にタッチされており、今後はそのデータを蓄積し、どのショップのどの商品がどのような時期に注目されたかなどを把握し、テナントにフィードバックするとしている。

このようにパルコは、ネット専業企業に対抗するのではなく、逆に手を組んでオムニチャネル戦略を推進してきた。昨年10月にZOZOTOWNからローンチされたファッションコーディネイトアプリ「WEAR」での一件も記憶に新しいだろう。WEARは店舗のショールーミング化を促進するとして大手小売業者から批判を集めたが、パルコは販売時に数%の手数料をZOZOTOWNから徴収できることから導入を決定。今年5月からは、WEAR上に投稿されたパルコショップスタッフのコーディネイト情報を「パルコショップブログ」でも閲覧できるようにした。

さらに先週には初の自社アプリとなる「POCKET PARCO」をリリース。このアプリは同社のオムニチャネル戦略の軸となるべく、商品の取り置きやECでの購入、店頭でのチェックインや、COINと呼ばれるパルコ独自のポイントの管理を行うものだ。まずは福岡の新店舗オープンに向けた限定リリースとなるが、今後全国展開されていくようだ。これまで数々の斬新なオムニチャネル戦略を発表してきたパルコ。今後も、業界内をあっと驚かせるさらなる仕掛けに期待したい。

 

<参考>

ZOZOTOWNの新アプリ“WEAR”で、狙い通りアパレルECにおける店舗のショールーミング化は進むのか

アパレルECでWEAR、Virtusize、VAULTが提案する次世代のオンライン商品選択の姿

オンラインでの「衝動買い」のムーブメントはそこまできている - Sumally、WEAR、Antennaが提案するワクワク感

Stores.jp・BASE・ZEROSTORE 最近話題の無料出店可能な3モールを徹底比較

Stores.jpでネットショップを開店してみた - その1:無料でどこまで出来るの?

 

 

東急ハンズ

 

在庫統合というオムニチャネルの定番施策を、日本でいち早く推進したのが東急ハンズだ。東急ハンズには、2005年に立ち上げられた自社のECサイト「ハンズネット」があるが、全体の売上高約830億円に占めるECの割合はわずか1%ほど。

 

 

と言うのも、東急ハンズはこだわりの強い商品が品揃えの大半を占め、リアル店舗ならではのアナログ感を生かした販促を売りにしてきたからだ。例えば店頭での実演販売や体験型のイベントなど、商品の付加価値を分かりやすく伝える売り方によって、顧客は店頭で商品に出会って購入するという流れが身に付いていた。そういった背景もあり、同社ではECの売上を伸ばすという考えよりも、店頭に来る顧客の手助けになれば、という流れでネットの取り組みを展開してきた。

例えば、2010年にリリースされた「コレカモ.net」は店頭在庫を教えてくれるTwitter連動型レコメンド・検索ロボットだが、愛らしい鴨のキャラクターが商品情報をTwitterで告知してくれると人気を集めた。現在はコレカモを発展させ、ハンズネット上から10万アイテムの店頭在庫を照会できるサービスを提供。さらに店舗で売れた商品をリアルタイムで表示する「今コレ売れました!」という機能をハンズネットのトップページで展開し、東急ハンズが得意とする「未知の商品との出会い」を演出している。

また同社では、小売店としては異例のC to Cビジネスを手がけているが、さらにそれをオムニチャネルにつなげている。そのひとつが、手づくりのモノを売りたい人と買いたい人をつなぐ「ハンズ・ギャラリーマーケット」だ。ハンズ・ギャラリーマーケットでは、サイト内での販売はもちろんのこと、反響が大きい作家を集めて実店舗でイベントを実施することもあるという。このようにリアル店舗の強さを生かしたオムニチャネル戦略は、今後スマートフォンアプリの開発などでさらなる展開を見せるだろう。

 

 

その他の企業の取り組み

 

他にもオムニチャネルに積極的に取り組んでいる企業は多数ある。例えば千趣会では、今年7月末から期間限定で大阪梅田の紀伊國屋書店に、オムニチャネル型実験店舗『mini labo(ミニラボ)ポップアップショップ』をオープン。展示・販売しきれないミニラボの商品を、店内に設置したタブレットやスマートフォンで紹介してネットショップに誘導するほか、SNSの情報拡散を狙ったフォトブースを設置するなど、実店舗とネットの連動の実験的な試みを行った。

 

 

玩具や子ども用品、マタニティ用品などを取り扱う日本トイザらスでは、今年7月に自社のECサイトを全面的に刷新し、ポイント連動や店舗からの在庫切れ商品申し込み、店舗受け取りサービスなどの機能を追加。実店舗とECを連動させて利便性の向上を狙う。

 

 

無印良品では、ECサイトと店頭のポイントを統合するアプリ「MUJI passport」を当社のオムニチャネル戦略の中核に据えて展開。オンラインでの購入、商品への口コミ投稿、店舗へのチェックインなど、オンライン・オフラインのあらゆるアクションが「MUJIマイル」というポイントに集約される。また、最寄店舗の在庫確認も地図上で行えるなど、オンライン・オフラインをシームレスに連携することを狙ったアプリだ。

 

 

また大手眼鏡チェーンのメガネスーパーでは、今月からECサイト上で全国約300店舗の在庫状況を確認できる「店舗在庫確認機能」を追加。ネットで商品を閲覧する消費者を実店舗に送客し、販売機会の損失を低減する狙いだ。

イオンは在庫切れ商品をオンラインで購入することが出来るサービスを開始し、セブン&アイはオンラインで購入したものを店頭で受取ることが出来るサービスを開始するなど、流通大手各社もここにきてオムニチャネルの推進を前面に押し出した戦略を進めている。

世界最大手のオフィス用品店Staples(ステープルズ)では、ウェブに接続した端末を「KIOSK」に設置。店頭の棚に陳列されていない商品にアクセスできるようにし、それにより売上は前年比29%増になった。さらにもう1つのオムニチャネル戦略として、オンラインで注文し、店頭で受け取れるサービス「buy online, pick up in-store」を実施。注文後2時間後に商品を受け取ることが可能で、利用者は順調に増え続けている。

 

<参考>

カタログ通販大手のネット通販への取り組み - ニッセン、千趣会(ベルメゾン)、ベルーナ

ネットスーパーは店舗の商圏を拡大できるか - 独自配送網の諸刃の剣

 

 

 

ECとオムニチャネルの取り組みまとめと今後

 

オムニチャネルは顧客とあらゆつタッチポイントで共通的な体験を提供すること、とは言え現状では実店舗などのオフラインからオンラインへの誘導施策と、オンラインからオフラインへの誘導施策(いわゆるO2O)という2つのベクトルの取り組みが主流となっている。

ECとオムニチャネルの取り組みまとめ

ECサイトにおけるオムニチャネル取り組みまとめ

 

オンラインからオフラインへ誘導する施策として、店頭在庫確認、ソーシャルギフト、来店誘導コンテンツ、取り置き、店頭受取、実イベントの開催などが行われている。その中でも来店前の店頭在庫の確認と取り置きという流れと、オンラインで購入したものを店頭で受取るという2つの施策は分かりやすい。逆に、オフラインからオンラインへ誘導する施策は、在庫切れ商品のオンライン予約購買、チェックイン、EC購買誘導、ショールーミングなどが行われている。

このように個別の施策自体には真新しさがないのも事実だが、この2つのベクトルを有機的に組み合わせ、新たな価値観をユーザーに提供していくという難易度が高い取り組みがオムニチャネルなのだ。

これからオムニチャネルを実践していく場合は、オンライン⇒オフライン、オフライン⇒オンライン、の2つのベクトルの取り組みを提供し、このサイクルをぐるぐる回すことがポイントとなってくるのは間違いない。また、そのためにはオンラインとオフラインの顧客とポイントデータの統合は避けては通れないものとなるはずだ。そしてサイクルを回す上では、スマホアプリの提供も欠かせないものとなるだろう。

オンライン⇒オフライン、オフライン⇒オンラインの2つのベクトルを加速させる新しい施策は出てくるのか、はたまたアプリなどを介して新しい価値観を提供することに成功する事例は出てくるのか、各社のオムニチャネルの取り組みから今後も目が離せなくなりそうだ。