コロナ禍で加速するBOPIS・クリック&コレクトの今とこれから
オンラインで購入した商品の受け取り方が、宅配一択から多様化してきている。ここ近年注目を‟再び”集めている「BOPIS(ボピス)」と「クリック&コレクト」は、新型コロナウイルスの影響で需要が増加し、国内でも徐々に定着しつつある。KIBO Commerceの調査によると、コロナの感染拡大が始まって以降、2020年末までの短期間で、顧客のBOPIS利用は約4倍にもなっているという。そこで今回は、改めてこの2つの用語について解説するとともに、国内外の導入状況などを紹介していく。
BOPIS・クリック&コレクトとは
BOPISとは、“Buy Online Pick-up In Store”の略で、オンラインショップで購入した商品を「店頭」で受け取ることが出来るサービス全般のことを指す。BOPISという言葉自体を知らなくても、「店舗受け取りサービス」と言われれば、多くの人が「利用したことがある」と答えるだろう。メリットとしては、消費者側は「空いた時間に気軽に買い物ができるにも関わらず送料がかからない」「自分の好きなタイミングで商品を受け取れる」、事業者側は「実際店舗に来てもらうことで追加購入が期待できる」「宅配と比較すると物流コストが安い」といったことが挙げられる。BOPISには、類義語として「BOSS:Buy Online Ship to Store」や「BORIS:Buy Online, Return In-Store」という言葉も存在している。なお、BOPISは後述するクリック&コレクト(Click&Collect)の1種である。
一方、クリック&コレクトとは、オンラインショップで購入した商品を街中の専用ロッカーやコンビニといった「自宅以外の場所」で受け取れるサービス全般のことを指す。BOPISと違って受け取り場所が店頭に限定されていないため、選択肢が増え、消費者にとってはメリットが大きい。
また、その中間的な受け取り形式として、海外を中心に浸透している、カーブサイドピックアップと言うものも存在している。カーブサイドピックアップ(Curbside Pick-up)とは、オンラインショップで購入した商品を店舗に出向いてドライブスルー形式(駐車場)で受け取るものだ。ただし、本記事では、カーブサイドピックアップは、BOPISと分類している。
BOPIS・クリック&コレクトの活用状況
BOPIS
ここ数年、コロナ禍の影響で人との接触を回避する動きが高まり、可能な限り非接触で行える買い物のスタイルが注目を集めている。オンラインで決済まで完了するBOPISもその影響が顕著で、欧米のみならず日本国内でも一気に普及した。KIBO Commerceの調査では、コロナ前の2018年と比較すると、BOPISの注文はかなりの伸びを見せ、2020年の段階ですでに米国の小売注文全体の約40%を占めている。
クリック&コレクト
BOPISよりも広義の意味のクリック&コレクトも、もちろんBOPISと同様にコロナ禍の影響で注目を集めている。特に海外における成長率は顕著で、インサイダー・インテリジェンスの推計によると、2020年のアメリカのクリック&コレクトの売上高は前年の倍以上になり、2024年までには2桁の成長率を記録する見込みとのこと。さらに別の調査では、ドイツのインターネットユーザーの半数以上が、2020年12月から2021年3月の間にクリック&コレクトを利用し、58%がロックダウン解除後も利用するだろうと回答している。
<参考>
海外のBOPIS・クリック&コレクト事例
BOPISとクリック&コレクトは、実際どのような企業がどのような形で導入しているのだろうか。まずは海外の事例から見ていこう。
スターバックス
スターバックスでは、モバイル端末で事前に商品を注文し、店舗で受け取る「Mobile Order & Pay(BOPIS)」を2015年から実施している。しかし当初は、モバイルオーダーで注文しても店舗で待ち時間が発生するほか、モバイル上ではメニューが分かりにくい等の問題があり、普及に時間がかかった。そこで改善を図り、結果的に2021年1月〜3月期の決算発表では、Mobile Order & Payが注文全体の26%に達したことを明らかにしている。ちなみに、日本のスターバックスはそこから遅れること4年、2019年6月よりMobile Order & Payのテスト導入を始め、現在は全都道府県1,742店舗で注文可能となっている。
ウォルマート
世界最大のスーパーマーケットチェーン・ウォルマートでも、コロナ以前からBOPISをテストしており、2013年に実店舗で試験運用を開始。2017年には運用店舗を1,000店舗にまで広げている。しかしBOPISのニーズが高まると、せっかくオンラインで事前に購入しても、商品を受け取るためには店舗で並んで待たなくてはならなかった。そこでウォルマートは、小型から中型まで最大300個の荷物を収容できる高さ約5メートル、幅約2.5メートルのピックアップ・タワーという巨大自動受け取り機を導入。これにより、数十秒で商品が運ばれ、待ち時間なく商品を受け取ることが可能となった。BOPIS対応店舗は、全米4,700店舗のうち3,700店舗となっている(2021年時点)。なお、BOPISによる売上は、2019年の72億ドルから2021年には204億ドルと3倍近く伸び、2021年のアメリカ国内のBOPIS注文の25.4%を占めている。
その他
他にも、ホームセンター大手のホーム・デポ、米国大手書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルなど、積極的にクリック&コレクトに対応する企業は多い。
<参考>
国内のBOPIS・クリック&コレクト事例
海外の方が立ち上がりや浸透が早かった、BOPISとクリック&コレクトではあるが、国内でも導入がここ数年で一気に進んでいる。国内の事例を続いて見ていこう。
イオン・ヨドバシカメラ・ららぽーと等、大型商業施設
総合スーパーのイオンでは、ドライブスルー方式による注文商品の受取りサービス「ドライブピックアップ!」を2020年9月に本格稼働。同社はそれ以前から「おうちでイオン イオンネットスーパー」の店舗受取りサービスを行ってきたが、店頭に加えてドライブスルー方式が追加された形だ。他にも、ヨドバシカメラやニトリ、無印良品、ワークマン、しまむら、ららぽーと、IKEAなど、大手は積極的にBOPISを導入している。
飲食店
前述のスターバックスと同様、飲食店における事前注文&支払い&店頭ピックアップの「モバイルオーダーサービス」もBOPISに該当するが、こちらはマクドナルド、ケンタッキー、スシロー、丸亀製麺など、多くの飲食チェーンが導入している。
薬局
専用ロッカーを用意して薬を受け渡す薬局も増えてきた。全国で調剤薬局を展開する日本調剤株式会社は、宅配ロッカーサービスのフルタイムシステムと提携し、処方薬の受け渡しを行っている。流れとしては、薬局側が処方箋を受領したタイミングでQRコードを発行。処方薬は薬局内のロッカーに保管されるため、利用者は感染リスクのある薬局内で待つ必要がなく、好きなタイミングで薬を受け取ることができる。株式会社スギ薬局でも、宅配ロッカーシステムのQuistを活用して「お薬受取ロッカー」を設置しているが、こちらは2023年2月までに100店舗への導入を発表している。
コンビニとの連携
国内のクリック&コレクトの受け取り場所として、最もスタンダートなのはコンビニだろう。ユニクロでは店頭受け取り(BOPIS)も行っているが、セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップのコンビニ4社での受け取りも可能となっている。その他、複数の企業において、コンビニ受け取りが可能となっている。
駅との連携
国内には、駅と連携したBOPIS特化型店舗の事例もある。株式会社DIRIGIOは、阪急阪神グループのライフデザイン阪急阪神と提携し、アプリから事前注文した商品を駅でまとめて受け取れる特化型店舗「TORiCLO(とりクロ)」を2019年10月に開始。「行列ができるあの商品も 簡単に駅で受け取れる」をキャッチフレーズに、人気のベーカリーショップのパンなどを販売していたが、こちらのサービスは終了してしまった。代わりに、2021年8月より後継サービスとして「とりクロッカー」を始動。こちらはクリック&コレクトタイプで、オンラインショップで事前購入した商品を、阪急大阪梅田駅と阪急豊中駅に設置されたロッカーで受け取ることが可能だ。
しわちょく
中小企業においても、BOPISやクリック&コレクトは無縁の取り組みではない。岩手県紫波町の若手農家グループが立ち上げた産直サイト「しわちょく」では、画期的な試みが行われている。もともと生産物を一番美味しい採れたてのタイミングで食べてもらいたい、という思いから開設されたECサイトだが、朝採れ野菜や果物をその日のうちに盛岡市内の2店舗でピックアップできる“朝採夕食”を実施している。
コロナ禍を経て、BOPIS・クリック&コレクトはどのように変わっていくのか
多忙な現代人と親和性の高いBOPISとクリック&コレクトは、コロナ禍の影響もあって大きく成長した。そしてこのトレンドは決して一時的なものではなく、このスタイルがスタンダードとなっていくだろう。物流業界では以前からドライバー不足が叫ばれており、ここに2024年問題が重なると、さらなる労働力不足と宅配料の高騰が懸念される。そうした背景から、今後BOPISとクリック&コレクトを利用する企業と消費者は増え続けることが予想される。この新たな時代の受け取りスタイルの多様化は、今後どのように進歩していくのだろうか、注目していきたい。