元祖CDショップのタワーレコード・HMV、そしてTSUTAYAの戦い

 

デジタル音源をiTunesに代表されるインターネット上のサイトから1曲単位で入手することは今や当たり前となったが、15年前にはこのような未来が来ることなど、想像されていなかった。それ以前はCDやDVDが全盛期であり、音楽ソフトを取り扱うCDショップはトレンドの最先端であった。

しかし時代の流れと共に、音楽をCDなどの物質として手に入れるよりも、デジタルデータとして購入するトレンドが顕著となり、iTunesが台頭してきた。そのような中で、従来型のCDショップであるタワーレコード・HMV、レンタルからスタートしたTSUTAYAはどのようにEC事業を進めているのか。今回は大きなパラダイムシフトとの戦いを見ていく。

 

 

タワーレコード

 

音楽配信とは対極に位置するようにも見える音楽CDショップだが、実は音楽配信に関しては各社とも10年以上前から積極的に対応してきた。タワーレコードは、米Napsterと共同で2006年4月から音楽配信サービスを開始。

 

 

iTunes Music Storeのように1曲単位でダウンロードできる従量課金サービスだけでなく、毎月定額を支払うことで無制限に楽曲をダウンロードできるサブスクリプションサービスを提供してきた。音楽配信サービスによって音楽市場自体が活性化し、パッケージの販売にもつながるという考えのもと、同サービスをスタートさせたのだ。

当時タワーレコード渋谷店で取扱うCDの数は約15万タイトル(1タイトル10曲入りと仮定すると150万曲)だったため、最低でも100万曲を揃えたいと発表。残念ながら2010年5月末をもってサービスはすべて終了してしまったが、ユーザーが気軽に多くの楽曲と接することができるNapsterの仕組みは、タワーレコードが掲げる理念に合っていたのだ。

早くからEC事業に取り組んできたタワーレコードは、1997年にECサイト“@TOWER.JP”を開設。現在は@TOWER.JPや音楽情報サイト“bounce.com”を始めとした6サイトを統合してTOWER RECORDS ONLINEとしているが、その成長率には目を見張るものがある。

同社は2011年5月にCRM(顧客関係管理)プロジェクトをスタート。まず始めに店舗とオンラインで別々に運用していたポイントカードを統合した。これによりポイントの相互利用が可能となっただけでなく、運営側も顧客の購買行動を細かく把握できるようになった。さらに2012年9月には、新たな顧客管理システムを構築。商品の仕入れと売り上げを処理する商品勘定に加え、顧客ごとの売り上げを処理する顧客勘定の概念を取り入れたシステムを作り上げた。それにより、顧客をセグメント別、ステータス別にアプローチできるようにしたのだ。その結果、新システム導入以降はキャンペーン売り上げが4,000%も飛躍した。

また、顧客に対するECサイトとしてのサービスも、少しずつ改善を重ねてきている。例えば、2012年10月より全国のセブン-イレブンの店頭で購入した商品の引き渡しと決済ができるサービスを開始。これまでもファミリーマート、サークルKサンクス、ミニストップのコンビニ3社の店頭で商品の有料引き渡しは行っていたが、セブン-イレブンでは送料や受取手数料、代引手数料などは一切徴収せず、さらにポスターやステッカーといった特典商品などの引き渡しもできるようになった。

音楽パッケージ不況と言われCDショップが激減している時代だが、唯一新規出店を止めることなく突き進んでいるのがタワーレコードだ。“音楽好きによる音楽好きのための店を作る”という理念のもと、新人アーティスト発掘オーディションなど、店舗にはさまざまな仕掛けを施している。2012年11月には、約10億円を投じてフラッグシップである渋谷店を改装。リニューアルのテーマは、“エンターテインメント性を高めること”と“ライブ”で、その言葉通り毎日のようにインストアイベントが行われている。また、リアルとネットとの融合も意識し、同店には地下を含む9フロアのすべてにUSTREAMでネット生中継ができる設備を整えた。店頭で行われているライブやサイン会の様子をネット上でも表現することで、来店を促すことを目的にしたのだ。その狙いは功を奏し、来客数は前年比130%と大きな伸びを見せた。

不況に打ち勝つためにこれまでさまざまな施策を打ち出してきたタワーレコードだが、同社はつい先日、音楽情報・レヴューサイト“Mikiki(ミキキ)”を立ち上げた。CD・DVD・デジタル配信といった視聴フォーマット、音楽ジャンル、メジャー・インディーなどにこだわらず、タワーレコードがいいと思う音楽を紹介し、ECサイトや配信サイトへのリンクとともにレヴューしていく。

 

 

HMV

 

タワーレコードと並ぶCDショップ大手のHMVも、音楽配信はパッケージの販促だと捉え、早い段階から配信サービスを行ってきた。

 

 

2006年10月に開始したダウンロードサービス“HMV DIGITAL”は約150万曲を取り揃え、ひとつのアーティストに対してパッケージとダウンロードを並列的に扱うなど、使い勝手の良さが評価されてきた。しかし2010年2月をもって同サービスは終了。それに代わる形で2013年12月にUSENとの協業でスマートフォン向けの定額制音楽配信サービス“スマホでUSEN”をスタートさせた。月額490円で、最新のJ-POPや1980年代の洋楽ヒット曲などを含む575チャンネルが聴き放題という本サービスは、今後3年間で100万会員を目指すとしている。

1999年に立ち上げられたECサイト“HMV ONLINE”は、音楽記事の豊富さや、聴きたい音楽を気分で検索できるユニークな機能を搭載するなどして、他のECサイトとの差別化を図ってきた。1人のアーティストに特化した特集ストアも作成し、そのアーティストに関連するあらゆる作品を紹介するなど、音楽・映像専門店ならではコンテンツを揃える。2009年4月に4年半ぶりに行ったサイトのリニューアルでは、音楽にあまり詳しくないユーザーに向けて“Myページ”と呼ばれる機能を追加。登録したアーティストのニュースやキャンペーン情報、リリース情報などが1つの画面上で確認できるようになった。

このようにECに対しては柔軟に取り組んで来たHMVだが、50店ほどある国内チェーンの中でも最大の旗艦店であった渋谷店が2010年10月に閉店したときには業界に衝撃が走った。渋谷系と呼ばれる尖った音楽の発信地として知られる聖地も、時代の流れには逆らえなかったのだ。HMVはその後もコストのかかる都心店を次々と閉め、ネット通販にシフトして生き残りを図ってきた。

しかし、ピーク時の半数以下にまで減少した店舗数が、ここ1、2年の間に増加に転じている。2010年12月にローソンに買収されて完全子会社となったHMVだが、それを機にローソン内に小規模店舗を設置したり、地域に特化した店舗を作るなど、新たな動きが始まっているのだ。また、今年3月には埼玉県入間市の三井アウトレットパークに期間限定の“HMVアウトレット”を実験的にオープン。レコードメーカーに残った在庫などを格安で仕入れるなどし、通常では考えられない低価格を実現した。今年7月には、常設店として木更津にアウトレットが開店する。

実店舗では時代に合った取り組みを行い、ネット販売では同業他社を引き離して好調に規模を拡大し、現在HMVの実店舗とECの売り上げは半分ずつとなる。店舗とECサイトどちらかが強くなるケースも多いが、同社の場合は見事に両立していると言えるだろう。

 

 

TSUTAYA

 

TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)は、15年近く前から積極的にO2Oに取り組んできた企業として度々その事例が取り上げられる。

 

 

インターネットがまだ今のように市民権を得ていない1999年、CCCはTSUTAYA onlineのサービスを開始した。店頭で積極的に会員登録を促し、オンラインクーポンを配布。各店舗が抱える顧客に対して地域密着型の個別メルマガを送信するといったきめ細やかな戦略も手伝い、TSUTAYA onlineの会員数は右肩上がりで上昇を続けた。

結果、1999年3月期に640億円だった売り上げは2008年3月期には2,377億円に達し、O2O開始前の4倍の売上高へと成長する。しかし、ソーシャルメディアが台頭し始めた2009年前後から、クーポンの開封率や来客数が減少する兆候が見え始めた。

そこでCCCは、従来のようにTSUTAYA onlineに一本化した戦略ではなく、多様なアプローチの組み合わせに着目する。そして2011年10月にはネット・エンタテインメント事業を株式会社TSUTAYA.comに別会社化。ECサイトの“TSUTAYAオンラインショッピング”、電子書籍サービス“TSUTAYA.com eBOOKs”、ビデオ・オン・デマンド配信する“TSUTAYA TV”、宅配DVD・CD・コミックレンタルサービス“TSUTAYA DISCAS” などのネット・エンタテインメントサービスを総合的・複合的に展開することにしたのだ。映像・音楽・書籍・ゲームなどのあらゆるコンテンツを、レンタル・ 配信・販売と、複数のルートで横断的に提供するという考えからだった。また、同社は音楽配信に関しても積極的で、2008年7月にはUSENと提携して音 楽配信サービス“TSUTAYA DISCAS音楽配信”を開始。USENが運営する音楽総合サービスサイト“OnGen”と提携して、約100万曲の楽曲が1曲100円〜視聴可能となっ ている。

CCCと言えばあらゆるシーンで利用できるポイントサービス“Tカード”によるO2Oの施策は外せないだろう。2003年にサービ スを開始したTカードは、買い物の際に利用することで購入データが蓄積され、客層の属性や購入される商品の傾向を把握することができる。そのビッグデータ を活用して店舗に合った商品を揃えることで、TSUTAYAは売上を上げてきた。

さらに2013年7月より、ヤフーが展開してきたヤフー! ポイントとTポイントを統合させ、ついにTカードは日本最大の共通ポイントサービスとなる。ヤフーのオンライン上での集客力を生かして、CCCのリアル店舗への送客を実現した。また、最近では東京・代官山に蔦屋書店をオープンさせたり佐賀・武雄市で手掛けた図書館が注目を集めるなど、精力的に展開してい る。CD自体の売上は全盛期より落ちたものの、集客面では健闘している良い例なのではないだろうか。

 

 

音楽CD販売からデジタル配信へのパラダイムシフト

 

2000年台前半に迎えたいわゆるCDバブルを境に、世代は確実にデジタルデータで音楽を楽しむ方向へ向かっている。当時CDは今からは考えられないくらい売れ、100万枚以上売れるメガヒットは全く珍しくなかった。しかしその後、CDの売上は激減してきて、データ配信ビジネスに顧客を奪われていく。CD小売り・レンタル各社も対抗するもののその高い壁に跳ね返され、データ配信ビジネスは行ってはいるが依存し過ぎずに適度な距離を保っている。

 

 

また書籍や音楽CDはロングテールが非常にきき、Amazonなどが従来強い領域ともいえる。梱包もシンプルで送料もそれほどかからずほとんどの場合が送料は無料だ。iTunesなどのデータ配信ビジネスも在庫を抱えずに展開できるため、効率的で非常に力強い。

このように音楽CD販売は、この15年間でデータ配信ビジネスとロングテールを武器とした他業種からの参入と言う2つの大きなイノベーションにさらされたといえる。しかしいまだに元祖CDショップ・レンタル各社が奮闘しているのは、強みを活かしたコアな事業やコアなファンをしっかりと確保し、苦手であった流通網をしっかりと手に入れるなど着々と足元を固めていったからに他ならない。TSUTAYAはO2O施策を強力に推し進めることで活路を見出したが、タワーレコードやHMVは店頭でのイベントなどで盛り上げ、本当に音楽を愛する人たちをターゲットにしてビジネスを展開していこうとしている。かつてとは違った輝きを手に入れる日まで、元祖CDショップの戦いは続きそうだ。

 

 

 

 

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