世界の9事例、国内5事例から見る、生鮮食品デリバリーサービス成功の要諦
生鮮食品デリバリーサービスは、日本では“ネットスーパー”や“食材宅配サービス”と言った方がピンとくる人が多いかもしれない。この種のサービスはかなり前から国内でも多く提供されており、ここ数年はネット通販企業も進出してくるなど、世界的に見ても群雄割拠の状態となっている。しかしそれとは裏腹に、国内だけでなく世界各国においても、多くのユーザーを抱えてしっかり成長しているサービスはそれほど多くなく、苦戦しているサービサーが多いのが現状だ。今回は、日本や世界各国において提供されている主要サービスの現状から、生鮮食品デリバリーサービスのトレンドや今後について考えていく。
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そもそもどのような呼称が一般的なのか
今回の記事では、スーパーマーケットで買うような肉や野菜、生鮮食品などを自宅まで届けるサービスや、人数分の食材とそれを使ったレシピを配達するサービスにスポットをあてている。
日本では実店舗のスーパーマーケットを展開する企業による「ネットスーパー」という呼称が主流となっており、中には生鮮食品に特化したネットスーパーも存在するなどバリエーションも出てきている。「食材宅配サービス」という呼称も使われているが、こちらは何らかのメニューを作るための食材をまとめて宅配する色合いが強く、実店舗を持たない企業が行っているケースが多い。また、「食品デリバリー」というと、すぐに食べることのできる調理済みの食事を配達する、いわゆる出前のようなサービスとなり、今回の記事の対象からは外れてくる。
このように、複数の類似のサービス形態や呼称が存在し、多くのユーザーはそれぞれの呼称による違いをそれほど意識していない可能性も多い。そのため、「生鮮食品デリバリーサービス」全体を指す適切な呼称が浸透していないのが実情といえるだろう。
世界の生鮮食品デリバリーサービストレンド
世界各国で展開されている生鮮食品のデリバリーサービスだが、その中でも注目の取り組みを行っているサービスをピックアップして見ていこう。
盒馬鮮生(フーマフレッシュ・Hema Fresh) 中国
盒馬鮮生は、8億人以上の会員数を誇るアリババグループが運営する、中国で最も普及している生鮮食品デリバリーサービスだ。厳密には、実店舗とオンラインを統合的に展開しているサービスである。
盒馬鮮生は、2016年に上海に実店舗1号店を開店し、それと同時にデリバリーサービスを開始。上海や北京、深圳、広州、西安など中国各地で展開するこのサービスは現在150店舗に達しており、2020年には2,000店舗を目指すとしている。デリバリーサービスは実店舗を配送拠点とする形態をとっており、注文を受けると、専門のスタッフが店舗で商品をピッキングして袋詰めされ、それが配達される仕組みとなっている。一部の店舗では、ピッキングされた買い物袋が店内の天井のレールで運ばれていく様子を見ることができる。
注文は専用のアプリで行い、アリペイで支払う。デリバリースピードは非常に早く、店舗から3キロ圏内に限られるが、アプリでの注文を受けてから30分以内の配達が可能だ。
また、食材の新鮮さも売りとしており、アリババグループのビッグデータを活用した在庫管理を行っている。実際に店舗で買い物をする際は、スキャンした食材の生産情報などが確認でき、店内にいる時はアプリのモードが切り替わるなど、機能が非常に充実している。また、家庭での調理が面倒な魚介類の調理依頼ができるなど、最新のテクノロジーだけでなく、顧客目線での細やかなサービスの提供がしっかりと行われている。
この結果、盒馬鮮生のオンライン比率は60%を超え、店舗によっては70%を超えていると言われるなど、実店舗併設の生鮮食品デリバリーサービスとしては異色のオンライン化に成功している。
<参考>
オンライン専業企業が進める実店舗展開の破壊力 - 実店舗も巨大オンライン企業に淘汰されていくのか
Amazon Fresh アメリカ等
Amazon Freshは、2007年にAmazonがアメリカで開始した生鮮食品デリバリーサービスだ。
現在はアメリカ(シアトル・ニューヨーク・サンフランシスコ)、イギリス(ロンドン)、日本(東京、神奈川、千葉の一部地域のみ)、ドイツ(ミュンヘン、ベルリン、ハンブルク)、インド(バンガロール)で展開されているが、ここではアメリカでのサービス内容を主に見ていく。
Amazon Freshを利用するには、Amazonプライム会員になることに加えてAmazon Freshの利用料金が必要だったが、アメリカでは2019年11月から無料となった(日本でも同様、ドイツ等ではまだ有料)。
配達方法は、商品をビニール袋に入れて配達する「Attended Delivery」(有人配達)、保冷バッグに入れて玄関先に配達する「Unattended Delivery」(無人配達)など、ユーザーのライフスタイルに合ったものを選択できる。無人配達であれば自宅にいなくても商品を受け取ることが可能なため、多忙なユーザーにも利用されている。
また、Amazon FreshはAmazonが買収したスーパーマーケットWhole Foodsとの連携にも力を入れており、Amazon Fresh内にWhole Foodsのコーナーを設けるだけでなく、全国の500近いWhole Foodsの店舗をピックアップポイントとして指定できるようにするなど、利便性の向上に取り組んでいる。
Walmart Grocery アメリカ
Walmart Groceryは、世界最大のスーパーマーケットチェーンであるWalmartが運営しているネットスーパーだ。
アーカンソー州の小さなディスカウントストアから始まったWalmartは、今や米国最大手のスーパーマーケットである。27か国で実店舗を、11か国でECサイトを展開しているが、ここでは米国のWalmart Groceryでの内容を主に見ていく。
30ドルから注文が可能で、決済は各種クレジットカードやEBTカードなどに対応している。Walmartは配達力を上げるために多額の投資を行っており、35ドル以上の注文への翌日無料配達サービスや家の冷蔵庫まで食料品を運んでくれるサービスなど、大手他社に対抗するための取り組みを強化しているのも特徴だ。
また、2019年6月には、Delivery Unlimitedというサブスクリプションサービスも開始。これは、通常であれば一回平均10ドル前後かかる配送料が、年会費98ドルまたは月会費12.95ドルを支払うことで無料になるものである。現在は米国4都市で利用可能であり、今後順次エリアを拡大していくそうだ。
<参考>
Walmart、食料品サブスクリプションサービスDelivery Unlimitedを開始
Hello Fresh ドイツ等、欧州各国
Hello Freshは、ドイツを中心に世界各国で展開しているミールキット販売サービスだ。
2011年に設立した同社はドイツのベルリンに本社を持ち、現在241万人の顧客を抱えている。ドイツをはじめイギリス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、オーストリア、スイス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、スウェーデンの11か国で国際的に展開されているが、ここではドイツでの内容を主に見ていく。
選択したレシピに必要な食材や調味料のすべてを人数分配達するミールキット販売の形態をとっており、ユーザーはイタリアンや中華、日本食など、様々なレシピの中から選ぶことができる。レシピの種類だけでなく、簡単に作れる時短メニュープランや家族向けプラン、ベジタリアン向けプランや低カロリープランなどがあり、ユーザー自身のライフスタイルに合ったものを選択できるのが特徴だ。
2019年のスウェーデン進出にあたっては、食材を迅速に届けるため、スウェーデン南部の都市ヘルシングボリで新たな流通センターを稼働させた。Hello Freshは、約470万世帯が暮らすスウェーデンには大きな可能性があると考えており、これも長期的な成長を推進するためのグローバル戦略の一環だという。
<参考>
ドイツ食材宅配サービスのHelloFresh、スウェーデンに進出
e-Fresh ギリシャ
e-Freshは、ギリシャで急成長しているオンライン食料品小売業者だ。
生鮮食品から日用品まで約18,000もの商品を取り扱うネットスーパーで、主にアテネ周辺でサービスを提供しており、6万人以上の登録ユーザー数を持つ。
25€(約3,000円)以上から注文が可能で、25~55€の注文では3€の配送料がかかり、55€以上の注文で配送料無料となる。配達する曜日と時間帯を選択でき、注文から3時間以内のスピード配達も可能である。決済はクレジットカード、paypal、銀行振込、代金引換から選ぶことができる。
e-Freshは2018年に93%の成長を遂げたが、その理由の一つがフルフィルメントセンターにおけるAIとロボットテクノロジーの活用だ。AIを駆使してわずか4分間でフルフィルメント業務を完了させ、フルフィルメントセンターを自動化しロボットテクノロジーを活用することで、注文から3時間以内の配達を実現した。
<参考>
ギリシャのオンライン食料品小売e-Fresh、2018年に93%の成長
Carrefour フランス等
Carrefourは、世界30か国以上で経営しているフランス大手の小売業Carrefourが展開するネットスーパーである。
生鮮食品から家電まで多くの商品を取り扱うハイパーマーケットとして知られ、30か国以上で合計12,200を超える実店舗を展開しているが、ここではフランスにおけるネットスーパーのサービス内容を主に見ていく。
50€(約6,000円)以上から注文が可能で、購入金額が50~100€の場合は配送料が8€、101~150€の場合は5€、150€以上の注文で配送料無料となる。2019年7月にはスペインのデリバリーサービスGloveと提携し、フランス、イタリア、スペイン、アルゼンチンの一部地域で、一律4.9€の配送料で利用できる30分配達サービスlivraisonexpressを開始。これによりユーザーは、注文した商品を非常にスピーディーに受け取ることが可能になった。
3年前に家電製品小売のRue du Commerceを買収したCarrefourだが、2019年11月には同社を売却する動きが明らかになった。オンライン販売戦略を見直して食品分野に集中しようとしているCarrefourは、今まさにAmazonや競合のLeclercとの競争に直面しているのだろう。
<参考>
Carrefour、欧州4ヵ国で30分配達サービスをスタート
フランスCarrefour、家電オンライン小売のRue du Commerceを売却し食品へ再集中
Happy Fresh インドネシア等、東南アジア各国
Happy Freshは、東南アジアにおける最大級の食品デリバリーサービスである。
2014年にジャカルタを拠点にサービスを開始したHappy Freshは、マレーシア、インドネシア、タイの3か国で展開している。今、東南アジアで最も売り上げを伸ばしている食品デリバリーサービスだ。
スマートフォンのアプリから会員登録して食品を購入する仕組みで、会員登録はFacebookアカウントでのログインも可能。配達時間の指定ができ、注文から1時間以内の配達にも対応している。複数のスーパーマーケットと提携しており、利用するスーパーを自分で選択できるようになっている。
最大の特徴は、食品を機械的にピッキングするのではなく、ユーザーに代わりHappy Freshのパーソナルショッパーが実店舗で商品を選んでくれるという点だ。また、ECサイトを持たないスーパーでも、Happy Freshと提携することでネットからの注文に対応できるようになる。ユーザーと店舗の双方にとってメリットの多いサービスといえるだろう。
GrabFresh インドネシア
GrabFreshは、配車サービスのGrabが2018年にサービスを開始した食材デリバリーサービスである。
Grabは東南アジアで物流・輸送サービスなどを提供しているが、車の手配をする際に使用するGrabアプリ上で食品を注文できるようにしたものが、このGrabFreshだ。
Happy Freshと連携しているため、配達などのシステムはHappy Freshを踏襲しており、アプリから会員登録をして食品の注文を行う。ユーザーの代わりに個人のショッパーが実店舗で商品を選ぶという点も同様だ。店舗は距離と在庫状況に基づいて決定され、配車ネットワークを活用した1時間以内の配達も可能となっている。
現在はボゴールを除くジャカルタ周辺でサービスが提供されているが、今後はバンドン、スラバヤ、バンコク、クアラルンプールなどに展開する計画があるという。
Bigbasket インド
Bigbasketは、2011年に創業したインド最大級のネットスーパーだ。
豊富な資金調達によりインド最大手の食品デリバリーサービスに成長したBigbasketは、現在400万人以上の顧客を抱えている。取り扱いブランドは1,000以上、商品数は20,000を超え、食品だけでなく日用品全般を取り揃えた総合ネットスーパーである。
₹1,200以上の購入で配送料が無料になり、インド国内の25都市に配達が可能で、対象商品に限り注文から90分以内に配達するサービスもある。配達時間については、ユーザーのライフスタイルに応じて早朝や深夜を含む4つの時間帯から指定でき、あらゆるスケジュールに対応できることが特徴だ。決済もクレジットカードやオンラインバンキング、eウォレットなど、多くの方法から選択することができる。
商品数は多いが、カテゴリごとに豊富なオプションが用意されており、食品の好みや原産国、容量や個数などを細かく設定して検索できるなど、探している商品を見つけやすくする工夫が凝らされている。
日本国内の生鮮食品デリバリーサービス
続いて、国内で展開されている生鮮食品のデリバリーサービスを見ていこう。
Oisix
Oisixは、2000年にサービスを開始した、国内でも老舗の生鮮食品デリバリーサービスだ。
現在の会員数は22万5千人、利用者数が2019年8月に260万人を突破したOisixは、安全かつ上質な野菜を一般家庭で気軽に食べてもらうことをコンセプトにしたサービスである。
入会費や年会費は無料で、配送については曜日と時間を指定することが可能。配送料は地域によって異なり、例えば本州在住の定期会員であれば6,000円以上の注文で無料、非会員の場合は8,000円以上の注文で無料になる。
また、通常の食材のデリバリーに加え、レシピとそれに必要な食材・調味料などがセットで届くミールキットの販売も行っている。このミールキットは主菜と副菜の2品が20分で作れるという特徴を持ち、多忙な現代人のニーズをしっかり抑えていることから、爆発的な人気となっている。
Amazon Fresh / Amazon Prime Now
Amazon Freshは、2017年4月にAmazonが日本で開始した生鮮食品デリバリーサービスだ。
プライム会員向けの生鮮食品デリバリーサービスとして始まったAmazon Freshは、東京都、神奈川県、千葉県の大部分の地域で利用できる。注文から最短4時間の配送が可能で、朝8時から深夜0時まで受け取れるのが特徴だ。
プライム会員は4,000円以上の注文から利用可能で、1万円以上の注文で配送料が無料となるが、1万円以下の場合は390円の配送料がかかる。プライム会員でなくても利用することができ、その場合は月額500円のフレッシュ会員に登録する必要があるが、配送料は無料となる。
Amazonは他の生鮮食品デリバリーサービスにも着手しており、2019年には、単独の食品スーパーとして売上高1位の規模を持つライフがPrime Nowサービスに出店した。専用のアプリからライフの実店舗で取り扱っている生鮮食品や惣菜などを注文することで、最短2時間での配送が可能である。こちらは2,000円の注文から利用でき、6,000円未満の注文の場合は配送料が440円、1万円未満の場合は220円となり、1万円以上の注文で無料となる。こちらは現在、東京都の一部地域で利用可能である。
<参考>
スーパーマーケット「ライフ」がAmazon Prime Nowにて生鮮食品販売を開始
Amazon Freshは日本で生鮮食品市場を切り開けるのか?リリースから現状までを振り返る
イトーヨーカドーネットスーパー
イトーヨーカドーネットスーパーは、スーパーマーケット大手のイトーヨーカドーが運営するネットスーパーだ。
首都圏を中心に展開しており、2019年2月期の売り上げは279億9,800万円に上る。多数ある実店舗を配達拠点として活用したサービスが、このイトーヨーカドーネットスーパーである。
入会費や年会費は無料で、会員登録をすれば利用できる。商品は近隣のイトーヨーカドー店舗から配達されるため最短4時間での配達が可能で、魚や肉の調理販売も行っているのが特徴だ。現在24都道府県で利用でき、配送料は注文額に関係なく一律330円となっている。
また、ミールキット販売に類似したサービスとして、選んだレシピに必要な材料を表示し、まとめてカートに入れる機能も提供されている。ミールキットのようにセット販売ではないため、不要な材料はチェックを外すことも可能だ。
イオンネットスーパー
イオンネットスーパーは、イオンが運営する、2008年にサービスを開始したネットスーパーだ。
国内小売最大手のイオンは、全国47都道府県でスーパーマーケットを展開している。その店舗を活用したイオンネットスーパーは最短3時間での配達が可能となっており、現在45都道府県で利用することができる。
入会費・年会費などは無料で、実店舗ベースのため担当店舗は自宅の住所から決定される。配送料は一律330円が基本だが、担当店舗と配送エリアによって異なり、例えば一部店舗では5,000円以上の注文で配送料が無料になる。
また、商品を玄関の前に留め置きするサービスがあり、不在時でもスムーズに商品を受け取れるのが特徴だ。多忙な人にとって受け取りロスをなくせる利点は大きいため、ライフスタイルや世帯を問わず活用しやすいネットスーパーといえるだろう。
クックパッドマート
クックパッドマートは、料理レシピのコミュニティウェブサイトを運営するクックパッドが2018年に開始したネットスーパーだ。
現在、東京都と神奈川県の一部という限られた地域でのみ利用できるネットスーパーだが、その中には他ではあまり見られないような一風変わったサービスが含まれている。
専用アプリをダウンロードすることで利用可能で、街の精肉店や鮮魚店、地域の農家などから高品質の食材を購入できるのが特徴。1点から注文できる上に配送料も無料で、朝8時までの注文であれば当日配達が可能である。また、クックパッドのレシピ付き販売も行っている。
商品の受け取りは、カラオケやドラッグストアなどに設置された「マートステーション」と呼ばれる専用の生鮮宅配ボックスで行う独自の方法を取っている。まだ小規模ではあるものの、2019年10月には集合住宅にマートステーションを導入する取り組みも行われており、今後のサービス拡大が待たれる。
<参考>
クックパッドマートのマートステーション、集合住宅向けサービス第一号として豊洲の分譲済みマンションへ導入
世界の9事例、国内5事例から見るトレンド
海外9サービス、国内5サービスを見てきたが、これらのサービスから読み取ることが出来るトレンドを考えていく。
デリバリースピード
デリバリースピードと取扱商品について、世界の9サービスと国内5サービスをマッピングしてみた。
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まず気が付くのは、海外のサービスには右側に寄ったものが多いという点だ。Amazon Prime Nowを利用したライフは国内最速である2時間以内の配達が可能だが、海外ではそれを上回るスピードのものが5サービスも存在している。特に、30分以内の配達を可能にしている盒馬鮮生とCarrefourは驚異的だ。盒馬鮮生は実店舗での商品ピッキング作業が10分、デリバリーにかかる時間が20分という配分を想定しており、デリバリー時間が短いからこそ配達の際に冷凍・冷蔵を使用しないなど、不要な配送コストの効率化も行っているという。
スマートフォンアプリの活用
特に海外のサービスはアプリの活用が進んでおり、機能面も非常に充実している印象だ。前述のように盒馬鮮生は店内と店外でアプリの機能が変わるなど、ユーザー視点でアプリの利便性を徹底的に追求している。AmazonなどのIT企業ベースのサービスでは、その傾向はさらに顕著だ。一方で、国内のスーパーマーケット系のサービスはその点が非常に弱く、アプリの活用が進んでいないところが多い。
サービスの再構築
日本国内では従来のスーパーマーケットに宅配機能を付加したような形態のネットスーパーが多いが、海外に視点を向けると、そのような形態でのサービス提供はあまり行われていないことがわかる。海外では、デリバリーサービスで何が求められているのか、どのようなポイントが強みになるのかなどを徹底的に考え、従来の形態にこだわらずサービスを再構築している企業が目立つ。その結果として、この部分にはコストを投じてこの部分は徹底的にコストカットするといった点が、明確に線引きされている。盒馬鮮生は、実店舗はどちらかといえば物流センターのような位置付けにあり、ピッキングを効率的に行うために人・モノが配置されている。Happy Freshは人が実店舗をピッキングすることで、デリバリースピードの高速化を図っている。また、Carrefourはデリバリーを生業とするGloveと提携し、デリバリー業務の効率化とスピードアップを徹底的に行っている。
事業化の難易度は高い
一方で、デリバリーサービスで生鮮食品を扱うことには課題も多いようだ。アメリカのAmazon Freshでは、2017年に9つの州でサービスを停止した。また、盒馬鮮生では2019年5月に江蘇省の店舗が採算の確保に苦戦し、閉店を余儀なくされた。勢いを増しているように見える生鮮食品デリバリーサービスだが、経営に苦戦している部分も多いのが現実なのだろう。その背景には、生鮮食品は家電などと比較して安価なので、数を捌いて採算を取るための業務効率化が追い付いていないことが考えられる。盒馬鮮生においては、今までの都市部向け高級スーパー路線だけでなく廉価な商品を取り扱う店舗も地域によって取り入れており、企業の試行錯誤は続いている。
日本での生鮮食品デリバリーサービスの今後
経産省によると、2018年の食品ECの市場規模は1兆6,919億円であり、ファッション・雑貨のECの1兆7,728億円に次いで第2位となっている。しかし、食品業界のEC化率は2.6%で、その値は各カテゴリと比較して最も低い値に留まる。一方、この数値は世界的に見ればアメリカや中国などよりも高いため、評価が非常に難しい。
国内で食品業界のEC化が進んでいない背景として考えられるのは、都市部では付近にコンビニエンスストアやスーパーマーケットが多く、手軽に生鮮食品を購入できる環境がある点だろう。そのため、到着まで時間のかかるデリバリーサービスよりも自分自身が店舗に足を運んで購入するほうが速い上、自分の目で商品を選べるという利点が大きいのだ。
Oisixでヒットしているミールキットのように取り扱う商品に工夫を凝らし、自然食品や有機野菜など品質にこだわったサービスを提供をするなどして、ECがコンビニやスーパーとの差別化を図る必要もあるだろう。そして、食品デリバリーサービスにおいて最も重要とされているのが、生鮮食品の鮮度管理を適切に行える物流拠点の確保である。実際、Amazon Freshでは、独自の物流拠点を確立して鮮度保証サービスなどを開始したことにより、ユーザー数が伸びている。現在は首都圏中心であるが、今後地域を拡大することができれば、より活用が進む可能性もある。
あらゆるサービスがオンライン化され、共働き世帯が増え、スマートフォンが身近になった今、生鮮食品デリバリーサービスの需要はさらに高まっていくことが考えられる。従来のシステムに捉われないサービスの再構築やアプリの積極活用、企業間での連携など、まだまだ改善の余地は多くある。今後の生鮮食品デリバリーサービスの進展に期待したい。
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