Eコマースの巨人であるAmazonは6月16日の早朝、テキサス州オースティンに本社を置くWhole Foods Market社を現金約137億ドル(一株42ドル)で買収する予定と発表した

これは、Amazonにとって過去最大の買収となり、今年後半に完了する見込みだ。これによって、Whole Foods Marketの株価は29%増、42.68ドルとなり、Amazonの株価も3%増加した。AmazonのCEOであるJeff Bezos氏の保有資産で見ると25億ドル増加し847億ドルとなり、Zaraの創業者Amancio Ortegaに代わり、世界長者ランキング2位となった。

なお、買収後もWhole Foods MarketのCEOとブランドは変わらず、本社もオースティンに留まる見込みだ 。AmazonのCEOによると、Whole Foods Marketのオーガニック食品は人気を集めているため、変わるのではなく、現状のまま継続していきたいとのことだ。

 

Whole Foods MarketとAmazonの置かれていた環境

Whole Foods Marketは1980年ドイツで設立し、オーガニック食品を販売し、アメリカ、カナダ、イギリスにも進出し、グローバルで460超の店舗、8.7万人の社員を抱えており、現在北米最大のオーガニック食品スーパーチェーンとなっている。しかし一方で近年は苦戦し成長が停滞しているとも言われている。

Amazonは昨年、Whole Foods Marketの買収に動き出したと報道されたが、これは実現しなかった。その後Whole Foods Marketの成長が停滞する中、機関投資家は食料品チェーンであるWhole Foods Marketに身売りするように圧力をかけていたようだ。またAmazonはWalmartとの熾烈な競争環境にもさらされており、さらなる競争力の確保が最優先事項であったことは否めない。

 

<参考>

【米国】Amazon配送無料の最低購入金額引き下げ。Walmartの35ドルを下回る25ドルに

 

Amazonは生鮮食料品にビジネスを拡大することに長年執念を燃やしてきた。2007年から、Primeメンバー専用に向けて、Amazon Freshというサービスを提供、野菜などの新鮮食品を配達している。2017年3月からはAmazonで生鮮食品を注文した利用者に商品をピックアップできるAmazon Fresh Pickupを提供。オーダーを入れてから15分後にはピックアップが可能としている。

 

400以上のWhole Foods店舗を獲得したAmazonは、よりバラエティに富んだ選択肢を展開する。

Amazonは、買収した400店舗を超える地元高級食料品店Whole Foodsをどのように活用するのか?

いくつかその方法は考え得るが、シアトルに本社を置くAmazonは期待できる魅力的な選択肢の例として、即日出荷を増やして生鮮品や日用品が購入できるAmazon Freshを大幅に拡大し、より大きな市場に「Amazon Stores」を展開していく、ということも考えられる。

Amazonは食料品ビジネスに参入しているが、多くの不動産や社員を抱えることとなる今回の買収は多くのアナリストの予想に反するものであった。Instacart(スーパー等の商品をオンラインで注文すると数時間で配達してくれるお買い物代行サービス)とGoogle Expressが請け負っているWhole Foodsの配達業務は、今回の買収の結果終了する可能性がある。

2016年のWhole Foodsの収益は約157億ドルだったが、収益成長率はわずか2%にとどまった。 Amazonは収益成長率の改善を目指すこととなる。しかし、それ以外にも注目すべき問題がある。

  1. どのツール/テクノロジーで、Whole Foodsの幅広い顧客経験価値に貢献できるのか?(例: バーコードをスキャンするだけで音声認識IoT “Alexa” を使って商品の注文が可能な“Dash Wand
  2. Amazonは、 Whole Foodsの小売実店舗を、食料品分野以外でどのように活用するのか?

Amazonの実店舗(books、Go)展開への取り組みを考えれば、同社はAmazon関連サービスのために少なくともWhole Foods実店舗の一部を利用するだろう。 Whole Foodsは、440店舗うちいくつかの店舗を閉鎖する準備を進めていた。おそらくAmazonはそれらの店舗で、Amazon GoやAmazon製品を紹介するハイブリッド小売コンセプトを試すのだろう。 また、Amazonはまったく新しい倉庫型店舗コンセプトを生み出すこともできる。

また、Whole Foodsの主要店舗ではAmazon自社製品(Echo、Fire、books)の店舗内店舗を展開することができる。そして次に、Prime Pantry、Amazon Fresh、Amazon LockersなどAmazon製品とサービスを販売することも可能となる。

 

<参考>

更に勢いを増すAmazon - ECに関わる負担軽減と時間節約の先に

 

Jeff Bezos氏のリーダーシップのもと、彼への身売りによるThe Washington Postの改革は成功したが、Whole Foodsも同様に息を吹き返す可能性がある。いずれにせよこの動きは食料品業界に衝撃を与えこととなり、Amazonはオンラインでもオフラインにおいても食料品業界の圧倒的な存在となるだろう。

「小売業の終末」予測や従来の金融アナリストの考察をよそに、リアルおよびデジタル世界の両方において定着することは、オンラインブランドが長期的に生き残る鍵である。実在の側面を持たないオンラインブランドは、長期的に生き残る可能性は低いだろう。

 

この買収が6月16日朝に発表されてから、この買収がもたらしたAmazonとWalmartとのより直接的な競合について多くの議論があったようだ。AmazonとWalmartは現在、異なる購買層やマーケットセグメントに訴求しているが、より競合度合いは深まっていくだろう。しかし両社が共存することが可能であり、ゼロサムゲームではない。しかしもしそうとするならば、AmazonブランドはWalmartブランドより「柔軟性」があり、2社を比較したときにAmazonはより行動力があると言えるのではないだろうか。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の6/16公開の記事、及び中国メディア「Techweb」の6/17公開の記事と「品玩」の6/17公開記事を翻訳・補足したものです。