米国のWalmartは、食料品のデリバリーを提供する大手eコマース他社に対抗するため、新しいサービスを開始した。

 

Walmartのオンラインストアの買い物客向けの新サービスは、年間98ドルのサブスクリプションサービス「Delivery Unlimited」プランだ。この新しいサブスクリプションサービスは、AmazonのWhole Foodsや米国の大手食料品ストアTarget社の宅配利用者を狙ったものだ。

Walmartのオンラインでの食料品部門は、顧客獲得に貢献し、稼ぎ頭として着実に成長している。同社の今年の第一四半期におけるeコマースの業績は37%もアップしており、食料品部門がその成長を牽引している。

 

Delivery Unlimitedは、オンラインショッピング利用者の近隣店舗への無料配達や、9.95ドルでの自宅配達サービスなどを提供するといったWalmartが既に提供しているピックアップ、およびデリバリーサービスをより充実させたもの。

新しい年間サブスクリプションサービスでは、配達手数料に関して、(上記2つに加え)第3の選択肢を用意した。年間98ドル、あるいは月額12.95ドルを支払うことで、注文ごとの配達料金が無料になるのだ。利用者は、アプリやウェブで欲しい商品を買い物かごに入れ、配達情報を入力する画面を選択すればよい。

「この新しいサービスは、低額料金で非常に高い利便性を提供するものだ」とITメディアPund-ITのプリンシパルアナリスト、Charles King氏は語る。

「大量の食料品を購入しなければならないが買い物する時間がない世帯、またWalmartで月に4~5回以上買い物をする客にとっては、特に魅力的なサービスだろう」。

 

実際は”アンリミテッド”ではない

6月後半の週末にこの新サービスの提供が開始されるが、まだ、Walmartの全ての顧客が全サービスを利用できるわけではない。同社のウェブサイトでも、サービス提供エリアについては曖昧な表現にとどまる。

「お客様のエリアで、Delivery Unlimitedサービスが提供される可能性は大いにあります」と、同社は投稿されたFAQ(よくある質問)にて回答。利用者は、住所がサービス対象エリアであるかどうかを確認するため、無料トライアルに登録し、個人情報を入力する必要があるという。

Delivery Unlimitedの無料トライアルが終了すると、有料サービス加入は利用者が退会手続きをするまで自動的に継続される。サービス加入期間中は、登録時に選択した支払方法にて利用料金が決済され、いかなる場合でも払い戻しはされないとのこと。

利用料金は、Walmartギフトカードや、eギフトカードで支払うことはできず、クレジットカードまたはデビットカードから選択。一部の店舗では、フードスタンプ(米国にて低所得者向けに行われている食料費補助対策)の磁気カード版であるEBTも選択できるようだ。

 

Delivery Unlimitedの仕組み

Delivery Unlimitedは、Walmartの通常の食料品デリバリーシステムと同じ仕組みだが、配達回数が無制限となる。

本サービス提供における懸念事項は、Walmartが今のところ、配達の専門業者や独立した請負業者のネットワークを持っていないことだ。代わりに、PickupやSkipcart、AxleHire、Roadie、Postmates、DoorDashなどといった全米の配達業者と提携している。

 

取り組みの強化

Walmartはここ数ヶ月間、他のオンライン小売業者と対抗するための取り組みを強化している。35ドル以上の注文への翌日無料配達サービスや、配達員が家に入って冷蔵庫に食料品を運んでくれるというサービスも展開。

Walmartの最新のデリバリープランは、年間119ドルのAmazonプライム、年間99ドルのTarget社の新しいデリバリーサービスShipt、年間99ドルの食料品配達サービスInstacartのエクスプレス会員の顧客層をターゲットにしているようだ。

Walmartの新しいDelivery Unlimitedは、Amazonプライムの顧客を直接的にターゲットとしているように見えるかもしれないが、実際はそれほど単純ではないと、King氏。Amazonプライムでは、特定の商品の2日以内無料配達サービスだけでなく、ビデオやその他のコンテンツの無料視聴サービスを提供しているからである。

「食料品に焦点を絞ると、Walmartは食料品を格安で提供することもあるので、AmazonのWhole Foodsにとって、脅威となりうるだろう」と彼は語る。

 

Amazonの弱点

Walmartは、食料品の宅配サービスの顧客争奪戦に一石を投じるかもしれない。ITメディアコンテンツZoovuのシニアバイスプレジデントのSarah Assous氏によると、すべての小売業者にとって、このDelivery Unlimitedは難題をもたらすが、特にAmazonにとってはそうであるという。Amazonとプライム会員の最も魅力的な特典は、配送スピードである。

「Amazon以外の小売業者が、より低額な定額料金で同様のサービスを提供している今、Amazonがこの競争に、どのように対応し、打ち勝っていくかは、なかなか見物になりそうだ」と彼女は語った

全ての大手小売業者がより満足度の高いカスタマー・エクスペリエンスを提供することにより、他社より常に一歩リードしようとしている。小売業者とeコマースの面白い時期に差し掛かっているとAssous氏は語る。

「今回のWalmartのニュースは、小売業界に、より競合他社の優位にたち、顧客のロイヤルティーを向上させ、苦労して稼いだお金を使わせるための“次の大きな何らかの施策”を考え出さなければいけないというさらなる圧力をかけるだろう」。

Whole Foodsが財政難だという数多くの報道が正しければ、WalmartのDelivery Unlimitedによって、Amazonはさらに困難な状況に陥る可能性が高い、とKing氏。

「今の状況は、2頭の象が正面から対決しているのではなく、狡猾な肉食動物が、群れの最も弱いメンバーを特定し、その喉に無慈悲に食らいついているのに似ている」と加えた。

 

刷新された取り組み

オンラインの食料品に焦点を当てたDelivery Unlimitedは、同社のかつての有料会員向け配送サービスShippingPassよりも実用性が高いと、大手ITメディアEdge by AscentialのシニアアナリストJack O’Leary氏は示唆している。メンバーシッププログラムは、ロイヤルティー向上に非常に効果的である。Amazon、Instacart、Target社のShiptなどが、Delivery Unlimited登録者を自社プラットフォームに乗り換えさせることは、難しくなるだろう。

「Walmartがeコマースのメンバーシッププログラムを導入するのは、今回が初めてではない。2017年には、年間50ドルのShippningPassプログラムを廃止している。これは、Walmart.comの200万点の商品を対象に2日間の無料配達サービスを提供するものであった」とO’Leary氏は述べた。「それ以来、配達力を上げるために多額の投資を行い、国内のより広いエリアにおいて迅速な無料(一定注文額以上)配達サービスを積極的に提供している」。

「Walmartは、オンライン食料品のピックアップソリューションと、現在提供している食料品のデリバリーサービスにより、既に買い物の利便性を重視する新しい顧客層へのアプローチに成功している」と同氏。

「この既存の顧客基盤を、より低料金で利便性の高い食料品デリバリーサービスに登録させることは、充分に実行可能な戦略だ」。

「また、米国のオンライン食料品デリバリー機能の拡充競争を促進し、オンラインの食料品のデリバリーサービスプラットフォームの競争を激化させるだろう」とO’Leary氏は語る。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の6/18公開の記事を翻訳・補足したものです。