マーケターがユーザーIDに紐づいたデータなしで、きめ細やかな最適化を実現する方法

 

ユーザーIDに紐づいたデータ活用が終わりを迎えようとしている。まず、iOSで、そして、徐々にAndroidやその他のプラットフォームでもそうなるだろう。しかし、これはパフォーマンストラッキングやキャンペーンの最適化が終わるわけではない。ユーザー獲得最適化には、ユーザーIDを使用するよりもより効果的な方法がある。それは、プライバシーへの影響が少ないことや、大幅な改善可能性があることなど、さまざまな点で優れている。そして、ユーザーIDとは異なり、なくなることもない。

 

<参考>

サードパーティCookieを使用しないアイデンティティプログラム管理

Appleの新たなプライバシーフレームワーク、デジタル広告業界のプレッシャーに

 

「終わりを迎えようとしている」という言葉は、実際に起きていることを正しく表現している。そして、私たちはこれを受け入れるべきである。ユーザーIDが廃れつつあるのには、いくつかの理由がある。その中でも特に重要なのは、世界中の人々がこれまで以上にプライバシーを重視しており、そのマインドフルネスがテクノロジー企業への不信につながっているということだ。このような感情によって、ポピュリストによるデータ規制や、プライバシー第一の顧客を惹きつけるように設計された商業的スタンスが生まれる。その結果、政治、マーケティング、そして憤怒が入り混じった最悪の状況になる。

 

AppleのATTフレームワークを巡る、最近のこの手の騒動は、予想外でも不当なものでもない。IDFA識別子は、いわゆる「チーズはどこへ消えた?」のようなもので、iOSでのユーザー獲得の要となるものだ。追跡する許可がなければ、マーケターは広告ビューからチャーン(顧客がサービスを解約すること)までのジャーニーを正確に追跡することはできない。言い換えれば、広告と、それを見た人から生み出された収益に、決定論的なリンクが存在しなくなったということである。

 

では、ここからどこへいくのか?

マーケターとして、私たちはデータを受け入れ、依存し、蓄え、そして際限なくいじり回すように教えられている。収集したインサイトは、混み合ったデジタルマーケティングエコシステムの中での競争力となる。規制や技術の変化によって、有効なデータポイントが奪われるたびに、業界は「悲しみの5段階」に非常によく似た状態となる。

そのうちの4つの段階が、現在、インターネット全体に反映されている。一部のマーケターは、変更は意味がないと主張し否定している。また、Appleに対して怒鳴り散らしている人々もいる。そして、Appleのガイドラインの抜け穴を見つけようとして駆け引きする者もいる(指紋認証は抜け穴とはならない)。

 

iOS 14.4の広告在庫が減少し、業界全体にユーザーレベルデータに対する制限が増えると、この「悲しみのプロセス」は加速するだろう。

 

誰もが、最終段階である「受容」を経た後は、モバイルエコシステムは来るべき変化を受け入れ、適応していくしかないだろう。Appleの変化に徹底的に対抗したFacebookでさえ、広告主が従うべき新しいキャンペーン構造をすでに打ち出している。

 

しかし、この新たな状況に適応するとはどういうことだろうか?変化は、スタートアップから大規模なアプリパブリッシャーまで、また、ゲームやエンターテインメントからeコマース、金融、生産性など、あらゆるジャンルのすべての人に影響を与える。アプリパブリッシャーに、成果を効果的に測定できるという確信がなくなれば、広告出稿は非常に難しくなる。アプリパブリッシャーは、メディアの購入方法や、メディア支出の効果測定方法を見直し、再教育する必要がある。

 

さらにこの変化により、マーケターがマーケティングミックスを検討する必要性が出てきた。多くの人が、ユーザー獲得のために主要なプラットフォーム(Google、Amazon、Facebook、Apple)を主に使用していることに気がつくだろう(デジタルマーケティング等に関するインサイトと傾向を提供する市場調査子会社eMarketerによると、2020年の米国のデジタル広告費総額の約3分の2)。その結果、1つのプラットフォームに過度に依存するリスクが生じるとともに、ROI(投資利益率)およびオーディエンスを効果的にターゲティングすることが可能となる。マーケターがクロスプラットフォーム/チャネル間でマーケティングミックスを多様化するにつれて、データソースは断片化され、パフォーマンスの全体像を把握することがますます困難になっている。

 

希望の光

自動入札やオーディエンスターゲティングなどの技術革新により、広告主が制御できる領域が少なくなったことで、より多くのマーケティングリソースが解放され、マーケティングの第3の柱である「顧客が目にする広告クリエイティブ」にフォーカスできるようになった。マーケターの直接管理下にあるクリエイティブアセットの重要性は、以前にも増して高まっている。

 

マーケターは、クリエイティブを最大限に活用するために、キャンペーンから得たクリエイティブレベルのデータという宝の山を所有していることを認識するべきである。しかし、私たちのほとんどは、このデータを適切に分析することでもたらされるメリットをまだ十分に享受できていない。AppleのIDFA(Appleがユーザーの端末にランダムに割り当てるデバイスID)とATTが変わった今こそ、マーケティング業界がクリエイティブレベルデータを活用し、その可能性を解き放つ時である。

 

マーケターは、クリエイティブレベルのデータを使用して、効果測定方法を再調整し、依然として完全に制御できる要素の一つであるクリエイティブアセットを中心に最適化することができる。このプライバシーを重視したパフォーマンス分析方法は、集約データに依存しており、消滅するユーザーIDの有効な代替手段である。

 

マーケターは、各ユーザー価値をみるのではなく、クリエイティブレベルのデータを使用して、すべてのキャンペーンにおける、各クリエイティブアセットの価値を確認できる。これは、CTR、CR、CPIなど、アッパーファネルまたはローワーファネルでおなじみのメトリクスやKPIをすべて使用して行われる。

 

さらに、クリエイティブレベルのデータは、ユーザーIDが適していない場合に使用することができる。たとえば、広告クリエイティブを見る際に、過去のパフォーマンスに関する知識を使用して、将来の成功可能性をモデル化することができる。

また、支出割合が異常に高いアセットや、十分な予算が割り当てられていない質の高いアセットなど、これまで見えていなかったリスクや機会を発見することもできる。

 

クリエイティブベースのデータモデルへの取り組み方

クリエイティブレベルのデータを活用するためには、構造化されたクリエイティブ戦略を構築し、実行することが重要である。始めるのが早ければ早いほど、長期的にはより有利になる。これは、実用的なインサイトを得られるだけの十分なデータを収集するのに時間を要するためである。

 

まず、常に、強固なネーミングやラベル付けの規則を各自社アセットに結び付けておく必要がある。一部のメトリックはアセット固有だが、最も価値のあるインサイトの多くは、アセットのインテリジェントなグループ化に依存している。各アセットの名前が、含まれる広告ごとにまったく異なる場合、そのアセットを使用するすべての広告のパフォーマンスを確認することはできない。

 

次に、成功と失敗を定義する方法を理解する必要がある。KPIは、ユーザーレベル分析のものと似ているかもしれないが、ベンチマークは異なる。場合によっては、実際の目標に対するプロキシメトリック(より計測がしやすく、高速で検証できるような指標)を確立するために、KPIを完全に変更する必要がある。これを理解するには時間がかかるのだ。

 

そして、ユーザーIDで得られた可視性のレベルがほぼ回復したと確信できたら、さらに深く掘り下げてみよう。他のユーザーにあまり効果がなかったとしても、自社アセットをセグメンテーションツールとして利用し、適切なユーザーは惹きつけることができるのか?”クリエイティブ疲労”を事前に察知できるだろうか?アセットのパフォーマンスに合わせて、クリエイティブ制作を調整する必要があるか?これらはすべて、クリエイティブレベルのデータをしようして答えることができる質問であり、クリエイティブの氷山の一角にすぎない。

 

すべてが悲観的ではない

Appleが、ユーザーに対し、収集されるデータとその使用方法についてより透明性を持たせたいと考えるは正しい。しかし、ATTとIDFA変更には問題を伴っている。これらの変更が、広告のターゲティングにどのような影響を与えるか、そして、IDFAベースの追跡からどのように脱却すればよいのかといったマーケターの混乱に、プラットフォームが反応し、この11か月は困難な状況が続いている。

 

しかし、状況が落ち着くにつれ、今後の方向性を示す解決策も登場してきている。クリエイティブレベルデータは、キャンペーンのパフォーマンス指標として有効であることが証明されており、企業規模を問わず利用できる。そのため、SMB(中小企業)アプリパブリッシャーでも大規模広告主でも、クリエイティブレベルデータを利用してキャンペーンを最適化することができる。私たちは、モバイルマーケティングエコシステムのこの新しい道筋を楽観的に捉えており、業界がこの新しいデータソースを利用して、どのように再調整していくかを楽しみにしている。

 

※当記事は英国メディア「Mobile Marketing Magazine」の5/25公開の記事を翻訳・補足したものです。