eコマースサイトは、パーソナライズされたショッピング体験を提供することにより優位性を獲得する時代に突入しつつある。そして事業者は、顧客が歓迎されていると感じさせる方法を常に模索し続ける必要がある。

 

eコマースマーケティング会社である、CommerceCXの戦略およびカスタマーエクスペリエンス担当責任者Rob Maille氏は、次のように述べている。「すべてのビジネスは、自社の顧客に、『自分達が世界で一番重要な顧客である』と感じさせる必要がある」。

「それを実現するためには、顧客の要望やニーズを予測し、最大限フリクションレスなショッピング体験を提供しなければいけない」。

また、「顧客は、大切に扱われていると感じるときにより多くの商品を購入し、その販売業者のリピート客となり、さらに口コミで宣伝する傾向にある」と加えた。

 

また、顧客は、よりパーソナライズされた体験に対して「追加料金を払っても構わない」と考えているようだ。

CPQソフトウェア提供会社、KBMaxの戦略アカウントディレクターであるKris Goldhair氏は次のように述べている。「コンサルティング会社であるDeloitteの調査によると、4人に1人が、パーソナライズされた製品に対して割増料金を払うことに肯定的である」。

「我々は、『インスタント・グラティフィケーションの時代』に生きている。つまり、消費者は欲しいと思った瞬間に、今いる場所で、今すぐにそれを手に入れないと満足しない。そして、大量生産されるものに否定的で、カスタム商品により大きな価値を感じているということだ」。

 

顧客が、パーソナライズされたショッピング体験をより多く経験するにつれ、eコマースサイトを訪問する度に、パーソナライズされたサービスを期待するようになる。

 

AIサービスを提供するZoovuのマーケティング担当シニアバイスプレジデント、Sarah Assous氏は、次のように述べている。「顧客は、ブランドと交流するときは常に、ユニークでパーソナライズされた体験を期待するようになった。それは、オンラインでもオフライン(実店舗)でも、モバイルデバイス上でも変わらない」。

 

「今日の消費者は、無数の選択肢を得ている。非常に多数のベンダーから、実際に購入する業者を選択し、オンライン上の無数の製品を探索することが可能なのだ。しかし、こうした膨大な数の選択肢があることが有益である一方で、結果的に、『多すぎる選択肢』が、実際に顧客が選択する際の障害にもなっている」と、Assous氏は語った。

 

さらに、パーソナライゼーションがユビキタスになるにつれ、より多くの顧客が、ショッピング体験のあらゆる段階で提供されるパーソナライゼーションのレベルによって企業を評価する傾向にあるという。

リモートアクセスサービスを提供するLogMeInのカスタマーエクスペリエンステクノロジー担当シニアディレクターであるRyan Lester氏は、次のように述べている。「eコマースの新時代が訪れ、日々、顧客の期待値は上がっている。企業にとっては、実店舗で提供されてきたパーソナライズされた体験をオンラインでも提供することで、差別化できるチャンスが生まれている」。

 

「それが、顧客の商品発見を助けるものであれ、積極的なサポートを提供するものであれ、パーソナライズされた体験を提供することは、企業が、購入者と接触できる短い時間で最大限の利益を得るために有効である」と、Lester氏は語っている。

 

パーソナルな対応

特に、AI(人工知能)は、顧客とeコマース小売業者間の架け橋として機能するため、あらゆる種類のカスタマイズされたショッピング体験において重要な部分を占めている。

 

「AI駆動の会話型マーケティングツールの開発は、重要な第一段階である」と指摘するのはZoovuのAssous氏。「会話型マーケティングツールは、購買ジャーニー全般において消費者のガイド役となり、理想的な商品を特定し、消費者にとって適切な購入の助けとなることができる。最近のデータによると、81%の消費者が、デジタルセールスアシスタントを使用することで、より納得のいく購買決定ができたと回答している」。

 

またAIは、顧客データと組み合わせることにより、非常に有益なツールとなる。

CommerceCXのMaille氏は、「小売業者が、CRM(顧客関係管理)統合システムにおいて効果的にデータを活用する方法の1つは、コンバージョンへつなげるチャンスを向上させる施策の中で、各顧客に適したカスタマイズされたプロモーションと魅力的なインセンティブオファーを提供することである」と述べた。

 

効果的なパーソナライゼーションには、すべてのテクノロジーとデータをシームレスに連携させ、各顧客に独自のエクスペリエンスを提供することが必要である。

 

「すべては、信頼性の高いCPQ(configure/設定, price/価格, quote/見積もり。顧客からの製品受注から価格提示、見積書などの作成・管理をシステム化するソリューション)を活用し、スムーズなパーソナライゼーションと購買体験を構築することから始まる」と語るKBMaxのGoldhair氏。

「CPQソリューションは、より迅速なコミュニケーションを促進し、スピーディーでパーソナライズされた体験への顧客の期待を満たすために、セールス部門とエンジニアリング部門との溝を埋めるのに効果的である」と、同氏は指摘する。「また、高品質のCPQソリューションは、すべてのシステムの見直し、完璧なカスタムソリューションの構築、独自のツールへの多額な投資といった、全ての小売業者が感じているプレッシャーを解消することできる。適切なサードパーティソリューションプロバイダと提携することは、商品リリースまでの時間を短縮し、特に、マス・カスタマイゼーション(カスタム製品の大量生産)製造業に適したワークフローを確立するのに役立つ」。

 

実現には多額のコストを要するが、顧客体験と製品をカスタマイズすることには、投資する価値があるだろう。

 

Goldair氏は、「小売業者は、トレンドであるマス・カスタマイゼーションへの投資コスト、特に、CPQといった4IR(第4次産業革命)テクノロジーに対する投資は、売上増加につながり、価値があると認識し始めている」と述べている。「製造業者は、これらのソリューションを導入することにより、間接費を低く抑えながらカスタム商品の増産に対応することが可能となる」。

 

ただし、真にカスタマイズされたショッピング体験の提供は、長期的なプロセスであることを忘れてはいけない。

 

Goldhair氏は、「覚えておくべき最も重要なことは、デジタル化を一晩で行う必要はないということである」と忠告。「企業は、不要なテクノロジーへの過剰投資を防ぐために、徐々にデジタル化を進めるべきである。1段階ごとに進めることで、製造業者は、自社プロセスをゆっくりと変更しながら、革新的な技術のメリットを享受することができるので、焦る必要はない」。

 

パーソナライゼーションの未来

将来、カスタマイゼーションは、かつてないレベルで、よりパーソナライズされたショッピング体験へと進歩し続けるだろう。

 

「パーソナライゼーションが適切に実行されば、現代コマースエコシステムのショッピング、購入、サービス体験が、直接的な影響をもたらし、テクノロジーを信頼できる友人のように感じる体験が生み出されるだろう」と、Maille氏。「それ以上のパーソナライゼーションは存在しないだろう」。

 

顧客は、パーソナライズされた製品の即時配達を、ますます期待するようになるだろう。つまり、注文から製造、出荷までの経路をシームレスにする必要がある。

「パーソナライゼーションを提供することと、今日の顧客の期待に沿う速度で対応することは、別の問題である」と、Assous氏。「製造業者が、実際に迅速な増産に備えるためには、速やかに製品設定を行い、正確な見積もりを作成し、技術仕様を決定し、適切な原材料供給を保証するための部品表をERP(企業資源計画)システムに送信するための自動ツールが必要である。そして、これら全ての情報は、製造部門と共有されていなければならない」。

 

将来的には、パーソナライゼーションによって、顧客が最初にブラウジングした時点から製品の製造、および出荷までのショッピング体験のほぼすべての局面が形成されるだろう。

 

LogMeInのLester氏は、「現時点では、リコメンデーション・エンジンを超えた取り組みを行っている企業は多くはないが、ショッピング体験全般におけるパーソナライゼーションは、すぐに一般的になるだろう」と予測している。

「パーソナライゼーションの継続的な成熟化とともに、テクノロジーが反応的モード、つまり文脈に応じて状況に適応した方法で質問に答える方法ではなく、対応中の顧客と永続的な会話を維持できるような、より支援的な役割を担うようになっていることがわかる。そして企業が、より的確に、顧客のニーズを把握することが可能となるのだ。これが長期間のエンゲージメントを生み出し、その結果、追加購入やブランドロイヤルティの向上がもたらされるのだろう」。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の6/17公開の記事を翻訳・補足したものです。