人間の創造性とAIによる自動化を融合し、効果を上げる方法

カスタマー・ジャーニーに不可欠な要素であるパーソナライゼーションは、今日ではすべてのチャネルにおいて、ブランドロイヤリティ向上のための重要な推進力になっている。実店舗でもオンラインにおいても、パーソナライズされたオファーを提供するブランドから消費者が商品を購入する可能性は、はるかに高くなる。ブランドのコミュニケーションにおいてのみ、消費者との関連性をさらに高める必要があるのではない。消費者は、よりパーソナライズされた製品やサービスの購入にも関心があり、通常より時間がかかったとしても、手に入れたいと考えているのである。

 

企業は、自社の顧客についてかつてないほど多くの情報を持っている。しかし、所有するすべての顧客データを分析し、よりターゲットを絞った関連性の高いマーケティングメッセージをいかに発信できるかが最大の課題の1つではないだろうか?ある意味では、収集できるデータが急増し、マーケティングがより大規模で複雑になったことにより、より詳細なパーソナライゼーションの実現は、容易に視覚化できるようになったともいえる。しかし同時に、実装することはより困難になった。ほとんどの企業はパーソナライゼーションが、現在および将来の成功に不可欠であることを認識しているが、IT分野の課題、およびレガシー・テクノロジー(古いテクノロジー)が、パーソナライゼーションに取り組む際の大きな障害となっている。

 

パーソナライゼーションとは、顧客が企業ウェブサイトに再アクセスしたときに“名前で挨拶をすること”だけではない。消費者はソーシャルメディアやWeb、モバイルデバイスにおいて、ダイナミックで、かつ関連性の高いeメールメッセージや広告を受け取ることを期待している。モノのインターネット(IoT)が普及するにつれ、デジタルとオフラインマーケティングの境界線があいまいになっている。ブランドは、スマートウォッチ、店内端末といったインターネット接続端末を介し、物理的な販売時点(POS)においても、顧客にパーソナライズしたオファーを提供できるようになった。

 

それがマーケティング担当者にとって、カスタマー・ジャーニー全体のインタラクションをパーソナライズ化するための正確さやスピード、スケールをもたらすAIドリブンシステムの活用が不可欠となった理由である。AIは、チーム人材だけでは不可能な大量のデータを分析することができる。そして、データを紐づけるだけでなく、AI駆動のリアルタイム・パーソナライゼーション・ツールは、ミリ秒単位で、オフラインとオンラインのチャネルにおける顧客とのインタラクションや行動パターンから学習する。引き続き人間は戦略を立案し、クリエイティビティを発揮する役割を担うが、マシンは分析し、処理し、その場で各顧客に個別のコンテンツを配信することができるのである。

 

いくつかの企業マーケティング組織が、売上とコンバージョンを増加させるだけでなく、カスタマー・エクスペリエンスを向上させために、どのようにパーソナライゼーション戦略を強化しているかをみてみよう。

 

スピードへのニーズを活用する

今日の競争が激化するリテールバンキング市場では、顧客は、高度にパーソナライズされたサービスをより一層期待している。しかし多くの人々は「銀行を変えるのは難しい」と感じており、不満があったとしても、現在利用している銀行を惰性的に使い続けている。

 

しかし、すでに従来型競合他行の中でも機敏な挑戦者という地位を確立したオーストラリアのオンライン銀行ING DIRECTは、パーソナライゼーションがオーストラリアでのビジネスをさらに迅速に成長させる重要な要素であると判断した。ING DIRECTは、ターゲットを絞ったオファーやサービス情報を、ほぼリアルタイムに、かつ大規模なスケールで消費者に提供し、1年間で顧客獲得率を2倍にするという目標を設定した。課題は、過去に手動で行われていたマーケティングコミュニケーションプロセスをどのようにスピードアップするかという点であった。

 

ING DIRECTマーケティング担当者は、IBM Campaign(オムニチャネル・キャンペーン管理ソリューション)とIBM Interact(リアルタイムの対話型ソリューション)を新しい自動化アプローチの基盤として導入することにより、パーソナライズされたメッセージを作成し各消費者に配信するのに要する時間を劇的に短縮することができた。すべてのチャネルの顧客とのインタラクションは一元化され、ING DIRECTは、各顧客が購買サイクルのどの段階にいるのかを正確に把握し、それぞれのニーズに基づいて推奨する商品をカスタマイズすることができたのだ。

 

その結果ING DIRECTは、パーソナライズされたキャンペーンで推奨商品を提示するまでの時間を半分に短縮し、コールセンターでのクロスセルレートを向上させ、セールスコンバージョンレートを最大120%アップさせた。もう1つの利点は、マーケティング担当者がデータの準備に費やす時間を減らし、付加価値分析を行う時間を増やすことができるようになったことである。今後ING DIRECTは、パーソナライズされたマーケティング機能をディスプレイ広告分野にも導入し、各顧客のプロフィールに基づくプログマテック広告(自動買い付け広告)の動的配信を行うことを計画している。

 

1杯のコーヒーを提供するだけではない

顧客ロイヤリティとパーソナライゼーションは、密接に関連している。全ての顧客とのインタラクションに耳を傾け、それに対応する企業は、より多くのエンゲージメントと支持を獲得することができる。ヨーロッパを拠点とするカフェチェーンのCaffèNeroは、顧客が来店する理由は、単に「カフェインを摂りたいから」ではなく、「満足できるエクスペリエンスを得たいから」である点を理解していた。同社のマーケティング担当者は毎年、多数の小規模な新商品発売だけではなく、四半期ごとの4つのキャンペーンを実施している。これらは2つの季節キャンペーン(クリスマスと夏)と、2つのコーヒーにフォーカスしたキャンペーンである。

 

CaffèNeroにとっての課題は、よりパーソナライズされたタイムリーなコミュニケーションを提供し、季節のスペシャルメニューに対する認知を高め、オンラインでのインタラクションを実店舗での購入に結びつけることであった。

 

同社は、ロイヤルティカード会員をターゲットとして、顧客をブランド・アドボケイト(支持者)に変えるための新しいマーケティングコミュニケーションを推進。IBM Watson Campaign Automation(SaaS型マーケティング・オートメーションツール)を採用して、ペルソナのセグメンテーションと行動マッピングに基づく3点のタッチポイントにおけるパーソナライゼーション戦略を展開した。これにより、マーケティング担当者はそれぞれのタッチポイントで貴重なデータを入手することができたのだ。プリペイドロイヤルティカードを申し込んだ新規顧客に対し、ウェルカムメールを配信し、エンゲージメントプロセスをスタート。顧客と関連性の高い購入を促進するためのトランザクションeメール(トリガーによって自動配信されるeメール)は、非トランザクションメッセージをフィーチャーしたeメールよりも、3倍高いクリック率を実現している。

 

これらのeメールは、顧客にオファーを知らせるだけでなく、ペルソナ・マッピング・プロセスにおいて極めて重要な“利用頻度”や“好み”などの個人情報を収集する。自動作成される毎月の利用明細書は、CaffèNeroが定期的に登録顧客と関わるための貴重なデータとなり、季節商品と新商品情報とともに、プリペイドカードの残高に関する個別の情報も提供することができた。

 

そして、CaffèNeroのカード会員の来店回数と購入金額は、類似対照群と比較して2倍となった。また、カード会員のeメールの開封率は70%に達し、オフラインでの売上増加に多大に貢献している。また、パーソナライズされたeメールを受信した顧客の68%が1週間以内に来店している。CaffèNeroは、これらのナーチャリング(顧客育成)プログラムを実施することによって、将来の顧客コミュニケーションに対して、より細分化され、極めてフォーカスしたアプローチを進めることが可能になる。

 

適切なパーソンライゼーションの実行

パーソナライゼーションを活用し、顧客のリテンション率を向上させることは、企業の収益に直接影響する。新規顧客の獲得には、既存顧客の購入額を増加させるよりもさらにコストがかかるものだ。サウジアラビアを拠点とするテレコミュニケーションプロバイダーのMobilyは、そのことを念頭に置き、顧客のモバイルデータサービス利用を増加させるために関連性の高いマーケティングコミュニケーションを提供することにした。

 

目的を達成するためにMobilyマーケティング担当者は、IBM Watson Marketingソリューション(AI搭載のデジタル・マーケティング・プラットフォーム)を活用し、収集したデータから顧客を特定。魅力的な新製品やオファーを提供してアップセルを推進するチャンスを創出した。重要なのはオンデマンドメディア、ゲーム、モバイルTVといったMobilyが提供するデータサービス商品を、最も関連性の高いオーディエンスに紐づけることであった。マーケティング担当者は、幅広いグループに基づくセグメンテーションではなく、個々の顧客の実際の行動データをベースとする「マイクロセグメント」の構築を望んでいた。このアプローチによりMobilyは、あらゆるチャネルにおいて、個々の顧客ニーズや好みに合ったパーソナライズされたマーケティング活動を実施することができた。

 

その結果、より高度な予測モデリングを実装することができ、モバイルユーザー1契約あたりの平均売上(ARPU)が劇的に増加し、また、解約率は減少した。そして同社は、各顧客に対する理解を深めるためにモバイルの使用パターンや使用頻度、実店舗来店記録、コンタクトセンターへ通話記録などの複数のデータソースの統合に取り組んでいる。現在、同社の実店舗およびコンタクトセンター担当者は、顧客がこれまで検討しなかったようなサービスや商品を売り込むことができるようになっているという。

 

顧客を満足させれば、より多くのコンバージョンにつながる

顧客は、もはや不満足な、あるいは単に当たり障りのないエクスペリエンスでさえ、納得することはない。顧客は購買までのあらゆる段階において、彼らが必要とするものを提供するパーソナライズされたオファーを求めている。そして、顧客の求めているものは常に変化するのだ。AIの力を活用すれば、顧客が何を望んでいるかを予測するために役立つようなその瞬間のインサイトを収集することができる。そして、顧客の求めるものを理解できれば、いつでも、どこにいても、顧客に関連性の高い適切なエクスペリエンスを提供するキャンペーンを構築することが可能となる。マシン主導の分析と人間の創造性を融合させることが、提供できる最高のカスタマー・エクスペリエンスを実現するための鍵となるのだ。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の2/19公開の記事を翻訳・補足したものです。