小売業界の専門家3人が、小売店舗の将来について見解を述べる

小売業界では、勝者と敗者があきらかになってきている。MasterCardによると、2018年のホリデーシーズンは、この6年間で最高の小売売上高(オンラインおよびオフライン共に)を記録したとのこと。実店舗の売上は5%、そして、eコマースは約20%増加した。

一方で、2018年の象徴的出来事であったSears とToys-R-Usの破綻など、店舗の閉鎖や破産も起こっている。また、他の歴史の古い小売業者も困難に直面。その背景には、eコマース、特にAmazonの成長があると言えよう。

 

2019年には景気後退も予測される中、従来型小売業者や実店舗を有する直販小売ブランドは、複雑化する小売環境にも適応を見せている。彼らは店舗やテクノロジー、およびデータを、賢明なやり方で活用していく必要がある。また、店舗ショッピング体験の潜在的な可能性を再考する必要もあるだろう。

このような状況を踏まえた上で、顧客エンゲージメントソフトウェア会社MVP InteractiveのCEOであるJames Giglio氏と、コンテクチュアルコマースプラットフォーム会社OmnywayのCMOであるAmitaabh Malhotra氏、そして、UX最適化プラットフォーム会社ContentSquareのCEOであるJonathan Cherki氏という3人の小売専門家たちに、実店舗の将来と、2019年以降の勝者と敗者を分ける要因について、見解を尋ねた。

 

差別化要因としての実店舗

MVP InteractiveのCEOであるJames Giglio氏は、次のように述べている。「従来型の実店舗は、買い物客に、独自のユニークなエクスペリエンスを提供する必要があるだろう」。「ラウンジ家具を新たに設置するといった些細なものであろうと、シームレスな店舗販売時点情報管理のような高度なテクノロジーの導入であろうと、その店舗独自で、”他にはない”と感じさせるエクスペリエンスを提供しなければならない」。

 

OmnywayのCMOであるAmitaabh Malhotra氏は、小売業者にとって実店舗は「正当化する」手段として捉えている。実店舗は、小売業者の差別化に役立つものだ。「買い物客は、物理的なつながりや交流がないという理由で、未だ多くのオンライン販売のみのブランドを信頼していない。オンラインショップしか持たないブランドは、ロイヤルティの高い顧客を獲得するのにより長い時間が必要となっている」と同氏。「物理的店舗の存在と、そこでのエクスペリエンスは、ブランドが顧客に提供できる主要な差別化要因となりつつある」。

 

Malhotra氏は、実店舗がeコマースにもたらす利点についても指摘した。「物理的店舗は、企業のeコマースビジネスへ極小規模な倉庫や地域の流通チャネルとしての役割を持ち始めている。ラストマイルの流通問題を解決し、商品が期限通りに確実に配達されるために役立っているのだ。2019年も、実店舗のこの役割は、さらに重要となり、進化するだろう」。

 

ContentSquare CEOのJonathan Cherk氏は、デジタルだけでは提供できない商品との物理的なつながりの重要性を強調。「実店舗は、デジタルプラットフォームでは提供不可能な、”実際に商品に触れること”ができるショッピング体験を提供し続けるだろう。そして、物理的な世界におけるブランドと消費者のつながりをさらに促進していく。さらに、従来型実店舗にデジタルエクスペリエンスをさらに取り込むことにより、実店舗とオンラインの各カテゴリのエクスペリエンスの価値を維持しながら、消費者にシームレスな”オムニチャネルジャーニー”を提供するだろう」。

 

Cherk氏はさらに、「消費者向け直販ブランドが、従来型小売業者のあるべき手本をとなる」と説明した。「直販ブランドは、自分たちが単に商品を販売しているのではなく、顧客の生活に価値を付加していることを理解している。直販ブランドは、シームレスなショッピングエクスペリエンスの開発、自社オーディエンスと同様なモバイルファースト思考、自社ブランドのコミュニティの構築、ロイヤルティを促進するためのコンテンツ開発などを行い、オーディエンスのエンゲージメント向上手法を完成させた。そして現在、直販ブランドは、物理的世界の生活にブランドエクスペリエンスをもたらすことに注力している」。

 

テクノロジーと実店舗内エクスペリエンス

Cherki氏は、次のように述べている。「最も革新的なブランドは、すでに技術を活用し、実店舗内でのカスタマーエクスペリエンスの向上とカスタマイズを実現している。一方で、技術を導入していないブランドは大幅に遅れをとっている。今日、ブランドは商品情報や在庫をタブレットに表示し、顧客に関する知識を活用して店舗内での経験をパーソナライズすることが可能である。例えば、物理的な決済プロセスを省き、レジ無し店舗やアプリ決済で代用することもできるようになった」。

 

Cherki氏は、小売事業者が現状のプライバシー問題への懸念に対し、より敏感になる必要があることも指摘。「なぜなら、個人データを収集しない限り、個人向けにデジタルエクスペリエンスをカスタマイズすることは不可能であるからだ」。

 

James Giglio氏は、実店舗へのテクノロジー導入の加速を予測する。「特定の小売分野では、衣料品店での3Dスキャンなど、独自のツールやテクノロジーが採用されるだろう」。「ほとんどの小売業者がデジタルサイネージを使用するであろうが、より先進的で斬新な技術を導入した『未来的な店舗』も現れるだろう」と付け加えた。「タッチスクリーンを設置し、特定商品の詳細情報を検索できるようにすることは、ショッピングエクスペリエンス全体で採用されていくだろう。また、ARエクスペリエンスとの組み合わせも考えられる」と同氏。「Appleの運営店舗と同様のモバイルPOS(販売時点情報管理)オプションを採用した、セルフレジのコンビニは、徐々に一般的なっていくだろう」。

 

Amitaabh Malhotra氏は、オンライン購入した商品を店舗で受け取るという形態が、オンラインとオフラインが融合した主要なエクスペリエンスとなり、短期間で広く導入されていくとの考え。「なぜならば、単純に、店舗と買い物客の両方にとって利点があるからである。店舗にとっては、店舗からの配送のための物流システムに依存しない、効果的な集配チャネルとして機能する。さらに、買い物客に来店させ、他の商品も購入するチャンスを生み出し、1人当たりの購入金額の増加につながる可能性もあるのだ」。

 

ただし、モバイルチェックアウトやAR / VRショッピングなどのテクノロジーの導入は、まだ先になるだろう。「現時点では、それらのテクノロジーはほとんど、低単価分野でのより小規模なフォーマットで採用されているため、最大手小売事業者が試験的に導入するに留まるだろう」と、Malhotra氏は補足した。

 

小売業におけるモバイルアプリの役割

Malhotra氏は、オンラインと実店舗の双方において、小売モバイルアプリの見通しは非常に明るく、長期的な成功に不可欠であると考える。「小売業者は、モバイル対応チェックアウトやバーチャルな商品陳列通路、店舗内ゲーミフィケーション、aコマース(ARを駆使したコマース)などの機能を、実験、または実装するだろう。モバイルアプリのブランドエクスペリエンスの拡張機能には、実店舗外でもエンゲージメントを生み出す付加機能が含まれる。例えば、バーチャルな試着室や商品テスト特別室、ソーシャルシェアやおすすめ、インフルエンサーマーケティング、価格/機能比較ツール、サードパーティマーケットプレイスなどの機能が挙げられる」。

 

対照的に、James Giglio氏はかなりの「アプリへの倦怠感」が生まれていると考えている。彼は、小売業者は「ユーザー獲得のためのロイヤルティプログラムに目を向けるべきだ」と意見。そして、Giglio氏は、「アプリの店舗の案内機能では、ARのようなエンゲージメント向け技術を取り入れ、さらに、アプリユーザーに特別な割引を提供することが可能である」と補足した。

 

Jonathn Cherki氏は、アプリの提供は小売業者にいくつかの有益な利点をもたらすと述べている。「アプリによって、すでに好意的な顧客のロイヤルティを育てることができる。シームレスなアプリ内ジャーニーを提供すれば、ユーザーが異なるデバイスを次々に使い分けなければならない状況を防ぐことができ、スマートフォンで閲覧した商品に対し、デスクトップ上にてコンバージョンを行うという(煩雑な)傾向を逆行させることができる」。Malhotra氏と同様に、Cherki氏はアプリを「進化するにつれ、実店舗の価値を高めることができる一種のショッピングアシスタント」として見ている。

「アプリは、ロケーションベースのサービスや在庫のトラッキング、ロイヤリティリワードプログラムなどを提供し、デジタルと実店舗の架け橋となることも可能である。そして、さらに多くの実店舗がスマート環境を構築するにつれて、アプリは未来のショッピングエクスペリエンスをナビゲートするのに役立つだろう。たとえば、米国衣類メーカーUrban Outfittersでは、実店舗内で特定の商品のコードをスキャンすることにより、より詳細は情報を入手することができる」と同氏は述べた。

 

小売業成功者と敗者との違い

Malhotra氏は、2019年以降、「ブランドの実行スピード」が勝者と敗者を分ける要因となると考えている。「成功する小売事業者と失敗する事業者の主な違いは、その適応性である。今の市場では、大規模で複雑な倉庫のような店舗を構え、買い物客が必要な商品を探してすべての通路を歩き回り、さらに、購入する際には販売員を探さなくてはならないような古いビジネスモデルは望まれていない。こうした旧式のモデルは、利益率が非常に低くても販売数が重視される、極端にローエンドなディスカウントストアでのみ機能している」。

 

Cherki氏も同様に、適応性と顧客中心主義が成功へのカギとなると考えている。「高度なパーソナライズ志向と、より高度で正確なシームレス性が期待される傾向の昨今、デジタルであれ実店舗であれ、変動するニーズと顧客の期待を柔軟に理解できる小売業者が成功するだろう。魅力ある(クロスデバイスではなく)オムニチャネルジャーニーを構築するためには、消費者の行動データを活用し、カスタマーエクスペリエンスを再重要視して意思決定を行うことが必要である。そして、現在では、どの企業も高度な指標にアクセスし、自社のワークフローに統合することが可能だ」。

 

Cherki氏は、データの役割の重要性についても強調。「中~高級小売店では、店舗内エクスペリエンスに対する期待がより高い。それはテクノロジーの導入だけでなく、いかにテクノロジーが買い物客のジャーニーにシームレスに統合されているかという点にまで及んでいる。いずれかのチャネルで始めたものが、別のチャンネルで終結する。利用可能なすべてのインタラクションチャネルにおいて、買い物客を相互に関連付け、店舗スタッフに買い物客に関するデータと実用的な情報を提供する。それにより、店舗スタップが買い物客に対し、より強い影響力を持つことができ、売上増加につながるのだ。ブランドに対し多次元的にロイヤルティが最も高いある買い物客が、同ブランドの店舗内で、他の買い物客と同様に扱われることは、もはや許容されないのだ」。

 

最後に、James Giglio氏は、「高級ブランドは、常連客の存在にかかっているだろう。しかし、店舗内のエクスペリエンス向上のために再投資をしないブランド、あるいはオンラインで自社製品が大幅に割り引かれているブランドは失敗することになるだろう」と加えた。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の1/3公開の記事を翻訳・補足したものです。