eコマースは、ある時ふらりと訪問し、次の瞬間には退出しているというような気まぐれなものである。これまで以上にアクセスしやすくなった現在のオンラインショッピングでは、顧客を満足させるのは着実に難しくなる一方、高まる消費者の期待は、常に満たされて当たり前といったものになっている。

買い物を急いでいるわけではない消費者にとっては、単なる「オンライン版」のショッピングではもはや満足できない。彼らは、双方向型(対話型)や没入型の体験が楽しめるショッピングを求めているのだ。

よって、eコマースの今後の傾向は、消費者の欲求と嗜好により活気づけられ、常に変化し続けると予想される。下記に、2019年のeコマースの動向がどのように変化するのか、その傾向を挙げてみよう。

 

1.双方向型製品の視覚化

小売業者やマーケティング担当者にとって、オンラインショッピングで「明快な視覚化」を実現することが、商品を消費者に紹介するのに最適な方法である。これにはほとんど異論はないだろう。(視覚化によって)消費者は購入前に商品の詳細をすべて調べることができ、後に後悔することのない、情報に基づいた購入決定ができるのである。

 

購入に至るまでに存在する障害の1つは、(特に高級品に関しては)消費者にとって商品の信頼性が不確実であることであろう。検討している商品に消費者は直接触れることができないので、ブランドはできるだけ多くのページで商品の画像を高画質で表示し、紹介することでしか、彼らの”ためらい”を取り除くことはできないのだ。

したがって、(Amazonのような)シームレスなズーム機能は、最近急激に普及している。実際に触れることができなくても、画像の特定の部分を拡大できるため、商品の手触りなどをより視覚的に理解できるからだ。

 

拡大に耐えられる十分な解像度の画像にズーム機能を付け、ダウンロードに時間がかからないように(時間がかかる場合、39%の閲覧率減少という結果をもたらす)実行すれば、さらに小売業者は一歩前進できるのである。

 

オンラインショッピング体験を高めるために、小売業者は、実際に商品を利用している”デモ動画”を採用することを検討してもよいだろう。最近の世論調査では、回答者の52%が商品動画を見ることで、オンライン購入の意思決定をより確信づけられるという。

 

また、「3D画像」も視覚的な観点から言えば最良の選択肢かもしれない。オンラインメッセージカードや挨拶eメールを作るAmerican Greetingsは、全ての視覚化できる選択肢に注目し、高画質の写真に加え、現在は3D画像でも紹介している。

グリーティングカードの実店舗体験をオンラインで再現することは、現在の視覚化ツールではほぼ不可能ではあるが、それでも3Dの商品画像はAmerican Greetingsの大きな課題を解決した。というのも、グリッターやホイル箔、エンボス、その他の装飾品など、グリーティングカードでよく利用される素材を、従来の2D写真で紹介し、どのようなものか正確に理解してもらうのは難しいものであった。

 

現在の3D技術は、少し前では不可能と考えられていた商品の特徴を十分に処理できるほど発展した。たとえば、シルクや革、宝飾品のような黒色、輝き、光沢のあるもの、同様に透明感や異常に加工されていたり、凹凸があったりなど、あらゆる特徴でも、だ。現在では、そのすべてをほぼ問題なく描写することができるようになっている。

 

3Dの商品画像の利点は、顧客のエンゲージメントの増加だけではなく、コンバージョン率のような具体的な測定基準をも、より一層向上させるものである。

東欧の最大の高級百貨店の1つであるTSUMは、3Dの商品画像により靴やバッグのカテゴリーの商品のコンバージョン率を約40%向上させた

TSUMは、3Dで4万点以上の商品をデジタル化した最初の企業である。この事例研究は、適切なツールを利用し、妥当な期間内に多数の最少在庫管理単位(SKUs)をデジタル化できることを証明している。

 

つまり、3D画像とシームレスなズーム、無制限の設定オプションの組み合わせにより、オンラインショッピングは未来型の体験に変わり、2019年には顧客の期待を最大限に上回ることができるだろう。

 

2.人工知能(AI)ソリューション

現在のところ、eコマースの将来は人工知能(AI)にあると言って間違いない。

双方向型を進化させるために、個人の3D画像やバーチャルファッションアドバイザーから、売上増加のためにかつてなかったデータを蓄積するAIは、eコマースの革命の実権を握っていると言えよう。

 

混乱を避けるため、eコマースでのより実践的なAIの使用事例(バーチャルアシスタントや没入型の試着)を、関連データ(商品管理とマーケティングの分析収集)からさらに区別しよう。

 

映画「Clueless」の主人公Cherを覚えているだろうか?彼女は、究極の“バーチャルワードローブアシスタント”により、黄色のチェックの洋服を身にまとっていた。その映画を観た十代の若者に、羨望の気持ちを植え付けたものだ。

 

しかし、AIの助けを借りれば、このような体験はこれまで以上に身近になる。Amazonの手掛けた“ファッションアシスタント”のパイロット版である「Echo Look」は、最近米国にて紹介された。

そのプログラムは、アルゴリズムと人間の洞察力の連携によりユーザーの服装を分析し、そのファッションの判断を下すものである。

 

また、デザイナーファッションを提供するオンラインショップ「Net-a-Porter」は、ユーザーデータをスキャンし、旅行やイベントなど特定の目的に沿ったスタイルを提供するテクノロジーを試験中だ。

 

バーチャルファッションアシスタントの道のりはまだ長いが、それでも、たった数年前まではフィクションと考えられていたことが今では現実的になってきている。

 

ビジネスにおいても、意思決定が着実にデータ駆動型になるにつれ、重要な基準の必要性は今まで以上に増すだろう。コンバージョン率やウェブサイトのアクセス、顧客エンゲージメントの水準は、全ての業界のマーケティング担当者にとって重要な指針だが、”これまでに存在しないが現在では入手可能なデータ”が必要とされていることを、まだ認識していないユーザーもいる。

 

2019年のAI分析ツールは、2D画像でも3D画像でも、小売業者のウェブサイトに埋め込まれた商品画像から、潜在顧客とのやりとりの方法を追跡でき、ヒートマップ(関心度や発生頻度などを色で表現した温度分布図)で最も効果的な測定基準を表示することができるようになる。サイト滞在時間は別として、そのツールは表示するサムネイル画像においても、顧客の関心を引くために最適な表示位置などまで示してくれるだろう。

 

AIによって収集された分析により、eコマースの小売業者は商品の視覚化を強化し、素晴らしい色の組み合わせを選択し、商品の最前部にベストセラーの商品を置くことができる。たとえば、ある商品ページの訪問者の70%が、宝飾品の留め金を調べたり、特別なドレスのステッチを見るためにズームをしたりして、滞在時間の大部分を費やしたという。積極的なマーケティングチームにとって、このようなデータは非常に貴重であることがわかるだろう。

 

こうした情報は、市場にとってまったく新しいもので、情報サイト「Smart Data Collective」によれば、小売業者が在庫の管理や消費者の関心を早急に追跡するために、AIが間もなく革命を起こすだろうとのこと。実際「間もなく」とは、現在のことである。

 

3.実店舗の最盛

eコマースの将来について言えば、小売業者が望んでいる唯一の方向性があることは事実であり、実店舗は過去のもののように思われがちだ。

しかし、一部の消費者にとっては、eコマースで提供されるものは、実店舗体験に比べたらまだ不十分なのである。実際、AmazonやAlibabaのような大手のグローバル小売業者は現在、復活させた実店舗の力を新たに試している。

 

Amazonは最近、ニューヨークに新しい小売店舗をオープンし、顧客の商品レビューで評価に4つ星が付いた商品を陳列している。選ばれたアイテムはもちろんベストセラー商品であり、売上の状況を直接反映したものだ。

このリアル店舗「Amazon 4-Star」は、オンラインショッピングの代わりに実店舗でバーチャルを再現することによって、頭の中で従来型のショッピングに転換させる。Amazonのウェブサイトの構成を踏襲し、実店舗には、“Trending Around NYC(ニューヨークで流行っているもの)”や“Frequently Bought Together(よく一緒に購入されているもの)” “Amazon Exclusives(おすすめの新興ブランド)”といった、同社のオンライン買い物客にはすでに知られているようなコピーとともに陳列されている。

 

また、オンラインモバイルコマース企業Alibaba Groupも最近、 ファッションAIをコンセプトにした初のブティックを香港にオープンさせている。同社もまた、実店舗の最盛を信じているようだ。

店内は、買い物客がアイテムを試せる特別なスクリーンで商品情報を表示する「スマートミラー」とともに、アパレルブランドGuessの商品が並べられている。スマートミラーは、問合せのあった衣類がどこあるかを示すという、まさに”スマートなミラー”である。

 

実店舗でデジタルショッピング体験をもたらすもう1つの方法といえば、デジタルサイネージ(電子看板)である。

デジタルキオスク(電子本やゲームなどのデジタルコンテンツを販売する自動販売機)は、実店舗型の小売業者に知られていないわけではないが、2019年には、さらなる対話型の機能や、エンゲージメントの増加、シームレスなオムニチャネル体験を提供できるようになるだろう。デジタルキオスクのどの商品もウェブサイトで閲覧可能で、デジタルインスタレーション(空間全体を作品として体験できるデジタルアート)にも利用できる。

 

双方向型のキオスクは、店舗で提供されるさまざまな商品を取り上げ、デジタルサイネージのソフトウェアプロバイダによっては、様々なストーリーテリングの手法を紹介している。ブランドのイメージ映像を流す小売業者がある一方、3D商品画像に注力する小売りもある。どちらも双方向型であるが、常にどのアプローチが効果的かを決めるのは顧客の自由である。

 

2019年、デジタルサイネージは商品の視覚化を進めるほかにも、顧客が店舗では入手できない商品を閲覧したり、購入コードを取得したり、宅配を注文したりもできるようになるだろう。あらゆるショッピングシナリオの実現が可能になっていくのだ。

 

企業の大小問わず、小売業界全体がデジタル化されていく中で、実店舗は影をひそめると予想する人もいるかもしれない。しかしながら、小売マーケットにはほとんど影響がないだろう。そのことは、最近の“実店舗でのショッピングルネサンス”(実店舗の再生)が裏付けている。

結論

商品の視覚化の向上や徹底的な分析、エンゲージメント水準の向上において、「AI」と「実店舗」は、注目すべき2019年のeコマースのトレンドである。

こうしたトレンドを組み合わせることで、売上の増加やブランドの革新、斬新で満足のいく顧客体験実現に向けた総合的なビジネス戦略の基盤が形成されていくのだろう。

 

※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の10/16公開の記事を翻訳・補足したものです。