データ不正使用の事実が明るみになり、セキュリティに関するコミットメントを遵守しない経営陣についてのニュースや、従業員による低モラルな投稿が企業価値を棄損するようなニュースが報道されるなど、ソーシャルメディアはこれまでになく厳しい目に晒されている。この状況を改善するためには、ソーシャルメディアをどのように機能させるのか、という点について取り組む必要がある。
つまり、ソーシャルメディアビジネスが「収益を上げる方法であるビジネスモデル」であるだけでなく、基本的なテクノロジーモデルをも変える必要があるということだ。
ソーシャルメディアの問題のいくつかは、ユーザーが無料で利用できるという点、そして広告としてのビジネスモデルに起因している。ソーシャルメディア企業はそれらを利用し、ユーザーデータを容易に収集。それらを抽出し、分析できることに依存したビジネスモデルを開発してきた。そして、ソーシャルメディア企業は、魅力的なオファーを提供し、一般ユーザーにアプローチしたいと考えるベンダーに対してそのインサイトを売り込んでいる。
ユーザーは、ソーシャルメディアを無料で利用する対価として、ソーシャルメディアシステムが収集した「個人データ」の権利を多かれ少なかれ放棄することになる。しかしながら、一部のソーシャルメディア企業は、データのプライバシーを守るという約束を軽率に無視している。たとえ最初に誓約した事業者でさえ、同様である。
無料使用と広告という強力な組み合わせにより、ソーシャルベンダーは、有り余るほど大量のデータを活用することが可能になった。選挙中、強い感情を呼び起こすために、どのようにソーシャルアプリケーションが利用されたか。そして、悪質な政党が特定の有権者グループをターゲットにするために、どのようにソーシャルプラットフォームを利用したか。このようなことについて、多くの記事が書かれている。
ソーシャルメディアの問題は、ビジネスモデルとテクノロジーモデルの双方において、誕生当初から生じていた問題だ。ソーシャルベンダーがこれらのモデルの変更に取り組み、異なるアプローチをしない限り、状況が改善するとは考えにくい。しかし、現行のビジネスおよびテクノロジーモデルは多大な収益を上げており、すぐに変えることは難しいだろう。
膨大なユーザーデータを用いたインサイトの売り込みにより成立する現行のモデルを、もし彼らが止めた場合、新しいモデルというものは実際どのようになるだろうか?最も可能性の高い新モデルは、いくつかの解決すべき問題点を含むかもしれないが、ユーザーのコミュニケーション方法に対してターゲットをより絞ったアプローチをするサブスクリプション形式になるだろう。これを、 「ノーティフィケーション・モデル」と名付けよう。(下記参照)
サブスクリプション:バック・トゥ・ザ・フューチャー
サブスクリプションサービスは今や一般的になり、カーリースや携帯電話、シェービング用品、ペットフードなどに関する記事においても、「サブスクリプション・エコノミー」という言葉が広く使われている。しかし、ユーザーが無料で利用できたモデルから、わずかな金額であっても有償のサービスへ移行するということは、ベンダーコミュニティにとって大きな負担となる。しかし幸いなことに、ソフトウェア業界の歴史を見れば、有料モデルの構築は、困難ではあるものの成し遂げられるということを証明してくれる。
1980年代には、PCソフトウェアは、大企業が製造したメインフレーム・コンピュータで実行されるソフトウェアとは「別のもの」と考えられていた。PCソフトウェア開発者は愛好家(オタクのようなもの)と見なされ、著作権に対する彼らの主張は一貫して無視されていたのだ。
一方で、PCソフトウェア開発者の多くは、同じような興味を持つコミュニティのメンバー達にアプリケーションをリリースすることで、将来的に、メンバー達が改善したアップデート版がコミュニティに提供されるだろうと考えていた。
しかし、そのモデルは持続不可能であった。PC革命に参加する人が増えるにつれて、コーディング方法を知らないユーザーも増えた。彼らはバグが生じた際、さらに、提供されたアプリがどのように機能するかを理解するためだけにも、ヘルプが必要であった。しかし少しの収益しか得ていない開発者は、わずかなドキュメントを提供するか、もしくは、全く提供できなかったのである。また、ヘルプが必要なユーザーのための電話サポート窓口すらなかった。
Microsoftの共同創設者であり最高経営責任者(CEO)であるBill Gates氏は、異なるビジョンを持っていた。彼は、PCソフトウェアをライセンスするというアイデアを推進した。Gates氏の主張は正しかったが、時期尚早であった。彼は、開発したオペレーティングシステムであるMS-DOSを収録したフロッピーディスクを有料販売した。しかし当時は、フロッピーディスクをコピーして友人に配布されてしまうことに対応できる策はほとんどなかった。同じことがPCアプリケーションでも発生していたが、少なくとも、サポートサービスをオリジナルのシリアル番号を持っているユーザーへ限定することが可能となった。
ソフトウェア開発者が正当な対価を受け取っていると確信するに至るまでには、何年もかかった。最終的には、キーコード、クラウドコンピューティング、その他のアプローチによって、アプリケーションの不正使用を防止することは事実上可能となった。長い時間をかけたビジネスモデルとテクノロジーモデルの変化に伴い、ソフトウェアの権利は保護され、収益が確保されるようになったのだ。
PCソフトウェアで成功したのであれば、無料使用と広告モデルをやめることにより、ソーシャルメディアをより安全で収益性の高いものにできる可能性があると言えよう。例えば、異なるユーザータイプに対応できるスキームはすでに利用可能である。
最初に携帯電話業界で導入された「ファミリープラン」によって、使用料を支払えない子ども達やその他家族のサービス利用が可能になった。ではなぜ、ソーシャルメディアではこれを導入しないのか?たとえば、無料ユーザーがつながることができるユーザー数の上限を設定するなど、機能制限を導入することによって、無料サービスを提供し続けることも可能である。モバイルデバイス用の多くのダウンロード・アプリでは、無料ユーザーが利用できる機能は制限されているものである。
ユーザーはソーシャルメディアを使用する際に、誰が何を投稿しているのかを正確に知ることを望む。まず初めに、ソーシャルメディアを使用するユーザーや団体に「特定可能な本名」を使用すること義務付けるべきである。荒らし行為をしたりシステムを悪用したりするユーザーを排除することは、決して難しいことではない。一般ユーザーを激怒させているのが誰かを特定することは、無理な注文ではないはずだ。
つまり、ビジネスモデルをサブスクリプションに変更し、簡単な本人確認を必須とすることは、ソーシャルメディア企業が今日のソーシャルメディアで頻発しているデータ流用やいじめ、その他の悪用を減少または排除するために最初にすべきことである。
検討すべきもう一つの変更は、使用モデルを一新することである。
ノーティフィケーションとダンバー数
現在のソーシャルメディア使用モデルは、巨大なフォロワー基盤を構築することを推奨している。例えば、著名人は容易に何百万人ものフォロワー獲得することができる。フォロワーを獲得すれば個人的な満足を得ることができるだろうが、友人との双方向のコミュニケーションを通して「リアルな関係を維持する」というソーシャルネットワーキングの本来の意図とは異なってくる。
1990年代、イギリスの人類学者Robin Dunbar氏は「人間関係の上限数」についての研究を行い、興味深い発見をした。同氏によると、平均的な人間が良好な関係を維持できる人数の上限は、約150人であると言う。Dunbar氏はこの数を「ダンバー数」と呼び、「バーで偶然会って、気まずい思いをせず、一緒にお酒が飲める人の数」と表現している。
ソーシャルメディア上では、簡単にダンバー数に到達することができる。そして、数百万人ものフォロワーを獲得している著名人の影響で、ダンバー数など取るに足らない数字であるかのように思えてしまう。もちろん優れたテクノロジーを利用したとしても、100万人や、1,000人でさえ、関係を維持できるわけはない。維持するためには、ソーシャルメディアのルールを変更し、非現実的にテクノロジーを応用するしかない。
あまりにも多数のフォロワーを持つことは、ソーシャルネットワークとしての機能を低下させ、双方向コミュニケーションから一方向放送へと変化することを意味する。本質的にそれは悪いことではない。しかしユーザーが情報交換を通して関係を育むことを心から望んでいるのであれば、ソーシャルメディアのコミュニケーションが低下していることになるだろう。
したがって、ダンバー数内に収まる仲間と対話を続けるためにソーシャルメディアを使用する場合は、より有効な別のアプローチ方法があるかもしれない。その代替案の1つが「ノーティフィケーションアプリ」である。いずれにしても、自分が関係を継続する「友達」の数については、もっと現実的になる必要があるだろう。
「ノーティフィケーション」は、TwitterやFacebookの投稿に似ていると考えてほしい。しかし、メッセージが280文字以内に制限されないことが異なる点である。そして、ターゲットとする人だけがメッセージを読むことができる。そして、読んだ人は、何らかの反応をすることを期待される。
通知アプリは、少数が参加する何かの話題やプロジェクト、または会話スレッドについてのグループを維持したい「個人」によって使用されるものである。たとえば特定のプロジェクトに携わるビジネスマン、訴訟に取り組む弁護士、特定の患者に24時間365日取り組む医療チーム、ソフトボールチームメンバー、または同じ結婚式に出席する人々などだ。
電子メールやTwitter、Facebookのいずれでも、グループ内でのコミュニケーションを実現できるが、プライバシー性やコンテンツの長さ、私が呼ぶところの「非同期性」などにおいて、それぞれ固有の制限が生じる。ソーシャルメディアを始め、電子メールやその他多くのコミュニケーションツールはすべて、ユーザーである個人が自分の好きな時間に、または非同期的に対話できることに意味がある。しかし、手間をかけずに、メッセージが受信されたことをグループの他のメンバーに知らせることが可能な優れたチャネルは存在しない。
前述、およびその他多くの事例において、メッセージが受け取られたことを知ることができる、というポイントが極めて重要である。ソーシャルメディアを使用する際には、他のメンバーからのコメント付きの読みやすいスレッドを表示するなどといった、「履歴」という概念を持つべきだ。そして、プライバシー保護やグループの統一性維持、履歴表示、および非同期性を機能させるという理由から、ノーティフィケーションアプリのサブスクリプションサービスを提供することは、従来のソーシャルメディアよりも優れたアプローチである。
ビジネスモデルとテクノロジーモデルの結合
無料サービスは、本当の意味では無料というわけではない。ソーシャルメディアでは、ユーザー自身がメディアの無料使用と引き換えに、ベンダーが広告主に提供する「商品」となった。それが良いか悪いかということではない。何十年間を経て、「適切な」ユーザー層への広告の発信手法は、もはや芸術的な域まで達した。それでも、現在のテクノロジーとビジネスモデルによって、悪意のある事業者があまりにも容易に疑うことを知らない人々をターゲットとしている。
また、コミュニケーションも変化した。ソーシャルメディアは可能性を提示し、直感的なユーザーによって、その既成概念の枠は越えられた。異なるビジネスモデルとテクノロジーモデルはすでに存在している。そして、プライバシーやセキュリティといった問題に対するユーザーのニーズに、より適切に対応できるサービスを選択するのは、ユーザー自身の役目である。ソーシャルメディア市場の一部を新しいモデルに変換するには、まだ何年もかかるだろう。最終的には、複数のビジネスモデルとテクノロジーモデルが共存し、ユーザーは自分のニーズに最も適したモデルを選択することになるだろう。
サブスクリプション・モデルとノーティフィケーション・モデルは、数千から数百万人のフォロワーに対してコンテンツを一方的に発信する重要性が低い場合、非常に有効である。個人がダンバー数に近い数のメンバーとの関係を良好に保ちたい場合には、ノーティフィケーションがより適切かも知れない。ソーシャルメディアの先駆者たちは、このような状況を明確に予測してはいなかった。
2つの可能性
50年にわたるテクノロジーの歴史では、より洗練された使用方法が発見されると、そうした使用方法を目的とした製品を生み出す、というコアアイデアを強化してきた。現代の携帯電話は、電話システムに加え、インターネットにアクセスできる“コンピュータ”であることを否定することはできない。さらに、写真や音楽などのさまざまな種類のファイル形式でコンテンツを作成、および受信することができる。
今日のポケットサイズの携帯電話は、かつては総勘定元帳を管理するためだけに使用する装置で部屋が埋め尽くされた時代と比較すると、はるかに進歩している。多くの人は日常生活において、別々の目的のために設計された複数のコンピュータ所有している。それがまさに、製品ライフサイクルの本質である。
現在、ソーシャルメディアにおいても同じ進化が起こっている。ソーシャルメディアにおいても、かつて多くのことを実現する単一のテクノロジーモデルがあった。しかし、このモデルは、特定の目的において、より優れていることに気付かれたのだ。その結果、継続的な技術革新により、(ノーティフィケーションのような)より多様な商品が開発され、より洗練された方法でそれらの製品を使用している。
現在のソーシャルメディア商品群がすぐに消滅するとは考えないで欲しい。既存のソーシャルメディアによって、重要なニッチ市場が確立されたのだ。ただ、その市場は、もはや唯一の発展可能なニッチでないということである。
「新しいソーシャルコミュニケーションの時代に入った」と考えることは理にかなっている。多かれ少なかれ、それは全世界中のコミュニケーションの問題を解決しているのだ。今こそ、ある瞬間に関心がある特定の個人で構成され、常にメンバーが変動するグループ内でのコミュニケーションに目を向ける時なのである。
※当記事は米国メディア「E-Commerce Times」の1/31公開の記事を翻訳・補足したものです。