中国発の強力なオープンソースAI は、ChatGPTやGeminiよりも安価で、同じくらい優れている。より良質で、より安価なマーケティングツールの登場を期待したい。
中国発の強力な新しいオープンソースAIである「DeepSeek」は、AI評価バブルに終止符を打つかもしれない。これは投資家にとっては悪いニュースだが、マーケティング担当者にとっては良いニュースである。
DeepSeekとは DeepSeekは、OpenAI(AI開発を行う米国企業)がリリースした大規模言語モデルOpenAI o1と同等の性能を持ちつつも、コストは95%も安価だとされている。それは、OpenAI、Google、その他大手生成AI企業が使用している最先端のNVIDIA(米国の半導体メーカー)製チップを使用せずにつくられている。これらのチップは1つあたり最大7万ドルと高額だ。DeepSeekの開発者は、より安価な機器を使用するだけでなく、より安価な学習方法も考案した。
「DeepSeekは登場以来、他社を圧倒しており、コストはOpenAIの100分の1で済む」と、TrustInsights(米国のマーケティング分析企業)の共同設立者兼チーフ・データ・サイエンティストであるChris Penn氏は語る。「オープンソースでもあり、モデルを試すことができる。DeepSeekはすべての研究結果を公開しており、非常に優れた成果を上げている」。
Penn氏によると、これはオープンソースモデルと、ChatGPTのようなクローズドソースの独自モデルとの対決だという。これまでのところ、クローズドソースモデルの開発者はオープンソースモデルに追いつくのに苦戦している。同氏は、多くの人が使用して改良できる DeepSeekのオープンソースモデルは、AIの大きな躍進に拍車をかけるだろう、と述べた。
「DeepSeekの功績により、今後6か月から12か月の間に、推論モデルに関する非常に急速な革新が起こるだろう」と同氏。
DeepSeekは、既存のプレーヤーが持つリソースを持たないことで、AI市場に混乱をもたらした。米国は国家安全保障上の理由から、最先端チップの中国への輸出を禁止している。そのため、同社はイノベーションによって勝つ必要があった。
「DeepSeekは、急速に業界の弱点となりつつあるリソース効率の面で画期的な進歩を遂げたようだ」と、AIセキュリティ企業AppSOCのチーフ・サイエンティストであるMali Gorantla氏は語る。「力任せでソリューションに無制限の処理能力を注ぎ込む企業は、必要に迫られて革新を起こす、より闘志のあるスタートアップや海外の開発者よりも脆弱なままである。参入コストを下げることで、これらの画期的な進歩は、非常に強力なAIへのアクセスを大幅に拡大するだろう」。
「シリコンバレー」に恥をかかせた
「(彼らは)基本的にシリコンバレー全体に恥をかかせた」とPenn氏は言う。「それは、我々にとって良いことだ。マーケターにとっても良いことだ。消費者にとっても良いことだ。なぜなら、非常に低コストで推論テクノロジーにアクセスできるようになるのだから」。
Penn氏は、DeepSeekからすでに得られている成果に非常に感銘を受けている。1月23日の発言の冒頭で、同氏は一連のプロジェクト要件といくつかのベストプラクティスを、DeepSeekの推論機能によってコーディング環境に組み込んだ。
「実行ボタンを押すと、最初から最後までアプリが書き上げられ、初回は20分で完了した」とPenn氏。「それでほとんどすべてが変えられる。ソフトウェアで考えると、コンテンツ作成や広告、コピーライティングでも同じことがいえる。モデルはただそこに座っていれば物事が進んで、『よし、これをどうやってやるか考えてみよう』、と思えばそれが実行される」。そして、それは与えられた要件に従って実行されるのだ。
DeepSeekは、作業中にその推論を表示するという点でもChatGPTやその類のものとは異なる。現在、このアプリは米国におけるiPhoneの無料ダウンロードチャートでトップを占めており、Playストアで最もダウンロードされている生産性向上アプリのひとつである。両サイトのレビューでは、このアプリの透明性が称賛されている。
「業界はこれまでとんでもない過剰支出をしてきたのか?」
DeepSeekのコスト、品質、オープンソースモデルは、この技術に何千億ドルも費やしてきたテクノロジー企業を弱体化させる恐れがある。
米紙The New York TimesのAndrew Sorkin氏は、1月27日のニュースレターで次のように述べている。「超効率的なオープンソースソフトウェアは、チップメーカーのNVIDIAを含むテクノロジー大手の評価に疑問を投げかけており、同社の株価は今日大暴落している。業界全体が乱暴に過剰支出してきたのだろうか?」。
投資家は明らかにそのように考えている。1月27日の取引終了時点で、NVIDIAは17%下落し、時価総額は5,000億ドル以上が吹き飛んだ。他の大幅下落銘柄には、同業のチップメーカーであるMarvell Technology(27%)とBroadcom(17%)、そしてネットワーク技術プロバイダーのArista Networks(28%)など(いずれも米国企業)がある。Googleの親会社Alphabetでさえ4.2%下落した。
Marketing AI Institute(米国AIマーケティング企業)のPaul Roetzer CEOによると、この巨額の投資はリスクのある技術に対するFOMO(取り残されることに対する恐れ)が拍車をかけたという。
「Microsoft、Amazon、Googleは、基本的に『数百億ドルを投じるつもりだ』としているが、うまくいかないかもしれない」とRoetzer氏。「やらないリスクは、現金を浪費するリスクよりもはるかに大きいからだ。もし最終的に1,000億ドルの損失が出ても、それはそれでいい。なぜなら、利益は1兆ドルあるからだ」。
これとベンチャーキャピタルがAIに投資した多額の資金が相まって、資産バブルのようなものを生み出す。資産バブルとは、資産の価格が急激に上昇し、その本来の価値から乖離することである。一部の市場観測筋は、DeepSeekが登場するかなり前からこの問題を懸念していた。
マーケティング担当者は、AIバブルの崩壊の影響と、それが経済全体に及ぼす影響を注視する必要がある。2000年の超短期的なドットコムバブルのような状況になるか、それとも 2008年の住宅ローン崩壊のような状況になるのだろうか。現時点では、前者のように思われる。