そして、メタバースはこれらの戦略にどのような影響をもたらすか。

 

ブロックチェーン技術とNFT(非代替性トークン)はさらに普及し、数社の大手ブランドはすでに導入を始めており、真のエンゲージメントを生み出すことを実証している。

 

マーケターは、競合相手の優位に立つための新しい戦略とテクノロジーを常に求めている。そして、2022年の展望において、NFTとブロックチェーン技術がブランドをいかに成長させるかについて頻繁に議論されることは驚くことではない。デジタルの世界は3DのARやVR環境へと拡張している。一方、Meta(旧Facebook)は、「コネクテッド・メタバース」というコンセプトを前面に出している。

 

マーケターはすべての選択肢を検討する際、目の前の派手なギミックを追いかけるのではなく、明確な目標と展望を設定しなければならない。だが、一部のマーケティングチャネルで現在生じつつあるブロックチェーンとバーチャル環境への移行も見逃してはならない。

 

ブロックチェーンがもたらすアイデンティティに対する利点

「ブロックチェーンの透明性、分散性、不変性が広告詐欺の防止や広告サプライチェーンの保護に役立つことは、業界では以前から知られていた」と語るのは、米国に本社を置き、動画テクノロジー企業のConnatixのデマンド担当シニアバイスプレジデントであるMel Bessaha氏だ。「これらの利点は、強固なファーストパーティデータ戦略の構築に注力しているブランドにも、大きな価値を同様にもたらす。これらの戦略には、当然ながら、可能な限り多くのファーストパーティデータが必要となる」。

 

ブロックチェーンの全データのロケーションはパブリックな分散型台帳に記録されるため、データの出所に関しては、ブロックチェーンは消費者に対してより透明性の高いものとなる。ブロックチェーン技術をデータに用いる企業は、データの処理と保存において、チェーンの内外にかかわらず多くのセキュリティオプションを利用することもできる。

 

顧客データの透明性がもたらす利点とは、企業のデータベース上で非公開で管理されたり、顧客の許可なくサードパーティと共有することができないという点である。このようにすれば、顧客がデータ共有の「許可する」というチェックボックスにチェックを入れる際、そのデータ共有合意をどう解釈するかに関わらず、企業が顧客データをどう利用するか、また、顧客がどう利用してほしいかのそれぞれの考え方に齟齬が生じない。ブロックチェーンによってデータを共有することは、ブランドが他の取引や長期にわたる許可同意おいてデータが悪用されることを恐れる顧客と信頼を築くための方法だ。

 

「顧客はデータ共有からオプトアウトできることを望み、どのデータが収集されているのか明らかにしてほしいと考えている」とBessaha氏。「(ブロックチェーンが提供する)透明性を提供できるブランドは、顧客の信頼を勝ち取り、顧客のブランドに対するエンゲージメントを継続させ、データ共有のインセンティブを与えることができる。デジタル企業は、顧客が情報を共有する際、公正な取引をしていることを証明する必要があり、ブロックチェーンはその証明に有効である」。

 

もし、企業がブロックチェーン技術を利用することで顧客の信頼を今よりも得ることができるなら、各ブランドが今まで以上に必要とするファーストパーティデータをより多く取得するための条件が整うことになる。

 

メタバースでのNFT

非代替性トークンは、ブロックチェーン技術を使ってユニーク(一意)性を確認するデジタルオブジェクトだ。トランザクションはパブリックな分散型台帳に記録されるため、NFTを取得した人は誰でもその所有権を証明できる。

 

これは重要なことである。なぜなら、コンピュータ画面上のNFTの視覚表現はスクリーンショットで簡単にコピーできるからである。貴重なデジタルの宝石ともいえるこの視覚表現の所有者を指定するのは、ブロックチェーン自体なのだ。

 

ブランドにとって、NFTは様々な方法でブランドの価値とブランド愛を作り出すことができ、顧客にとっては、バーチャルな記念品としてデジタルオブジェクトをより個人的で重要なものにすることができる。米国のハンバーガーチェーンBurger Kingのファンなら誰でも店頭で手に入れることができる王冠ではない。特定の条件をクリアして手に入れた、唯一のオブジェクトであり、ブロックチェーン上でそれを証明できる。

 

NFTを発行するブロックチェーンベンダーが、ユーザーがそれらを補完するデジタルウォレットやトロフィーケースを提供し、顧客が獲得したNFTを誇示する環境はすでに整っている。しかし、バーチャルな環境で運用する場合、NFTはユーザーがどこへ行ってもフォローできる。これが、NFTがVR体験に不可欠で、VRメタバースが具体化するにつれて、重要さを増す理由だ。

 

NFTの責任

マーケターが気をつけなければならないことは、特定のブロックチェーン技術がエネルギーを大量に消費するという悪評だ。ユニークなトークンやコインごとに台帳を更新するために、分散型ネットワーク内のコンピュータは、新しいチェーンを生成する必要がある。多くのブロックチェーンベンダーは、持続可能なプラクティスを誓うことでこの懸念に先手を打っている。

 

マーケターは、NFTプロモーションやブロックチェーン戦略を導入する際、使用している技術が環境に配慮したものであることを消費者に知らせたいと考えるだろう。

 

米国に本部を置くデジタルメディアおよびマーケティング業界団体のIABのシニアバイスプレジデントで最高戦略責任者であるLibby Morgan氏は「消費者は、NFTやその他デジタルトークンの作成によって放出される炭素ガスの影響について深く考えるだろう」と語る。

 

メタバースでのマーケター

「マーケターは、メタバースにおけるブランディングの機会を探し始めるだろう」と語るのは、米国に本社を置くプログラマティックメッセージング企業であるDocereeの北米社長、Stephen Hoelper氏だ。「現在のデジタルマーケティング環境よりもより魅力的で押しつけがましくない体験を提供するブランドは、メタバースでもすぐに最大の成果を得るだろう」。

 

米国を拠点とするクラウドベースの体験企業Lucidworksのeコマース部門トップであるSanjay Mehta氏は「ブランドは、メタバースへ準備をすべきである」と語った。「これはバーチャル体験の再考し、消費者間のコミュニティの構築、商品を実際に近い形で体験すること、買い物客の行動の理解、そして、よりパーソナルなAIを活用したコンシェルジュスタイルのサービスの実現など、これまでリアルな世界でやろうとしてきたことを実現する有効な方法を見つけるチャンスである」。

 

同氏はさらに「小売業者が実行可能な方向性は数多くある。しかし、明確な意図と(ただゼロから何かを作るのではなく)メタバースでの総合的な体験を強化する熱意がある企業は優位に立つだろう」と述べた。

 

米国に本社を置く、アドベリフィケーションの世界的企業であるDoubleVerifyの最高製品責任者であるJack Smith氏によると、メタバースという考え方は広く知られるようになったが、まだ大部分は概念的なものである、とのこと。

 

「ハードウェア、ソフトウェアのどちらの技術も、“メタ・チャンス“に対応可能なコンテンツもまだ初期段階だ」とSmith氏は述べた。「相互運用性もカギになる。メタバースが実際の世界のように機能するには、バーチャルな環境が相互接続されていなければならない。クローズプラットフォームが並んでいるものではだめだ。メタバースは実現にまだ数年かかるが、新型コロナウイルスのパンデミックの真っただ中に、VRやARが急速に進歩していることを考えると、それほど遠い未来の話ではない」。

 

メタバースでのブランド盗用?

約束されたメタバースのようなバーチャルな環境に最初に飛び込む時、マーケターは、従来のチャネルでの戦略やロジックのいくつかは適応しないを理解しなくてはならない。それは、知的財産を保護する法律が「ミートスペース(現実世界)」として知られるリアルな世界に根差しているからだ。

 

「メタバースとミートスペースでのIPとライセンス問題のもっとも顕著な違いは、所有権の明確さだ」と米国の弁護士のために見込み顧客を獲得する企業、Esquire DigitalのチーフリーガルアナリストであるAron Solomon氏は語る。「現実の世界でナイキのスニーカーを見ると、ライセンスを受けたオリジナルを正確に追跡できるため、香港のスニーカーストリート(旺角の花園街にあるスニーカーショップが立ち並ぶエリア)で販売されているJordan 1 Bred Toe(ナイキのエアジョーダンの赤黒カラーモデル)が偽物であることがわかる」。

 

同氏は「ブロックチェーンに基づくメタバース上での所有権を追跡することは、従来の法的措置では不可能になる。なぜなら、問題となる対象物の所有権の不確実性と無限の(それ以外の点では非常にクールとされる)変更可能性によるものである。例えば、Jordan1BredToeのNFTである」と警告する。

 

メタバースがより多くの参加者とつながることで、いたちごっこが展開されるかもしれない。それは、広告の世界での広告詐欺やその他のデジタル詐欺に似ているかもしれない。

 

マーケターはNFTを発行する方法に細心の注意を払い、この新しい分野で実績のあるパートナーを選ぶ必要がある。

 

新しいデジタルチャネルと同様に、消費者間では発見の刺激があり、マーケターもそれを共有することができる。しかし、最終的には、その興奮は利益に結びつかなければならない。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の1/6公開の記事を翻訳・補足したものです。