オンラインベンダーが、ポストコロナのマーケティング環境に対応するために十分変化できなかったように、間近に迫ったサードパーティ(ユーザーが閲覧しているWebサイトのドメイン以外の第三者)のデジタルcookieの廃止により、eコマース広告業界は早急に戦略の転換を迫られている。
サードパーティcookieは、間もなく過去のものとなるだろう。Googleは、今後2年以内に、個々のユーザーの閲覧履歴をもとにターゲティングするウェブ広告の販売を完全に停止する。Googleの人気ウェブブラウザ「Chrome」では、閲覧履歴データを収集するcookieは認められなくなる。
Googleは、最近、2023年までにChromeブラウザのトラッキングcookieを廃止する計画を発表した。同社は、cookieをよりプライバシーに配慮したウェブ構築支援を目的としたグループプロファイリングシステムに置き換える予定だ。
また、サードパーティのトラッキングcookie廃止への動きも始まっている。
たとえば、iPhoneやiPadのユーザーは4月以降、自分のブラウジングを監視するトラッキングアプリから、オプトアウトするよう促されている。欧州連合(EU)のデータ保護法では、デジタルcookieをオンライン識別子の一つとみなしている。つまり、同胞の規制によって、ウェブサイトは訪問者を追跡するためにブラウザにcookieを配置する前に、訪問者の同意取得を必要とするということだ。
こうした一連の動きは、サードパーティ・データを活用しようとする広告主に大きな打撃を与えている。今問われているのは、ブランドがこのようなオンライン広告における大きな変化からどのように立ち直るかということだ。
解決策の一つとしては、マーケティング活動と、マーケターが商品や顧客の情報をよりコントロール可能なテクノロジーを連携させることが考えられる。BigID(個人情報のマッピングを使い、顧客データ管理を支援する米国のスタートアップ)のアクショナブル・データ・インテリジェンス・プラットフォームは、まさにそのために設計されたものだ。
企業は、自分たちがどのようなデータを保有し、どこに保管しているかを把握することで、それらのデータを最大限に活用する必要がある。BigIDのプライバシー・ポリシー担当副社長であるHeather Federman氏によると、同社は、ブランドが現在の環境の変化に対応するための戦略を提供していると述べている。
「非常に長い間、デジタルcookieはデフォルトのトラッキング方法であった。しかし、欧州連合(EU)が発令したプライバシー規制により、その状況が変わり始めた」とHeather Federman氏。
Federman氏から、cookieレスの世界で次に来たるものに移行する際に、オンライン広告主が直面する存亡にかかわる危機について話しを伺った。
動き出しているアンチトラッキング
ウェブサイトによる訪問者のIP(インターネットプロトコル)やアドレスのトラッキングについては、何年も前から熱く議論されてきた。たとえば、あるウェブ閲覧者がショッピングサイトにアクセスしてブーツを購入したとする。すると、そのユーザーは、その後もサイトを閲覧するたびに、ブーツや関連商品の広告を目にする。
「デジタルcookieとは、基本的にそのためのものであり、規制当局はcookieや同種のトラッキングについて非常に懸念している」とFederman氏。
そして、オンライン上のプライバシーを保護するために規制当局は、cookie追跡メカニズムに対してさまざまな提案を行ってきた。同氏は、EUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation / GDPR)は、ユーザーのコンピューターにcookieを配置する前にユーザーの同意を取得しなければならないという考えに至ったと述べる。
「その結果、すでにいくつかの同意取得のメカニズムが登場している」。
これにより、多くのウェブブラウザ企業では、デフォルトでcookieを無効にする決断を下している。しかし、多くのウェブサイト運営者は、cookieよって無料広告から収入を得ているため、サイト訪問者がcookieにオプトインすることを望んでいるとFederman氏は説明している。
Cookieの黙示録を切り抜ける
eコマースの世界での、cookieを使用しないマーケティングソリューションは、オンライン顧客とのより直接的なつながりであると、Federman氏は考える。企業にとって最も簡単な解決策は、それぞれの顧客との関係を築き、ファーストパーティのデータベースを構築することだ。
関連するアプローチとしては、マーケターが他社のファーストパーティデータの状況を把握している場合、そのセカンドパーティデータを使用し広告を行うことだ。Federman氏によると、他社と提携してそのデータと統合し、顧客プロファイルを充実させることもできるという。
ブラウザのcookieトラッキングメカニズムを無効化することでマーケターが直面する問題は、広告主にとって実行可能な代替手段がないことだ。一つの選択肢は、統一された同意ツールだ。その方法はについては未定であり、コンテキストベースの広告を利用する場合も同様であると同氏は述べる。
ペイウォールの購入
一部のウェブサイト運営者は、無料広告に頼る代わりに、自分たちの収益を確保するためのサービスのサブスクリプション化を検討しているとFederman氏は示唆する。
「残念ながら、これが世の中の仕組みであるため、そうなるだろう。マーケターは、依然としてマーケティングの方法を見つけようとしており、これまでのcookieが機能してきたやり方よりもさらに悪質だ」と同氏。
断念したデジタルcookieの代替手段として考え出される解決策がどのようなものであれ、それは今後数年間で段階的に導入されていくだろう。そのため、広告主の収入減が懸念されるかもしれない。
インターネット上でペイウォールが目立つようになってきたことについて、Federman氏は、それが確かな現実になりつつあると考えている。ここ数年で、すでに多くのパブリッシャーによるペイウォール導入が見られる。
「パブリッシャーがcookieを使って広告収入を得ることができなければ、ユーザーから直接収入を得なければならない。ユーザーは無料のインターネットや無料のニュースに慣れてしまっているため、我々の収支に打撃を与えることになるだろう」と同氏は話す。
マネタイズの疑問に答える
当然のことながら、広告主やウェブサイト運営者が、新たなcookieレスシステムの下で、いかにオンライン活動をうまくマネタイズ(収益化)できるかは大きな関心事だ。どのようなソリューションを導入するにしても、万能ではない。多くの場合、ユーザー追跡ができない状況で、キャッシュフロー維持が可能となるような戦略を立てることが、困難になっている。
「それは今起きていることの一部であり、コミュニティは現在、ちょっとした存亡の危機にさらされている」とFederman氏は同意する。
同氏は、「一つ予測されることとして、巨大な広告プラットフォームを有する多くの大手企業の重要性が増し、その収益性がより高くなるだろう」と指摘する。多くの中小企業、特に小規模なパブリッシャーやブランドは、自社のメッセージを発信するために、これらの大規模サービスにさらに依存せざるを得なくなるだろうということだ。
考えられるアプローチの一つとして、Googleがcookieプロセスを置き換えるために開発している新しいコホートシステムがある。一部の報道では、それはAI(人工知能)を活用したプロファイリングシステムであり、ある意味でFacebookがやっていることを模倣したものであるとされている。
Googleは、最近、FLoC(Federated Learning of Cohorts)と呼ばれるシステムのトライアルを展開することを発表した。これは、Chromeの「プライバシーサンドボックスプロジェクト」の重要な一部だ。
FLoCは、デジタルcookieの代わりに、ブラウザがコンピューターや携帯電話に保存する小さな文字データやコードをウェブサイトに表示する。これらの文字やコードは、ユーザーがこれまでにウェブサイトにアクセスしたことがあるかどうか、ユーザーのウェブサイトの好みや地理的な位置情報などを把握するのに役立つ。
このプロセスによって、ユーザーが潜在的に興味を持っていると考えられるものについての広告が表示される。Googleは、FLoCシステムがサードパーティcookieと比べて95%の効果があると主張している。
今のところ、FLoCがcookieに関連するプライバシーの懸念をどのように和らげることができるかは、不明だ。
プライバシー規制基準における分断の可能性
第三者の視点からは、プライバシー規制に関して二つの異なるルールが設定されているように思えるかもしれない。
EUではプライバシーに関する法律を、より厳しく、より積極的に施行しているが、米国など他の地域ではそうでもない。消費者は、ヨーロッパではエンドユーザーにEUのプライバシールールが適用されるが、米国のエンドユーザーにはそこまで厳しくはないルールが適用されるという状況になるかもしれない。
「その可能性は非常に高い。バルカン化(ある地域や国家が、互いに対立するような小さな地域・国家に分裂していく様子)したインターネットとなる可能性もある」とFederman氏は同意する。
米国においては、カリフォルニア州のような新進気鋭のプライバシー法や、バージニア州やコロラド州で公布された新しい法律でさえ、よりオプトアウトを重視していると同氏は話す。
次に何が起こるか
アドテック業界は、来たる二年間の期限が終了する前に、協力してcookieに取って代わる解決策を見出す必要がある。Federman氏は、プライバシーへの配慮と、オプトアウトかオプトインかに関わらず、同意要件を尊重することに重点を置くべきだと述べる。
このプロセスの多くは、広告主と連携する業界団体が担当すべきだ。こうした団体として、Network Advertising Initiative (NAI/オンライン広告イニシアチブ)、Interactive Advertising Bureau (IAB/インタラクティブ広告協会)、Digital Advertising Alliance (DAA/デジタル広告アライアンス)などが挙げられる。
ここに、ヨーロッパの広告協会に対応する団体も加わるべきである。
「プライバシー擁護団体にいる多くの人々は広告を好まないため、彼らと本当に合意に達することができるかは分からない」とFederman氏は述べている。
※当記事は米国メディア「E-commerce Times」の7/29公開の記事を翻訳・補足したものです。