自社のターゲット・オーディエンスは誰なのか。これを自分たちは理解できていると思い込んではいけない。そこには誤解の可能性もあるのだ。本記事では、ターゲット市場の特定方法と、実際の売上につながるニッチなマーケティングキャンペーンの企画方法を紹介する。

 

多くの企業は自社の宣伝活動を行う際、即座にマーケティング活動を開始してしまう。ここで皮肉なことに、実際にはマーケティングの最も重要な部分を占める“市場ターゲット”について熟考することを怠りがちだ。

新起業家やスタートアップに限った問題ではない。私が関わった多くの老舗企業が、自社のターゲット市場を漠然としか定義できなかったのである。

 

これは深刻な問題である。なぜなら、マーケティングで誰をターゲットにしているかを正確に理解することが、実際に販売商品を購入するターゲット層にリーチし、関係を築き、説得するための重要な鍵となるからだ。よって企業は、すぐにマーケティングキャンペーンを構築しクリエイティブを企画することに取り組むのではなく、一度立ち止まり、最初にターゲット市場について考えてみる必要があるだろう。

 

ここでは、どのようにターゲット市場を特定し、実際の売上につながるターゲットマーケティングキャンペーンを構築するか、その方法を紹介したい。

 

ターゲットは誰なのか?

スタートアップか老舗企業かを問わず、新しい広告キャンペーンを立ち上げる場合は常に「誰がターゲットであるか?」という点を自問する必要がある。たとえ幅広い層に向けた商品を販売する場合であっても、ターゲットを確認することは、依然として重要だ。具体的なターゲティングが売上につながり、ターゲット市場を具体的に理解すればするほど、より効果的なマーケティングを実行することができる。

 

たとえばローションを販売する場合、ターゲット市場は広範すぎて、それを定義するのは難しいと考えるかもしれない。それは、ほとんどの消費者がある程度は手の乾燥に悩んでいると考えられるからである。

 

これは事実である可能性もあるうえ、人々がローションを買う理由は多種多様である。乾燥した気候に住む人もいれば、皮膚炎の症状に悩む消費者もいるだろう。いい香りがするローションを好む人も、香りつきのローションは肌への刺激が強すぎると無香料のものを好む人もいる。

これらの異なるグループ全てに対し、同じマーケティングを実施することは合理的だろうか?

 

たとえ自社の販売する無香料ローションが、乾燥した地域に居住している消費者と、皮膚炎に悩む消費者の双方に効果的な商品であったとしても、この2つ市場に同時に効果的なマーケティングを行うことは難しい。結局のところ、「皮膚炎」「ローション」というワードでGoogle検索する消費者は、乾燥した地域に住む人向けのローションを探しているわけではなく、皮膚炎の症状改善に特化したローションを求めているからだ。

 

「皮膚炎に悩む人」にターゲットを絞った市場セグメントにおいても、さらに、ターゲット市場を絞り込む必要がある。たとえば、皮膚炎に苦しんでいる幼児の母親に訴求する際には、同症状に悩む中年男性をターゲットする場合とは大きく異なるマーケティング戦略を採用しなければならない。

 

このように、いかに自社のターゲット市場を把握することが重要なのか、理解できるはずである。「自社のターゲットは誰か?」という質問に、より明確かつ正確に回答することができれば、さらにフォーカスされた効果的なマーケティングを実行することが可能だ。もちろん、市場規模とその特異性とのバランスをとる必要があるが、誰がターゲットで、何が購入への動機づけとなるのかを理解することは、説得力のあるマーケティングキャンペーンを構築する鍵となるのだ。

 

これらのことを念頭に置いて、自社のターゲット市場を定義するために役立ついくつかの簡単な質問を用意した。

 

既存顧客は、自社の製品やサービスをどのように使用しているか?

前述のように、同じ自社の製品やサービスを使用する顧客でさえ、使用する理由やその方法は異なる可能性がある。たとえば請求管理ソフトウェアを提供している場合、全クライアントとの全取引にそのソフトウェアを使用している顧客がいる一方で、特定のクライアント、または特定の取引でのみ使用する顧客もいるだろう。

 

おそらく請求管理ソフトウェアのヘビーユーザーは、最も価値のある顧客であり、一時的に利用するユーザーに対してよりも、さらに積極的に多様なメッセージングを用いて訴求したいと考えるはずだ。ヘビーユーザー顧客のビジネスにとって、現状使用しているソフトウェアは必要不可欠となっている。従って、ヘビーユーザー顧客は一般ユーザー顧客よりも、ソフトウェアの特定のセールスポイントに強く惹かれることだろう。

 

自社の製品やサービスの使用方法によって、既存顧客ベースをセグメント化することにより、ターゲット市場に対する多くのインサイトを獲得できる。たとえば、ある既存顧客が特定の理由によってある企業の商品やサービスを愛用しているとする。これと同じ理由によって動機付けされる見込み客は、同じ課題にフォーカスしたマーケティングに反応するだろう。

 

何を売ろうとしているのか?

これは、あらゆるマーケティングキャンペーンにおいて、当然明白であると思われがちである。しかし、特に、販売する商品を変更する場合、ターゲット市場の定義には「何を売ろうとしているのか」を正しく理解することが重要である。多くの企業は新製品を販売する際に、古いマーケティング戦略を採用し、なぜ効果が出ないのか途方に暮れていることがあるからだ。

 

新商品であれ、特定の商品やサービスの売上増加のためのマーケティングであれ、誰が新しいターゲットになるのかを考えなければならない。商品やサービスによって、それぞれ魅力的に感じるオーディエンスは異なるものだ。従って、販売商品の微々たる変更であっても、マーケティング効果に大きな影響を及ぼす可能性があるのである。

 

たとえば、クッキー販売会社が、卵を材料に含まないオーガニッククッキーを新製品として追加するとしよう。その際は、自社のその他の標準的なクッキーの商品群と異なる新たなマーケティングを行う必要がある。

 

正直に言うと、卵を含まないオーガニッククッキーを買う人は、味を最重要視して購入する訳ではないだろう。オーガニッククッキーの購買層は、味よりも成分を気にしている。従って、販売するクッキーがいかに健康的で環境に優しいか、という点にフォーカスしたマーケティングを行うべきである。

 

同時に、その標準的なクッキーの味を気に入っている大部分の顧客層は、環境に優しいからという理由でオーガニッククッキーを購入する可能性は低い。既存顧客は、美味しく馴染みのあるクッキーを求めており、こうした成分への関心が低めのターゲットに対しては、成分よりも「味」に焦点を当てたマーケティングを採用する必要がある。

 

「何を売ろうとしているか」ということは、最終的に、「どのようにして誰に販売するのか」と点に大きな影響を与える。その結果、「何を売ろうとしているのか?」という質問は、マーケティングプロセスの最初に自問すべき質問の1つに挙げられるのだ。

 

競合他社は、何をしているか?

競合他社と差別化を図ることを私は強く勧めたい。しかし、見習うべきところもそうでないところも含め、競合事業者からは多くの学びがあるものだ。

 

たとえば下の広告を参考にしてみよう。

 

この企業はおそらく、「緊張感に満ちた忙しいライフスタイルを送る精力的な人」をターゲットにしている。そうした市場にアピールするために、広告コピーはエネルギッシュなものであり、提供するサービスの柔軟性にもフォーカスしている。

 

この企業の競合である場合、この広告から学ぶことは多いだろう。同じ市場をターゲットにしたいとすれば、彼らがターゲット・オーディエンスの注目を得るために使用しているキーワードやフレーズを参考にすることができる。

 

また、自社を差別化し、異なる市場をターゲットとする場合は、価格や異なる種類のエクササイズ、また、もう少しのんびりとした生活を送る見込客に訴求すべく、ゆったりとしたペースのクラスの提供にフォーカスすることも可能である。

 

街角のジムであろうと国際的巨大企業だろうと、自社のターゲット市場は誰なのか(誰にすべきか)、そしてマーケティング活動においてどのようにアプローチすべきかについて、競合他社から学ぶことは大いにあるのだ。

 

ターゲット市場はニッチか?それはそもそも存在するのか?

ターゲット市場を特定する際に留意すべき最後の1つは「市場規模」である。前に説明したように、ターゲット市場を狭めるほど、特定のターゲットに絞り込んだより具体的なメッセージを制作することが容易になる。ただし、そのメッセージでたった10人のユーザーしかターゲティングできなければ、ターゲットとする価値のない市場であると言えるかもしれない。

 

FacebookやGoogleのようなオンライン広告プラットフォームによる大規模なリーチを考えると、これは一般的な問題ではないが、ターゲット市場を定義する際に留意すべき点である。もし、自社が選択した市場に効果的にターゲティングできていない場合、一歩引いて、現在設定しているオーディエンスの幅を少し広げてみる必要があるかもしれない。

 

一般的なターゲット設定の目安として、特定のマーケティングチャネルにおいて、設定したターゲットの3%が購入を即決し、さらに3%を説得すれば購入させることができる可能性がある状態が理想的だと思われる。そして、特定したターゲット市場の3〜6%が購入に結びついたとしても、時間とお金を費やす価値がある将来的なビジネスとして成り立たない場合、その市場はあまりにもニッチで有効ではないと言えるだろう。

 

結論

企業は、自社のターゲット市場が誰であるか、そして、彼らに何を求められているかを理解したつもりでいることが多い。しかし、何を売るのか、誰に売るのか、そして、最善の売り方はどのようなものなのかを時間をかけて考えることで、マーケティングの成果を大幅に改善できるのだ。それはマーケティングの“華やかでエキサイティングなプロセス”とは程遠いものになるかもしれないが、あらゆる優れたマーケティングキャンペーンにおいて、非常に重要な要素なのだ。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の9/14公開の記事を翻訳・補足したものです。