これはRex Briggs氏による「マーケティング担当者がマーケティングROIを歴史的かつ洞察的にどう捉え、向上させるべきか」についての見解である。

 

マーケティング担当者は、マーケティングROI、もしくは広告への投資収益率について、それらがまるで固定した不変数であるかのように話すことがよくある。

シンシナティに本社がある大手消費財企業(メディアチャネルごとのROIが印刷された小さなカードを持ち歩くことで有名)のマーケティング専門家の話を聞いたことがあるだろう。メディアセールス担当者が新しいメディアチャネルを売り込もうとすると、いつも、その使い古されたROI基準が参照される。そのマーケティング専門家は、提案されたメディアのROIを、カードに記載されている数値と比較し、その固定された(そして不正確な)ROIスコアを基にしばしば提案を却下する。

残念なことにこの逸話は、マーケティング業界における一般的な問題点を表している。短絡的にROIを捉えることは、ビジネスにとって高い収益と高いパフォーマンスを発揮するマーケティングミックス(マーケティング要素の組み合わせ)の可能性を制限してしまうのだ。

では、マーケティングROIをどう捉えるべきなのだろうか。さらに重要なのは、ROIを向上させる方法があるかどうかだ。

 

 

 

利益の評価

まず、「特定のチャネルやマーケティング活動のROIは不変的であり、マーケティングミックス全体から独立している」という考えを捨てよう。マーケティング投資に対する利益を評価するとき、結果を総合的に評価することが不可欠だ。マーケティングチャネルを別々に管理し、各部門が個別に測定すると、相互作用効果はわからない。マーケティング担当者の仕事は、「うまく機能しているもの、機能していないもの」を、また同じくらい重要なのは、「全体的なマーケティング施策にとって、効果的か、もしくは障害となっているか」を見分ける能力に左右されるかもしれない。

一流のマーケティング担当者は、米国の市場調査会社ForresterGartnerがそれぞれ新しく作り出したカテゴリであるUnified Measurement / Total Marketing Measurementモデルをすぐに採用している。これらのモデルのコンセプトは、マーケティングの有効性を統合的かつ総合的に把握するための進化した測定方法である。しかし、最も重要なのは、一元化された測定法により、マーケティング担当者が、チャネル間の相互作用効果を活用して1 + 1 が 3になるような効果を生み出すことが可能となることである。

これらの統合的ソリューションは、マーケティング担当者にインサイトを提供し、マーケティングと広告が個人レベルに及ぼす影響をより具体的にモデル化する。このアプローチには、戦略的インサイトの取得と戦術的意思決定を可能にするという2つの利点がある。統合的ソリューションは、オンライン、オフライン双方のあらゆるチャネルにおける最適なクリエイティブ、コピー、メッセージングと連動したさまざまなメディアへの投資を促す。

統一的測定法で、マーケティング投資のROIを向上させることができるかもしれない。

利益全体に影響をおよぼす取り組みは次の通り。

 

・メッセージ

・ターゲティング

・リーチとダイナミックフリクエンシ

・広告費用

・メディア

 

1.メッセージの取り組み

配信するメッセージと、メッセージを伝えるためのクリエイティブは、マーケティングに大きな影響を与えることは明白だ。適切な人に適切なメッセージを伝えることにより、そのチャネルにおけるマーケティング効果を大幅に向上できることがわかっている。

さらに重要なことは、マーケティングの相互作用効果をより深く理解することで、カスタマージャーニー全体での最良のメッセージの組み合わせを知ることができることだ。たとえば消費者は、テレビでコマーシャルを観て、PCで検索し、ソーシャルメディアアプリで商品レビューを見た後に、スマホで店舗への道順を調べたかもしれない。マーケティングに対する統合的な見解を持つ広告主は、特定の顧客のこうした購入経路を追跡し、適切なタイミングで適切なメッセージを提供するようマーケティングプランを最適化することで、単一チャネルのROIよりも高い総合的なROIを実現できる。

 

メッセージを使ってROIを向上させる効率的な方法は、キャンペーンの早い段階で複数のメッセージを開発し、発信することだ。それぞれの効果を迅速に測定し、キャンペーンが稼働している最中に最適化していく。そして、あまり効果がないものをふるい落とし、レスポンスが高いメッセージに焦点を移すことだ。

 

2.ターゲティングへの取り組み

マーケティングの収益率向上を実現するための、有益な第二の方法は、「ターゲティングへの取り組み」だ。具体的なメッセージは特定の人々に効果がある。同じメッセージを発信したとしても、ターゲティングオーディエンス(メッセージを聞く人)とリーチするチャネルを変えることで、マーケティングROIを高めることができる。

あるオーディエンスのROIは3ドルだが、他のオーディエンスに対するROIは0.8ドルかもしれない。

複数のメディアからのメッセージがさまざまなオーディエンスに及ぼす影響を測定できれば、積極的に反応するオーディエンスを見つけることができ、機会を最大限活用することができるだろう。経験からいうと、ターゲット層を調整し、反応しないオーディエンスをターゲットから外し、反応があるオーディエンスにターゲットを絞ることで、マーケティングROIを20%以上は向上させることができる。そしてマーケティング担当者は、実際にマーケットでキャンペーンが行われている間に最適化できる。「鉄は熱いうちに打て」ということだ。

 

3.リーチとフリークエンシへの取り組み

マーケティング結果を向上させるもう1つの有力な方法は、メディアのリーチとフリークエンシ(各消費者が特定の広告に接触した回数)に対する取り組みだ。メッセージは、視聴者が初めて聞いた時に、最もインパクトを与えることができる。2回目以降、聞く回数を重ねる毎に、視聴者に与えるインパクトは減少していく。全体的なROIは、メッセージやオーディエンスターゲティング、露出頻度の複合的な測定結果である。メッセージとターゲティングと同様に、フリークエンシの分析することにより、マーケティング担当者はROIを高める機会を見いだすことができる。

 

4.価格への取り組み

根本的にROIは、広告効果をメディアに対して費やしたコストで割ったものだ。つまり他の条件が同じ場合、広告費用の値下げ交渉に成功すれば、ROIを上げることができる。統合された測定手法を用いて、マーケティング担当者は各チャネルへの投資コミットメントのベースラインを特定し、パブリッシャーと協力してコスト削減を交渉することができるのだ。このわかりやすい例は、テレビの「アップフロント」(米国での番組編成発表とCM枠の先行販売)の活用だ。放送年の早い時期に購入することで、広告主はCM枠の低価格化を図ることができ、テレビチャネルとマーケティングプランのテレビの影響を受けるその他のすべてのチャネルのROI向上をはかることが可能である。

 

5.メディアへの取り組み

 

メディアセールス担当者の言うこととは逆の提言を行うが、マーケティング施策のROIに対して最も影響力のある要因は、メディア自体ではない。The New York Timesに掲載されたDaniel Yankelovich氏の調査によれば、消費者は5,000件以上、おそらく1日に10,000件ほどの有料コマーシャルが発信するメッセージにさらされている、とのこと。何千ものメデイアのオプションが存在する現在、ほとんどの場合、広告主は視聴者にメッセージを伝えるためのより低コストで効果の高い代替チャネルを見つけてメディアを利用することができる時代だ。

この記事の冒頭で述べた例のマーケティング専門家は、ROIの問題に関して誤った部分にのみ極端にフォーカスしていた。ここに挙げた戦略は、マーケティングROIをさらに高める新しいオプションを明らかにする可能性がある。3大放送ネットワークや複数のラジオ局、地方新聞の時代は永遠に過ぎ去ったのだ。今日ますます過密となった市場には、マーケティング活動に取り組み、競争上の優位性にアクセスする機会とツールがある。

現在のマーケティング専門家は、さらに多くの質問に答えなければならない。たとえば、前回のキャンペーンに比べてROIを20%向上させることができるか?また、どのようにツールを活用し、マーケティング活動(およびビジネス)をより成功させる新手法をテストし習得することができるか?これらは、探求する価値のある質問であると言えよう。

 

※当記事は米国メディア「Marketing Land」の7/30公開の記事を翻訳・補足したものです。