複合現実(MR)と拡張現実(AR)、そして仮想現実(VR)も、顧客エクスペリエンスとデジタルエクスペリエンスの進歩の一部になりつつある。

 

2022年、マーケターは、これまで以上に3Dバーチャル空間で顧客と関わることになるだろう。バーチャルエコシステムが進化するにつれ、単一技術やクローズドプラットフォームに限定されることはなくなっていく。3Dの顧客エクスペリエンスの制作ラッシュはすでに始まっており、2022年には成熟すると考えられる。

 

インドのコードレスAIインフラストラクチャ技術企業、Pyxis OneのCEOで共同創設者であるShubham A. Mishra氏は、VRやARを「次の目玉」と呼んでいる。

 

「VRやARのスタートアップ企業の買収ペースは加速しており、ブランドがマーケティング戦略にARを取り入れるか、またどのように取り入れるかに注目している」とMishra氏は語った。

 

繋がるメタバース

2021年、以前Facebookとして知られていた親会社(現:Meta Platforms, Inc.、商号:Meta)は、関係構築と顧客エンゲージメントのためのVRエクスペリエンスに重点を置いた。同社の子会社が提供する消費者向けVRヘッドセットのOculusもMeta Questとしてリブランディングした。

 

その間、Facebook(Meta社の主力ソーシャルネットワーク)上の広告料が高騰していることを知るマーケターは、歴史が繰り返されるのを見ていた。それは「メタバース(metaverse)」(インターネット上に存在する仮想空間)ではなくFacebookの創業者であるMark Zuckerberg氏にちなみ、「ザッカーバース(Zuckerverse)」と表現した方が正確かもしれない新たなクローズドプラットフォームの周りにブロックが積み上げられているのだ。

 

しかし、仮にFacebookがVRのエコシステムを独占することがなければどうなるだろうか。仮に一つのメタバースではなく、多くのメタバースが繋がっているとしたらどうなるだろうか。米国の動画開発プラットフォーム、Agoraの共同創業者でCEOであるTony Zhao氏は、2022年の仮想空間がどのようなものになるかについて、次のように考えている。

 

「現在のメタバースはそれぞれがデジタル孤島のように分離して存在している状態だ」とZhao氏。「しかし2022年は、リアルタイムエンゲージメント技術によって、メタバース同士の接続が可能になり、ユーザーにとってより繋がりのある魅力的なエクスペリエンスを構築することができるだろう。また、ウェブブラウザのようにユビキタスなものにすることでメタバースに容易にアクセスできるようにし、参入障壁を減らすことができる。

 

リアルタイムエンゲージメント

バーチャル会議とハイブリッド会議は今後も定着するだろう。バーチャル出席者をバーチャルとリアル両方の環境で繋いでいるのはリアルタイムエンゲージメント(RTE)である。

 

Zhao氏は、RTEがメタバース、ゲームエクスペリエンスやデータ通信にも応用されると考えている。

 

同氏は「これらの業界はRTEを採用し、将来的にはその機能を拡大していくだろう」と述べ、さらに「ライブやインタラクティブな動画や音声を早期採用するのはアプリ開発者やデジタルファーストな企業だ」と続けた。

 

この1年で、マーケティングテクノロジーの他の分野で見られたように、RTEはローコードやノーコードの動向によって弾みがつくと思われる。

 

「2022年には、ノーコードやローコードツールの恩恵を受け、RTEテクノロジーを採用する従来型の企業がさらに増えるだろう」とZhao氏は述べた。「ノーコードやローコードツールは企業のアジリティを高め、開発期間を短縮し、業績向上を加速させるだろう」。

 

バーチャルと対面での会議エクスペリエンス

2021年末に新型コロナウイルスのオミクロン株が出現し、パンデミックは引き続き対面式イベントにおける懸念材料となった。そのため、顧客を引き付けておくデジタルソリューションが必要になる。

 

「パンデミックが続くなら、対面とバーチャルの両方においてイベントの参加方法を変えていかなければならない」とZhao氏は語る。

 

同氏は「ますます多くのロボットが会場を駆け回り、世界中の視聴者に“現場”の情報と映像を配信するだろう。ドローンはオーディエンスの上空から情報を流し、より優れたリアルタイムのエクスペリエンスを提供し、上空と議場からストリーミング配信し、世界中の参加者たちは、これまでにないほどに人と人とのつながりを感じるだろう」とも語った。

 

マイクロコミュニティ

デジタルコミュニティでの人と人とのつながりも急増しており、それはウェブの黎明期から変わっていない。ブランドは、より小さなグループが、個々の消費者により大きな影響を与え、マイクロコミュニティ間でより強いエンゲージメントを生み出すことに気付いている。2022年には、このミクロのレベルで構築されたコミュニティは、より強くなるだろう。

 

「今後、より多くのブランドが自社製品に関するマイクロコミュニティを構築し、バーチャルとリアル両方の世界で、消費者に本物の意味あるエクスペリエンスを提供すると予想する」と語るのは、米国に本社を置き、消費財ブランドに特化し、AIを活用したマーケティングプラットフォームの100.coで最高プラットフォーム責任者を務めるPhilip Smolin氏だ。「そうすることにより、ブランドと消費者の協力関係が育まれるだろう。ブランドはCookieによって消費者を探る代わりに、シンプルに消費者にフィードバックを依頼し、彼らの好き嫌いに基づいておすすめ商品を提供すれば良い」と同氏。

 

Smolin氏によると、ブランドはただ製品を販売するだけではないため、消費者がより簡単に商品を発見し購入できる選択肢を提供することのみを目的としてデジタルエンゲージメントを活用しているわけではない。彼は「ブランドは、同じ考えの消費者のコミュニティをうまく構築している。(そして)これは現実の世界にも通じることで、コロナ禍後、消費者は店舗やモールで、より体験型のイベントを切望するだろう」と説明した。

 

2022年の消費者エンゲージメントの重要な特徴の一つは、オンラインかリアルかを問わないということだ。成功する顧客ジャーニーは、いつも何らかのデジタルアーキテクチャに支えられている。

 

モバイルとメールへの急転換

小売ブランドは、実店舗の価値を引き出すために、デジタルテクノロジーをますます活用するだろう。

 

米国に本社を置きメッセージングと通知エンジンを提供するWunderkindの社長であるMichael Osborne氏は、「まだ実店舗をあきらめてはいけない」という。「実店舗は、消費者が実生活で製品に触れる機会を提供することで、オンラインショッピング習慣をサポートする。これは店舗自体で利益が上がらなくても、ブランド全体の売上を押し上げることができる」。

 

買い物客は店内にいる時も、スマートフォンを持っている。そこで、モバイル戦略が顧客エクスペリエンスとより一層関係性を持つようになる。

 

「モバイル戦略は、消費者により人気があることが証明されている。(メールで製品リンクを送信する、など)すぐに行動を起こす機会を提供するからである」とOsborne氏は述べた。「活動的で多忙な消費者行動に対してマーケティングを行うには、消費者が外出中でもアクセスできることが重要だ」。

 

同氏は、買い物客が店内にいても家に居てもアクセスすることができるパーソナライズされたSMSやeメールを「現代と従来型のマーケティングアプローチの違い」と呼んでいる。

 

消費者が購入時や他のチャネルを通じてブランドに提供しているファーストパーティデータを使用した関連性のあるメッセージは、本当に役に立つパーソナライズされたテキストとして消費者に届いた場合、投資利益率を押し上げることができる。このようなモバイルやSMSを使うコミュニケーションは、2022年には増加する一方だろう。

 

「消費者の買い物習慣やパターンに基づいたデータは、有意義な消費者と小売業者のエンゲージメントのためのオーダーメイドされたメッセージを作成するのに役立つ」とOsborne氏は説明した。「収益を上げるための具体的なマーケティング指標と測定可能なROIを設定し活用することにより、個別のメッセージングのために消費者がより好むカテゴリをピンポイントで特定することができる」。

 

構成の変化

2020年、SMS戦略を強化するためマーケターは長時間働いていた。そして、2022年、デジタルネイティブではない消費者がデジタルとモバイルファーストにシフトし、SMS戦略が優位となるだろう。

 

「パンデミックがデジタル採用を加速させたことは間違いない」とイスラエルに本社を置き、クラウドベースのエクスペリエンスプラットフォームを提供するNICE CXoneのマーケティング担当バイスプレジデントであるChris Bauserman氏は語る。「約2年で、デジタルネイティブではない人が、よりデジタルに精通するようになった。そのため、これらの消費者と特定のニーズをサポートする、より多くのデジタルカスタマーサービスのタッチポイントが必要になっている」。

 

Bauserman氏は、2022年にデジタルトランスフォーメーションは世代を超えて行われるようになる、と主張している。

 

「すべての世代のグループ内でデジタルに精通している消費者がより多くなれば、ブランドは最終的にモバイルとセルフサービス両方を優先し、より大きなデジタル要素を導入することができる」とBauserman氏は語った。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の12/27公開の記事を翻訳・補足したものです。