ブランドは、ただコンプライアンスに注力するだけでいいのだろうか。顧客の信頼を獲得し、それを強力な資産に変えるべきである。
戦いのルールは変わりつつある。デジタルマーケターは、消費者データの保護に関する法律がヨーロッパ(GDPR / EU一般データ保護規則)あるいはカリフォルニア(CCPA / カリフォルニア州消費者プライバシー法)のどちらかに関係なく、それらの法律を遵守しなければならない。ブランドはルールに従うだけでいいのだろうか。それだけではなく、データプライバシーを競争優位性に変えることもできるはずだ。
考えてみてほしい。アメリカ人の約半数は、自分のデータの秘密性に保持されないことを懸念して、オンラインで商品やサービスを購入しないことを決めた。ブランドにとって、これは窮状ではなく、信頼に基づいて顧客との関係を築くチャンスなのだ。顧客の疑念を払拭すれば、売上につながるかもしれない。
「優れたマーケターは、コンプライアンスの最適化を第一に考える。成功するマーケターは、どのようにそれを実行するかを考えることができる」と、米国のB2Bマーケティング企業Integrateのプロダクトマーケティング担当副社長であるColby Cavanaugh氏は語る。
私的な問題
大規模なオンラインベンダーには、データプライバシーを理解し実行するためのリソースがある。中小規模のベンダーはそれほどのリソースはない。米国のデータプライバシーコンサルティング企業Red Cloverの創業者兼CEOであるJodi Daniels氏は、「中小企業では、プライバシーに注意を払う人がいないか、プライバシーについて何も知らない担当者がいるだけだ」と述べる。ブランドは、販売を理解しているがプライバシー法についてはそうではないので、専門家に指導してもらうのが有効だ。
データプライバシーの問題は、パーソナライゼーション、顧客維持、そして顧客中心の視点を持つことと絡み合っている。対面レベルでは、ブランドと顧客間の会話によって関係性が確立されるとDaniels氏は指摘する。顧客がブランドを信頼すればするほど、より多くの情報を提供するようになる、と同氏。「これをオンラインで実現する必要がある」。
「それぞれの顧客には独自の価値観がある」とDaniels氏は続ける。それは、10%の割引、無料サービスや特典を提供するメールかもしれない。家電製品を購入した際に提供されるレシピという可能性もある。それにもかかわらず、他の家電製品の購入を宣伝するメールを送っていたとしたら、それは役に立たない」と同氏は話す。また、ハードセルも有効ではない。「信頼とは、企業が情報を乱用していないところにあるものだ」。
「マーケターは、自分が人間と話していることを忘れている」とDaniels氏は語る。「顧客を第一に考えれば、どのように関係を築くべきかがみえてくる。そうすれば、プライバシー保護への取り組みは自然に生まれてくる」。
時間をかける
「信頼を得なければならない」と、IntegrateのCavanaugh氏は語る。「信頼を得るということは、信用枠を得るようなものだ」。B2B分野では、販売サイクルが長く、およそ9〜12か月である。マーケターは、顧客との間に信頼に基づく関係を築く必要がある。
「我々は、会話への参加権を獲得しなければならない」とCavanaugh氏。同氏はそれを次のように説明する。B2Bは70%が顧客サービス、30%が販売だ。データプライバシーの観点からは、マーケターは顧客に3回見返りを求める前に、7つの情報を提供する必要がある。
マーケターがユーザーデータの使用目的を明確にし、より多くの顧客情報と引き換えに、より多くの商品情報が含まれるホワイトペーパーや電子書籍を提供することができる、とCavanaugh氏は説明する。顧客は購入の意思決定をしようとしているため、「購入する」に導くための情報が必要であることを忘れないことだ。また、フォローアップもタイミングよく行い、売り込みをするのではなく、オプトイン後にさらに多くの情報を提供する必要がある、と同氏は語る。
乱用ではなく、利用を
「大企業の顧客と話していると、顧客のデータを保護し、安全な状態にする必要性について非常によく理解している」と、「Strategy-as-a-Service(サービスとしての戦略)」を提供する米国のマーケティング企業BlueOceanの共同設立者であるGrant McDougall氏は述べている。「企業は、ソーシャルやウェブ体験などのデジタルツールを使って顧客を会話に誘い、有意義な関係を築く必要がある。ブランドの義務は、信頼できるものであることだ。また、興味深いコンテンツや体験を創造し、トップ・オブ・マインド(第一想起)のブランドであり続けるようにすべきだ」。
「顧客は、不均衡な価値の交換があれば、喜んでデータを共有する」と、McDougall氏は続ける。「Samsungは、顧客がプログラムに参加した場合に、コンテンツや体験を提供する自社の携帯電話と統合されたライブロイヤルティプログラムを構築するといった素晴らしい仕事をした。REI(米国のアウトドア用品・衣料品ブランド)も、買い物客がデータを提供してREI Co-opに加入し、そのコミュニティと自身の買い物のメリットを享受している、もう一つの素晴らしい事例だ」。
信頼を損なうことはできない。「ブランドは、顧客のデータやそのインタラクションを売ることに注意すべきだ。私は、ブランドが自分の個人情報を売って利益を得ていることを顧客が知ったらどうなるか、という簡易の評価テストを用いている」とMcDougall氏。「ブランドとして透明性を保ち、プライバシーに重きを置き、また、顧客がオプトインして参加できるようにすべきだ」。McDougall氏は、環境が厳しいことを認めつつも、「データは新しい石油だ」と指摘する。
「信頼を得ている企業は前進し、得ていない企業は競争に勝てなくなっている」と同氏は語る。
信頼を築き、売上を上げる
Daniels氏によると、プライバシー保護をウェブサイトでアピールする必要があるという。ランディングページ(検索結果や広告などを経由して訪問者が最初にアクセスするページ )には、顧客のプライバシーに関する懸念に対処するための文言が必要だ。プライバシーに関するコンテンツを使って、顧客を購買ファネル下位に誘導しなければならない。「すべての企業がこれをやっているわけではない」とDaniels氏は述べている。
営業担当者は、顧客からプライバシーに関する質問をぶつけられることになるため、マーケティング資料の一部として営業側にプライバシー情報を提供する必要があると、Daniels氏は述べている。
Cavanaugh氏にとって、それは詰まるところ、誠実さであるという。マーケターは、データのプライバシーを可能な限り高い基準に保つ必要がある。データが安全に保管されていることを顧客に納得してもらうべく、すべての作業を前もって行うことで、マーケターはカスタマーエクスペリエンスにより注力することができるようになる。
McDougall氏は、デジタルプライバシーをより大きな創造性をもたらすためのステップであると考えている。「オーディエンスのコンテクストと、オーディエンスがいる場所でどのように出会うかを理解することが、次なる競争優位性となるだろう」と、同氏は述べている。
McDougall氏は、以下のチェックリストを提示した:
- 過去20年間使用してきたツールは、次の20年には合わないかもしれないことを認める。
- 現在の顧客と真のつながりを築く。彼らと信頼を築き、真の価値を提供する。そうすれば、彼らはオプトインしてくれるだろう。
- 人々が自社Cookieからオプトアウトしても、トップ・オブ・マインドであり続ける。ブランドと需要のバランスをとる。可能性として、より多くの動画を使い、分散型の体験やツールを利用する。
- より創造的になり、人々の心に響きつつ、主となるブランド属性をサポートするような、感情に訴えるコンテンツを作る機会を活かす。我々は、リターゲティングやプログラマティックバナー広告のような戦術だけではない、商品の魅力的なストーリーを伝えることに回帰している。
要するに、データプライバシーによって好循環が生じている。人々は、企業が自分のデータを秘密にしてくれると信頼すれば、企業にデータを提供するだろう。そのデータを使って関係を築こう。そうすれば売上が上がるだろう。
※当記事は米国メディア「MarTech」の11/24公開の記事を翻訳・補足したものです。