パンデミックによるサプライチェーンの混乱や、消費者の購買習慣の変化により、実店舗を閉鎖し、厳選した在庫商品をオンラインで消費者に直接販売(D2C)することを検討する小売企業が増加している。小売企業にとっては、既存のビジネスモデルを再考し、将来を見据えたオペレーションを検討することのほうがより賢明な選択肢であろう。

 

ここ数年、ダイレクト・トゥ・コンシューマー・ブランド(D2C)の人気はますます高まっている。D2Cマーチャントは、デジタルマーケットプレイスによってミレニアル世代やZ世代の消費者の安定的なデジタル購入オプションへの欲求が生じ、混乱の兆しを見せていると捉えている。

 

ビジネスソリューションを提供するZebra Technologiesの小売業界コンサルタントであるMark Delaney氏によると、実店舗を閉鎖しD2C販売を選択することは、一般的な店舗オーナーにとって必ずしも最善の方法ではないという。

大手メーカーであれば、実店舗を持たずに大きな利益を得ることが可能かもしれない。しかし、小売業者が店舗を閉鎖してオンラインのみに移行することは、成功につながる賢明な戦略ではないと、業界で20年以上にわたり世界的大手小売業者と仕事をしてきた同氏は助言している。

 

D2Cへの適応

Zebraは、実用的な情報とインサイトを生み出すトラッキング技術とリテールソリューションを構築している。この技術によって有形商品をデジタルでうまく表現することで、小売業者は自社ビジネスにおいて新たな見通しを得ることができる。

 

しかし、すべての小売ブランドが、実店舗の商品棚からデジタルディスプレイでの販売に簡単に移行できるわけではないと、Delaney氏は指摘する。デジタル販売を行うために生まれたネイティブD2Cブランドには、競争優位性がある。しかし、従来型小売企業や消費財ブランドは、既存のビジネスモデルを変革し、D2Cによる制約に適応しなければならないという厳しい課題に直面する。

 

実店舗の最大の利点の一つは、消費者が購入前に商品を確認できることである。消費者は、サイズ間違いや機器の不具合、商品詐欺などを回避するために、実際に商品を見ることを重視しているからだ。

 

そこで、今日のサプライチェーンの混乱と進化する消費者のショッピング習慣について、Mark Delaney氏に多岐にわたり話を聞いた。

 

D2C小売への移行は、低迷している実店舗小売業者にとって間違った戦略だと考えるか?

Mark Delaney: 確かに、多くの消費者が、オンラインでさまざまな商品を購入することを試している。しかし、それは、買い物客が実際に自分で品質を確認する必要のない一部の商品における傾向である。

 

例えば、私は3年ほど前に、妻から「Harry’s」(シェービング用品メーカー)の定期購入をプレゼントされた。それ以来、食料品店やドラッグストア、Target(米国大手小売)などで、シェービング用品の陳列通路を通ることすらしていない。その体験によって、特定カテゴリの商品については買い物をすることはなくなった。

 

しかし、マーチャンダイジングの全体的な考え方は、店頭での買い物客の動きに基づいている。牛乳とパンを買いに来たら、店舗の正面のエンドキャップ陳列の前を通ってポテトチップスの購入を考える。そして、ビールと何か他の商品も手に取るのだ。

 

それが、何世紀にもわたって私たちが行ってきた方法である。それゆえ、オンラインですべての買い物すませることは非常に難しい。eコマースの観点からは、消費者に直接発送した方が効率的であるかもしれないが、フルフィルメントのほとんどはまだ店舗で実行されているようである。

 

ほとんどの小売企業は、既存の不動産を活用しながら、「フルフィルメントをもっと効率的に実行する必要がある」と考えている。

 

D2C小売への移行は、従来型実店舗小売業者にどのような影響をもたらすか?

Delaney:食料品小売に限っていえば、パンデミック前の購買パターンでは、eコマース売上は約2%を占めていた。現在は、小売店や地域により異なるが、ほとんどの小売事業者において、eコマース売上は20~30%に達している。

 

eコマースの観点からフルフィルメントに関するスキルセットを開発する必要があった小売業者は、ほぼいないに等しかった。しかし、現在、急遽パンデミック前の10倍、15倍、20倍の割合でフルフィルメントを実行せざるを得なくなっている。

 

小売業者は、フルフィルメントの課題をどう解決するか?

Delaney: 小売業者は、箱詰めパスタやシリアル、缶詰など、そもそも買い物を楽しむことができない取引カテゴリを自動化することができる。そして、いわゆるセンターストアを自動化する方法を検討するべきである。次に、体験型のカテゴリに積極的に投資し、それらの変化に基づいてブランドを構築していく必要がある。

 

顧客がオンラインで購入するのを防ぐために、店舗体験を重視して評判を高めている小売業者もいる。有機野菜やさまざまな種類の農産物、多様なカットの肉など、品揃えをさまざまに改良している。

 

コロナウィルスに関する健康上の懸念をもつ顧客を引き留め地元で買い物をしてもらうために、カーブサイドピックアップを提供することはどの程度成功しているか?

Delaney:2週間前、ある大手食料品小売業者と話していたときに、興味深い質問やコメントがあった。彼は、「車から降りて店に入り、カートを持ってレジのベルトに商品を置き、車までカートを押していく買い物客はいなくなるだろう」と言った。彼は、この1年半の間、無料でそれを買い物客のために行っていたのだ。

 

これは素晴らしい指摘である。店舗型小売業者は、消費者が買い物をする際の取引上の手間をすべて解決する必要がある。小売業者は、これらの分野を改善する方法を考えなければならない。小売業者は、購入プロセスを何らかの形で自動化することが可能である。その上で、現在とは異なるタイプの半分流通センターのような未来型店舗に投資するべきである。これこそが、将来的に勝利に導く戦略だと考えている。

 

店頭販売小売業者がサプライチェーンパートナーと協力して、フルフィルメントを改善する、または、異なるフルフィルメントの選択肢を広げるためにはどうすべきか?

Delaney:需要計画と需要感知については、頻繁に議論されている。これは、今日の小売業界では重要なテーマである。この分野において、小売企業はサプライチェーン関連パートナーと緊密に連携することができる。

 

今、何が起こっているのかをみてみよう。通常のサプライチェーンにのせることができない何十隻、何百隻もの荷船や船が、積み出し港の外に停泊している。

 

それゆえ、私たちは製造業パートナーと連携し、長期的にどのような需要があるのかをより効率的に把握しなければならない。そうすることで、小売業者は最終的に顧客を満足させることができるだろう。

 

小売企業は、小売ビジネスの将来性を確保するための本質をより深く考える必要があるということだろうか。

Delaney:その通りである。誰もがほぼ一夜にして多くの新しいプロセスを経験した。感染防止用アクリル板、タッチレス、公衆衛生、そして、カーブサイドデリバリーといった一時的な救済措置が、一斉に講じられたのだ。このような状況の中で、当社が注目され始め、小売企業は深呼吸をして、「もっと良い方法を見つけなければならない」と言い始めている。

 

今、Zebra Technologies は、クライアントと深く関わっている。私たちは、2025年、2030年のサプライチェーンがどうなるか、未来の店舗はどのようになっているのかを考えている。

 

顧客が店舗に行って一番嫌なことは、欲しい商品が在庫切れになっていることだ。世界的なパンデミックの中、リスクを冒して来店した顧客はがっかりしてしまうだろう。

 

小売店が将来性のある店舗を実現するために、必要不可欠な技術とは何か?

Delaney: まず、第一に、小売業者はペンと紙での業務から離れて、デジタルの進化に加わり、ビジネスのやり方を近代化する必要がある。

 

第二に、小売企業は、店頭でお客様に最高のサービスを提供するために、すべての店員を目に留まるように配置し、かつ、最適に活用すべきである。また、全員が何らかのテクノロジーを利用する必要があると確信している。

 

第3に、小売企業は、増大するオンラインでの競争を戦っていることを忘れてはならない。そのためには、テクノロジーを活用して効率化を図らなければならない。小売業の経営者は、従業員を店舗内のネットワークにアクセスさせるべきである。彼らがどこにいて、何をしているのかを把握しなければならない。また、様々なタスク管理アプリケーションを導入することにより、効率的な業務の進め方や、従業員同士を比較する方法を知ることができる。さらに、どの従業員に追加のトレーニングが必要かも把握することが可能になる。

 

小売業者が将来に備えるためには、他にどのような方法があるか?

Delaney: 準備ができている小売企業に対しては、自動化に関する多くの提案を行っている。自動化といっても、データ分析に連動したモバイルコンピュータのような単純なものから、フルフィルメントの倉庫やバックルームの自動化までを含む。

 

オンラインで購入した商品を店舗で受け取るという単純なことでさえ、ほとんどの小売業者は実行できていない。なぜなら、実行方法が非効率であるからだ。小売業者は、注文商品をいかに迅速に取り出し、梱包するかという問題さえ解決できていない。

 

そのためには、多くの労働力が必要だが、労働力は日に日にコスト高になり不足傾向にある。この状況は、すぐには解消されないだろう。そのため、小売業者は、さまざまなレベルの自動化を検討せざるを得なくなっている。紙とペンからモバイルコンピュータへの移行という基本的な自動化が必要な小売業者もいれば、店舗の裏側にマイクロ・フルフィルメント・センターを設置するべき小売業者もいるだろう。

 

地元の購入者に宅配サービスを提供することは、実店舗がオンラインショッピングに対抗するために有効な方法か?

Delaney:店舗と顧客間のラストワンマイルは、常に最大の問題である。ラストワンマイルは、住んでいる場所によって状況が大きく異なる。ほとんどの小売店にとっては、顧客に来店してもらうことが重要である。最低でも、カーブサイドピックアップのために車を停めてほしいと考えるだろう。宅配は最もコストのかかるサービスだからである。

 

当記事は米国メディア「E-commerce Times」の11/5公開の記事を翻訳・補足したものです。