より良いテクノロジーの選定とは、よりフィットするテクノロジーを選択すること

何十年にもわたる業界の調査から、テクノロジープロジェクトの半数以上が目的を達成できていない、もしくは、完全に失敗していることが繰り返し明らかにされてきた。マーテック業界の顧客と話していると、その成功率は高くないということがわかる。

 

その理由はさまざまだが、テクノロジーに関する問題の多くは、そのイニシアチブにおいて非常に重要な初期段階で発生している。ひとたび船が間違った方向に向かってしまうと、正しい軌道に戻すことが難しい場合がある。

 

適切なベンダーやテクノロジーを選定することは、マーケティング戦略の初期段階における最も重要な意思決定の一つだ。誤った選択によって必ずしもプロジェクトが破綻するわけではないが、成功を収めることがより困難になる可能性がある。

 

結局のところ、より優れたテクノロジー選択は、よりフィットするテクノロジーを選定することである。ここでは、そのための10のステップをご紹介しよう。

 

1. 適切なチーム編成

まず、第一に、チームを編成する必要がある。いまだに数多くのテクノロジー関連の意思決定が一人の担当者や一つの部署によって行われており、それが結果として多くの問題を引き起こしている。例えば、マーケティングチームが他のスタックと統合できないツールを選択したり、ITチームがマーケターにとってひどく使い勝手の悪いプラットフォームを選択したりするケースも多い。

 

マーケティングとテクノロジーの関係者が参加する複数の専門分野から構成されるチームが最適だ。そして、そのチームはビジネスリーダーが率いるべきである。

 

2. ビジネス上の成功を定義する

新しいマーケティングテクノロジーを導入して、何か目的を達成するとしよう。目的地はどこか。この質問に答えられない企業が多いことに驚かされることだろう。それどころか、プロジェクトリーダーは、「時代遅れのマーケティングオートメーションプラットフォームを交換する必要がある」といった目標を打ち出したがる傾向がある。

 

なるほど、おそらくそれは事実だろう。しかし、実際には、ビジネスの観点から何を達成しようとしているのだろうか。社内でより多くの人々がメッセージを送信できるようにし、プロセスをスピードアップして、自社のリーチを拡大したいのだろうか。オムニチャネル分析を統合して、既存顧客層のエンゲージメントを向上させたいのだろうか。あまりに高額なソリューションから脱却してコストを削減したいのだろうか。これらはそれぞれ異なる目標であり、個々の目標に適するベンダーがいる。

 

あらゆる選択の過程において、困難なトレードオフに直面する可能性がある。ビジネス目標を明確に打ち出すことは、プロセス全体において一貫した試金石となり、その過程で正しい判断を行うことが可能となる。また、ビジネス目標を選択基準とすることで、大手マーテックベンダーが自社の経営幹部を脅かしてきた場合に、自社を守ることができる。

 

3. インタラクティブな要件策定

ほとんどのテクノロジー選定の要件は最悪だ。しかし、そうである必要はない。

 

まず、Excelを閉じて、Wordを開こう。要件が書かれた長いチェックリストを避け、代わりにデジタルストーリーを語ろう。ユーザー中心設計(UCD)の手法が用いられている、使い慣れたマーケティングのプレイブックを見直し、ユースケース、ストーリーやトップタスク(呼び名は問わない)を強調してもよい。とにかくやってみることだ。(例はこちら。)

 

そうすることで、ベンダーがデモ、プロトタイプやトレーニングを含むアジャイルな競争を進めるようになり、(あなたが現場主義となるため)エクスペリエンスはインタラクティブなものとなり、(あなたが独自のストーリーを語るため)またリアルなものとなる。

 

4. ベンダーの適切な候補リストを手に入れる

適切な候補リストを手に入れることは非常に重要だ。あまりにも多くの企業が、フィットしないツールの評価に時間を費やしている。

 

どのベンダーを自社の候補リストに加えるべきかを判断するのに、マーケットプレイスでの単一のスナップショット的な見方をしてはいけない。そうではなく、根本的に、自社の最も重要なユースケースを満たすために構築された潜在力のあるソリューションを見つけるのだ。今まさに、クワドラント(四分円)が「現実」のものとなる時が来ている。

 

5. 実際のRFPを作成する

企業は提案依頼書(RFP / Request for Proposal)の作成に不安を感じるが、それにはもっともな理由がある。RFPの作成は、神経がすり減る作業となりうる。選定担当チームは、長いチェックリストの作成や、候補ベンダーに漠然とした要求をするなど、時にやり過ぎてしまうことがある。

 

違うやり方があるはずである。RFPは、ヒューマンフレンドリーで、ヒューマンスケール(人間の感覚や動きに適合した、適切な空間の規模や物の大きさ)で、また、ヒューマンオリエンテッド(人間優先、人間中心)であるべきだ。バズワード(流行語)を使わず、前述のステップ3で作成したストーリーを共有しよう。確かに、技術的・建築的な要件を含める必要はあるが、それらの要件も、「何を」ではなく、「どのように」を問うものとして提示することができる。知的な会話に誘導することで、より良い提案が得られるだろう。

 

6. 「(だいたいは)百聞は一見にしかず」と覚えておこう

だが、RFPに対する提案書を重視しすぎるべきではない。なぜなら、インタラクティブなテクノロジーは、画面上では、紙面上とは常に違って見えるからだ。

デモの段階が重要だ。実際に、競合他社の提案との違いを理解することができるからだ。

 

ベンダーに体系化されていないやり方で商品デモを行わせるというありがちな間違いを犯さないこと。厳密なデモプロセスを設定し、競合するベンダー達に提案するシステムが自社のシナリオに沿ってどのように動作するかを示させるのだ。同様に、インテグレーションやその他の技術的要件を検討する際には、図で示させたり、曖昧な保証をさせるのではなく、実際に運用されているコードを用いた実例を示すようベンダーに強く要求しよう。

 

7. だが、「実際に試すこと」を忘れずに

見ることは良いことだが、実際に試すことがより重要である。自社の多様なチームのメンバーが、少なくとも二つの最終候補ベンダーの競合するシステムを実際に使ってみることができるような「ベイクオフ」の予定を組み込もう。これは、あらゆる面で労力がかかる。とりわけ、ユーザーのトレーニングが必要だからだ。

 

また、ベイクオフには多少の費用がかかる可能性があるが、それだけの価値がある。自社のシナリオやデータを使ったシステムのテストドライブは、そのテクノロジーやベンダーが適しているかどうかを最もよく示してくれるからだ。重要なのは、新しいシステムを十分に活用するために、社内で行う必要があるすべての変更を直接知ることができるということだ。

 

 

デザイン思考の5つのステップをマーテックのプラットフォーム評価ステップとして表現。カッコ内は候補ベンダー数。

出典:Real Story Group(米国のマーケティングテクノロジーアナリスト企業)

 

8. 数式を捨てる

このプロセスでは、「ダウンセレクト」(数社への絞り込み)と呼ばれる意思決定を行い、一部のベンダーを候補から外すことになる。そのための最良の方法は何だろうか。意思決定には、投票、コンセンサス、リーダーの指示など、さまざまな論理的な方法がある。筆者はクライアントとの仕事ではコンセンサスを得ようとするが、それが常に可能であるとは限らない。

 

避けなければならないアプローチが一つある。それは、数式を用いた方法である。つまり、チームのメンバーが、候補となっている提案に点数をつけ、あなたが重み付けの比率で総合ランキングをつける。スプレッドシートを用いるこのアプローチが科学的な妥当性を有するというのは妄想であり、実際にはチームの真の判断を表すことはほとんどない。実際には、なにが行われているのだろうか?彼らのつけるスコアは、自身の直感的なランキングを反映したものになっているのだ。

 

バランスシート・アプローチではなく、ラップアップ会議ではオープンに話し、メンバーにランキングをつけて自身の選択の理由を明示してもらい、どのベンダーを次の候補リストに進めるかについて合意を得よう。幸いなことに、上述のような順応的で経験的なアプローチをとった場合、ベンダー間の相違は非常に明確になるものだ。

 

9. 早期かつ頻繁に交渉する

ほとんどの顧客は、1社のベンダーを選択するまで料金や条件の交渉に着手しない。このアプローチは、いくつかの点で顧客の力を失わせる。まず、ベンダーに競争相手がいないことにより、顧客の交渉力が低下する。また、選択したプラットフォームの導入開始のプレッシャーが高まるにつれ、時間的なプレッシャーも顧客を不利にする。

 

むしろ、RFPに対する最初の回答を受け取り始めたときに交渉を開始すべきだ。包括的な価格提案と契約書のドラフトを前もって求めるべきだ。過剰な料金を削減したり、サービスレベルの低い契約を改善し、不利な条件に異議を唱えたりすることから始めよう。そして、ベンダーが自社の懸念に対応することが、デモラウンドに進むための条件であり、デモからベイクオフに残るための条件であることを明確に示すべきである。そして、ベイクオフの後、勝者を発表する前にさらに交渉を行うのだ。

 

すべてのステップにおいて、「価格と条件は我々の決定プロセスの一部である」という主張をすべきである。

 

ベンダーは反発するだろう。彼らはこの駆け引きのプロなのだ。あなたは専門家ではないかもしれないが、買い手であるのだから、プロセスを決定すべきであり、相手の気分を害することを気にすべきではない。契約書に署名すればすべてがリセットされるのだから、できる限り、最高の契約書を手に入れよう

 

10. すぐにパイロット運用を行う

正しい選択をしたかを確認し、新しいテクノロジーによってどのような変化があるかを把握するための最良の方法は、できるだけ早く本番環境でパイロットテストを開始することだ。ベイクオフは、本番のインスタンスを構築するために作られたものではないが、パイロット運用では実際に顧客や職場の同僚に展開できるものが必要となる。

 

そのためには、複雑すぎるものではなく、そのプラットフォームに求める価値を表現できるような、優れたパイロット版を選択する必要がある。パイロット版の導入は、1か国や特定のマーケティングのユースケースで行ってもよい。いずれにしても、パイロット版を設定したら、より広範な運用開始に入る前に得られる教訓を積極的に収集しよう。

 

最終的な目標

結局のところ、テクノロジーをより適切に選定することが、より自社にフィットするテクノロジーを選択することにつながる。新しいプラットフォーム導入しさえすればマーテックの成功が保証されるわけではないが、適切なツールを選ぶことで、自社チームが実行すべき他のすべての変化を成功に導くことができるだろう。

 

※当記事は米国メディア「MarTech」の7/22公開の記事を翻訳・補足したものです。