顧客の動向を把握し、適切なタイミングで適切なコミュニケーションを図ることで広告効果を生むマーケティング手法「リアルタイム・マーケティング」というワードは、定期的に話題にのぼる。実際にリアルタイムでの取り組みを実行できるブランドは、競合他社よりも優れたパフォーマンスを発揮できるのだ。
Gartner社(世界有数のリサーチ・アドバイス企業)のVPアナリスト、Mike McGuire氏は次のように述べている。「今後5年間で、イベント・トリガー(イベントをチェックし、イベント発生の際にトリガーに関連付けられたコードを実行する)およびリアルタイム・マーケティングが、マーケティング活動へ最も大きな影響を与えるだろう」。「しかしながら、マーケティング担当者がこれらのテクノロジーがもたらすメリットについて実感するには、まず、予測分析とパーソナライズされたコミュニケーションの配信について熟知する必要がある」。
McGuire氏のコメントは、マーケティングチームによる「マーテックスタック(Marketing Technology Stackの略。集結したマーケティングテクノロジーがうまく機能するよう全体をプランニングすること)」の管理方法に影響を与える可能性が最も高い主なトレンドを概説した、昨年8月に発表した Gartner’s reportにおいて示されている。
Gartner社は、この調査において、行動分析をマーケティングオートメーションプラットフォームに組み込むことのできるブランドは、リアルタイム・マーケティング活動を行うためにより有効な態勢を備えていることが明らかにした。しかし、Gartner’s reportによると、多くのマーケティング担当者は、リアルタイム・エンゲージメントに関する「明確な」ビジネスケースを持っていないという。
リアルタイム・マーケティングにおける最大の障壁
何が問題なのだろうか?Pegasystems(米国のCRMやデジタルプロセス化のためのソフトウエア開発企業)のプロダクトマーケティングマネージャーであるAndrew LeClair氏によれば、「7,000ものマーケティングテクノロジーソリューションが存在するにも拘わらず、複数の異なるシステムを効果的に組み合わせて、持続可能なリアルタイム・マーケティング活動を実現する方法がないこと」が最大の問題であるという。
LeClair氏は、自身のプレゼンテーションDiscover MarTech ‘Why Real-Time Really Matters’ presentationの中で次のように述べている。「データは、あらゆるところに散らばっており、システムと従業員が繋がっていない」。「極めて複雑になっている。インバウンドはこちら、アウトバウンドはあちらといった具合で、支払いは誰も知らないどこかの島で行われている。言うまでもなく、カスタマーサービスや請求書発行アプリケーションなど顧客と関わりをもつ他の全てのシステムも、同様である」。
LeClair氏によると、マーケティング担当者は、実装済みの複数のプラットフォームを繋ぎ合わせて、「centralized decision authority:一元化された決定機能」を構築できていないという。「centralized decision authority」によって、複数のチャネル全体に及ぶ顧客エンゲージメント、履歴データ、購買インタラクションなどに基づき、実際のリアルタイムマーケティングイベントを配信することができる。
リアルタイムでの一対一のマーケティング方法
LeClair氏は、自身のウェビナーにおいて次のように問いかけている。「我々は1/10秒以内に次にとるべき最善のアクションを見つけ出し、チャネル全体に提供する必要がある。しかしそれは、一体どのようなことを意味するのだろうか?そして、どのような効果を生み出すのだろうか?」
LeClair氏によると、リアルタイム・マーケティングは、「検出」「データ」「決定」「配信」といった4つの具体的機能から成り立つという。まず、マーケティング担当者は、顧客に必要とされている瞬間を検知、または感知しなければならない。これは、eメールのクリックスルーや、CSR(カスタマーサービス担当者)との会話といった単純なイベントを介してアクションを検出できるシステムを導入していることを意味する。
「一方で、何もイベントが発生しないこともある。これは、何かが起こることを期待したけれども、そうならなかった場合だ」とLeClair氏は語った。
イベント(もしくは一連のイベント)が検出されると、次の最適なアクションを決定する前にデータを収集する必要がある。LeClair氏によると、マーケティング担当者は、顧客のセンチメント(市場心理)や意図、行動を評価するのに役立つデータを必要としているという。また、最終的な目標と、その達成度を明確にするためのデータも必要である。
「こうした情報の全ては、顧客のコンテキストとニーズを特定するための極めて重要な鍵である。そして、それはリアルタイムで活用できなければならない」と、LeClair氏。
包括的なデータ評価により、次に行うべき最適なアクションを決定し、リアルタイム・マーケティングの機会を最適化することが可能となる。これは適切なタイミングで適切なコンテンツをプッシュアウトすること、そしてパーソナライズされたオファーの配信や、フォローアップメールの送信などが含まれる。
マーケティング担当者は、これら4つの機能を適切に調整することで、顧客に販売する段階であるか、または、顧客との関係構築の段階であるか否かを決定することが可能となる。あるいは、付加価値を付けることが不可能な特定の状況では、顧客に関与しないことを決定する可能性がある。
LeClair氏は、次のように述べている。「最初の検出からデータの収集、意思決定から実行、そして、それが顧客体験にどのような影響を与えるかまで、どのチャネルでも1/10秒以内に全てを実行することが可能であれば、理想的な状態といえる。これこそが、最高クラスの組織が力を注いでいる分野なのである」。
リアルタイム・マーケティングの成果
LeClair氏は、リアルタイム・マーケティングの効果について納得させるため、Forrester(米国独立系リサーチ企業)がPega(米国ソフトウェア会社)のクライアントに対して実施したTotal Economic Impact reportの結果を紹介している。
Forresterは、Pegaのリアルタイム・マーケティングツールを導入した企業が、2億2,600万ドル相当の増分収益と1億9,300万ドル相当の内部留保収益を生み出したことを確認している。
LeClair氏は、「我々は、ニーズをリアルタイムで感知しているため、顧客が離脱を検討する前に顧客維持の努力を積極的に行い、解約を減らし、顧客に手を差し伸べることができる」と述べる。「結局のところ、これがすべての目的である顧客のライフタイムバリューを最適化する方法なのだ」。
※当記事は、英国メディア「Marketing Land」の5/14公開の記事を翻訳・補足したものです。